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【第三章】サイキック・バトル編『ジプシーダンス』
第56話 ほーりゅう
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生クリームの下のバニラアイスを突っついているわたしの目の前で、珈琲にミルクも砂糖も入れず、ジプシーはカップを手にする。
ふと、そのカップを持つ彼の左手の指に、わたしの視線が惹きつけられた。
京一郎から勉強を教えてもらっているときに、京一郎は、すらりとした長身に合わせて指も長いなぁと眺めたことがある。
男の子らしい大きい手。
けれど、目の前のジプシーの指先は、男の子なのに、とてもきれいに整えられていた。
京一郎はもちろん、本当はジプシーも格闘系のはずなのに、ちょっと意外な感じがする。
格闘系は普通なら、拳ダコとか作っているゴツゴツとしたイメージがあるんだけれど。
いま、目の前にいるジプシーは、どこにでもいるような普通の高校生の顔をしていて、穏やかな雰囲気を漂わせている。
望めば、静かに普通の高校生活を送ることができるはずだ。
それなのに。
――なぜジプシーは、わざわざ危険なことをしているのだろう?
「なに?」
ふいに、わたしの視線に気がついたジプシーが、声をかけてきた。
考えごとをしながら、わたしはぼんやりとジプシーを見つめていたらしい。
慌てて目をそらしながら、わたしは返事をする。
「言わない。夢乃や京一郎と約束したから」
横を向いたまま、そう言ったけれど。
今度は逆に、ジプシーから見つめられているのがわかる。
――はやく別のほうを向いてくれないかな……。
じゃないと、目の前にあるパフェが食べにくい。
アイスクリームが溶けちゃう。
「あのふたりと、なにを約束したんだ? そういう言い方をされると、よけいに気になるな。――まあ、夢乃の言いそうなことは察しがつくが」
わたしは無言のまま、横目でパフェを突っついていたけれど。
ふと思いなおしてみた。
今日のジプシーは、いつもよりも話がしやすそうな雰囲気だ。
それに、わたしがいま思っていることは現在進行中であって、過去のことを掘り返そうとしているわけじゃないような気がするし。
いっそのこと、思い切って、口にだしてしまおうか。
うん。
わたしは視線をジプシーの顔へ戻す。
それから目の前のパフェに落として、一息に言葉を口にした。
「なんでジプシーは運動神経も頭も見た目もいいのに。普段はヘタレのフリをして、その裏では危険なことをわざわざやっているのかがわからない。でも、夢乃たちにジプシーの過去は訊かないって約束したから訊かない」
言ってから、わたしは上目づかいとなってジプシーの顔を見た。
――やっぱり、直球で言い過ぎたかな?
「おまえ……。――訊かないって言っても、そこまで、はっきり口にだしたら、訊いているのと同じだろ」
呆れたようにつぶやきながらも、ジプシーは怒らずにちょっと笑った。
笑いながら、眼を伏せた。
「そうだな。いろんな要因や気持ちが混ざっていて、一概にこれが理由だとは言えないが」
しばらく考える顔をしたあと、ふたたびパフェと格闘しはじめたわたしに向かって、ジプシーはゆっくりと話しはじめた。
彼がわたしから視線を外しているので、わたしは食べ続けながら話を聞く体勢になる。
「まあ、夢乃から俺の過去を多少は聞いていると思うけれども。理由としては……。――俺の家族を奪った犯人への復讐や、――俺が持っている銃を受け継いだ経緯や、――逆恨みとわかっているけれども……」
そこで言いにくそうに言葉を区切ったジプシーは、目の前の珈琲カップを見つめる。
そして、少しあいだを置いてから口にした。
「頭ではわかっているけれども、俺は奴が許せない。奴に対する恨みと憎しみが、俺が普通の生活を送れない一番の理由かもしれない」
逆恨みって。
理由なんか必要ない感情だよね。
奴って。
我龍という人のことだよね。
その言葉を聞いたわたしは、いま、どんな顔をして、ジプシーを見たのだろう?
視線をあげてわたしを見つめ返したジプシーと、目が合った。
「で、おまえはどうなんだ?」
――はい?
おまえはどうなんだなんて急に話を振られても、なんのこと?
はてと首をかしげたわたしは、きっと呆けた顔をしているはずだ。
そんな間抜けた表情のわたしへ、こちらは真顔となったジプシーが言葉を続けた。
「おまえも、まったく普通の環境ではないだろう? 制御不能とはいえ超能力者で、おまえの持っているロザリオのなかにある石も、その能力を増幅させるような力を持つ特殊な石だ。誰かに狙われるとか追われるとか、そんな心配はしないのか?」
ドキンと、心臓が大きく鼓動を打つのを感じた。
それは過去に、わたし自身も物心ついたときから、何度も危惧していたことだ。
でも、幸運にもいままで狙われたことがない。
――これからもそうだとは限らないけれど。
動揺していることがばれないように、わたしはヘラッと笑顔を浮かべて、なんでもないことのように口にする。
「わたし、家族以外では成り行き上、ジプシーと夢乃と京一郎にしかロザリオを持ち歩いていることを教えていないの。クリスチャンじゃないし、わたしがここに引っ越してくる前の学校の友だちにも見せたことがないし。それに能力のことも、親さえ全然信用していない感じだから、ほかには誰にも言っていないんだ。だから、大丈夫でしょ!」
ふぅんという感じで、ジプシーはわたしをじっと見る。
本当は、内心ではけっこう気にしていること、ばれたかな?
