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【第五章】日常恋愛編『きみがいるから』
第159話 ほーりゅう
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意気揚々と、わたしは三学期始業式の朝に学校へ向かった。
長期休みのあいだの宿題が、これだけ完璧にできたことは、過去に一度もない。
さすが、持つべきモノは、頭の良い友人だよなぁ。
たとえビシバシしごかれたとしても。
この調子なら、休み明けの実力テストは、良い点が期待できそうだなぁ。
わたしは、鼻歌を歌いながら教室へ入り、自分の机の横にカバンをかける。
そして、椅子へ座ったときに、明子ちゃんと紀子ちゃん、あと数名の女子が黒板前へ集まっていることに気がついた。
わたしと目が合った明子ちゃんが、代表者のようにひとり、輪からはずれて近寄ってくる。
「ねえ、ほーりゅう、訊きたいことがあるんだけれど」
「え? なに?」
真剣な顔の明子ちゃんは、わたしの机の上へ両手をつき、身を乗りだした。
「本人の自覚がないってのも変な話だけれど、鈍感なほーりゅうならありえるよねって話になってさ。遠回しに訊くと見当違いな答えが返ってきそうだから、単刀直入に訊くけれど。ほーりゅうって、委員長と付き合っているの?」
突然、ストレートな質問をぶつけられて、わたしは驚いた。
ぽかんと口を開ける。
この場合の付き合うって言葉は、当然恋人って意味だろう。
さすがにわたしでも勘違いはしない。
でも、どこでわたしは、明子ちゃんを誤解させるような言動をとったのだろう?
そんなことを考えてしまったために、わたしは返答が遅れた。
そして、ようやく否定しようと口を開きかけたとき、たたみかけるように明子ちゃんが、声を小さくして訊いてきた。
「まさか、どの状態が付き合っているってことなのかで、いま悩んでる? たとえばね、ほーりゅう、委員長とキスした?」
最後のそのひと言で、わたしは、旅行先での出来事を一気に思いだした。
あ、あれは!
キスだけれどキスじゃない!
わたしは、自分がいま真っ赤になっているだろうと思いながらも、否定すべく必死で口を開く。
「ちょっと、明子ちゃん! あれはその、そんなんじゃなくて!」
わたしの反応を見た明子ちゃんは、驚愕の表情を浮かべると、後ずさりながら叫んだ。
「したんだ。ほーりゅうには絶対先を越されないと思っていたのに! まさかと思ったけれど、してたんだぁ!」
教室中に響く明子ちゃんの大声に、紀子ちゃんやほかの女子が、たちまちどよめき色めきたった。
わたしは思わず立ちあがる。
その拍子に、ガタンと椅子が大きな音を立てた。
すると、わたしがなにか行動を起こすと思ったのだろうか、明子ちゃんが身をひるがえして逃げだした。
「ちょっと待って! 明子ちゃん!」
わたしは、教室から廊下へ飛びだした明子ちゃんを追いかけるはめになった。
情報発信源になる明子ちゃんを捕まえないと、冗談にならない噂が学校中に広がっちゃう!
明子ちゃんを追いかけて廊下へ飛びだすと、ちょうど明子ちゃんの行く手に、生徒たちに混じったジプシーと京一郎が見えた。
ふたりはなにか話をしながら歩いていて、まだわたしや明子ちゃんに気がついていない。
「明子ちゃんを捕まえて!」
わたしの叫び声に、ふたりが同時に前を向く。
そして、ふたりのあいだをくぐり抜けて通り過ぎようとした明子ちゃんの襟首を、ジプシーがとっさにつかんだ。
「どうしたんだ? 藤本がなにかしたのか?」
京一郎が怪訝な顔で、わたしに訊いてくる。
「明子ちゃんが噂を広める前に誤解を解きたいから!」
続けてそう叫んだわたしを一瞥したジプシーが、捕まえた明子ちゃんをグイと引き寄せて、無表情に問いつめた。
「どんな噂を広めるつもり?」
一瞬怯んだように首をすくめた明子ちゃん。
けれど、開き直ったらしく、真正面からジプシーを見据えて口を開いた。
「委員長、ほーりゅうとキスしたシチュエーション、教えてよ」
その言葉に、さすがのジプシーも驚いた表情を浮かべる。
――だが。
次の瞬間、彼は思いもよらぬことを口にした。
「クリスマスの日に、旅行先の部屋でふたりきりのとき」
明子ちゃんは、答えが返ってくるとは思っていなかったのだろう。
呆気にとられた表情で、するりとジプシーの手からすり抜ける。
思わずわたしは、ジプシーの胸もとを両手でつかみあげて怒鳴った。
「ちょっと、ジプシー? なにを真面目に答えてんのよ! ますます明子ちゃん、誤解しちゃうじゃない!」
「え? おまえが自分から藤本に話をしたんだろ? じゃないと、こんな質問がいきなり藤本の口からでないよな」
「違う! 明子ちゃんは、カマをかけたんだよう!」
わたしがジプシーにつかみかかっているあいだに、明子ちゃんはそろそろと後ずさり、一気に教室へ走り戻っていった。
明子ちゃんのことだ。
今日一日で学年中、もしかしたら学校全体に噂が広がっちゃう!
