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第三章 幽閉塔の姫君編
6 渚のサバイブ
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その頃、鳥類研究所は夕方になっていた。
リコはご機嫌顔で帰り支度をしている。
「それでね、レオ君が、王宮にまたプリンを運んでくれたんです!」
ケイト所長は和かに、リコの惚気話を聞いている。
「リコプリンちゃんは凄いわぁ。王宮の人気者じゃない!」
「でへへ」
「それにしても、リコちゃんとレオ君は可愛いカップルね。私までキュンキュンしちゃうわ」
「でへへ~っ」
リコはタコのように真っ赤な顔で、ぐだぐだになって研究所を出ていく。ケイト所長とケモ君に手を振って研究所の外に出ると、そこには白い毛長の犬。オスカールが、馬車を引いて待っていた。
「あれ? オスカール?」
珍しいお迎えだった。運転士が帽子を取って挨拶をし、馬車からアレキサンダーが降りて来た。
「お嬢さん。お仕事お疲れ様」
馬車のドアを開けているので、リコはおずおずと乗車した。
「アレキさん。お迎えありがとうございます」
リコは何だか違和感を感じていた。いつもお迎えに来るのは、レオと黒猫か、レンタル馬車に乗ったミーシャだからだ。
馬車が走り出して、アレキの前に座ったリコは自ら尋ねる前に、アレキから事情を聞かされた。
「さっきね、王宮から俺の城に使いが来たんだ」
「え?」
「レオ君は今夜、ちょっとお仕事で……」
リコは走る馬車の中で思い切り立ち上がって、即座にバランスを崩して、尻餅を着いた。
「きゃあ!」
「ちょ、走行中に立ったら危ないよ!」
アレキが慌ててリコを支える。リコの中の何かの察知レーダーが、ピコピコと鳴っていた。
「レ、レオ君、何かあったんですか!? もしかして事故とか!?」
「いやいや、違うよ! 込み入った仕事が入って、今夜は王宮に泊まるって。それだけだよ」
ホッとするリコを見下ろして、アレキはリコの妙な勘の良さにハラハラとしていた。
「多分、明日には帰ってくると思うよ」
飄々としたいつものアレキの顔をリコは確認するように見て、改めて安堵した。
「良かったぁ。じゃあ、レオ君もお姫様も、何事も無く謁見できたんですね?」
「うん。お姫様も凄く喜んでたみたいだよ」
アレキは王宮の使いから、レオとレベッカ姫が忽然と消えて、行方不明になった知らせを聞いていた。リコに嘘をついている状況に胸が痛むが、嘘が嘘であるうちに、レオが戻るのを願うしかなかった。
レオが帰宅しなかった翌朝。
休日は爽やかなお天気だった。
「ミーシャちゃん、おはよう」
「おはよう、リコ」
ミーシャの頭には、モノトーンでシックなデザインのリボンが付いている。
「ミーシャちゃん、リボンがお洒落だね!」
「昨日、アレキ様が買ってきてくれたの」
「私はついカラフルな色を選んじゃうけど、ミーシャちゃんのセンスって大人っぽくて、格好いい~」
笑顔のリコを見て、ミーシャはホッとする。
「昨日は調理の最中で手が離せなかったから、アレキ様にお迎えに行かせちゃった」
「わざわざ申し訳ないよ」
昨日の夕方に王宮の使いが来て、レオがレベッカ姫とともに行方不明になった事件はミーシャも聞いていたが、アレキと結託してリコには内緒にしていた。
まだ能力のコントロールに不慣れなリコは、情緒の不安定さから力が暴走する恐れがあるためだった。
ミーシャは平穏を装いながら、お皿を並べている。
「ねえリコ。今日はお休みでしょ?」
「うん」
「もう少ししたらマニも来ると思うから、三人でお買い物に行かない? リコスイーツのアイデアを探そうよ」
「リコスイーツ!?」
ミーシャはリコの正面に座る。
「プリンは大人気だけど、リコブランドとしては、そろそろ新しいスイーツ商品が出てもいい。って、マニが言ってた」
「へ~、マニちゃんは商人の才能があるな」
後ろから、寝起きのアレキがやって来た。
リコは立ち上がって、アレキにお茶を淹れた。
「アレキさん、おはようございます。あの、朝になっても、レオ君がまだ帰らないんです。今日は休日なのに……」
「ん? あ、あそう? よっぽど忙しいんだなぁ」
ミーシャは焦って、スイーツ開発に話を戻した。
「新しいリコスイーツを考案して、レオ君を驚かそうよ」
リコはピョコン、と背筋を伸ばす。
「いいね、それ! レオ君に新しいスイーツを食べてもらいたい!」
