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第二章 魔獣退治編
32 新たなる異世界
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国王軍の宿舎に到着すると、レオは受付でダリアの部屋番号を聞いて、廊下を走った。
ドアをノックすると、いつものように軍服を着崩したダリアが出てきた。部屋は旅立ちの用意の最中だった。
「レオ君じゃない」
意外という顔で迎える。
「あの、ダリアさんにお礼を」
両手にバニラプリンとココアプリンを持っているレオの姿に、ダリアの目は光っていた。
「ああ~ん、美味しい!」
大胆な昇天顔を、レオは眺めている。
狭い部屋は散らかっていて、指図されるままに、ベッドにダリアと横並びで座っていた。
あっという間にペロリと二つのプリンを食べ終わると、ダリアは大変満足したようだった。
「ダリアさん。改めて、あの時に命を救ってくださって、ありがとうございました」
「いいわよぉ、別に。任務だもん」
ダリアはニヤリと笑って、レオの勲章を指で触った。
「立派な男になったじゃない? ウェルターが随分、興奮して君を称えていたわよ」
「光栄です」
ダリアの部屋はあの毒草の香りで満ちていたが、レオの優等生顔は変わらずで、ダリアはつまらなそうに顔を顰めた。
「で、お礼に何してくれるの?」
「プリンを……」
「バカね。今のは餞別でしょ? 助けたお礼よ」
レオが躊躇する隙に、ダリアはまた怪力を使って、レオをベッドにねじ伏せていた。両手を頭上に固定すると、制服のボタンを上からパチン、パチン、と外していく。
ダリアは愉しそうに見下ろしているが、レオは真顔のままだった。
「いいですよ……好きなだけ噛んでも。その代わり、見えない部分にしてください」
許可を得て、ダリアは興が冷めた顔をする。
「私は怯える男の子が好きなの。つまんないわね」
レオはダリアの異常な嗜好に苦笑いすると、そのまま制服の中に手を入れられて、思い切りくすぐられていた。
「えっ! わ、あはは! ちょっと、あは、やめてくださ……あははは!」
しつこくくすぐられて、懇願してもやめてくれず、最後は泣き笑いになって、ようやくダリアは解放してくれた。
レオは床に手をついて、ぜえぜえと呼吸している。髪も服も乱れて涙にまみれていた。
「な、何するんですか!」
「きゃはは! 取り繕った男に興味無いのよ! あ~、最高の泣き顔!」
腹の底から楽しそうに笑っている。
シエナとはまた違った豪胆さに度肝を抜かれて、レオは猛者が集まる宿舎から、逃げるように帰って行った。
* * * *
「ただいま……」
体力を消耗するお見舞いと見送りを終えて、レオは金ピカ城に帰って来た。
誰も出迎えに来ないのでリビングを覗くが、無人だ。どうやらキッチンに皆集まっているようだった。楽しげな騒ぎ声が聞こえる。
キッチンを覗くと、そこには大きな玉ねぎ、人参、それに干物のコドラゴンが……。
「あっ!? バッツ!?」
三人娘に囲まれて、エプロンを付けたバッツが鍋を持っていた。
「レオさん! おかえりなさい!」
むさ苦しいお迎えの挨拶に、レオは唖然とした。
「な、なんでお前が城にいるんだよ!」
バッツは鍋を置いて急いでレオに駆け寄ると、流れるように土下座した。
「すんません! 俺なんかがお城にお邪魔しちゃって!」
「ちょっ……どういうこと!?」
キッチンを見ると、リコとマニ、ミーシャが苦笑いしている。
「あのね、バッツ君は見習いに来たの」
「炒飯のね」
「中華だよ」
意味のわからない言葉が三人から続いて、レオは混乱する。
「まさかまた、リコさんの弟子になろうだなんて……」
怒りが再燃しそうなレオの後ろに、アレキがやって来た。
「バッツ君、料理人を目指すんだって。中華の」
「だから中華って、何なんです?」
「火力を活かした料理なら炒飯がいいって、リコちゃんが」
レオがリコの方を見ると、リコは肩をすくめている。
「バッツ君がコドラゴンが売れないって困ってたから、コドラゴンを使った料理をお城で一緒に研究しよう、ってなったの」
レオはバッツの見舞いにリコを行かせたことを後悔していた。
足元にすがっているバッツを見下ろすと、拝むように涙ぐんでいるので、レオは諦めたように溜息を吐いた。
「炒飯できたら……帰れよ」
「は、はい! 勿論です!」
