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【第一章】出会い編
第17話 暴力団組長
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「ちょっと失礼いたします。外の様子を見てきますんで」
屋敷のなかで、なにかざわめきのような騒々しさを感じた。
俺は、大切な客人に断って居間となる部屋から外へと出る。
先ほどまで顔に貼りつけていた、俺にとっては極上の笑みを一瞬で消した。
代わりに、目にする者全員が震えあがるような表情を浮かべてみせる。
扉のすぐ外で見張っている者に、低く、だがドスのきいた声で「なんだ、騒々しいぞ」と声をかけた。
「はあ、すいません。なんでも昨日連れてきた例の中学生の小娘と付き合っているらしいガキが、昨夜から街で女の行方をうるさく聞きまわっておりまして」
「また今日も街で、同じガキを見かけたらしくて。先ほど別の連中がそのガキを捕まえてきたようです」
風貌は厳つく、腕や太腿に筋肉が盛りあがっているが、首をかしげながらあやふやな返事をする反応の悪い手下たちに、俺は苛々としながら低く怒鳴った。
「なにも、ただの中学生にそこまで神経質になることもないだろう?」
「しかし、いま騒がれたらなにかの拍子ということもあるかと」
短期間で一気に勢力をのばしたため、人手不足を補うように新参者を増やした。
だが、使うようになって日の浅い部下は、なかなか自分の思う通りに動かない。
「いま、大事な客人がみえているんだ。ガタガタとしているところをみせるな。とりあえずガキも女のところへ放りこんでおけ」
そこまで口にしたとき、ふと思いついた言葉が続いた。
「そうだな。始末するとしても、女ひとりよりも心中のほうが理由になるか」
自分としては良い案が浮かんだことで、少々頼りなさそうな部下に指示をだし、俺は部屋のなかへと引き返す。
こちらも三人の屈強そうな男たちを背後に従えた老人が、ソファにゆったりと腰をかけたまま、声をかけてきた。
「なにかありましたかな?」
穏やかに微笑んでいるが、眼光は鋭く、黙ってそこにいるだけで威圧感を覚える。
この世界でのしあがるには、今後、この地域で勢力のある、この老人の後ろ盾がなければならない。
たちまち俺は、取り繕うように愛想笑いを顔に浮かべた。
「いえ、お騒がせをいたしました。じつは、昨日捕まえた中学生の娘がおりまして」
「ほう? 中学生の、娘さんですか」
穏やかな表情は変わらない。
だが、老人の目が変化し、瞳の奥で好色そうな光がチカリと宿った。
その変化を目ざとく見逃さなかった俺は、己の才能を称賛しながら言葉を続ける。
「どうです? 捕らえている部屋には監視カメラも設置しておりますし、ちょっとどんな娘かお見せできますよ。今時にしては珍しく清純そうな娘でしてね」
俺の言葉に興味を持ったように、老人は杖に重心を乗せて立ちあがる。
「最近の若い者とは、普段からあまり話をしないものでなぁ。それはぜひ会ってみたいものだ」
「どうぞ、どうぞ。こちらになります」
老人を案内しながら、思わぬところで機嫌をとれそうだと、俺は胸の中でほくそえんだ。
屋敷のなかで、なにかざわめきのような騒々しさを感じた。
俺は、大切な客人に断って居間となる部屋から外へと出る。
先ほどまで顔に貼りつけていた、俺にとっては極上の笑みを一瞬で消した。
代わりに、目にする者全員が震えあがるような表情を浮かべてみせる。
扉のすぐ外で見張っている者に、低く、だがドスのきいた声で「なんだ、騒々しいぞ」と声をかけた。
「はあ、すいません。なんでも昨日連れてきた例の中学生の小娘と付き合っているらしいガキが、昨夜から街で女の行方をうるさく聞きまわっておりまして」
「また今日も街で、同じガキを見かけたらしくて。先ほど別の連中がそのガキを捕まえてきたようです」
風貌は厳つく、腕や太腿に筋肉が盛りあがっているが、首をかしげながらあやふやな返事をする反応の悪い手下たちに、俺は苛々としながら低く怒鳴った。
「なにも、ただの中学生にそこまで神経質になることもないだろう?」
「しかし、いま騒がれたらなにかの拍子ということもあるかと」
短期間で一気に勢力をのばしたため、人手不足を補うように新参者を増やした。
だが、使うようになって日の浅い部下は、なかなか自分の思う通りに動かない。
「いま、大事な客人がみえているんだ。ガタガタとしているところをみせるな。とりあえずガキも女のところへ放りこんでおけ」
そこまで口にしたとき、ふと思いついた言葉が続いた。
「そうだな。始末するとしても、女ひとりよりも心中のほうが理由になるか」
自分としては良い案が浮かんだことで、少々頼りなさそうな部下に指示をだし、俺は部屋のなかへと引き返す。
こちらも三人の屈強そうな男たちを背後に従えた老人が、ソファにゆったりと腰をかけたまま、声をかけてきた。
「なにかありましたかな?」
穏やかに微笑んでいるが、眼光は鋭く、黙ってそこにいるだけで威圧感を覚える。
この世界でのしあがるには、今後、この地域で勢力のある、この老人の後ろ盾がなければならない。
たちまち俺は、取り繕うように愛想笑いを顔に浮かべた。
「いえ、お騒がせをいたしました。じつは、昨日捕まえた中学生の娘がおりまして」
「ほう? 中学生の、娘さんですか」
穏やかな表情は変わらない。
だが、老人の目が変化し、瞳の奥で好色そうな光がチカリと宿った。
その変化を目ざとく見逃さなかった俺は、己の才能を称賛しながら言葉を続ける。
「どうです? 捕らえている部屋には監視カメラも設置しておりますし、ちょっとどんな娘かお見せできますよ。今時にしては珍しく清純そうな娘でしてね」
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「どうぞ、どうぞ。こちらになります」
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