わたしって、すぐに顔にでるからなぁ。
ふと、そのカップを持つ彼の左手の指に、わたしの視線が惹きつけられた。
京一郎から勉強を教えてもらっているときに、京一郎は、すらりとした長身に合わせて指も長いなぁと眺めたことがある。
男の子らしい大きい手。
けれど、目の前のジプシーの指先は、男の子なのに、とてもきれいに整えられていた。
京一郎はもちろん、本当はジプシーも格闘系のはずなのに、ちょっと意外な感じがする。
格闘系は普通なら、拳ダコとか作っているゴツゴツとしたイメージがあるんだけれど。
いま、目の前にいるジプシーは、どこにでもいるような普通の高校生の顔をしていて、穏やかな雰囲気を漂わせている。
望めば、静かに普通の高校生活を送ることができるはずだ。
それなのに。
――なぜジプシーは、わざわざ危険なことをしているのだろう?
「なに?」
ふいに、わたしの視線に気がついたジプシーが、声をかけてきた。
考えごとをしながら、わたしはぼんやりとジプシーを見つめていたらしい。
慌てて目をそらしながら、わたしは返事をする。
「言わない。夢乃や京一郎と約束したから」
横を向いたまま、そう言ったけれど。
今度は逆に、ジプシーから見つめられているのがわかる。
――はやく別のほうを向いてくれないかな……。
じゃないと、目の前にあるパフェが食べにくい。
アイスクリームが溶けちゃう。
「あのふたりと、なにを約束したんだ? そういう言い方をされると、よけいに気になるな。――まあ、夢乃の言いそうなことは察しがつくが」
わたしは無言のまま、横目でパフェを突っついていたけれど。
ふと思いなおしてみた。
今日のジプシーは、いつもよりも話がしやすそうな雰囲気だ。
それに、わたしがいま思っていることは現在進行中であって、過去のことを掘り返そうとしているわけじゃないような気がするし。
いっそのこと、思い切って、口にだしてしまおうか。
うん。
わたしは視線をジプシーの顔へ戻す。
それから目の前のパフェに落として、一息に言葉を口にした。
「なんでジプシーは運動神経も頭も見た目もいいのに。普段はヘタレのフリをして、その裏では危険なことをわざわざやっているのかがわからない。でも、夢乃たちにジプシーの過去は訊かないって約束したから訊かない」
言ってから、わたしは上目づかいとなってジプシーの顔を見た。
――やっぱり、直球で言い過ぎたかな?
「おまえ……。――訊かないって言っても、そこまで、はっきり口にだしたら、訊いているのと同じだろ」
呆れたようにつぶやきながらも、ジプシーは怒らずにちょっと笑った。
笑いながら、眼を伏せた。
「そうだな。いろんな要因や気持ちが混ざっていて、一概にこれが理由だとは言えないが」
しばらく考える顔をしたあと、ふたたびパフェと格闘しはじめたわたしに向かって、ジプシーはゆっくりと話しはじめた。
彼がわたしから視線を外しているので、わたしは食べ続けながら話を聞く体勢になる。
「まあ、夢乃から俺の過去を多少は聞いていると思うけれども。理由としては……。――俺の家族を奪った犯人への復讐や、――俺が持っている銃を受け継いだ経緯や、――逆恨みとわかっているけれども……」
そこで言いにくそうに言葉を区切ったジプシーは、目の前の珈琲カップを見つめる。
そして、少しあいだを置いてから口にした。
「頭ではわかっているけれども、俺は奴が許せない。奴に対する恨みと憎しみが、俺が普通の生活を送れない一番の理由かもしれない」
逆恨みって。
理由なんか必要ない感情だよね。
奴って。
我龍という人のことだよね。
その言葉を聞いたわたしは、いま、どんな顔をして、ジプシーを見たのだろう?
視線をあげてわたしを見つめ返したジプシーと、目が合った。
「で、おまえはどうなんだ?」
――はい?
おまえはどうなんだなんて急に話を振られても、なんのこと?
はてと首をかしげたわたしは、きっと呆けた顔をしているはずだ。
そんな間抜けた表情のわたしへ、こちらは真顔となったジプシーが言葉を続けた。
「おまえも、まったく普通の環境ではないだろう? 制御不能とはいえ超能力者で、おまえの持っているロザリオのなかにある石も、その能力を増幅させるような力を持つ特殊な石だ。誰かに狙われるとか追われるとか、そんな心配はしないのか?」
ドキンと、心臓が大きく鼓動を打つのを感じた。
それは過去に、わたし自身も物心ついたときから、何度も危惧していたことだ。
でも、幸運にもいままで狙われたことがない。
――これからもそうだとは限らないけれど。
動揺していることがばれないように、わたしはヘラッと笑顔を浮かべて、なんでもないことのように口にする。
「わたし、家族以外では成り行き上、ジプシーと夢乃と京一郎にしかロザリオを持ち歩いていることを教えていないの。クリスチャンじゃないし、わたしがここに引っ越してくる前の学校の友だちにも見せたことがないし。それに能力のことも、親さえ全然信用していない感じだから、ほかには誰にも言っていないんだ。だから、大丈夫でしょ!」
ふぅんという感じで、ジプシーはわたしをじっと見る。
本当は、内心ではけっこう気にしていること、ばれたかな?
わたしって、すぐに顔にでるからなぁ。
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