「そんなにおまえが考えるほど、他人はほかの奴の恋愛を気にしちゃいないって。俺は勘違いされていたほうが、揉め事が減ってありがたいがな」
なんでもないことのように、ジプシーは平然とわたしに言った。
それって、彼女がいるって誤解されていたほうが、ジプシーにとってはほかの女子が寄ってこないから都合がいいって意味?
だからって、たまたま相手に選ばれたわたしにかかる迷惑を考えて欲しいなぁ。
すると、そばでニヤニヤとしながら眺めていた京一郎が口を挟んできた。
「うわぁ、しらじらしい。ジプシー、おまえが藤本のそんなカマに引っかかるわけがないよなぁ」
余計なことを口走った京一郎を、ジプシーはちらりと見る。
だが、ジプシーは素知らぬ顔でためらうことなく、教室へ向かって歩きだした。
――いまの京一郎の言葉を否定しないってことは、ジプシーったら、わざと明子ちゃんに言ったんだ!
やっぱり本当に、なんて意地悪な奴!
わたしは、ぎりっとジプシーの背を睨みつけた。
長期休みのあいだの宿題が、これだけ完璧にできたことは、過去に一度もない。
さすが、持つべきモノは、頭の良い友人だよなぁ。
たとえビシバシしごかれたとしても。
この調子なら、休み明けの実力テストは、良い点が期待できそうだなぁ。
わたしは、鼻歌を歌いながら教室へ入り、自分の机の横にカバンをかける。
そして、椅子へ座ったときに、明子ちゃんと紀子ちゃん、あと数名の女子が黒板前へ集まっていることに気がついた。
わたしと目が合った明子ちゃんが、代表者のようにひとり、輪からはずれて近寄ってくる。
「ねえ、ほーりゅう、訊きたいことがあるんだけれど」
「え? なに?」
真剣な顔の明子ちゃんは、わたしの机の上へ両手をつき、身を乗りだした。
「本人の自覚がないってのも変な話だけれど、鈍感なほーりゅうならありえるよねって話になってさ。遠回しに訊くと見当違いな答えが返ってきそうだから、単刀直入に訊くけれど。ほーりゅうって、委員長と付き合っているの?」
突然、ストレートな質問をぶつけられて、わたしは驚いた。
ぽかんと口を開ける。
この場合の付き合うって言葉は、当然恋人って意味だろう。
さすがにわたしでも勘違いはしない。
でも、どこでわたしは、明子ちゃんを誤解させるような言動をとったのだろう?
そんなことを考えてしまったために、わたしは返答が遅れた。
そして、ようやく否定しようと口を開きかけたとき、たたみかけるように明子ちゃんが、声を小さくして訊いてきた。
「まさか、どの状態が付き合っているってことなのかで、いま悩んでる? たとえばね、ほーりゅう、委員長とキスした?」
最後のそのひと言で、わたしは、旅行先での出来事を一気に思いだした。
あ、あれは!
キスだけれどキスじゃない!
