1 / 21
平凡希理子 と ぶっ飛びじぃちゃん
しおりを挟む
テレビのニュースでは著名人やタレントたちが、最近ちょくちょく起きている怪事件について話している。
『ですから、たった数メートルとは言え、たった一夜で海岸線が変化するなどありえない現象です。人知を超えているんです』
『いやいや、それは大袈裟ですよ。この変化がもしも数百メートルなら、数キロなら、その考えも頷けまずが数メートルではねえ。恐らく悪ふざけが過ぎた若者グループの仕業でしょう』
『あ、でも~、もしも宇宙人が日本にやって来たんならマコリン会ってみた~い』
『お前なんか向こうが嫌がるわい。宇宙に低能を宣伝する気かい』
『ひど~い。マコリン泣いちゃうから~』
どうでもいい。正にくだらない内容のそれを右から左に聞き流し、希理子は机の引き出しから引っ張りだした1枚の写真を見詰めていた。
写っているのはガムか炭酸飲料のコマーシャルに出てきそうな爽やか青年。日焼けした顔でにっこり笑った口元から真っ白の歯が零れているのが一層清々しい。
被写体は、希理子も通う桜の宮高校のアイドルでサッカー部のエース、黄田 周防君。あ、一応希理子の名誉の為に言っておくと、写真はストーカーチックな隠し撮りではなく、昨年の体育祭の後に正規の手順で購入したものだ。まぁ、売り物だったとはいえ本人の了解なく手に入れている時点で………だが、向こうはアイドル。目立たない同級生が写真の1枚や2枚、隠し持っていても屁でもないだろう。
「はぁ……黄田君、かっこいい。爽やか~」
お勉強だけはできるものの、見目も性格も地味、ついでに運動神経も四肢の末端でこんがらがってんじゃない?と危ぶむ運痴な希理子が黄田の彼女になれるとか、思いが実るとか、夢見ているわけじゃない。でも、自室でこっそり懸想する位は許されると思っている。
そんな風にぼんやり物思いに浸っていた希理子だが、幸せな時間は続かない。突然現実に引き戻された。
自宅の、希理子の部屋と反対方向からドスンッ!という鈍い破壊音と頭がクラクラしそうな金切声が聞こえて来たのだ。
もちろん自宅での事だ。何の音か声か、理由は薄々わかっている。でも、わかっていてもやはり確かめに行かねばならぬだろう。
何故って――――――ここ、赤沼家の住人は希理子と祖父、2人っきりだから。
希理子が平常運転でここに居るのだから音の出元は祖父しかいない。
希理子の祖父、赤沼左之助・72歳。未だ現役バリバリの科学者だ。さっきの破壊音も十中八九、左之助が実験に失敗したせいに違いない。ただ、金切声の方はとんと見当がつかないが。
心情が現れるノロノロした足取りでたどり着いた左之助の実験室は、案の定3分の1程壊滅していた。壁が剥げ、天井の蛍光灯がビヨヨ~ンと垂れさがっている。
「おじいちゃん、何があったの?実験、失敗した?」
被害の達していない部屋の隅で、肩を落として項垂れた左之助を見つけ声をかけた希理子。
一体何をどうしたらこんな事になったのか説明してもらおうと問いかけたが、一瞬早くガバリと跳ね起きた左之助が走り寄ってきた。
「希理子~~~!!そうじゃ、わしには希理子がおったわ。ぬはっ、ぬははははっ。やったぞ、天はまだまだこのわしを、天才科学者赤沼左之助を見捨ててはおらんのじゃっ!」
まっすぐ拳を突き上げて宣言する72歳。不気味の一言につきている。
「そんなに張り切ったらギックリ君になっちゃうよ」
孫の心温まる助言には従いなされ。
「何を言う。わしはまだまだ若いんじゃ!ピッチピチじゃっ!うぬ、確かに体表容姿年齢はいささか年食うてしもうたぞ。だが、まだまだじゃ。頭も体の中身も若いんじゃ。あっちだとてバイアグラなんぞ必要とせんぞぃ」
「うげ…」
それ聞きたくなかった情報ですから。
ぐったりする希理子に構わず、復活した左之助はサクサクと話を進めていく。
「希理子よ。今まで黙っておったが、わしは政府からの極秘依頼で研究を進めておるんじゃ」
「って、それ言っちゃう?言っちゃうの?極秘って言いながら言っちゃうの?」
