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今日の昼休みも、社内食堂で渋谷の姿を見つけた。
女の子の視線を集めている彼の姿を横目で見ながら、離れた席にランチセットの乗ったトレイを置く。
そのわたしの横に並んで座ると、ふいに同期のカナが顔を寄せて耳打ちしてきた。
「ねえ、ヨーコさん。あそこにいる営業部の渋谷さんなんだけれど。――ときどき、あたしたちを見ている気がしない?」
「え? そう?」
わたしは、興味のないふりをしながら、彼の姿からカナのほうへ視線を移す。
それから、気のないような返事をした。
「そうね。もし、彼がわたしを見ているのなら、きっと身長のせいよ。カナを見ているのなら、それはカナが可愛いからだわ」
そう口にしたわたしの身長は、175センチ。
モデルならいいのだろうけれど、一般人には少々高すぎる気がする。
カナにそう告げたわたしは、少しでも小さく見えるように頭をさげてうつむいていた。これは、わたしの学生時代からのクセだ。
いつも一緒にいるカナは、そんな他人のクセを、とくに気にしていないらしい。
わたしの素直な言葉をおだてと受け取ったのか、彼女は照れながら言葉を続けた。
「ねえ、ヨーコさん。ヨーコさんからみて、渋谷さんみたいな男性は好みかな? どう思う?」
彼女は、どうやら渋谷が気になるようだ。
カナは、わたしから見ても、守ってあげたくなるような小柄で可愛らしい女の子だ。きっと彼の隣に並んだら、お似合いのカップルだろう。
そんなカナを安心させようと、わたしは、きっぱりと告げる。
「わたしは、もっと大人びた男の人が好みかな」
そうつぶやきながら、なにげなく視線を巡らせると、わたしは、渋谷と目があった。
遠くから、振り返るような姿勢で、じっと見つめてくる。
そして、わたしが眉を寄せた瞬間に、彼は口角をあげてみせた。
――どういうこと? その笑みの意味はなに?
ほとんど話をしたことがないのに、笑う意味がわからない。
わたしをバカにしているの?
そのとき、カナが、わたしのそでを軽く引っぱった。
「ほら、いまもこっちを見ているでしょ? ヨーコさんじゃないとすると、――あたしを見ているのかなぁ?」
はしゃいだ声音となって、カナがささやいてくる。
わたしは、ふいっと彼から視線をそらしてから、カナへささやき返した。
「そうかもしれないわ。だって、カナは可愛いもの。彼の好みのタイプじゃないかな?」
――そうよ。
カナとは違って可愛げのないわたしなんか、見つめてくるはずがないわ。
女の子の視線を集めている彼の姿を横目で見ながら、離れた席にランチセットの乗ったトレイを置く。
そのわたしの横に並んで座ると、ふいに同期のカナが顔を寄せて耳打ちしてきた。
「ねえ、ヨーコさん。あそこにいる営業部の渋谷さんなんだけれど。――ときどき、あたしたちを見ている気がしない?」
「え? そう?」
わたしは、興味のないふりをしながら、彼の姿からカナのほうへ視線を移す。
それから、気のないような返事をした。
「そうね。もし、彼がわたしを見ているのなら、きっと身長のせいよ。カナを見ているのなら、それはカナが可愛いからだわ」
そう口にしたわたしの身長は、175センチ。
モデルならいいのだろうけれど、一般人には少々高すぎる気がする。
カナにそう告げたわたしは、少しでも小さく見えるように頭をさげてうつむいていた。これは、わたしの学生時代からのクセだ。
いつも一緒にいるカナは、そんな他人のクセを、とくに気にしていないらしい。
わたしの素直な言葉をおだてと受け取ったのか、彼女は照れながら言葉を続けた。
「ねえ、ヨーコさん。ヨーコさんからみて、渋谷さんみたいな男性は好みかな? どう思う?」
彼女は、どうやら渋谷が気になるようだ。
カナは、わたしから見ても、守ってあげたくなるような小柄で可愛らしい女の子だ。きっと彼の隣に並んだら、お似合いのカップルだろう。
そんなカナを安心させようと、わたしは、きっぱりと告げる。
「わたしは、もっと大人びた男の人が好みかな」
そうつぶやきながら、なにげなく視線を巡らせると、わたしは、渋谷と目があった。
遠くから、振り返るような姿勢で、じっと見つめてくる。
そして、わたしが眉を寄せた瞬間に、彼は口角をあげてみせた。
――どういうこと? その笑みの意味はなに?
ほとんど話をしたことがないのに、笑う意味がわからない。
わたしをバカにしているの?
そのとき、カナが、わたしのそでを軽く引っぱった。
「ほら、いまもこっちを見ているでしょ? ヨーコさんじゃないとすると、――あたしを見ているのかなぁ?」
はしゃいだ声音となって、カナがささやいてくる。
わたしは、ふいっと彼から視線をそらしてから、カナへささやき返した。
「そうかもしれないわ。だって、カナは可愛いもの。彼の好みのタイプじゃないかな?」
――そうよ。
カナとは違って可愛げのないわたしなんか、見つめてくるはずがないわ。
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