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第二章 魔獣退治編
21 熱々シャーベット
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夕暮れの訓練所で。レオとバッツは離れた場所に座っている。
どちらも騎乗の訓練を終えて疲れているが、特にバッツは怪我だらけになって倒れていた。
「何なんですか、あのトカゲは……何で俺を振り落とすんですか」
「舐められてるんだよ」
レオの冷たい返事に、バッツは涙目で起き上がる。
「俺、旅費を借金したんです。退治に成功しないと大赤字なのに、乗りこなせる気がしないっす」
レオは泣き言をシカトしたまま立ち上がって、帰ろうとする。
「レオ先輩!」
「僕が何でお前の先輩なんだ?」
「だって……軍人歴長いんでしょ?」
「僕は軍人じゃない。配達員だ」
「え?」
「能力者だから駆り出されただけだ」
「じゃ、じゃあ、いったい何の能力なんです?」
レオはダリアに騙されて、能力のすべてを明かしたトラウマが蘇った。バッツを見下ろすと、こちらを見つめる瞳が好奇心で輝いていて、苛立ちが余計に強くなっていた。
「人体を切断する力だよ」
レオの真顔の答えに、バッツは全身が恐怖で強張った。
レオは恐ろしい言葉を残したまま、去ってしまった。
後ろから班長のシエナがやって来た。
「おい新人、今日は解散だ。帰っていいぞ」
「シ、シエナ班長。今のは本当ですか? レオ先輩の能力は人体を切断するって……」
「ああ。だいぶ端折っているが、結果そうなることもあるらしいな。お前がちゃんと訓練に付いてくれば、そのうち能力の全貌を明かしてくれるだろう」
バッツは嘘ではなかった事実に体が震えていた。
シエナは去りながら、バッツを振り返る。
「レオに火を当てるなよ? バラバラにされてしまうぞ」
面白く無い冗談を愉しそうに披露して、行ってしまった。
「ひ、ひいぃ……」
バッツは金と名誉に釣られて、恐ろしい職場に来てしまったのだと後悔していた。
* * * *
レオは金ピカ城の扉の前で、深呼吸をしている。
昨日に続いて今日一日、不愉快な事ばかりで、自分でも苛立ちが顔に出ているのがわかっていた。
「こんな顔でリコさんに会えない。笑顔、笑顔……」
無理に笑う準備をすると、そっと扉を開ける。
リビングの向こう側で、リコとミーシャがはしゃいでる明るい声が聞こえて、レオは心からホッとした。リコに元気が戻っている。それだけで救われた気分だった。
リビングのドアを開けると、目の前にリコが立っていた。
「おかえり! レオ君!」
「ただいま、リコさん」
リコは手にシャーベットが入ったボウルを持っている。どうやらスイーツ作りに成功して、機嫌が良いようだった。
「レオ君、来て来て!」
リコは待ちきれないようにレオの手を引っ張ると、キッチンに連れて行き、金庫の冷蔵庫を見せた。
「ジャーン! 冷蔵庫! アレキさんが金庫をキッチンに設置してくれたんだよ。大成功なの!」
シャーベットをスプーンですくうと、レオの口元に差し出した。
「はい、あーん」
「あーん」
なすがままになってシャーベットを口に含むと、桃と、葡萄と、苺と……果物の味が冷たくミックスされていた。舌の上で溶けてジュースになる過程が、甘くて爽やかで透き通っている。
「美味しい……気持ちが澄んでいくみたいです」
レオは正直な感想を述べた。
リコは心配そうな顔で見上げている。
「レオ君。軍の人に、いじめられてるの?」
「いいえ……いじめっこは僕です」
「レオ君がいじめっこなわけないよ!」
「僕はリコさんの事になると、冷静さを失ってしまう。新人で入って来たバッツ君に嫉妬心から意地悪をしてしまいました」
リコは驚いて大声を出した。
「バッツ君が訓練に来たの!?」
「チームメイトになりました」
「う、嘘……」
リコは屋台での一触即発を思い出して、青ざめている。
レオは一呼吸置くと、少し照れて瞳を逸らした。
「明日はもう少し優しくできるように……おまじないをしてもいいですか?」
リコはキョトンとした後、楽しそうに笑う。
「おまじない? いいよ! どんな……」
