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第4章 夏の日の真実
15.既視感
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コバルトブルーが視界を占める。
僕はその中を泳いでいた。
腕を伸ばして、足をきれいに折って。視界の先を見開いて、しっかりと見つめていた。
水の中だと分かっているのに、怖いという意識はなく、この先何があるんだろう。興味が僕の心を締め付けている。
その意識を共有しよう。
僕は興奮を隠しきれないまま、となりを泳ぐ姿に視線を送る。
人魚姫の彼女はこちらに向かって微笑んでくれた。
そして彼女は言ったんだ、そろそろ上がろうかって。
次に浮かんだ光景は、何もない路地裏だった。
人魚姫はいつしか足を生えていて、まるで人間のよう。そして、こちらに響くような声で言ったんだ。
「湊くん、一緒にいるの楽しいね」
そうだねと、となりに歩く少女に向かって声をかける。
とくに特徴のない景色なのに、僕たちは楽しんでいる。
小さな花壇に咲く花たち、物陰に入っていくすずめたち。そんな光景のひとつひとつで会話しているから。
その雰囲気を彩るように、そよ風が流れていた。
やがて、僕たちはとある交差点に出くわす。
交差点で立ち止まると、ひときわ強い風が僕たちを揺らした。
慌ててスカートを押さえる少女。飛んでいく彼女のハット。これで、夏が終わる......。
そよ風は、ときに暴れてしまうから。
こんな言葉が脳裏に浮かびつつ、僕は勢いよく飛び起きた。
・・・
ベッドから体を起こしてみると、すでに朝日は力強くカーテン越しに降り注ぐ。
それでもいつも起きる時間にはだいぶ早いのに、もう布団をかぶる気にはなれなかった。
不思議な夢を見ていたみたいだ。
エアコンはつけているのに、じっとりと汗をかいている。
ハットが飛んでいかなければ、そよ風が吹いていなければ......。
夢の先には見れなかったのに、なぜだかその直前のことをなかったようにと願っていた。
居間に行った自分はカレンダーを一枚めくった。
そこに現れる文字を目にした瞬間、少し首をかしげてしまう。
8月。
ちょっとした既視感。この月は何があったかと思い出してみる。
皆はまだ夏休みの最中だから宿題に追われているだろう。
一般的には帰省の時期だろうけど、自分の家はどこにも行くところはない。
だから、お盆というイベントがあったとしても、自分にはほど遠い出来事でしかなかった。
はやく起きてしまった分、やることがないと困ってしまう。
仕方なく宿題でも進めようかと思ったけれど、参考書が見つからない。本棚やデスクなど、ありとあらゆる所を捜索していった。
でも参考書は見つからなかった。すると、普段使わない引き出しから出てきたものに、首をかしげてしまった。
人魚をモチーフにしたネックレス。
アクセサリーの類なんて、自分は持っていない。
でもこれはなんだか女の子が持っていそうなアイテムだ。
どうしてここにあるんだろう......。
かしげていた首は、ふと鳴り出したスマートフォンによってもとの位置に戻される。でも、ネックレスのことも8月のことも、ここで忘れてしまった。
・・・
電話をかけてきたのは村上だった。
彼はまず、アニメ『ソラノアリア』の話題を振ってくる。
ヒロインに萌えたとかバトルシーンが迫力あるとか。楽しい話題なのに、一方的に話すものだからちょっとスマートフォンを耳から離してしまいそうだ。
自分の意識が通じたのか、彼はやっと本題を切り出した。
「ところで湊くん、今年はどうするかい?」
去年、村上の友人のつてでその日限りのバイトをしたことがあった。海の家には大勢の客が訪れるから、日雇いで参加してくれるだけでもありがたく思われるという。
「今年はどうしようかなあ」
「あんまりお金が必要じゃない感じか? そうだとしても、あったら何かと役に立つんだよ。
