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【第二章】 文化祭編『最終舞台(ラストステージ)は華やかに』
第43話 夏樹
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校舎の屋上で、私は格子柵に寄りかかるようにして、下の様子を眺めていた。
黙って見おろしていたが、やっぱり口にだしたくなった私は、微笑を浮かべながら、やわらかい口調で言葉にした。
「助けましたね」
隣にいた彼は、下の様子を気にするそぶりをみせずに、チョークで描かれた模様を、靴の爪先で消している。
「いままでの流れからみると、あの状況での爆発的な力は彼女ですが、あの男の落下をとめたのはあなたですよね。我龍」
彼は私へ鋭い視線を向けたが、答える気はなさそうだ。
「彼女は力の制御ができていない様子ですね。同じような能力を持つ者として、あなたも彼女に興味があるのではないですか?」
「制御できない力なんてものは、俺には問題外。夏樹、貴様はどうでもいいことをしゃべり過ぎだ」
我龍はそう言うと、もう興味が失せたかのように私へ背を向けた。
そんな彼に、私は校門のところで配られていたパンフレットを持ちあげてみせる。
「そうそう、パンフレットにもありますよ。あなたのお知り合いの――彼の舞台、観ていきませんか?」
とたんに、我龍は私のほうへ振り返る。
肩越しに、冷ややかな目つきで一瞥してきた。
「奴の舞台を観る? この俺に笑い死ねって? はっ! 笑止」
あっさり言い捨てると、我龍は、屋上の反対側の空中へと身を躍らせた。
そのまま、私の視界から消える。
おそらく、彼ならではのPKで猫のように軽やかに、地上へと舞い降りたはずだ。
やれやれという感じで、私は、彼がいなくなった屋上でひとり、微笑んだ。
「あいにく、私はあなたと違って普通の人間なんですが。――この舞台を観ずに、なんの用でここまでやってきたんでしょうね。まあ、せっかくだから、私は舞台を鑑賞させていただこうかな。いつかあなたが観たいと思ったときに、私の記憶から接触テレパシーで観ることができるように……」
眼下で、こっそりと入ってきた私服の警察官らしき数人が、男を運んでいく。
その様子を確認したあとで、私もようやくその場を離れて、ゆっくりと階段のほうへと歩きだした。
黙って見おろしていたが、やっぱり口にだしたくなった私は、微笑を浮かべながら、やわらかい口調で言葉にした。
「助けましたね」
隣にいた彼は、下の様子を気にするそぶりをみせずに、チョークで描かれた模様を、靴の爪先で消している。
「いままでの流れからみると、あの状況での爆発的な力は彼女ですが、あの男の落下をとめたのはあなたですよね。我龍」
彼は私へ鋭い視線を向けたが、答える気はなさそうだ。
「彼女は力の制御ができていない様子ですね。同じような能力を持つ者として、あなたも彼女に興味があるのではないですか?」
「制御できない力なんてものは、俺には問題外。夏樹、貴様はどうでもいいことをしゃべり過ぎだ」
我龍はそう言うと、もう興味が失せたかのように私へ背を向けた。
そんな彼に、私は校門のところで配られていたパンフレットを持ちあげてみせる。
「そうそう、パンフレットにもありますよ。あなたのお知り合いの――彼の舞台、観ていきませんか?」
とたんに、我龍は私のほうへ振り返る。
肩越しに、冷ややかな目つきで一瞥してきた。
「奴の舞台を観る? この俺に笑い死ねって? はっ! 笑止」
あっさり言い捨てると、我龍は、屋上の反対側の空中へと身を躍らせた。
そのまま、私の視界から消える。
おそらく、彼ならではのPKで猫のように軽やかに、地上へと舞い降りたはずだ。
やれやれという感じで、私は、彼がいなくなった屋上でひとり、微笑んだ。
「あいにく、私はあなたと違って普通の人間なんですが。――この舞台を観ずに、なんの用でここまでやってきたんでしょうね。まあ、せっかくだから、私は舞台を鑑賞させていただこうかな。いつかあなたが観たいと思ったときに、私の記憶から接触テレパシーで観ることができるように……」
眼下で、こっそりと入ってきた私服の警察官らしき数人が、男を運んでいく。
その様子を確認したあとで、私もようやくその場を離れて、ゆっくりと階段のほうへと歩きだした。
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