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【第三章】サイキック・バトル編『ジプシーダンス』
第49話 プロローグ 前編
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繁華街のはずれにある小さな書店をでたとき、俺は、かすかな叫び声を聞いた気がした。
立ち止まって辺りを見回す。
夕日が照らす学生と会社員と買い物客で溢れた街。
たしかに聞こえたような気がするが、耳に届いていないのか、街行く人々は誰も気にかける様子がない。
ふと、書店の横にある細い路地が、俺の視界に入った。
静かに近づいていき、その路地の奥をのぞく。
一瞬だが、路地の先の裏通りで、ひとりの女の子と、彼女を取りかこむ数人の男たちの姿が見えて消えた。
――あれか。
俺はどうしようか迷った。
ひどい話だが、いまは学校帰りだ。
普段の俺は、制服を着たままで厄介ごとに首を突っこむことをしない。
しかし、今日はなぜだか気が向いた。
俺は路地に入り、その奥へと歩いていく。
そういえばと、制服の襟につけている校章が気になり、指先で触れた。
だが、まあいいかと思いなおす。
そこまで連中は見ないだろう。
メインロードから一本横の道は、店が並んでいないためか、普段から人通りがない。路地から顔をのぞかせると、先ほど確認した女の子が見えた。
あれは――近くの市立高校の制服だ。
ぱっと見た目はちょっとばかり可愛い感じがするが、ごくごく普通の平凡そうな女の子だった。
その彼女を取り囲んでいる男たちは、四人いた。
全員がそれぞれに髪を染めて、ピアスや指輪などの装飾品をいくつかつけている。
全体に着崩した感じの雰囲気があるが、ひとりだけが付けている校章にも、連中が一応おそろいで着ている制服にも見覚えがない。
この辺りは土地柄、季節によって修学旅行生がはぐれて散策することがあった。
俺は、その類だろうかと見当をつける。
女の子のほうはもちろんだが、男たちのほうも、少々のことでは後腐れはないだろう。
俺は、かけていた伊達眼鏡を外しながら、彼らのほうへと近づいていった。
「なんだぁ? てめぇ、なにジロジロ見てんだよ!」
男たちのひとりが、近寄る俺に気がつき、すぐさま威嚇してきた。
怖気づくことなく、俺はすばやく女の子と男たちのあいだに身を割りこませ、彼女を背にかばう。
「やめろ。嫌がっているだろう?」
「邪魔するんじゃねーよ!」
俺の、一見真面目そうな雰囲気と小柄な体躯を見てとったひとりが、すぐに追い払えると思ったらしい。
いきなり拳で顔を狙ってきた。
左に身体をずらすだけで受け流し、勢いづいたその男の右膝の裏を、俺は右足刀で思いきり蹴り刈った。
男は、あっけなくアスファルトに右膝を強打して悶絶する。
ああ、失敗したな。
この連中には自分たちの足で逃げてもらわなければならない。
近頃の俺は、足止めのための攻撃をすることが多いために、うっかりしていたようだ。
今回は下段への攻撃は控えないとなと、冷ややかな視線を向けながら、ひとりごちる。
そんな俺の動きを見たほかの三人が、とたんに殺気だった。
だが、そのなかのひとりが、一瞬眉根を寄せて顔をしかめるのを、俺は見逃さなかった。
少しの動きで相手の力量が推し量れない奴は、たいした敵じゃない。
俺は、表情の動いた、両耳に合計六個のピアスをしたその男が、この四人組の中心的人物だろうと当たりをつけた。
ならば、このリーダーを叩きのめす。
力が上の人間が倒されれば下は逃げるだろう。
あとで連中の上下関係がどうなろうとも、それは、俺には関係のないことだ。