あ。いやいや、人助けだと思ってさ......」
こうしてプレゼンをされてしまうと、けっきょく参加してしまうのだ。
封筒に入った給料を手渡しでもらう。
それをしぶしぶ受け取りながらも、僕は困った顔を隠しきれない。
となりにいる村上がちらりとこちらを覗き込んでいうことは、
「おや、湊くんは何か不満げかな」
などと茶化して聞いてくる。
特に不満はないのだけど、正直な話稼いだお金の使い道がないのだ。去年は何か必要にせまられてこの海の家でバイトをしていたような気がする......。
となりに立ったまま、彼はまたもや一方的に語る。
「まあ、ホールと厨房じゃ差があるからな。
水着のお姉ちゃんたちを見てて楽しかったし」
それを言われても回答に困る。
一日中フロアを勤めていた彼は、お客さんをずっと楽しませていた。
「この子、高校生なのに大学生みたい!」
「連絡先交換しようよ! え、だめなの?」
こんな声が厨房の中にまで届く。
別に羨ましいわけでもなかったが、村上の社交性の高さに目を見張るものがった。
けっこう一生懸命に楽しんでいた彼が、ここで小さなため息をついた。
「ここに西原が来てくれたら嬉しかったんだけどな」
え......、なんだか相づちを打とうとしていた自分も言葉を失ってしまった。いつも水着なら見ていると思うのだけど。
「いいや、違うんだよ湊くん。
学校の水着じゃ毎日見てて飽きるだろ、ここでビキニにハーフパンツとか召してたら最強じゃないか」
今年こそは海に誘いたい、という彼のコメントを頭から一方的に追い出した。
無理やり話題を変えてトークを広げる。
「なんていうか、このお金を何に使おうかって悩んでて」
「なるほどな、よくわかるよ」
彼の誘いに乗って、駅まで歩いていくことにする。
視界に映る空はオレンジと青が混ざった不思議な色、マンダリンだろうか、えんじ色だろうか。なんとも形容し難い色が浮かんでいた。
歩きながら、村上は告げる。その表情には今まで見たことのない真剣なものが浮かんでいた。
「湊くんさ、進路の希望表もらっているだろ」
その質問の意味を理解して、僕は軽く息をのんだ。
実際、受験は来年だとしても現段階の意識を答えるために提出しなければいけない。
多くの生徒がおそらくは進路を決めきれないまま提出することになるだろう。僕もその中のひとりだったりする。
それでも、一握りの生徒は今信じている道を進む。
「オレさ、アニメの仕事をしてみたいと思ってるんだ」
「アニメ......?」
前にプールで出した話題そのままだった。
「そう、高校入るころから思ってたんだ。
お前もオレも、アニメやゲームを楽しんでるじゃん。
だから、その世界に飛び込んでみたいと思っててな」
シンプルな動機だ。それでいて、力強さを感じる雰囲気があった。
「ただ、大手の専門学校に行くとなると、そこそこのお金が必要なんだ」
なるほど、信じた道を進んでほしいなって思う。
電車の窓に、遠くで光る花火が見えた。
村上は関心したように、今年の行われるであろう大会を期待している。
高校近くの由緒ある神社から打ち上げる花火は圧巻で、毎年大勢の客が集まる。去年は彼とふたりで行ったのだが、人ごみに疲れてしまった印象しかなかった。
「それでも、みんなで行けたら楽しいだろうなあ。疲れも吹き飛ぶと思うんだ」
彼の中で、夏は楽しい季節としてイメージ付けされている。
それで、自分はどうだっただろうか。
・・・
すいが水泳を教えてくれるようになって、二週間ほど経った。
「ありゃ、もうちょっとだったよね」
となりのレーンから様子をうかがっているすいが自分に向かって声をかけた。
軽く泳げるようになった僕は、バタ足でもかまわないから泳ぎ切ることを目標としていた。それでもまだプールの端から端までを泳ぐのは難しく、途中で力尽きてしまう。
とはいえ、泳ぎはじめた頃からしたら考えられないほどの進歩を遂げていた。自分でもそう呼んでよいと思う。
あの頃の僕が、今の自分を見て何を思うだろう。