言葉の途中でレオはリコの右頬にキスをして、瞳を見つめた後、左頬にもキスをして、そのまま優しく抱きしめた。
レオの胸の中に収まるリコは、予想外のおまじないに頭が沸騰していた。
「これで大丈夫。完璧です」
「う、うん!」
二人の間に挟まれたボウルの中のシャーベットは、恋の熱で透き通って甘く溶けていった。
どちらも騎乗の訓練を終えて疲れているが、特にバッツは怪我だらけになって倒れていた。
「何なんですか、あのトカゲは……何で俺を振り落とすんですか」
「舐められてるんだよ」
レオの冷たい返事に、バッツは涙目で起き上がる。
「俺、旅費を借金したんです。退治に成功しないと大赤字なのに、乗りこなせる気がしないっす」
レオは泣き言をシカトしたまま立ち上がって、帰ろうとする。
「レオ先輩!」
「僕が何でお前の先輩なんだ?」
「だって……軍人歴長いんでしょ?」
「僕は軍人じゃない。配達員だ」
「え?」
「能力者だから駆り出されただけだ」
「じゃ、じゃあ、いったい何の能力なんです?」
レオはダリアに騙されて、能力のすべてを明かしたトラウマが蘇った。バッツを見下ろすと、こちらを見つめる瞳が好奇心で輝いていて、苛立ちが余計に強くなっていた。
「人体を切断する力だよ」
レオの真顔の答えに、バッツは全身が恐怖で強張った。
レオは恐ろしい言葉を残したまま、去ってしまった。
後ろから班長のシエナがやって来た。
「おい新人、今日は解散だ。帰っていいぞ」
「シ、シエナ班長。今のは本当ですか? レオ先輩の能力は人体を切断するって……」
「ああ。だいぶ端折っているが、結果そうなることもあるらしいな。お前がちゃんと訓練に付いてくれば、そのうち能力の全貌を明かしてくれるだろう」
バッツは嘘ではなかった事実に体が震えていた。
シエナは去りながら、バッツを振り返る。
「レオに火を当てるなよ? バラバラにされてしまうぞ」
面白く無い冗談を愉しそうに披露して、行ってしまった。
「ひ、ひいぃ……」
バッツは金と名誉に釣られて、恐ろしい職場に来てしまったのだと後悔していた。
* * * *
レオは金ピカ城の扉の前で、深呼吸をしている。
昨日に続いて今日一日、不愉快な事ばかりで、自分でも苛立ちが顔に出ているのがわかっていた。
「こんな顔でリコさんに会えない。笑顔、笑顔……」
無理に笑う準備をすると、そっと扉を開ける。
リビングの向こう側で、リコとミーシャがはしゃいでる明るい声が聞こえて、レオは心からホッとした。リコに元気が戻っている。それだけで救われた気分だった。
リビングのドアを開けると、目の前にリコが立っていた。
「おかえり! レオ君!」
「ただいま、リコさん」
リコは手にシャーベットが入ったボウルを持っている。どうやらスイーツ作りに成功して、機嫌が良いようだった。
「レオ君、来て来て!」
リコは待ちきれないようにレオの手を引っ張ると、キッチンに連れて行き、金庫の冷蔵庫を見せた。
「ジャーン! 冷蔵庫! アレキさんが金庫をキッチンに設置してくれたんだよ。大成功なの!」
シャーベットをスプーンですくうと、レオの口元に差し出した。
「はい、あーん」
「あーん」
なすがままになってシャーベットを口に含むと、桃と、葡萄と、苺と……果物の味が冷たくミックスされていた。舌の上で溶けてジュースになる過程が、甘くて爽やかで透き通っている。
「美味しい……気持ちが澄んでいくみたいです」
レオは正直な感想を述べた。
リコは心配そうな顔で見上げている。
「レオ君。軍の人に、いじめられてるの?」
「いいえ……いじめっこは僕です」
「レオ君がいじめっこなわけないよ!」
「僕はリコさんの事になると、冷静さを失ってしまう。新人で入って来たバッツ君に嫉妬心から意地悪をしてしまいました」
リコは驚いて大声を出した。
「バッツ君が訓練に来たの!?」
「チームメイトになりました」
「う、嘘……」
リコは屋台での一触即発を思い出して、青ざめている。
レオは一呼吸置くと、少し照れて瞳を逸らした。
「明日はもう少し優しくできるように……おまじないをしてもいいですか?」
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