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【第二章】 文化祭編『最終舞台(ラストステージ)は華やかに』
第47話 ほーりゅう
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文化祭は、大盛況で終わった。
ちょっと午前中にアクシデントもあったけれど。
それはそれ、この高校の文化祭とは別口だものね。
そして、後夜祭。
出場もお手伝いもしないわたしと夢乃は、京一郎とジプシーとも別行動だから遅めに会場へ入り、全体が見渡せる講堂の一番後ろで観ることにした。
ライブは嫌いじゃない。
けれど、わたしも夢乃も、わざわざ最前列をとってまで観たいタイプじゃない。
それでも、まだ時間はかなりあるのに、すでに講堂のなかは、熱気というものが溢れている感じがした。
後夜祭を楽しみにしている子たちが、それだけ大勢いるってことなのだろう。
伝統的に、毎年こうなんだって聞いた。
だから、後夜祭のライブで舞台にでられるグループは、すごい競争率なんだそうだ。
そんななかで、京一郎たちがよくでられたもんだ。
メンバーの三年が、役員を脅しでもしたんだろうかと思っちゃう。
「オリジナルの曲じゃないんだって。二曲ともカバーらしいわ。だって、京一郎が作ったら軽すぎる歌詞になるし、ジプシーが作ったら聴いていられないほど根暗な歌詞になりそうだからって」
笑いながら夢乃がそういったので、わたしは、後夜祭用に入り口で配られた一枚もののパンフへ視線を落とす。
ふーん。
最後から二番目なんだ。
あ、でも、カバーっていわれても、わたしの知らない曲名だなぁ。
聴いたらわかる曲なのかな?
そして、本当にパンフでは、メンバーのところにジプシーの名前がなくて、偽名の千葉くんになっていた。
今日の出来栄えによっては、名前を騙られた千葉くんは、本当に明日から校内で超有名人になるかもね、なんて考える。
そして、外がすっかり暗くなったころ、後夜祭の舞台がはじまった。
校内の予選を勝ち抜いてきたというだけあって、どのグループもうまい。
会場の熱気に包まれて、わたしも夢乃も充分に楽しんでいた。
当然、この集団のどこかで、明子ちゃんも楽しんでいるんだろうなぁ。
あれだけ後夜祭ライブを楽しみにしていたんだものね。
そして、京一郎たちのグループの番になる。
舞台の上は、ちょっと照明を落とし気味となり、逆光っぽく変化した。
顔がわからないように、わざと指示をだしたのだろうか。
それでも、普段見慣れた背格好から、わたしは目星をつける。
すぐにわかるのは京一郎。
彼が持っているのは、あれはエレキギターっていうのかな。
よくよく目を凝らして、ドラムとキーボードとベースは……。
彼らは、少々京一郎の先輩っぽい族の雰囲気が入っているから、きっと三年だ。
じゃあ、ジプシーがボーカルってことになる。
ボーカルの彼は、サングラスをかけて、髪の色や形を変えて。
――たしかに、あれなら誰かわからないや。
でも、つい目が追いかけてしまう存在感がある。
それが、明子ちゃんの口にしていた、かっこよさなのだろうか。
そんなことを考えているあいだに、演奏がはじまった。
タイトルと結びつかなかったけれどそれでもどこかで聴いたことのある、乗りがよい曲のイントロが流れだす。
そして歌が入る。
知らなかった。
そうか、ジプシーって、歌がうまいんだ!