「次はもうちょっと泳げるようになるよ」
すいはそう言ってガッツポーズをしてみせた。その満面の笑みにこちらも微笑みを返す。
「......ん、どしたの湊くん。
疲れてなきゃもう一本泳ぐ?」
「ああ、だいじょうぶだよ」
ふと真顔になってしまったみたいだ。表情を作り直してみる。
スタート位置まで戻っていく最中にすいに気づかれないように小さなため息をついた。ここだけの話、漠然とした不安もどこかに潜んでいる気がして。
練習の合間に、家にいるときなどに、彼女が教えてくれたことを思い返すことが増えた。
顔を水につけるところからはじまって、すいにタッチするようなゲーム感覚の仕掛けも施されていた。それはもちろん楽しくて、まるで育ってきた英会話教室の雰囲気そのままみたい。
とはいえ、実際足を動かすなど実践的なことは具体的な説明に欠ける気がしていた。
「......ねえ、湊くん。
上手く言えないけれど、何かが変わった」
「何か、ってなんだろう」
泳ぎ終わった自分に向けて、すいは不思議そうな顔をする。その表情は、まるで訝しげに覗くみたいに。
「ポーズ、じゃなくてフォームっていうの」
......説明しようとして、つい言葉を失った。
この秘密の授業に、もう一人のコーチが登場するなんて本当はありえないことだから。
自分でプール行ってきたと言えば、少しは楽になるのかもしれない。でもそんなことはすでにお見通しだ。
「嘘はやめてよね。
湊くんすぐわかっちゃうし、きみのそんなところは見たくないよ」
つい彼女の言い回しも少し冷たくなっていた。
「......西原だよ」
もう仕方がないと、すいがいない時に足の動かし方を教えてくれたと説明するしかなかった。
「......なんで灯里さんが出てくるのよ」
「だって、すいそんな具体的なところまで教えてくれなかったじゃない」
「だってじゃないでしょ......」
もう話の穂先はつぎ足すことができなかった。
ふたりして、水面に視線を下ろしてしまう。
すいが顔を上げる。
ゆっくりと、彼女が口を開く......。
「ねえ、西原さんのこと、どう思っているの?」
僕はその中を泳いでいた。
腕を伸ばして、足をきれいに折って。視界の先を見開いて、しっかりと見つめていた。
水の中だと分かっているのに、怖いという意識はなく、この先何があるんだろう。興味が僕の心を締め付けている。
その意識を共有しよう。
僕は興奮を隠しきれないまま、となりを泳ぐ姿に視線を送る。
人魚姫の彼女はこちらに向かって微笑んでくれた。
そして彼女は言ったんだ、そろそろ上がろうかって。
次に浮かんだ光景は、何もない路地裏だった。
人魚姫はいつしか足を生えていて、まるで人間のよう。そして、こちらに響くような声で言ったんだ。
「湊くん、一緒にいるの楽しいね」
そうだねと、となりに歩く少女に向かって声をかける。
とくに特徴のない景色なのに、僕たちは楽しんでいる。
小さな花壇に咲く花たち、物陰に入っていくすずめたち。そんな光景のひとつひとつで会話しているから。
その雰囲気を彩るように、そよ風が流れていた。
やがて、僕たちはとある交差点に出くわす。
交差点で立ち止まると、ひときわ強い風が僕たちを揺らした。
慌ててスカートを押さえる少女。飛んでいく彼女のハット。これで、夏が終わる......。
そよ風は、ときに暴れてしまうから。
こんな言葉が脳裏に浮かびつつ、僕は勢いよく飛び起きた。
・・・
ベッドから体を起こしてみると、すでに朝日は力強くカーテン越しに降り注ぐ。
それでもいつも起きる時間にはだいぶ早いのに、もう布団をかぶる気にはなれなかった。
不思議な夢を見ていたみたいだ。
エアコンはつけているのに、じっとりと汗をかいている。
ハットが飛んでいかなければ、そよ風が吹いていなければ......。
夢の先には見れなかったのに、なぜだかその直前のことをなかったようにと願っていた。
居間に行った自分はカレンダーを一枚めくった。