わたしは、自分がいま真っ赤になっているだろうと思いながらも、否定すべく必死で口を開く。
「ちょっと、明子ちゃん! あれはその、そんなんじゃなくて!」
わたしの反応を見た明子ちゃんは、驚愕の表情を浮かべると、後ずさりながら叫んだ。
「したんだ。ほーりゅうには絶対先を越されないと思っていたのに! まさかと思ったけれど、してたんだぁ!」
教室中に響く明子ちゃんの大声に、紀子ちゃんやほかの女子が、たちまちどよめき色めきたった。
わたしは思わず立ちあがる。
その拍子に、ガタンと椅子が大きな音を立てた。
すると、わたしがなにか行動を起こすと思ったのだろうか、明子ちゃんが身をひるがえして逃げだした。
「ちょっと待って! 明子ちゃん!」
わたしは、教室から廊下へ飛びだした明子ちゃんを追いかけるはめになった。
情報発信源になる明子ちゃんを捕まえないと、冗談にならない噂が学校中に広がっちゃう!
明子ちゃんを追いかけて廊下へ飛びだすと、ちょうど明子ちゃんの行く手に、生徒たちに混じったジプシーと京一郎が見えた。
ふたりはなにか話をしながら歩いていて、まだわたしや明子ちゃんに気がついていない。
「明子ちゃんを捕まえて!」
わたしの叫び声に、ふたりが同時に前を向く。
そして、ふたりのあいだをくぐり抜けて通り過ぎようとした明子ちゃんの襟首を、ジプシーがとっさにつかんだ。
「どうしたんだ? 藤本がなにかしたのか?」
京一郎が怪訝な顔で、わたしに訊いてくる。
「明子ちゃんが噂を広める前に誤解を解きたいから!」
続けてそう叫んだわたしを一瞥したジプシーが、捕まえた明子ちゃんをグイと引き寄せて、無表情に問いつめた。
「どんな噂を広めるつもり?」
一瞬怯んだように首をすくめた明子ちゃん。
けれど、開き直ったらしく、真正面からジプシーを見据えて口を開いた。
「委員長、ほーりゅうとキスしたシチュエーション、教えてよ」
その言葉に、さすがのジプシーも驚いた表情を浮かべる。
――だが。
次の瞬間、彼は思いもよらぬことを口にした。
「クリスマスの日に、旅行先の部屋でふたりきりのとき」
明子ちゃんは、答えが返ってくるとは思っていなかったのだろう。
呆気にとられた表情で、するりとジプシーの手からすり抜ける。
思わずわたしは、ジプシーの胸もとを両手でつかみあげて怒鳴った。
「ちょっと、ジプシー? なにを真面目に答えてんのよ! ますます明子ちゃん、誤解しちゃうじゃない!」
「え? おまえが自分から藤本に話をしたんだろ? じゃないと、こんな質問がいきなり藤本の口からでないよな」
「違う! 明子ちゃんは、カマをかけたんだよう!」
わたしがジプシーにつかみかかっているあいだに、明子ちゃんはそろそろと後ずさり、一気に教室へ走り戻っていった。
明子ちゃんのことだ。
今日一日で学年中、もしかしたら学校全体に噂が広がっちゃう!
「そんなにおまえが考えるほど、他人はほかの奴の恋愛を気にしちゃいないって。俺は勘違いされていたほうが、揉め事が減ってありがたいがな」
なんでもないことのように、ジプシーは平然とわたしに言った。
それって、彼女がいるって誤解されていたほうが、ジプシーにとってはほかの女子が寄ってこないから都合がいいって意味?
だからって、たまたま相手に選ばれたわたしにかかる迷惑を考えて欲しいなぁ。
すると、そばでニヤニヤとしながら眺めていた京一郎が口を挟んできた。
「うわぁ、しらじらしい。ジプシー、おまえが藤本のそんなカマに引っかかるわけがないよなぁ」
余計なことを口走った京一郎を、ジプシーはちらりと見る。
だが、ジプシーは素知らぬ顔でためらうことなく、教室へ向かって歩きだした。
――いまの京一郎の言葉を否定しないってことは、ジプシーったら、わざと明子ちゃんに言ったんだ!
やっぱり本当に、なんて意地悪な奴!
わたしは、ぎりっとジプシーの背を睨みつけた。
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