「うるさいわぃ。黙って聞かんか」
「わしとてお前にはいらん心配をかけたくないから今まで秘密じゃったんじゃ。だがの、そうも言っておられんようになってしもうたわ――――――」
佐之助の話はこうだった。
それは古来から為政者や権力者の間だけで機密事項として伝えられてきた情報。
ここ数年、日本全土で科学的に説明のつかない怪現象が起こっている。それはすべて、現実に存在すると思われていない『魔物』による被害である。
左之助は政府から、その魔物に対峙する策を考え出せと命じられて研究を続けていた。
海のものとも山のものともつかない研究内容だが、見た目に反して実は優れた能力持ちの左之助は着々と成果をだして、最近ようやく解決策を見つけ出した。
それは、『魔物を無力化してしまえばいい』というもの。
「へ?だってそんなの……魔物ってお化けでしょ?怪物?えぇ~、無理無理。無理っぽ」
荒唐無稽。でたらめ過ぎる内容に、ついつい笑い転げる希理子だが、左之助は真面目に話している。
「本当じゃって。よいか、希理子よ。そもそもこの地球というのは宇宙に数ある星のひとつであって、宇宙と言うのは無限の星々でできておる。そして、その星々はだだっ広い宇宙空間に浮かんでおるんじゃが、それらがどうやって浮かんでおるのか、知っておるか?それには―――――」
「ストーーーップ。ストップ、ストップ。それ以上言われても難し過ぎてわかんないよ。もっと簡単に、簡潔きわまりなく、説明プリース」
放っておくと何時間でも宇宙の成り立ちとかわけのわからない論説を聞かされるのだ。早々にぶった切っておかねば大変な事になる。
勢いこんだ所を邪魔された左之助はむっとしたものの、孫に促されリクエスト通り簡潔に、要点を言い切った。
「ズバリ、正義の味方じゃ。希理子よ、お主にその大役を任命する」
「―――――――――……………はあああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁ?」
『ですから、たった数メートルとは言え、たった一夜で海岸線が変化するなどありえない現象です。人知を超えているんです』
『いやいや、それは大袈裟ですよ。この変化がもしも数百メートルなら、数キロなら、その考えも頷けまずが数メートルではねえ。恐らく悪ふざけが過ぎた若者グループの仕業でしょう』
『あ、でも~、もしも宇宙人が日本にやって来たんならマコリン会ってみた~い』
『お前なんか向こうが嫌がるわい。宇宙に低能を宣伝する気かい』
『ひど~い。マコリン泣いちゃうから~』
どうでもいい。正にくだらない内容のそれを右から左に聞き流し、希理子は机の引き出しから引っ張りだした1枚の写真を見詰めていた。
写っているのはガムか炭酸飲料のコマーシャルに出てきそうな爽やか青年。日焼けした顔でにっこり笑った口元から真っ白の歯が零れているのが一層清々しい。
被写体は、希理子も通う桜の宮高校のアイドルでサッカー部のエース、黄田 周防君。あ、一応希理子の名誉の為に言っておくと、写真はストーカーチックな隠し撮りではなく、昨年の体育祭の後に正規の手順で購入したものだ。まぁ、売り物だったとはいえ本人の了解なく手に入れている時点で………だが、向こうはアイドル。目立たない同級生が写真の1枚や2枚、隠し持っていても屁でもないだろう。
「はぁ……黄田君、かっこいい。爽やか~」
お勉強だけはできるものの、見目も性格も地味、ついでに運動神経も四肢の末端でこんがらがってんじゃない?と危ぶむ運痴な希理子が黄田の彼女になれるとか、思いが実るとか、夢見ているわけじゃない。でも、自室でこっそり懸想する位は許されると思っている。
そんな風にぼんやり物思いに浸っていた希理子だが、幸せな時間は続かない。突然現実に引き戻された。
自宅の、希理子の部屋と反対方向からドスンッ!という鈍い破壊音と頭がクラクラしそうな金切声が聞こえて来たのだ。
