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希理子、奮闘する!

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魔物に向かってロケットダッシュ――ッ、のつもりが砂に足を取られてこけた。ええ、もう。べしゃっと!顔面から!
勢い込んだものの運痴の希理子だ。さもありなんな結果と言える。

「いたた……デコと顎が痛い。鼻が無事なのは何故なのだ……」

まみれた砂を払っていると、いつの間にかスライムが直ぐ側まで近づいていた。
ビシュッと水鉄砲みたいな音がしたと思ったら、座り込んだ希理子の脇30センチの地面が焦げた。硫酸か酢酸を零したみたいに煙を上げて焦げている。

「………………マジっすか」

驚き過ぎて呆けた希理子に構わず、続けて第2弾、第3弾が放たれる。ビシュッ!ビシュッ!とスナイパー顔負けの攻撃だ。

「いいいぃぃぃぃ~~~~やあああぁぁぁぁ~~~~っっっ!!!!!」

死ぬっ!死ぬからっ!それっ!!

なり振りなんか構っちゃいられない。希理子は四つん這いのまま逃げ出した。

え?ミニスカート?パンツ丸見え?そんな事、どうでもいいから。見られたって相手は魔物。ぴちぴち女子高生のパンツに興奮したりしないでしょう。

這うように砂浜を逃げる希理子を追う魔物。断続的に放たれる酸弾が命中しないのは奇跡に近い。

が、幸運は続かない。
ビジュッ、と鈍い音がしてスライムに向けているお尻周辺が熱くなった。

「うきゃっ。え、えぇっ。何っ、当たった?当たったの?いやああ~~っ」

ギュッと目を瞑って痛みが来るのを覚悟したけれど、感じるのはジンとした熱さとこそばゆいようなチリチリした痒さだけ。

当たったと思ったけど溶けてこない?

何で?もしかしてこのエロスーツのおかげ?戦隊ヒーローが着ているみたいな特殊素材の服なのか?攻撃されても大丈夫、とか。

しかし安心はできない。いつ生身に当たるか、スーツが溶けるかわからないのだから必死で逃げるべしなのだ。

前方に大きな岩発見。

あそこに逃げ込めば時間を稼げる。希理子は、ガクガクする手足をがむしゃらに動かし続けた。石の下から這い出してきたダンゴ虫にそっくりの動きだが、誰にも見られていないんだから大丈夫。些細な事に構っちゃられない、命の危機なんだから。



無事に身を隠し、ひと息吐いた。


「ふひ~~。何よ、あれ。スティックひとタッチったって、あんな化け物相手に絶対無理じゃん。爺~~~、呪ってやる~~~」

ひといき左之助に対する文句を並べたてた希理子だが、いつまでも休んでいられないのはわかっている。どんなに怖くても、あいつに一発お見舞いしなくては帰れない。放っておけば海岸が変形したり水が汚染されたりと、大変な事になってしまうから。

恐る恐る、岩の陰から魔物を窺うと、透明水クラゲは、左之助の言った通りエネルギーを取り込んでいるのか浜辺に立って月の光を浴びている。
暗闇にうすぼんやり浮かぶ巨大なクラゲ。その体を柔らかな渦のように取り巻いている光は、普通なら可視できない月の光だろうか。幻想的な光景だ。

もしかして、今ならいける?突っ立っているスライムに、こっそり近づいて足の先っちょかどこかにタッチすれば――――ミッション完了できるかも。

もしかしての可能性に希望を見出す希理子だった。

若干軽くなった心のまま、そろりと一歩踏み出そうと覚悟を決めた希理子だが、次の瞬間、考えの甘さにうちのめされた。
突如魔物が震え出したのだ。大きな体が小刻みに揺れ、触手が滅茶苦茶に暴れまくる。
とてもじゃないが近寄れない。


「今夜は一時撤退、とか……ダメかな?」

左之助に泣きつこうと決めた希理子が爺に連絡を取ろうとしたその時、視界の端にありえない、いや、あってはいけないものを見つけてしまった。
スライムの左後ろで隠れている希理子と同様、離れた右後ろの岩陰に体を縮めた少年が2人いた。まだ小学生位だろう。

何であんな小さな子がこんな時間に海岸に居るの?肝試し?それとも何か事情があった?

訝しく思ったが、今は理由など考えている時じゃない。あの魔物が彼らに気付く前に助けなくてはならない。


「緊急事態発生。じいちゃん、海岸に部外者発見。小学生位の子供が2人――――うそ……」

小声で叫んだが、通信機器からはガーガーというノイズしか聞こえない。




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