キスメット

くにざゎゆぅ

文字の大きさ
上 下
56 / 159
【第三章】サイキック・バトル編『ジプシーダンス』

第56話 ほーりゅう

しおりを挟む
 生クリームの下のバニラアイスを突っついているわたしの目の前で、珈琲にミルクも砂糖も入れず、ジプシーはカップを手にする。
 ふと、そのカップを持つ彼の左手の指に、わたしの視線が惹きつけられた。

 京一郎から勉強を教えてもらっているときに、京一郎は、すらりとした長身に合わせて指も長いなぁと眺めたことがある。
 男の子らしい大きい手。
 けれど、目の前のジプシーの指先は、男の子なのに、とてもきれいに整えられていた。
 京一郎はもちろん、本当はジプシーも格闘系のはずなのに、ちょっと意外な感じがする。
 格闘系は普通なら、拳ダコとか作っているゴツゴツとしたイメージがあるんだけれど。

 いま、目の前にいるジプシーは、どこにでもいるような普通の高校生の顔をしていて、穏やかな雰囲気を漂わせている。
 望めば、静かに普通の高校生活を送ることができるはずだ。
 それなのに。
 ――なぜジプシーは、わざわざ危険なことをしているのだろう?

「なに?」

 ふいに、わたしの視線に気がついたジプシーが、声をかけてきた。
 考えごとをしながら、わたしはぼんやりとジプシーを見つめていたらしい。
 慌てて目をそらしながら、わたしは返事をする。

「言わない。夢乃や京一郎と約束したから」

 横を向いたまま、そう言ったけれど。
 今度は逆に、ジプシーから見つめられているのがわかる。

 ――はやく別のほうを向いてくれないかな……。
 じゃないと、目の前にあるパフェが食べにくい。
 アイスクリームが溶けちゃう。

「あのふたりと、なにを約束したんだ? そういう言い方をされると、よけいに気になるな。――まあ、夢乃の言いそうなことは察しがつくが」

 わたしは無言のまま、横目でパフェを突っついていたけれど。
 ふと思いなおしてみた。

 今日のジプシーは、いつもよりも話がしやすそうな雰囲気だ。
 それに、わたしがいま思っていることは現在進行中であって、過去のことを掘り返そうとしているわけじゃないような気がするし。

 いっそのこと、思い切って、口にだしてしまおうか。
 うん。

 わたしは視線をジプシーの顔へ戻す。
 それから目の前のパフェに落として、一息に言葉を口にした。

「なんでジプシーは運動神経も頭も見た目もいいのに。普段はヘタレのフリをして、その裏では危険なことをわざわざやっているのかがわからない。でも、夢乃たちにジプシーの過去は訊かないって約束したから訊かない」

 言ってから、わたしは上目づかいとなってジプシーの顔を見た。
 ――やっぱり、直球で言い過ぎたかな?

「おまえ……。――訊かないって言っても、そこまで、はっきり口にだしたら、訊いているのと同じだろ」

 呆れたようにつぶやきながらも、ジプシーは怒らずにちょっと笑った。
 笑いながら、眼を伏せた。



「そうだな。いろんな要因や気持ちが混ざっていて、一概にこれが理由だとは言えないが」

 しばらく考える顔をしたあと、ふたたびパフェと格闘しはじめたわたしに向かって、ジプシーはゆっくりと話しはじめた。
 彼がわたしから視線を外しているので、わたしは食べ続けながら話を聞く体勢になる。

「まあ、夢乃から俺の過去を多少は聞いていると思うけれども。理由としては……。――俺の家族を奪った犯人への復讐や、――俺が持っている銃を受け継いだ経緯や、――逆恨みとわかっているけれども……」

 そこで言いにくそうに言葉を区切ったジプシーは、目の前の珈琲カップを見つめる。
 そして、少しあいだを置いてから口にした。

「頭ではわかっているけれども、俺は奴が許せない。奴に対する恨みと憎しみが、俺が普通の生活を送れない一番の理由かもしれない」

 逆恨みって。
 理由なんか必要ない感情だよね。
 奴って。
 我龍がりゅうという人のことだよね。

 その言葉を聞いたわたしは、いま、どんな顔をして、ジプシーを見たのだろう?
 視線をあげてわたしを見つめ返したジプシーと、目が合った。

「で、おまえはどうなんだ?」

 ――はい? 
 おまえはどうなんだなんて急に話を振られても、なんのこと?

 はてと首をかしげたわたしは、きっと呆けた顔をしているはずだ。
 そんな間抜けた表情のわたしへ、こちらは真顔となったジプシーが言葉を続けた。

「おまえも、まったく普通の環境ではないだろう? 制御不能とはいえ超能力者で、おまえの持っているロザリオのなかにある石も、その能力を増幅させるような力を持つ特殊な石だ。誰かに狙われるとか追われるとか、そんな心配はしないのか?」

 ドキンと、心臓が大きく鼓動を打つのを感じた。
 それは過去に、わたし自身も物心ついたときから、何度も危惧していたことだ。
 でも、幸運にもいままで狙われたことがない。
 ――これからもそうだとは限らないけれど。

 動揺していることがばれないように、わたしはヘラッと笑顔を浮かべて、なんでもないことのように口にする。

「わたし、家族以外では成り行き上、ジプシーと夢乃と京一郎にしかロザリオを持ち歩いていることを教えていないの。クリスチャンじゃないし、わたしがここに引っ越してくる前の学校の友だちにも見せたことがないし。それに能力のことも、親さえ全然信用していない感じだから、ほかには誰にも言っていないんだ。だから、大丈夫でしょ!」

 ふぅんという感じで、ジプシーはわたしをじっと見る。
 本当は、内心ではけっこう気にしていること、ばれたかな?
 わたしって、すぐに顔にでるからなぁ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...