上 下
83 / 110
第二章 魔獣退治編

38 三度目のキス

しおりを挟む
 謁見の時間が終わって、ノエル王子はまるでアイドルを見送るように、いつまでもバルコニーから手を振っていた。

「可愛い王子様じゃん! 素直でさ」

 マニが偉そうに評価して、ミーシャも頷いた。

「威張ってないし、感じがいいよね。私好きだな」

 王族の誉の能力の効果もあるが、ノエル王子にはそれを抜きにしても、人に好かれる要素が沢山ある。
 自分が大切に思う王子とリコと、どちらも失うことなく終わった謁見に、レオは心から安堵していた。

 馬車の中でも相変わらずくっついているレオとリコに、マニはどストレートに聞いていた。

「ね~、なんか空気が違うんだけど。キッスとかした?」

 リコが真っ赤になって、ミーシャが「めっ」とマニを諫めた。

「そういうのは、女子会でじっくり聞くことでしょ?」
「あ、そっか」

 レオは焦る。

「ちょ、ちょっと! 女子会でいったい、何を話してるんです!?」

 自分の恥部が筒抜けになっているのではないかとムキになるレオを、リコはお腹を抱えて笑っていた。


 * * * *


 その日の夜。

 リコの部屋のテーブルで、リコとレオは並んで紙を広げている。
 リコはアレキに筆記具を借りて、紙いっぱいに絵を描いていた。

「これが私、莉子ね。それでこれが、友達の結花と、芝犬の麦太君」

 子供の絵のように簡単な造形だが、髪型や制服がわかりやすく描かれていて、レオは興味を持って、異世界をひとつずつ眺めている。

「こうして絵に描くと、私がいた世界がよくわかるね。ほら、これが学校。私のお家。お父さん、お母さん……」

 自宅と両親の顔を描いたところで、思わず涙がこみ上げていた。

「私の部屋……ぬいぐるみがいっぱいなの。ピンクと水色のカーテンだよ。お母さんのご飯は美味しくてね……」

 笑顔に溢れる涙を見て、レオはリコの頭をそっと抱き寄せた。

「幸せな世界ですね。リコさんがリコさんらしくここに存在するのは、全部この世界のおかげですね」
「うん……私はもとの世界でもドジで、食いしん坊で、おやつのことばっか考えて……みんなに見守られてたんだ」
「僕は皆さんにお礼を言わないと。ご両親にも、結花さんにも、麦太君にも」

 レオに自分の世界を知ってもらえて、リコはよりレオと親密になれた気持ちになっていた。
 レオはリコが描いた莉子の絵を、手に取って掲げている。

「黒髪で二つ結びの莉子さんかぁ。可愛いなぁ~」

 リコを振り向いて、マジマジと顔を眺めている。

「僕はラッキーですね。二人のリコさんを知っているなんて」
「私だって、二人のレオ君を知ってるよ」
「え?」
「頼れる紳士のレオ君と、やきもち焼きで妄想家のレオ君」

 レオは真っ赤になっていた。

「も、妄想家?」

 リコは噴き出して、またお腹を抱えて笑っている。

「妄想家って、どういう事です!?」
「心配して、いろんな想像しちゃうとこだよ」

 レオはリコに隠したい部分までバレてしまっているのが恥ずかしくて、紙で顔を隠している。

「格好いいレオ君と、可愛いレオ君。どっちも大好きだから、私はラッキーなの」

 耳元でリコが優しく囁いて、レオは全身の細胞が上せるように、ざわめいていた。

「全細胞がお祭り状態って……このことですか」
「そうだよ。ワッショイ、ってなるの」
「あははっ」
「うふふ」

 二人は見つめ合って、三度目のキスをした。
 プリンよりも甘い甘い、恋の味だった。



 第二章 おわり
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...