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第三章 幽閉塔の姫君編
15 エルド護衛長の気持ち
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レオは採れたての新鮮な魚介類に、ふんだんにハーブを使って作ったアクアパッツァを皿によそって、綺麗なトレイの上に、カトラリーと一緒に用意した。姫は瞳を輝かせて、満面の笑顔になった。
「美味しそう! 豪華だわ!」
昨晩のサバイブ飯はもう飽きたのか、幸せそうにアクアパッツァを食べている。
その間に、レオは昨日空から落ちてきた、巨大な椰子の実を斧で叩いて、ココナッツジュースをグラスに注ぎ、食後のデザートに持ってきた。
「これがココナッツジュース? 初めて飲むわ!」
笑顔でジュースを飲むレベッカ姫は可愛らしく、レオも笑顔になる。
「姫様。エルド護衛長にも、ココナッツをお土産に持って帰りましょう。姫様を心配して待っていますよ」
姫はハッとして、俯く。
「……心配してればいいわ。どうせ放っておいても帰ってくると、タカを括ってるんだから」
「え?」
姫は毅然とした顔で、啖呵を切る。
「レオがこんなに完璧にお世話してくれるんですもの。私、ずっとここにいてもいいわ! エルドは心配して、後悔すればいいのよ!」
レオはガーン、と衝撃を受けた。快適さが仇となって、姫は意固地になれる理由を見つけていた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 姫はエルド護衛長に会いたくないんですか!?」
「どうせ会ったって……エルドは私の気持ちなんか、わからないもの!」
レベッカはポロポロと涙を溢して、泣き出していた。
「姫……」
レオは慌ててハンカチを出して、姫の隣に座った。
「エルドはずっと、私の気持ちを無視してる。仕事で護衛をしてるだけだって、言いたいのでしょう。私の気持ちより、立場を優先して!」
「ち、違いますよ。エルド護衛長は、ご自分の気持ちを隠しているだけです」
「どうしてわかるの!?」
「僕が、エルド護衛長とそっくりだからです」
姫は涙まみれの顔でレオを見上げた。
「僕にも好きな人がいて、恋をしています。ゾッコンなんです。だから、エルド護衛長の気持ちがわかってしまう。貴方様が可愛くて、仕方がないのですよ」
姫は真っ赤になっていた。
「本当に?」
「エルド護衛長は、ニヤけた顔を見せないでしょう?」
「そんな顔、しないわ」
「僕以上に完璧すぎて、取り繕ってしまうんです。でも、僕は見ましたよ。姫様を褒めたら、ニヤけていました」
姫はプッと噴き出して、泣き笑いしている。嬉しさを隠しきれず、薔薇色の頬になっていた。
姫を何とか宥められたとレオがホッとしたその時、砂浜に大きな影が落ちた。すぐに空を見上げると、自分たちの頭上に、大きな羽を広げた翼竜型の魔獣が音もなく飛んでいた。驚きで叫ぶ間も無く、涎を垂らした魔獣は、二人に覆いかぶさるように急降下した。
レオは咄嗟に立ち上がり、目前の魔獣に向かって最大限の異次元の扉を開いた。魔獣は勢いよく顔面から突っ込むが、全身が入る大きさは無い。やむなくレオは、扉を閉じた。
バチーン!
大きな衝撃音が鳴って、魔獣の首が消えたように切断された。座ったまま硬直する姫の視界には、時が止まったように、魔獣の体が首の切断面をこちらに見せて、宙に留まっている。一瞬の後に、その巨躯は落下した。
姫はレオに首根っこを掴まれて、後ろにおもいきり転がされた。地面は直後に、魔獣の墜落で大きく揺れた。
もうもうと砂煙がたって、霞む視界の中で咳き込む姫は、ようやく悲鳴を上げた。
「レオ!!」
血飛沫を噴き上げる魔獣の下敷きとなって、倒れているレオが目に映っていた。
「美味しそう! 豪華だわ!」
昨晩のサバイブ飯はもう飽きたのか、幸せそうにアクアパッツァを食べている。
その間に、レオは昨日空から落ちてきた、巨大な椰子の実を斧で叩いて、ココナッツジュースをグラスに注ぎ、食後のデザートに持ってきた。
「これがココナッツジュース? 初めて飲むわ!」
笑顔でジュースを飲むレベッカ姫は可愛らしく、レオも笑顔になる。
「姫様。エルド護衛長にも、ココナッツをお土産に持って帰りましょう。姫様を心配して待っていますよ」
姫はハッとして、俯く。
「……心配してればいいわ。どうせ放っておいても帰ってくると、タカを括ってるんだから」
「え?」
姫は毅然とした顔で、啖呵を切る。
「レオがこんなに完璧にお世話してくれるんですもの。私、ずっとここにいてもいいわ! エルドは心配して、後悔すればいいのよ!」
レオはガーン、と衝撃を受けた。快適さが仇となって、姫は意固地になれる理由を見つけていた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 姫はエルド護衛長に会いたくないんですか!?」
「どうせ会ったって……エルドは私の気持ちなんか、わからないもの!」
レベッカはポロポロと涙を溢して、泣き出していた。
「姫……」
レオは慌ててハンカチを出して、姫の隣に座った。
「エルドはずっと、私の気持ちを無視してる。仕事で護衛をしてるだけだって、言いたいのでしょう。私の気持ちより、立場を優先して!」
「ち、違いますよ。エルド護衛長は、ご自分の気持ちを隠しているだけです」
「どうしてわかるの!?」
「僕が、エルド護衛長とそっくりだからです」
姫は涙まみれの顔でレオを見上げた。
「僕にも好きな人がいて、恋をしています。ゾッコンなんです。だから、エルド護衛長の気持ちがわかってしまう。貴方様が可愛くて、仕方がないのですよ」
姫は真っ赤になっていた。
「本当に?」
「エルド護衛長は、ニヤけた顔を見せないでしょう?」
「そんな顔、しないわ」
「僕以上に完璧すぎて、取り繕ってしまうんです。でも、僕は見ましたよ。姫様を褒めたら、ニヤけていました」
姫はプッと噴き出して、泣き笑いしている。嬉しさを隠しきれず、薔薇色の頬になっていた。
姫を何とか宥められたとレオがホッとしたその時、砂浜に大きな影が落ちた。すぐに空を見上げると、自分たちの頭上に、大きな羽を広げた翼竜型の魔獣が音もなく飛んでいた。驚きで叫ぶ間も無く、涎を垂らした魔獣は、二人に覆いかぶさるように急降下した。
レオは咄嗟に立ち上がり、目前の魔獣に向かって最大限の異次元の扉を開いた。魔獣は勢いよく顔面から突っ込むが、全身が入る大きさは無い。やむなくレオは、扉を閉じた。
バチーン!
大きな衝撃音が鳴って、魔獣の首が消えたように切断された。座ったまま硬直する姫の視界には、時が止まったように、魔獣の体が首の切断面をこちらに見せて、宙に留まっている。一瞬の後に、その巨躯は落下した。
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もうもうと砂煙がたって、霞む視界の中で咳き込む姫は、ようやく悲鳴を上げた。
「レオ!!」
血飛沫を噴き上げる魔獣の下敷きとなって、倒れているレオが目に映っていた。
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