そこに現れる文字を目にした瞬間、少し首をかしげてしまう。
8月。
ちょっとした既視感。この月は何があったかと思い出してみる。
皆はまだ夏休みの最中だから宿題に追われているだろう。
一般的には帰省の時期だろうけど、自分の家はどこにも行くところはない。
だから、お盆というイベントがあったとしても、自分にはほど遠い出来事でしかなかった。
はやく起きてしまった分、やることがないと困ってしまう。
仕方なく宿題でも進めようかと思ったけれど、参考書が見つからない。本棚やデスクなど、ありとあらゆる所を捜索していった。
でも参考書は見つからなかった。すると、普段使わない引き出しから出てきたものに、首をかしげてしまった。
人魚をモチーフにしたネックレス。
アクセサリーの類なんて、自分は持っていない。
でもこれはなんだか女の子が持っていそうなアイテムだ。
どうしてここにあるんだろう......。
かしげていた首は、ふと鳴り出したスマートフォンによってもとの位置に戻される。でも、ネックレスのことも8月のことも、ここで忘れてしまった。
・・・
電話をかけてきたのは村上だった。
彼はまず、アニメ『ソラノアリア』の話題を振ってくる。
ヒロインに萌えたとかバトルシーンが迫力あるとか。楽しい話題なのに、一方的に話すものだからちょっとスマートフォンを耳から離してしまいそうだ。
自分の意識が通じたのか、彼はやっと本題を切り出した。
「ところで湊くん、今年はどうするかい?」
去年、村上の友人のつてでその日限りのバイトをしたことがあった。海の家には大勢の客が訪れるから、日雇いで参加してくれるだけでもありがたく思われるという。
「今年はどうしようかなあ」
「あんまりお金が必要じゃない感じか? そうだとしても、あったら何かと役に立つんだよ。
あ。いやいや、人助けだと思ってさ......」
こうしてプレゼンをされてしまうと、けっきょく参加してしまうのだ。
封筒に入った給料を手渡しでもらう。
それをしぶしぶ受け取りながらも、僕は困った顔を隠しきれない。
となりにいる村上がちらりとこちらを覗き込んでいうことは、
「おや、湊くんは何か不満げかな」
などと茶化して聞いてくる。
特に不満はないのだけど、正直な話稼いだお金の使い道がないのだ。去年は何か必要にせまられてこの海の家でバイトをしていたような気がする......。
となりに立ったまま、彼はまたもや一方的に語る。
「まあ、ホールと厨房じゃ差があるからな。
水着のお姉ちゃんたちを見てて楽しかったし」
それを言われても回答に困る。
一日中フロアを勤めていた彼は、お客さんをずっと楽しませていた。
「この子、高校生なのに大学生みたい!」
「連絡先交換しようよ! え、だめなの?」
こんな声が厨房の中にまで届く。
別に羨ましいわけでもなかったが、村上の社交性の高さに目を見張るものがった。
けっこう一生懸命に楽しんでいた彼が、ここで小さなため息をついた。
「ここに西原が来てくれたら嬉しかったんだけどな」
え......、なんだか相づちを打とうとしていた自分も言葉を失ってしまった。いつも水着なら見ていると思うのだけど。
「いいや、違うんだよ湊くん。
学校の水着じゃ毎日見てて飽きるだろ、ここでビキニにハーフパンツとか召してたら最強じゃないか」
今年こそは海に誘いたい、という彼のコメントを頭から一方的に追い出した。
無理やり話題を変えてトークを広げる。
「なんていうか、このお金を何に使おうかって悩んでて」
「なるほどな、よくわかるよ」
彼の誘いに乗って、駅まで歩いていくことにする。
視界に映る空はオレンジと青が混ざった不思議な色、マンダリンだろうか、えんじ色だろうか。なんとも形容し難い色が浮かんでいた。
歩きながら、村上は告げる。その表情には今まで見たことのない真剣なものが浮かんでいた。
「湊くんさ、進路の希望表もらっているだろ」
その質問の意味を理解して、僕は軽く息をのんだ。
実際、受験は来年だとしても現段階の意識を答えるために提出しなければいけない。
