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くにざゎゆぅ

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【第二章】 文化祭編『最終舞台(ラストステージ)は華やかに』

第33話 ほーりゅう

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 校内は、着々と文化祭の準備が進められている。

 クラスで行うことになった舞台の『ロミオとジュリエット』も、主役のふたりを両方とも男子がすることになってはいるけれど。
 意外とお笑いだけにとどまらず、なかなか出来栄えがよい様子だ。
 普段の生活からクラスメートに対しても演技しているようなふたりなんだから、演技がうまいのはあたりまえかなぁなんて、わたしは他人事のように眺めている。

 もっとも、主役のひとりとなるジュリエット役のジプシーは、練習はするけれど、当日本番まで衣装を着ないと頑張っていた。
 サイズの確認をしたいんだけれどなぁと文句を口にする女子を、かたくなに拒み、うまく逃げ回っている。

 そこまで、逃げなくていいのになぁ。
 傍観者のわたしは、楽しいんだけれどなぁ。
 ジプシーは、よく見たら童顔だし、なかなか整っているから、きっとドレスが似合うと思うんだけれどなぁ。

 その幼い顔立ちのせいで、もしかしたら本当に女の子に見えるかもしれないなんて、口にだしたら怒られそうなことも考えちゃう。

 そんなわたしは今回、夢乃と一緒に衣装係に当たっている。
 今度の文化祭では使わないからと、快く演劇部が貸してくれた衣装の微妙な寸法調整をしながら、ほつれを直していった。
 すぐにわたしは不器用だとクラスの女子にバレちゃったけれど、それでもわたしは一生懸命ちくちくと針を動かしたりする。
 いまのわたしには考えることがいっぱいあったので、放課後に残って、この黙々とする作業が、とてもありがたかった。

 考えること。
 ――もちろん、ジプシーのことだ。

 わたしはあのとき、ジプシーの家族が事件に遭って殺されたと聞かされても、実際のところピンときていなかった。
 次の日、本人を目の前にしても、新聞の三面記事を読んでいる気分だけだった。
 わたしにはありがたいことに、物心ついてから亡くなった親戚や知り合いがいない。
 だから当事者が味わうであろう、その悲しみはわからない。
 全然想像がつかない。
 わたしは、想像できないことは考えない主義だ。
 だって、考えたって本当にわからないんだもの。

 なので、深く考えることはやめにした。
 その代わり、もうひとつのことを考える。
 それは、我龍という人のことだ。

 あれだけ嫌っていると聞かされたので、もうこれ以上はジプシーからは聞きだせない。
 けれど、わたしと同じ超能力を持っているという人なのだ。

 ジプシーと敵対しているなんて、怖い人なんだろうか?
 なんといっても、名前と同様に、背中に龍の彫り物をしているという超能力者だ。
 同年代でも、もしかしたらものすごく厳つい人なのかもしれない。
 なんて考えると、わたしの想像は尽きない。

 わたしは生まれつき、超能力らしき力を持っている。
 でも、まったく制御ができない。
 そんな制御不能なわたしに、能力の使い方を教えてくれちゃったり、しないだろうか?
 しないだろうなぁ。
 でも、ひょっとして……?
 なんて、都合のいいことも考えちゃう。
 ジプシーは、きっと嫌がるだろうけれど。

 ――わたしは、我龍に会ってみたい。



 そんなことをつらつらと考えているあいだに、ついに文化祭の当日がやってきた。
 クラスの舞台は11時20分から30分間。
 集中して演じたり観たりするには、そのくらいの長さの時間なのだろうか。

 わたしが直接舞台にあがるわけではないけれど、舞台の前はどうしても緊張するしバタバタする。
 だから、舞台が終ってから模擬店を満喫しようかなぁなんて、気楽に考えていた。

 そういえば、ジプシーも京一郎も、申しこんでいた後夜祭のライブステージに出られるって言っていたっけ。
 練習風景も全然見せてくれなくて、ふたりでこそこそと相談しながら進めていたらしい。
 楽しみは楽しみなんだけれど、なんかわたしも夢乃も仲間はずれって感じがする。



 そして、文化祭がはじまる9時を過ぎた。
 すでに周囲が賑やかになりつつあるなかで、教室では、しっかり者の副委員長の夢乃が仕切って準備が進んでいる。

「みんな、道具とか手順とかの最後のチェックをお願いね。あと、最後の衣装合わせのために舞台にでる人は、こっちに集まって」

 それまで夢乃にすべてを任せきりで、ぼんやりと窓の外を眺めていた委員長のジプシーは、ハッと我に返ったように振り向いた。

「え? ――いま? ジュリエットの衣装を着るのか? まだ早いだろ?」

 そんなジプシーに、夢乃は、さすがに仕方がないという表情を浮かべてみせた。

「委員長。あなたは遅いくらいの衣装合わせなのよ。いままで一度も試着していなかったんだもの。それに寸法が違っていたら、いまこの場で直さないといけないでしょう?」

 夢乃の言葉を受けた衣装係の女子が数人、ジプシーのほうへとにじり寄った。
 そんな彼女たちの表情が、とっても嬉しそうだ。
 じつは皆、陰陽術などを使うとされている怪しげなジプシーなんだけれど、見た目は整った顔立ちの彼に、機会があれば興味本位で近寄りたいのだと思う。
 なので今回、ここぞとばかりに名目をつけて絡みたかったに違いない。

「うそだろ?」

 あの、何事にも動じないようにと無感情を貫いているジプシーが、彼女たちの気配に迫力負けをして後ろにさがる。
 なんか不謹慎だけれど、わたしは見ているだけなので非常に面白い。
 なのに。
 ジプシーと女子のあいだに、突然京一郎が割って入ってきた。

「ほら、のけよ! 俺がこいつの着替えを手伝うから、ほかの連中はみんな教室からでろ!」

 そのとたんに、女子は一斉に京一郎へブーイングを浴びせるが、京一郎が怖いのか、こちらは少々迫力がない。

「楽しみは、あとにとっておけって言ってんだ! ほら、さっさとでていけ!」

 京一郎に怒鳴られた女子は、全員悲鳴をあげながら、逃げるように教室から飛びだしていった。
 それを笑って見ていたわたしも、京一郎に教室の外へつまみだされる。

 ――減るもんじゃないし、別にいいじゃん。
 けち。
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