俺はピアスをした男の顔へ、殺気をこめて視線を固定した。
すると、男の瞳の奥に、たちまち恐怖の色が浮かぶ。
けっこう。
場数の違いを認識している眼だ。
だが、ほかの連中の手前か、男はファイティングポーズをとった。
これは、ボクシングの構えだ。型もサマになっている。
それを見たほかの連中が、道路に転がって呻いている仲間をまたいで殴りかかってきた。
大振りな動作なので、この連中の攻撃を難なく避ける。
避けながら俺は、呆気にとられて眺めていた女の子の肩を押して遠ざけつつ、有無を言わさずに彼女へ俺のカバンを押しつけた。
それから俺は、ピアスの男へと振り向いて一気に間合いを詰める。
顎を狙って右ストレートを放った。
だが、男も巧みなフットワークで、俺の拳を避ける。
ほかの連中よりも隙が少なく動きもいい。
最初の一撃は予想通りにかわされたので、反撃がくる前に、今度は手加減なく男の脇腹に右の廻し蹴り、続けて鳩尾に足刀で蹴りこんだ。
ピアスの男は、意外にあっさりと吹っ飛んだ。
仰向けに倒れ、すぐに起きあがる気配がなさそうだ。
蹴り技には慣れていなかったのか、初めから俺に勝てるという気持ちがなかったのか。
どちらにしろ、相手を沈めさえすれば、俺には問題ない。
その様子を見ていたほかの連中が、ようやく恐怖の表情を浮かべながらあとずさる。
そんな彼らへ向かって、俺は無感情に言い放った。
「仲間を連れて、さっさと失せろ」
さすがに力量の差がわかったのだろう。
立っていた連中は、それぞれ倒れている仲間の腕をとって引きずり立たせると、俺のほうを振り返りながら逃げだした。
完全に彼らの姿が見えなくなったのを確かめた俺は、呆然と見ていた女の子の手から、黙ってカバンを受け取る。
慌てて彼女は、なにかを言おうとしたようだ。
だが、これ以上関わりたくない俺は、さえぎるように口を開く。
「気をつけて帰りなよ」
だが、彼女にそう告げた瞬間。
俺は背に、殺気ともとれるような鋭く絡みつく視線を感じた。
立ち止まって辺りを見回す。
夕日が照らす学生と会社員と買い物客で溢れた街。
たしかに聞こえたような気がするが、耳に届いていないのか、街行く人々は誰も気にかける様子がない。
ふと、書店の横にある細い路地が、俺の視界に入った。
静かに近づいていき、その路地の奥をのぞく。
一瞬だが、路地の先の裏通りで、ひとりの女の子と、彼女を取りかこむ数人の男たちの姿が見えて消えた。
――あれか。
俺はどうしようか迷った。
ひどい話だが、いまは学校帰りだ。
普段の俺は、制服を着たままで厄介ごとに首を突っこむことをしない。
しかし、今日はなぜだか気が向いた。
俺は路地に入り、その奥へと歩いていく。
そういえばと、制服の襟につけている校章が気になり、指先で触れた。
だが、まあいいかと思いなおす。
そこまで連中は見ないだろう。
メインロードから一本横の道は、店が並んでいないためか、普段から人通りがない。路地から顔をのぞかせると、先ほど確認した女の子が見えた。
あれは――近くの市立高校の制服だ。
ぱっと見た目はちょっとばかり可愛い感じがするが、ごくごく普通の平凡そうな女の子だった。
その彼女を取り囲んでいる男たちは、四人いた。
全員がそれぞれに髪を染めて、ピアスや指輪などの装飾品をいくつかつけている。
全体に着崩した感じの雰囲気があるが、ひとりだけが付けている校章にも、連中が一応おそろいで着ている制服にも見覚えがない。
この辺りは土地柄、季節によって修学旅行生がはぐれて散策することがあった。
俺は、その類だろうかと見当をつける。
女の子のほうはもちろんだが、男たちのほうも、少々のことでは後腐れはないだろう。