急に前向きになってウキウキする様子に、ミーシャとアレキは胸を撫で下ろした。
リコはご機嫌顔で帰り支度をしている。
「それでね、レオ君が、王宮にまたプリンを運んでくれたんです!」
ケイト所長は和かに、リコの惚気話を聞いている。
「リコプリンちゃんは凄いわぁ。王宮の人気者じゃない!」
「でへへ」
「それにしても、リコちゃんとレオ君は可愛いカップルね。私までキュンキュンしちゃうわ」
「でへへ~っ」
リコはタコのように真っ赤な顔で、ぐだぐだになって研究所を出ていく。ケイト所長とケモ君に手を振って研究所の外に出ると、そこには白い毛長の犬。オスカールが、馬車を引いて待っていた。
「あれ? オスカール?」
珍しいお迎えだった。運転士が帽子を取って挨拶をし、馬車からアレキサンダーが降りて来た。
「お嬢さん。お仕事お疲れ様」
馬車のドアを開けているので、リコはおずおずと乗車した。
「アレキさん。お迎えありがとうございます」
リコは何だか違和感を感じていた。いつもお迎えに来るのは、レオと黒猫か、レンタル馬車に乗ったミーシャだからだ。
馬車が走り出して、アレキの前に座ったリコは自ら尋ねる前に、アレキから事情を聞かされた。
「さっきね、王宮から俺の城に使いが来たんだ」
「え?」
「レオ君は今夜、ちょっとお仕事で……」
リコは走る馬車の中で思い切り立ち上がって、即座にバランスを崩して、尻餅を着いた。
「きゃあ!」
「ちょ、走行中に立ったら危ないよ!」
アレキが慌ててリコを支える。リコの中の何かの察知レーダーが、ピコピコと鳴っていた。
「レ、レオ君、何かあったんですか!? もしかして事故とか!?」
「いやいや、違うよ! 込み入った仕事が入って、今夜は王宮に泊まるって。それだけだよ」
ホッとするリコを見下ろして、アレキはリコの妙な勘の良さにハラハラとしていた。
「多分、明日には帰ってくると思うよ」
飄々としたいつものアレキの顔をリコは確認するように見て、改めて安堵した。
「良かったぁ。じゃあ、レオ君もお姫様も、何事も無く謁見できたんですね?」
「うん。お姫様も凄く喜んでたみたいだよ」
アレキは王宮の使いから、レオとレベッカ姫が忽然と消えて、行方不明になった知らせを聞いていた。リコに嘘をついている状況に胸が痛むが、嘘が嘘であるうちに、レオが戻るのを願うしかなかった。
レオが帰宅しなかった翌朝。
休日は爽やかなお天気だった。
「ミーシャちゃん、おはよう」
「おはよう、リコ」
ミーシャの頭には、モノトーンでシックなデザインのリボンが付いている。
「ミーシャちゃん、リボンがお洒落だね!」
「昨日、アレキ様が買ってきてくれたの」
「私はついカラフルな色を選んじゃうけど、ミーシャちゃんのセンスって大人っぽくて、格好いい~」
笑顔のリコを見て、ミーシャはホッとする。
「昨日は調理の最中で手が離せなかったから、アレキ様にお迎えに行かせちゃった」
「わざわざ申し訳ないよ」
昨日の夕方に王宮の使いが来て、レオがレベッカ姫とともに行方不明になった事件はミーシャも聞いていたが、アレキと結託してリコには内緒にしていた。
まだ能力のコントロールに不慣れなリコは、情緒の不安定さから力が暴走する恐れがあるためだった。
ミーシャは平穏を装いながら、お皿を並べている。
「ねえリコ。今日はお休みでしょ?」
「うん」
「もう少ししたらマニも来ると思うから、三人でお買い物に行かない? リコスイーツのアイデアを探そうよ」
「リコスイーツ!?」
ミーシャはリコの正面に座る。
「プリンは大人気だけど、リコブランドとしては、そろそろ新しいスイーツ商品が出てもいい。って、マニが言ってた」
「へ~、マニちゃんは商人の才能があるな」
後ろから、寝起きのアレキがやって来た。
リコは立ち上がって、アレキにお茶を淹れた。
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「ん? あ、あそう? よっぽど忙しいんだなぁ」
ミーシャは焦って、スイーツ開発に話を戻した。
「新しいリコスイーツを考案して、レオ君を驚かそうよ」
リコはピョコン、と背筋を伸ばす。
「いいね、それ! レオ君に新しいスイーツを食べてもらいたい!」
急に前向きになってウキウキする様子に、ミーシャとアレキは胸を撫で下ろした。
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