引き続きキッチンの炒飯道に戻るバッツと三人娘は楽しげで、レオは不機嫌な顔でリビングのソファに座った。
アレキは酒を注いで、コドラゴンを齧っていた。
「固っ! 何これ、岩なの? 俺の大事な歯が欠けちゃうよ~」
医療室でのシリアスは遠いどこかへ行ってしまって、アレキは日常に戻っていた。
「あんな奴を、城に入れないでくださいよ」
レオのぶすくれに、アレキは笑う。
「妬くな妬くな。バッツ君はお前のこと、命の恩人だって崇めてるんだぞ?」
「あいつが頑丈なだけでしょ。一回死んだのにピンピンしてるし」
「頭縫っただけで済んで、奇跡だったな」
「尾の衝撃を一番受けたのはシエナさんだったみたいで。バッツは一番後ろにいたから、尾の先が頭に当たったんでしょうね」
「どちらにせよ、生きているのは奇跡だよ」
アレキの微笑みに、レオは頷いた。
「は~い、おまたせしました~」
リコが中華屋さん風に、大皿に盛った炒飯を運んで来た。
マニとミーシャもスプーンや冷水を持って、バッツはスープを運んできた。
「ひゃっほ~、待ってました!」
アレキがはしゃいで、みんな席に着く。
食欲を唆る良い香りがリビングに満ちて、レオのお腹も鳴っていた。
リコはまた、フンス、と鼻息荒く興奮している。
「ハーブ屋さんで、胡麻とかお醤油とか、中華風の香りを選んで調合しました! コドラゴンをチャーシュー代わりに、ご飯は小麦を細かく加工した、クスクスです!」
説明の半分が呪文のようで訳がわからないが、それぞれが器によそった。刻んだ玉ねぎと人参がご飯に均等に混ざっていて、ニンニクとコドラゴンのチャーシューが香ばしく効いている。ふわっとした卵がそれらをまとめて、熱々の湯気がたっていた。
「いただきまーす!」
「んっ」「うまいっ!」
バッツは感激してリコを振り返った。
「リコさんはやっぱり、天才っす!」
「でへへ」
瞳を輝かせて食べているレオを、リコは嬉しそうに見上げた。
「レオ君、美味しい?」
「美味しいです! こんな味や食感、食べたことが無い」
「異世界に、行っちゃった?」
「はい! 完全に」
炒飯を手に見つめ合う二人に、マニは呆れている。
「そこ、意味わかんないイチャつきやめてくれる?」
ミーシャが吹き出して笑っている。
一人も血が繋がらない不思議な家族の食卓は、幸せで溢れていた。
炒飯という、新たなる異世界で……。
ドアをノックすると、いつものように軍服を着崩したダリアが出てきた。部屋は旅立ちの用意の最中だった。
「レオ君じゃない」
意外という顔で迎える。
「あの、ダリアさんにお礼を」
両手にバニラプリンとココアプリンを持っているレオの姿に、ダリアの目は光っていた。
「ああ~ん、美味しい!」
大胆な昇天顔を、レオは眺めている。
狭い部屋は散らかっていて、指図されるままに、ベッドにダリアと横並びで座っていた。
あっという間にペロリと二つのプリンを食べ終わると、ダリアは大変満足したようだった。
「ダリアさん。改めて、あの時に命を救ってくださって、ありがとうございました」
「いいわよぉ、別に。任務だもん」
ダリアはニヤリと笑って、レオの勲章を指で触った。
「立派な男になったじゃない? ウェルターが随分、興奮して君を称えていたわよ」
「光栄です」
ダリアの部屋はあの毒草の香りで満ちていたが、レオの優等生顔は変わらずで、ダリアはつまらなそうに顔を顰めた。
「で、お礼に何してくれるの?」
「プリンを……」
「バカね。今のは餞別でしょ? 助けたお礼よ」
レオが躊躇する隙に、ダリアはまた怪力を使って、レオをベッドにねじ伏せていた。両手を頭上に固定すると、制服のボタンを上からパチン、パチン、と外していく。
ダリアは愉しそうに見下ろしているが、レオは真顔のままだった。
「いいですよ……好きなだけ噛んでも。その代わり、見えない部分にしてください」
許可を得て、ダリアは興が冷めた顔をする。
「私は怯える男の子が好きなの。つまんないわね」
レオはダリアの異常な嗜好に苦笑いすると、そのまま制服の中に手を入れられて、思い切りくすぐられていた。
「えっ! わ、あはは! ちょっと、あは、やめてくださ……あははは!」
しつこくくすぐられて、懇願してもやめてくれず、最後は泣き笑いになって、ようやくダリアは解放してくれた。
レオは床に手をついて、ぜえぜえと呼吸している。髪も服も乱れて涙にまみれていた。
「な、何するんですか!」
