瞳をそらさないで

くにざゎゆぅ

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 わたしは、インテリア会社の総務部に配属されて二年目になる。
 まだまだ使いっぱしり感があり、文房具やパンフレットの補充を主に担当している。

 身長は、わたしのコンプレックスだ。
 威嚇する気がないのだけれど、たいていの年長者は同じ高さか見おろすことになり、相手はいい気がしないらしい。
 その上、べつに怒っているわけじゃないのだが、わたしの真剣な顔は、どうやら不機嫌そうにみえるようだ。
 わたしが真面目な顔で仕事をしていたら、たいていの男は、怖々声をかけてくる。
 背が高い。
 堅物で無愛想。
 きっと楽しい会話が望めないだろう。
 そんなわたしは、いままで彼氏はいない。


 仕事の合間に社内の女の子たちが話題にするのは、いつも営業部にいる男だった。
 その彼は、わたしの二年先輩となる。

 少し長めで爽やかなサラサラの黒髪。
 形の良い眉と切れ長の目。
 シャープな頬に魅惑的な口もと。

 彼は、見た目が格好良いうえに社交的で、どんな女の子に対しても、気さくで楽しげな冗談を口にする。
 そして、着実に仕事をこなしていく営業部のエースでもあった。
 女の子にもてないはずがない。

 けれど、軽そうな性格に感じられて、わたしにとっては苦手なタイプの男だった。
 それに彼は、横に並ぶと、たぶんわたしと同じ身長だと思う。
 見た目に格好良い男は、きっと自分より背の低い可愛い系の女の子を選ぶはずだ。

 ときおり彼がこちらを見るのは、ほんとうに、カナに興味があるに違いない。



 仕事がひと段落した午後。
 部内の席には誰もついていなかったため、その内線ランプのついた受話器を、わたしは手に取った。

「はい。総務です」
『すみません。六階の営業部ですが、新製品のパンフレットをひと箱分、いただけますか』

 聞こえてきたその声に、わたしはどきりとする。
 低く響く、けれども華やかさを帯びた声は――たぶん、彼だ。

 焦る気持ちを鎮めながら、素早く端末を操作して、パンフレットの在庫状況をチェックする。
 それから、つとめて事務的な声を意識して、返事をした。

「はい。在庫のほうは大丈夫です。すぐに営業部まで持っていきます」
『お願いします』

 短いやり取りのあと、わたしは急いで立ちあがる。
 廊下に出ると、エレベーターの前を足早に通過して、倉庫となっている突きあたりの部屋のドアを開けた。
 入口に近い壁に設置されているスイッチを押して、部屋の中の電気をつける。
 そして、ゆっくりと歩きながら、新製品のパンフレットを探した。

 あらゆる製品のパンフレットが所せましと置いてある部屋を進んでいき、真正面の一番奥に、目的のパンフレットの箱を確認する。
 近づき箱に手をかけて傾けたわたしは、すぐに諦めた。
 箱を、きっちりと元通りに戻す。

「――ちょっと重いな。台車を持ってきたほうがいいよね……」

 そうつぶやいたわたしは、入口のほうへ振り向いて。
 そして、そこに彼の姿を見つけた。
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