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希理子、右近をみる!
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希理子は今、教室中の注目を浴びている。
ザ・平凡。モブ中のモブの赤沼希理子。こんな大勢から視線を浴びせられるなど、生まれて初めて、いえ、最初で最後の事でしょう。
感想を一言述べさせていただくと「最低~~~」です。
心の中そのままの表情で目の前で笑うモテメンを睨み付けた。なのに、睨まれたそいつは全く動じずニコニコしている。
「ちょっと。どうしてここに来るわけ?駅前のコンビニで待ち合わせって言ったでしょ。あんた、うんって返事してたじゃない」
周りに聞こえない位小声で希理子が怒鳴りつけているのは、もちろん圭紫だ。
さかのぼる事2時間前。
昼食を食べる為、4時限目の音楽室から教室へ帰る途中、希理子は突然物陰から腕をつかまれた。
「うひぃっ」
「ちょっとこっち。来て」
人通りが激しい階段の脇、物置スペースになっている死角に引っ張ったのは圭紫だった。
「おい。うひぃって何だよ、うひぃって。そこはもっとこう、きゃあとか何とかあるだろうが」
「う……」
確かに女の子っぽくない悲鳴だったから、反論できない。が、悔しいから言い返す。
「そんなもん、テレビか映画の中だけだって。咄嗟の危機にかわいらしいかどうか考えてる暇はない。第一、あんたにどう思われたって平気だもん」
「かっわいくねぇな」
互いに睨みあうものの、今は昼食時。用があるならさっさと済ませてもらわなくては、大事なお弁当タイムが削られる。さくさくっと要件を言えと命じると、圭紫は意外に素直に従った。
どうやら祖父と話をしたらしい。だが、祖父は希理子の説明を正しいと認めたものの、詳しい事は言いたがらない。そこで、できるなら左之助から正確な話を聞きたいそうだ。
正直、面倒くさいと思ったが、頭を下げられては無下にもできない。
希理子はしぶしぶ、放課後自宅に案内すると約束した。
もちろん、圭紫と一緒に行動するなど橙山ファンに知られたら吊るし上げられる。それは絶対お断りだ。だから、一旦学校は別々に出て途中の目立たない場所で待ち合わせる事にした。
それが、さっき希理子が言った駅前のコンビニ。
コンビニなら、2人が一緒に居ても不思議じゃない。偶然だと言い張れる。
そこから希理子の家まで、少し距離を開けたまま、縦に並んで帰宅すればいい。そうすれば2人が行動を共にしたとばれる心配はないから。
「全く。あたしの完璧な計画をまるっと無視してくれちゃって」
「どこがだ。一緒に帰るんだから一緒に出ればいいだろう。何でそんな無駄な事をしなくちゃならん」
「ちょぉぉっ。だからっ、声っ。声、落として」
小声で怒鳴る希理子に対して、圭紫の声は通常仕様。おかげで教室中に聞こえている。
だからー―――
「え、なになに。圭紫と赤沼さん、デート?付き合ってるの?」
食いついたのは一番近くにいて、且つ、希理子とも圭紫とも話をする白井だった。それに周りの女子群が「嘘ぉ」とか「いやぁ」とか叫んでいるから、希理子は必死で首を振った。
「ちがっ、違うからっ!ぜ~ったいに違うからっ」
「そこまで嫌かい」
全力で否定する希理子は、隣でぼそっと呟いた圭紫の声は聞こえなかった。
希理子はクラス中の視線に耐え切れず、圭紫を引っ張って逃げるみたいに教室をでた。
そうして、帰り着いた自宅では異様に生き生きした佐之助が待ち構えていた。
「ほうほう。君が橙山の孫かね。いやぁ、立派な青年じゃな。体格がいい。これだけいい肉体をしてるなら、ちょっと手を加えてやれば―――――」