「きゃはは! 取り繕った男に興味無いのよ! あ~、最高の泣き顔!」
腹の底から楽しそうに笑っている。
シエナとはまた違った豪胆さに度肝を抜かれて、レオは猛者が集まる宿舎から、逃げるように帰って行った。
* * * *
「ただいま……」
体力を消耗するお見舞いと見送りを終えて、レオは金ピカ城に帰って来た。
誰も出迎えに来ないのでリビングを覗くが、無人だ。どうやらキッチンに皆集まっているようだった。楽しげな騒ぎ声が聞こえる。
キッチンを覗くと、そこには大きな玉ねぎ、人参、それに干物のコドラゴンが……。
「あっ!? バッツ!?」
三人娘に囲まれて、エプロンを付けたバッツが鍋を持っていた。
「レオさん! おかえりなさい!」
むさ苦しいお迎えの挨拶に、レオは唖然とした。
「な、なんでお前が城にいるんだよ!」
バッツは鍋を置いて急いでレオに駆け寄ると、流れるように土下座した。
「すんません! 俺なんかがお城にお邪魔しちゃって!」
「ちょっ……どういうこと!?」
キッチンを見ると、リコとマニ、ミーシャが苦笑いしている。
「あのね、バッツ君は見習いに来たの」
「炒飯のね」
「中華だよ」
意味のわからない言葉が三人から続いて、レオは混乱する。
「まさかまた、リコさんの弟子になろうだなんて……」
怒りが再燃しそうなレオの後ろに、アレキがやって来た。
「バッツ君、料理人を目指すんだって。中華の」
「だから中華って、何なんです?」
「火力を活かした料理なら炒飯がいいって、リコちゃんが」
レオがリコの方を見ると、リコは肩をすくめている。
「バッツ君がコドラゴンが売れないって困ってたから、コドラゴンを使った料理をお城で一緒に研究しよう、ってなったの」
レオはバッツの見舞いにリコを行かせたことを後悔していた。
足元にすがっているバッツを見下ろすと、拝むように涙ぐんでいるので、レオは諦めたように溜息を吐いた。
「炒飯できたら……帰れよ」
「は、はい! 勿論です!」
引き続きキッチンの炒飯道に戻るバッツと三人娘は楽しげで、レオは不機嫌な顔でリビングのソファに座った。
アレキは酒を注いで、コドラゴンを齧っていた。
「固っ! 何これ、岩なの? 俺の大事な歯が欠けちゃうよ~」
医療室でのシリアスは遠いどこかへ行ってしまって、アレキは日常に戻っていた。
「あんな奴を、城に入れないでくださいよ」
レオのぶすくれに、アレキは笑う。
「妬くな妬くな。バッツ君はお前のこと、命の恩人だって崇めてるんだぞ?」
「あいつが頑丈なだけでしょ。一回死んだのにピンピンしてるし」
「頭縫っただけで済んで、奇跡だったな」
「尾の衝撃を一番受けたのはシエナさんだったみたいで。バッツは一番後ろにいたから、尾の先が頭に当たったんでしょうね」
「どちらにせよ、生きているのは奇跡だよ」
アレキの微笑みに、レオは頷いた。
「は~い、おまたせしました~」
リコが中華屋さん風に、大皿に盛った炒飯を運んで来た。
マニとミーシャもスプーンや冷水を持って、バッツはスープを運んできた。
「ひゃっほ~、待ってました!」
アレキがはしゃいで、みんな席に着く。
食欲を唆る良い香りがリビングに満ちて、レオのお腹も鳴っていた。
リコはまた、フンス、と鼻息荒く興奮している。
「ハーブ屋さんで、胡麻とかお醤油とか、中華風の香りを選んで調合しました! コドラゴンをチャーシュー代わりに、ご飯は小麦を細かく加工した、クスクスです!」
説明の半分が呪文のようで訳がわからないが、それぞれが器によそった。刻んだ玉ねぎと人参がご飯に均等に混ざっていて、ニンニクとコドラゴンのチャーシューが香ばしく効いている。ふわっとした卵がそれらをまとめて、熱々の湯気がたっていた。
「いただきまーす!」
「んっ」「うまいっ!」
バッツは感激してリコを振り返った。
「リコさんはやっぱり、天才っす!」
「でへへ」
瞳を輝かせて食べているレオを、リコは嬉しそうに見上げた。
「レオ君、美味しい?」
「美味しいです! こんな味や食感、食べたことが無い」
「異世界に、行っちゃった?」
「はい! 完全に」
炒飯を手に見つめ合う二人に、マニは呆れている。
「そこ、意味わかんないイチャつきやめてくれる?」
ミーシャが吹き出して笑っている。
一人も血が繋がらない不思議な家族の食卓は、幸せで溢れていた。
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