もちろん自宅での事だ。何の音か声か、理由は薄々わかっている。でも、わかっていてもやはり確かめに行かねばならぬだろう。
何故って――――――ここ、赤沼家の住人は希理子と祖父、2人っきりだから。
希理子が平常運転でここに居るのだから音の出元は祖父しかいない。
希理子の祖父、赤沼左之助・72歳。未だ現役バリバリの科学者だ。さっきの破壊音も十中八九、左之助が実験に失敗したせいに違いない。ただ、金切声の方はとんと見当がつかないが。
心情が現れるノロノロした足取りでたどり着いた左之助の実験室は、案の定3分の1程壊滅していた。壁が剥げ、天井の蛍光灯がビヨヨ~ンと垂れさがっている。
「おじいちゃん、何があったの?実験、失敗した?」
被害の達していない部屋の隅で、肩を落として項垂れた左之助を見つけ声をかけた希理子。
一体何をどうしたらこんな事になったのか説明してもらおうと問いかけたが、一瞬早くガバリと跳ね起きた左之助が走り寄ってきた。
「希理子~~~!!そうじゃ、わしには希理子がおったわ。ぬはっ、ぬははははっ。やったぞ、天はまだまだこのわしを、天才科学者赤沼左之助を見捨ててはおらんのじゃっ!」
まっすぐ拳を突き上げて宣言する72歳。不気味の一言につきている。
「そんなに張り切ったらギックリ君になっちゃうよ」
孫の心温まる助言には従いなされ。
「何を言う。わしはまだまだ若いんじゃ!ピッチピチじゃっ!うぬ、確かに体表容姿年齢はいささか年食うてしもうたぞ。だが、まだまだじゃ。頭も体の中身も若いんじゃ。あっちだとてバイアグラなんぞ必要とせんぞぃ」
「うげ…」
それ聞きたくなかった情報ですから。
ぐったりする希理子に構わず、復活した左之助はサクサクと話を進めていく。
「希理子よ。今まで黙っておったが、わしは政府からの極秘依頼で研究を進めておるんじゃ」
「って、それ言っちゃう?言っちゃうの?極秘って言いながら言っちゃうの?」
「うるさいわぃ。黙って聞かんか」
「わしとてお前にはいらん心配をかけたくないから今まで秘密じゃったんじゃ。だがの、そうも言っておられんようになってしもうたわ――――――」
佐之助の話はこうだった。
それは古来から為政者や権力者の間だけで機密事項として伝えられてきた情報。
ここ数年、日本全土で科学的に説明のつかない怪現象が起こっている。それはすべて、現実に存在すると思われていない『魔物』による被害である。
左之助は政府から、その魔物に対峙する策を考え出せと命じられて研究を続けていた。
海のものとも山のものともつかない研究内容だが、見た目に反して実は優れた能力持ちの左之助は着々と成果をだして、最近ようやく解決策を見つけ出した。
それは、『魔物を無力化してしまえばいい』というもの。
「へ?だってそんなの……魔物ってお化けでしょ?怪物?えぇ~、無理無理。無理っぽ」
荒唐無稽。でたらめ過ぎる内容に、ついつい笑い転げる希理子だが、左之助は真面目に話している。
「本当じゃって。よいか、希理子よ。そもそもこの地球というのは宇宙に数ある星のひとつであって、宇宙と言うのは無限の星々でできておる。そして、その星々はだだっ広い宇宙空間に浮かんでおるんじゃが、それらがどうやって浮かんでおるのか、知っておるか?それには―――――」
「ストーーーップ。ストップ、ストップ。それ以上言われても難し過ぎてわかんないよ。もっと簡単に、簡潔きわまりなく、説明プリース」
放っておくと何時間でも宇宙の成り立ちとかわけのわからない論説を聞かされるのだ。早々にぶった切っておかねば大変な事になる。
勢いこんだ所を邪魔された左之助はむっとしたものの、孫に促されリクエスト通り簡潔に、要点を言い切った。
「ズバリ、正義の味方じゃ。希理子よ、お主にその大役を任命する」
「―――――――――……………はあああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁ?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる