上 下
109 / 110
第三章 幽閉塔の姫君編

26 魔女のお祭り

しおりを挟む
 週末の町の広場は、大いに賑わっていた。
 人だかりが囲んでいる真ん中には、リコプリンのテントがあるが、今日はプリンを売っていない。看板にはこう書かれている。

『わたあめパーティー』

「今日はみんなで試食会だよ! わたあめ食べてってね!」

 マニは元気に、籠から取り出した木の棒を広場のみんなに配っている。棒の先には、小さなわたあめが付いている。
 見学する人々は我先にとわたあめを受け取って、歓声を上げながら口に含んで楽しんでいた。そうしてふわふわの優しい甘さを味わいながら、テントで行われている「わたあめショー」に魅入っている。

 アレキが特注で手配した特大の中華鍋のような鉄板には、ミーシャの竜巻が立ち、溶かされた砂糖が雲のように回転する。
 見たことのない不思議な風景に、人々は夢中になっていた。

 リコはわたあめの竜巻からクルクルと木の枝でわたあめを巻き取って、小さなわたあめを大量に作っている。
 作っても作っても足りないほどに、観客が大勢集まっていた。

 マニは小声でほくそ笑む。

「初回はタダで配るけど、次回はおっきなわたあめを売りまくるからね。大人気間違いなしだよ」

 リコはマニの籠にミニわたあめを足しながら、笑った。

「マニちゃんの経営戦略は、ほんとにすごいね。こんなに人が集まるなんて思わなかったよ!」
「見たことない変な食べ物は、一度味見させるに限るからね」

 隣のミーシャを見ると、長時間に渡る竜巻のコントロールに集中していて、真剣な顔をしている。

「ミーシャちゃん、疲れない? 大丈夫?」
「うん。アレキ様の訓練で、だいぶ慣れたよ」

 会話をしているうちに、目前にアレキが立っていた。
 オペラグラスを片手に、まるで観劇にでも行くようなお洒落をしている。どうやら遠くから観察していたが、我慢できずに近づいて来たようだった。

「わたあめひとつくださいな」

 言いながら、ミーシャが立派に風使いとして活躍している姿を見て、うるうると瞳を青く潤ませていた。

「ミーシャァァ! 立派なわたあめ職人になって!!」

 感極まってミーシャに抱きついて、ミーシャは竜巻のコントロールを失った。

「ちょっ! アレキ様!?」

 わたあめを乗せた竜巻は空中に飛び出して、天高く高速回転した後に風は霧散し、わたあめがちりぢりと、広場の空から降ってきた。
 観客達はまるで雲が落ちてきたような景色に盛り上がって、宙に手を伸ばして、わたあめを掴んで食べ出した。

「も~! 邪魔しないでくださいよ!」
「あっはっは! でもみんな楽しそうだぞ」

 アレキの言うとおり、みんなはパフォーマンスの一環だと思っているようで、大人も子供も目を輝かせて、雲掴みの遊びに興じている。その光景はまるで輪になって踊っているように見えて、リコは胸がギュッとなっていた。

「これは……お祭りだよ! わたあめ食べて、盆踊りだ!!」

 また意味不明な事を叫んでいるリコを、マニは笑っている。

「みんなで雲を踊り食いするなんて、とんだ奇祭だね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

愛されない王妃は、お飾りでいたい

夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。  クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。  そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。 「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」  クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!? 「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

処理中です...