「おじいちゃん!人体実験はいけません。第一、橙山君はそんな事をしに来たんじゃないから。話。彼は話をしに来たの」
「えぇ~~。ちょっとだけじゃ、ちょっとだけ。ほんの5分か10分か1,2時間だけ」
「長いわっ」
通常運転で爺孫漫才を繰り広げる希理子と左之助に、圭紫も笑っている。笑いながら、「実は祖父からビデオレターを預かっているんですが」とポケットからメモリーカードを取り出した。
画面に映った右近は、意外にダンディなおじさまだった。
圭紫の祖父だけあって整った顔立ちだし、ふさふさしたグレィの髪をオールバックに撫でつけて白衣を着ている姿は科学者というより大学病院の医者に見える。銀縁メガネが更にそれっぽさを演出していて、希理子は不覚にも一瞬ときめいた。
だが、それも音声が流れ始めるまで。
右近は、しばらく彫像のようにじっとしたままだったが、「お?もう映ってるのか」と言うなり怒涛の勢いでしゃべりだした。
「久しぶりだな、赤沼左之助。お前が月のエネルギーの研究を進め、キューティーラビーなる戦士を作り出したことは知っている。だが、そんなもの、私のレオフレイの足元にも及ばんぞ。月のエネルギー?そんな微弱なものでこの世界は変えられないし守れる筈がない。求められるのは絶対のパワーだ。月のような流動するエネルギーではない。求めるエネルギーとは、常に、いついかなる時でも手にはいる種でなくてはならないのだ。
そんな常在パワーを活用してこその正義。つまり、私の研究の方がお前の研究より何歩も先をいっておると言う事だ。はっはっは~、どうだ。今回こそ素直に負けを認めるがいい。お前には何があっても絶対に、負けん」
最後にもう1度、目いっぱいのけぞりながら高笑いをしている映像が映り、ぶつっと切れた。
「・・・・・・・」
「―――――……」
何かフォローしなくてはと思っても言葉がでない。それでも精一杯絞り出した。
「うむ。相変わらずじゃ」
「ぅ…ん。何か…残念な人だね」
「……………すまん」
沈黙の後、圭紫が謝った。
ザ・平凡。モブ中のモブの赤沼希理子。こんな大勢から視線を浴びせられるなど、生まれて初めて、いえ、最初で最後の事でしょう。
感想を一言述べさせていただくと「最低~~~」です。
心の中そのままの表情で目の前で笑うモテメンを睨み付けた。なのに、睨まれたそいつは全く動じずニコニコしている。
「ちょっと。どうしてここに来るわけ?駅前のコンビニで待ち合わせって言ったでしょ。あんた、うんって返事してたじゃない」
周りに聞こえない位小声で希理子が怒鳴りつけているのは、もちろん圭紫だ。
さかのぼる事2時間前。
昼食を食べる為、4時限目の音楽室から教室へ帰る途中、希理子は突然物陰から腕をつかまれた。
「うひぃっ」
「ちょっとこっち。来て」
人通りが激しい階段の脇、物置スペースになっている死角に引っ張ったのは圭紫だった。
「おい。うひぃって何だよ、うひぃって。そこはもっとこう、きゃあとか何とかあるだろうが」
「う……」
確かに女の子っぽくない悲鳴だったから、反論できない。が、悔しいから言い返す。
「そんなもん、テレビか映画の中だけだって。咄嗟の危機にかわいらしいかどうか考えてる暇はない。第一、あんたにどう思われたって平気だもん」
「かっわいくねぇな」
互いに睨みあうものの、今は昼食時。用があるならさっさと済ませてもらわなくては、大事なお弁当タイムが削られる。さくさくっと要件を言えと命じると、圭紫は意外に素直に従った。
どうやら祖父と話をしたらしい。だが、祖父は希理子の説明を正しいと認めたものの、詳しい事は言いたがらない。そこで、できるなら左之助から正確な話を聞きたいそうだ。
正直、面倒くさいと思ったが、頭を下げられては無下にもできない。
希理子はしぶしぶ、放課後自宅に案内すると約束した。