多くの生徒がおそらくは進路を決めきれないまま提出することになるだろう。僕もその中のひとりだったりする。
それでも、一握りの生徒は今信じている道を進む。
「オレさ、アニメの仕事をしてみたいと思ってるんだ」
「アニメ......?」
前にプールで出した話題そのままだった。
「そう、高校入るころから思ってたんだ。
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なるほど、信じた道を進んでほしいなって思う。
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村上は関心したように、今年の行われるであろう大会を期待している。
高校近くの由緒ある神社から打ち上げる花火は圧巻で、毎年大勢の客が集まる。去年は彼とふたりで行ったのだが、人ごみに疲れてしまった印象しかなかった。
「それでも、みんなで行けたら楽しいだろうなあ。疲れも吹き飛ぶと思うんだ」
彼の中で、夏は楽しい季節としてイメージ付けされている。
それで、自分はどうだっただろうか。
・・・
すいが水泳を教えてくれるようになって、二週間ほど経った。
「ありゃ、もうちょっとだったよね」
となりのレーンから様子をうかがっているすいが自分に向かって声をかけた。
軽く泳げるようになった僕は、バタ足でもかまわないから泳ぎ切ることを目標としていた。それでもまだプールの端から端までを泳ぐのは難しく、途中で力尽きてしまう。
とはいえ、泳ぎはじめた頃からしたら考えられないほどの進歩を遂げていた。自分でもそう呼んでよいと思う。
あの頃の僕が、今の自分を見て何を思うだろう。
「次はもうちょっと泳げるようになるよ」
すいはそう言ってガッツポーズをしてみせた。その満面の笑みにこちらも微笑みを返す。
「......ん、どしたの湊くん。
疲れてなきゃもう一本泳ぐ?」
「ああ、だいじょうぶだよ」
ふと真顔になってしまったみたいだ。表情を作り直してみる。
スタート位置まで戻っていく最中にすいに気づかれないように小さなため息をついた。ここだけの話、漠然とした不安もどこかに潜んでいる気がして。
練習の合間に、家にいるときなどに、彼女が教えてくれたことを思い返すことが増えた。
顔を水につけるところからはじまって、すいにタッチするようなゲーム感覚の仕掛けも施されていた。それはもちろん楽しくて、まるで育ってきた英会話教室の雰囲気そのままみたい。
とはいえ、実際足を動かすなど実践的なことは具体的な説明に欠ける気がしていた。
「......ねえ、湊くん。
上手く言えないけれど、何かが変わった」
「何か、ってなんだろう」
泳ぎ終わった自分に向けて、すいは不思議そうな顔をする。その表情は、まるで訝しげに覗くみたいに。
「ポーズ、じゃなくてフォームっていうの」
......説明しようとして、つい言葉を失った。
この秘密の授業に、もう一人のコーチが登場するなんて本当はありえないことだから。
自分でプール行ってきたと言えば、少しは楽になるのかもしれない。でもそんなことはすでにお見通しだ。
「嘘はやめてよね。
湊くんすぐわかっちゃうし、きみのそんなところは見たくないよ」
つい彼女の言い回しも少し冷たくなっていた。
「......西原だよ」
もう仕方がないと、すいがいない時に足の動かし方を教えてくれたと説明するしかなかった。
「......なんで灯里さんが出てくるのよ」
「だって、すいそんな具体的なところまで教えてくれなかったじゃない」
「だってじゃないでしょ......」
もう話の穂先はつぎ足すことができなかった。
ふたりして、水面に視線を下ろしてしまう。
すいが顔を上げる。
ゆっくりと、彼女が口を開く......。
「ねえ、西原さんのこと、どう思っているの?」
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