やがて、わたしも夢乃も手を振って、曲と一緒に歓声をあげた。
それは、客席とステージが一体感になったような、素晴らしいステージだった。
歓声をあげながら、わたしは、ふと考える。
まだ付き合いは短いけれど。
京一郎は、あの年にして充分自分の人生を楽しむ術を知っている感じがする。
その反対に、ジプシーにとって辛くて語れない過去や、もっとほかにも厳しい事情があるんだとしても。
――どうか神さま、ジプシーの未来にも、明るい光を与えてください。
ちょっと午前中にアクシデントもあったけれど。
それはそれ、この高校の文化祭とは別口だものね。
そして、後夜祭。
出場もお手伝いもしないわたしと夢乃は、京一郎とジプシーとも別行動だから遅めに会場へ入り、全体が見渡せる講堂の一番後ろで観ることにした。
ライブは嫌いじゃない。
けれど、わたしも夢乃も、わざわざ最前列をとってまで観たいタイプじゃない。
それでも、まだ時間はかなりあるのに、すでに講堂のなかは、熱気というものが溢れている感じがした。
後夜祭を楽しみにしている子たちが、それだけ大勢いるってことなのだろう。
伝統的に、毎年こうなんだって聞いた。
だから、後夜祭のライブで舞台にでられるグループは、すごい競争率なんだそうだ。
そんななかで、京一郎たちがよくでられたもんだ。
メンバーの三年が、役員を脅しでもしたんだろうかと思っちゃう。
「オリジナルの曲じゃないんだって。二曲ともカバーらしいわ。だって、京一郎が作ったら軽すぎる歌詞になるし、ジプシーが作ったら聴いていられないほど根暗な歌詞になりそうだからって」
笑いながら夢乃がそういったので、わたしは、後夜祭用に入り口で配られた一枚もののパンフへ視線を落とす。
ふーん。
最後から二番目なんだ。
あ、でも、カバーっていわれても、わたしの知らない曲名だなぁ。
聴いたらわかる曲なのかな?
そして、本当にパンフでは、メンバーのところにジプシーの名前がなくて、偽名の千葉くんになっていた。
今日の出来栄えによっては、名前を騙られた千葉くんは、本当に明日から校内で超有名人になるかもね、なんて考える。
そして、外がすっかり暗くなったころ、後夜祭の舞台がはじまった。
校内の予選を勝ち抜いてきたというだけあって、どのグループもうまい。
会場の熱気に包まれて、わたしも夢乃も充分に楽しんでいた。
当然、この集団のどこかで、明子ちゃんも楽しんでいるんだろうなぁ。
あれだけ後夜祭ライブを楽しみにしていたんだものね。
そして、京一郎たちのグループの番になる。
舞台の上は、ちょっと照明を落とし気味となり、逆光っぽく変化した。
顔がわからないように、わざと指示をだしたのだろうか。
それでも、普段見慣れた背格好から、わたしは目星をつける。
すぐにわかるのは京一郎。
彼が持っているのは、あれはエレキギターっていうのかな。
よくよく目を凝らして、ドラムとキーボードとベースは……。
彼らは、少々京一郎の先輩っぽい族の雰囲気が入っているから、きっと三年だ。
じゃあ、ジプシーがボーカルってことになる。
ボーカルの彼は、サングラスをかけて、髪の色や形を変えて。
――たしかに、あれなら誰かわからないや。
でも、つい目が追いかけてしまう存在感がある。
それが、明子ちゃんの口にしていた、かっこよさなのだろうか。
そんなことを考えているあいだに、演奏がはじまった。
タイトルと結びつかなかったけれどそれでもどこかで聴いたことのある、乗りがよい曲のイントロが流れだす。
そして歌が入る。
知らなかった。
そうか、ジプシーって、歌がうまいんだ!
やがて、わたしも夢乃も手を振って、曲と一緒に歓声をあげた。
それは、客席とステージが一体感になったような、素晴らしいステージだった。
歓声をあげながら、わたしは、ふと考える。
まだ付き合いは短いけれど。
京一郎は、あの年にして充分自分の人生を楽しむ術を知っている感じがする。
その反対に、ジプシーにとって辛くて語れない過去や、もっとほかにも厳しい事情があるんだとしても。
――どうか神さま、ジプシーの未来にも、明るい光を与えてください。
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