もちろん、圭紫と一緒に行動するなど橙山ファンに知られたら吊るし上げられる。それは絶対お断りだ。だから、一旦学校は別々に出て途中の目立たない場所で待ち合わせる事にした。
それが、さっき希理子が言った駅前のコンビニ。
コンビニなら、2人が一緒に居ても不思議じゃない。偶然だと言い張れる。
そこから希理子の家まで、少し距離を開けたまま、縦に並んで帰宅すればいい。そうすれば2人が行動を共にしたとばれる心配はないから。
「全く。あたしの完璧な計画をまるっと無視してくれちゃって」
「どこがだ。一緒に帰るんだから一緒に出ればいいだろう。何でそんな無駄な事をしなくちゃならん」
「ちょぉぉっ。だからっ、声っ。声、落として」
小声で怒鳴る希理子に対して、圭紫の声は通常仕様。おかげで教室中に聞こえている。
だからー―――
「え、なになに。圭紫と赤沼さん、デート?付き合ってるの?」
食いついたのは一番近くにいて、且つ、希理子とも圭紫とも話をする白井だった。それに周りの女子群が「嘘ぉ」とか「いやぁ」とか叫んでいるから、希理子は必死で首を振った。
「ちがっ、違うからっ!ぜ~ったいに違うからっ」
「そこまで嫌かい」
全力で否定する希理子は、隣でぼそっと呟いた圭紫の声は聞こえなかった。
希理子はクラス中の視線に耐え切れず、圭紫を引っ張って逃げるみたいに教室をでた。
そうして、帰り着いた自宅では異様に生き生きした佐之助が待ち構えていた。
「ほうほう。君が橙山の孫かね。いやぁ、立派な青年じゃな。体格がいい。これだけいい肉体をしてるなら、ちょっと手を加えてやれば―――――」
「おじいちゃん!人体実験はいけません。第一、橙山君はそんな事をしに来たんじゃないから。話。彼は話をしに来たの」
「えぇ~~。ちょっとだけじゃ、ちょっとだけ。ほんの5分か10分か1,2時間だけ」
「長いわっ」
通常運転で爺孫漫才を繰り広げる希理子と左之助に、圭紫も笑っている。笑いながら、「実は祖父からビデオレターを預かっているんですが」とポケットからメモリーカードを取り出した。
画面に映った右近は、意外にダンディなおじさまだった。
圭紫の祖父だけあって整った顔立ちだし、ふさふさしたグレィの髪をオールバックに撫でつけて白衣を着ている姿は科学者というより大学病院の医者に見える。銀縁メガネが更にそれっぽさを演出していて、希理子は不覚にも一瞬ときめいた。
だが、それも音声が流れ始めるまで。
右近は、しばらく彫像のようにじっとしたままだったが、「お?もう映ってるのか」と言うなり怒涛の勢いでしゃべりだした。
「久しぶりだな、赤沼左之助。お前が月のエネルギーの研究を進め、キューティーラビーなる戦士を作り出したことは知っている。だが、そんなもの、私のレオフレイの足元にも及ばんぞ。月のエネルギー?そんな微弱なものでこの世界は変えられないし守れる筈がない。求められるのは絶対のパワーだ。月のような流動するエネルギーではない。求めるエネルギーとは、常に、いついかなる時でも手にはいる種でなくてはならないのだ。
そんな常在パワーを活用してこその正義。つまり、私の研究の方がお前の研究より何歩も先をいっておると言う事だ。はっはっは~、どうだ。今回こそ素直に負けを認めるがいい。お前には何があっても絶対に、負けん」
最後にもう1度、目いっぱいのけぞりながら高笑いをしている映像が映り、ぶつっと切れた。
「・・・・・・・」
「―――――……」
何かフォローしなくてはと思っても言葉がでない。それでも精一杯絞り出した。
「うむ。相変わらずじゃ」
「ぅ…ん。何か…残念な人だね」
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