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第三章 幽閉塔の姫君編
26 魔女のお祭り
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週末の町の広場は、大いに賑わっていた。
人だかりが囲んでいる真ん中には、リコプリンのテントがあるが、今日はプリンを売っていない。看板にはこう書かれている。
『わたあめパーティー』
「今日はみんなで試食会だよ! わたあめ食べてってね!」
マニは元気に、籠から取り出した木の棒を広場のみんなに配っている。棒の先には、小さなわたあめが付いている。
見学する人々は我先にとわたあめを受け取って、歓声を上げながら口に含んで楽しんでいた。そうしてふわふわの優しい甘さを味わいながら、テントで行われている「わたあめショー」に魅入っている。
アレキが特注で手配した特大の中華鍋のような鉄板には、ミーシャの竜巻が立ち、溶かされた砂糖が雲のように回転する。
見たことのない不思議な風景に、人々は夢中になっていた。
リコはわたあめの竜巻からクルクルと木の枝でわたあめを巻き取って、小さなわたあめを大量に作っている。
作っても作っても足りないほどに、観客が大勢集まっていた。
マニは小声でほくそ笑む。
「初回はタダで配るけど、次回はおっきなわたあめを売りまくるからね。大人気間違いなしだよ」
リコはマニの籠にミニわたあめを足しながら、笑った。
「マニちゃんの経営戦略は、ほんとにすごいね。こんなに人が集まるなんて思わなかったよ!」
「見たことない変な食べ物は、一度味見させるに限るからね」
隣のミーシャを見ると、長時間に渡る竜巻のコントロールに集中していて、真剣な顔をしている。
「ミーシャちゃん、疲れない? 大丈夫?」
「うん。アレキ様の訓練で、だいぶ慣れたよ」
会話をしているうちに、目前にアレキが立っていた。
オペラグラスを片手に、まるで観劇にでも行くようなお洒落をしている。どうやら遠くから観察していたが、我慢できずに近づいて来たようだった。
「わたあめひとつくださいな」
言いながら、ミーシャが立派に風使いとして活躍している姿を見て、うるうると瞳を青く潤ませていた。
「ミーシャァァ! 立派なわたあめ職人になって!!」
感極まってミーシャに抱きついて、ミーシャは竜巻のコントロールを失った。
「ちょっ! アレキ様!?」
わたあめを乗せた竜巻は空中に飛び出して、天高く高速回転した後に風は霧散し、わたあめがちりぢりと、広場の空から降ってきた。
観客達はまるで雲が落ちてきたような景色に盛り上がって、宙に手を伸ばして、わたあめを掴んで食べ出した。
「も~! 邪魔しないでくださいよ!」
「あっはっは! でもみんな楽しそうだぞ」
アレキの言うとおり、みんなはパフォーマンスの一環だと思っているようで、大人も子供も目を輝かせて、雲掴みの遊びに興じている。その光景はまるで輪になって踊っているように見えて、リコは胸がギュッとなっていた。
「これは……お祭りだよ! わたあめ食べて、盆踊りだ!!」
また意味不明な事を叫んでいるリコを、マニは笑っている。
「みんなで雲を踊り食いするなんて、とんだ奇祭だね」
人だかりが囲んでいる真ん中には、リコプリンのテントがあるが、今日はプリンを売っていない。看板にはこう書かれている。
『わたあめパーティー』
「今日はみんなで試食会だよ! わたあめ食べてってね!」
マニは元気に、籠から取り出した木の棒を広場のみんなに配っている。棒の先には、小さなわたあめが付いている。
見学する人々は我先にとわたあめを受け取って、歓声を上げながら口に含んで楽しんでいた。そうしてふわふわの優しい甘さを味わいながら、テントで行われている「わたあめショー」に魅入っている。
アレキが特注で手配した特大の中華鍋のような鉄板には、ミーシャの竜巻が立ち、溶かされた砂糖が雲のように回転する。
見たことのない不思議な風景に、人々は夢中になっていた。
リコはわたあめの竜巻からクルクルと木の枝でわたあめを巻き取って、小さなわたあめを大量に作っている。
作っても作っても足りないほどに、観客が大勢集まっていた。
マニは小声でほくそ笑む。
「初回はタダで配るけど、次回はおっきなわたあめを売りまくるからね。大人気間違いなしだよ」
リコはマニの籠にミニわたあめを足しながら、笑った。
「マニちゃんの経営戦略は、ほんとにすごいね。こんなに人が集まるなんて思わなかったよ!」
「見たことない変な食べ物は、一度味見させるに限るからね」
隣のミーシャを見ると、長時間に渡る竜巻のコントロールに集中していて、真剣な顔をしている。
「ミーシャちゃん、疲れない? 大丈夫?」
「うん。アレキ様の訓練で、だいぶ慣れたよ」
会話をしているうちに、目前にアレキが立っていた。
オペラグラスを片手に、まるで観劇にでも行くようなお洒落をしている。どうやら遠くから観察していたが、我慢できずに近づいて来たようだった。
「わたあめひとつくださいな」
言いながら、ミーシャが立派に風使いとして活躍している姿を見て、うるうると瞳を青く潤ませていた。
「ミーシャァァ! 立派なわたあめ職人になって!!」
感極まってミーシャに抱きついて、ミーシャは竜巻のコントロールを失った。
「ちょっ! アレキ様!?」
わたあめを乗せた竜巻は空中に飛び出して、天高く高速回転した後に風は霧散し、わたあめがちりぢりと、広場の空から降ってきた。
観客達はまるで雲が落ちてきたような景色に盛り上がって、宙に手を伸ばして、わたあめを掴んで食べ出した。
「も~! 邪魔しないでくださいよ!」
「あっはっは! でもみんな楽しそうだぞ」
アレキの言うとおり、みんなはパフォーマンスの一環だと思っているようで、大人も子供も目を輝かせて、雲掴みの遊びに興じている。その光景はまるで輪になって踊っているように見えて、リコは胸がギュッとなっていた。
「これは……お祭りだよ! わたあめ食べて、盆踊りだ!!」
また意味不明な事を叫んでいるリコを、マニは笑っている。
「みんなで雲を踊り食いするなんて、とんだ奇祭だね」
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