俺は、かけていた伊達眼鏡を外しながら、彼らのほうへと近づいていった。
「なんだぁ? てめぇ、なにジロジロ見てんだよ!」
男たちのひとりが、近寄る俺に気がつき、すぐさま威嚇してきた。
怖気づくことなく、俺はすばやく女の子と男たちのあいだに身を割りこませ、彼女を背にかばう。
「やめろ。嫌がっているだろう?」
「邪魔するんじゃねーよ!」
俺の、一見真面目そうな雰囲気と小柄な体躯を見てとったひとりが、すぐに追い払えると思ったらしい。
いきなり拳で顔を狙ってきた。
左に身体をずらすだけで受け流し、勢いづいたその男の右膝の裏を、俺は右足刀で思いきり蹴り刈った。
男は、あっけなくアスファルトに右膝を強打して悶絶する。
ああ、失敗したな。
この連中には自分たちの足で逃げてもらわなければならない。
近頃の俺は、足止めのための攻撃をすることが多いために、うっかりしていたようだ。
今回は下段への攻撃は控えないとなと、冷ややかな視線を向けながら、ひとりごちる。
そんな俺の動きを見たほかの三人が、とたんに殺気だった。
だが、そのなかのひとりが、一瞬眉根を寄せて顔をしかめるのを、俺は見逃さなかった。
少しの動きで相手の力量が推し量れない奴は、たいした敵じゃない。
俺は、表情の動いた、両耳に合計六個のピアスをしたその男が、この四人組の中心的人物だろうと当たりをつけた。
ならば、このリーダーを叩きのめす。
力が上の人間が倒されれば下は逃げるだろう。
あとで連中の上下関係がどうなろうとも、それは、俺には関係のないことだ。
俺はピアスをした男の顔へ、殺気をこめて視線を固定した。
すると、男の瞳の奥に、たちまち恐怖の色が浮かぶ。
けっこう。
場数の違いを認識している眼だ。
だが、ほかの連中の手前か、男はファイティングポーズをとった。
これは、ボクシングの構えだ。型もサマになっている。
それを見たほかの連中が、道路に転がって呻いている仲間をまたいで殴りかかってきた。
大振りな動作なので、この連中の攻撃を難なく避ける。
避けながら俺は、呆気にとられて眺めていた女の子の肩を押して遠ざけつつ、有無を言わさずに彼女へ俺のカバンを押しつけた。
それから俺は、ピアスの男へと振り向いて一気に間合いを詰める。
顎を狙って右ストレートを放った。
だが、男も巧みなフットワークで、俺の拳を避ける。
ほかの連中よりも隙が少なく動きもいい。
最初の一撃は予想通りにかわされたので、反撃がくる前に、今度は手加減なく男の脇腹に右の廻し蹴り、続けて鳩尾に足刀で蹴りこんだ。
ピアスの男は、意外にあっさりと吹っ飛んだ。
仰向けに倒れ、すぐに起きあがる気配がなさそうだ。
蹴り技には慣れていなかったのか、初めから俺に勝てるという気持ちがなかったのか。
どちらにしろ、相手を沈めさえすれば、俺には問題ない。
その様子を見ていたほかの連中が、ようやく恐怖の表情を浮かべながらあとずさる。
そんな彼らへ向かって、俺は無感情に言い放った。
「仲間を連れて、さっさと失せろ」
さすがに力量の差がわかったのだろう。
立っていた連中は、それぞれ倒れている仲間の腕をとって引きずり立たせると、俺のほうを振り返りながら逃げだした。
完全に彼らの姿が見えなくなったのを確かめた俺は、呆然と見ていた女の子の手から、黙ってカバンを受け取る。
慌てて彼女は、なにかを言おうとしたようだ。
だが、これ以上関わりたくない俺は、さえぎるように口を開く。
「気をつけて帰りなよ」
だが、彼女にそう告げた瞬間。
俺は背に、殺気ともとれるような鋭く絡みつく視線を感じた。
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