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第二章 魔獣退治編
19 瞬間冷凍庫
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驚いたリコは慌てて立ち上がってレオに抱きついた。
その氷は物凄い速さで壁、床、カーテン、と凍らせていく。リコとレオの服も凍っていって、リコはパニックになっていた。
「な、何で!? 私何もしてないのに! 怖い!」
「大丈夫、落ち着いて!」
感情の昂りで能力が暴走しているのを理解して、レオは内心焦りつつも平静を装った。
氷の広がりはとうとう天井まで覆い、大きなシャンデリアが凍る。レオが見上げた瞬間に、それは落下していた。
リコの頭上にすぐに異次元の扉を現すと、落下するシャンデリアをスッポリと受け止め、レオは何事も無かったように扉を閉じた。
「リコさん、大丈夫ですよ。ちょっとビックリして、力が出ちゃっただけですから」
白い息を吐きながらリコを強く抱きしめて、昂りが収まるのを待った。
ガタガタ震えるリコはレオが取り乱さない様子に安心して、だんだんと冷静さを取り戻していた。
氷の暴走は減速し、やがて室内は冷凍庫のような状態で止まった。
「わ、私……」
「大丈夫。見なくていいですから」
自分の胸にリコを抱いたままそっとドアに向かって移動すると、廊下に出た。冷えた体に急激に温度が戻ってきた。
廊下には、異常な冷気を感じて様子を見に来たアレキとミーシャが、真っ青な顔で壁にへばりついている。
レオは無言のまま目配せをして、自室にリコを連れていった。
タオル、毛布、ミニストーブ、湯たんぽに、温かい紅茶。ありとあらゆる体を温める道具を出しまくって、レオはリコを毛布にくるんだまま、自分のベッドの上で抱きしめ続けていた。
真っ白だった指先と頬に赤みが戻って、髪や睫毛の氷が溶けていく。
「レオ君……ごめんね」
「謝るのは僕ですよ。僕のせいで混乱させてしまいました」
リコは首を振る。
「私、自分の力で自分がやられちゃう」
凍傷になりかけてショックを受けていた。
「能力が発現したばかりの頃は、誰だってそうです」
「本当?」
「ええ。僕だっていっぱい失敗して、コントロールするのに何年もかかりました」
「レオ君は最初から完璧な気がしてた」
「そんなわけないですよ。リコさんに幻滅されないように、失敗を隠しているだけです」
リコは喋るうちに、だんだんと元気を取り戻していた。
「お部屋が冷凍庫になっちゃった。どうしよう」
「大丈夫。明日には溶けますから。今日はこのまま、ここで眠ってください」
そう言われてリコは照れるが、レオの温度が恋しくて、そのまま胸の中で目を瞑った。
夢の中でエリーナに会ってこの力のコントロールの術を聞きたかったが、リコは抱擁の中で深い眠りに落ちて、エリーナと会うことは叶わなかった。
* * * *
翌朝、リコは深々と頭を下げた。
「アレキさん。お部屋をあんなにしてしまって、ごめんなさい」
アレキはテンパっていた。
「いや、いいのいいの! リコちゃんは悪く無いよ、全部あいつが悪いんだから!」
ミーシャも頷いて、自身の失敗談を告白した。
「私だって、子供の頃に家中の物を全部割っちゃって、めちゃめちゃにしたことあるよ」
「お、俺だって、洗脳に失敗して、おっさんにしこたまぶん殴られたことあるって!」
二人の暴露にリコは思わず笑いそうになるが、部屋の惨状に心から凹んでいた。
「あんなに可愛いかったお部屋が……」
昨晩の氷は溶けたが、すべてが水浸しになっていた。
「平気だよ。午後からお掃除と工事の人が来るから、すぐ元通りになるからね」
アレキはリコと一緒に部屋を見回した。
「いやあ、それにしても大したもんだ。リコちゃんの力はスイーツを冷やすだけだと思ったが、案外、強い力を秘めてるんだな」
「私、自分もレオ君も凍ってしまいそうになって、怖くなりました」
「この力がコントロールできたら、悪党を氷漬けにできるぞ」
怖い力の使い方に、リコは苦笑いする。
アレキはリコの左手を手に取った。
「しかもリコちゃんの手は、まだ右手しか解放されてないんだよ」
リコは左手にまだ石の枷が付いていることを、すっかり忘れていた。
「左手が解放されたら、何かが変わるんですか?」
アレキはそれには答えず、ミーシャを振り返った。
「ミーシャは片手だけだと、どうなる?」
「半分の風しか出ませんね。基本、両手を使います」
「俺も。片目じゃ洗脳の威力が半分だよ」
リコは驚く。自分が力の半分しか使っていないとは、考えてもみなかった。
「そんな……それじゃあ、私の左手はずっとこのままでいいです」
制御できない自分の能力に尻込みしていた。
「少しずつ慣れればいい。枷はいつかきっと外せるから、その時に自由に力を使えるようにね」
アレキが優しく諭して、リコは頷いた。
プリンも冷蔵庫も作って救世主になるだなんて、大きな希望を抱いた途端に、リコは自身の力の不安定さに押しつぶされていた。
(しかもその理由が、嫉妬だなんて……)
能力を使ってレオを必要以上に責めてしまった結果も、リコにとっては不本意でやるせなかった。
その氷は物凄い速さで壁、床、カーテン、と凍らせていく。リコとレオの服も凍っていって、リコはパニックになっていた。
「な、何で!? 私何もしてないのに! 怖い!」
「大丈夫、落ち着いて!」
感情の昂りで能力が暴走しているのを理解して、レオは内心焦りつつも平静を装った。
氷の広がりはとうとう天井まで覆い、大きなシャンデリアが凍る。レオが見上げた瞬間に、それは落下していた。
リコの頭上にすぐに異次元の扉を現すと、落下するシャンデリアをスッポリと受け止め、レオは何事も無かったように扉を閉じた。
「リコさん、大丈夫ですよ。ちょっとビックリして、力が出ちゃっただけですから」
白い息を吐きながらリコを強く抱きしめて、昂りが収まるのを待った。
ガタガタ震えるリコはレオが取り乱さない様子に安心して、だんだんと冷静さを取り戻していた。
氷の暴走は減速し、やがて室内は冷凍庫のような状態で止まった。
「わ、私……」
「大丈夫。見なくていいですから」
自分の胸にリコを抱いたままそっとドアに向かって移動すると、廊下に出た。冷えた体に急激に温度が戻ってきた。
廊下には、異常な冷気を感じて様子を見に来たアレキとミーシャが、真っ青な顔で壁にへばりついている。
レオは無言のまま目配せをして、自室にリコを連れていった。
タオル、毛布、ミニストーブ、湯たんぽに、温かい紅茶。ありとあらゆる体を温める道具を出しまくって、レオはリコを毛布にくるんだまま、自分のベッドの上で抱きしめ続けていた。
真っ白だった指先と頬に赤みが戻って、髪や睫毛の氷が溶けていく。
「レオ君……ごめんね」
「謝るのは僕ですよ。僕のせいで混乱させてしまいました」
リコは首を振る。
「私、自分の力で自分がやられちゃう」
凍傷になりかけてショックを受けていた。
「能力が発現したばかりの頃は、誰だってそうです」
「本当?」
「ええ。僕だっていっぱい失敗して、コントロールするのに何年もかかりました」
「レオ君は最初から完璧な気がしてた」
「そんなわけないですよ。リコさんに幻滅されないように、失敗を隠しているだけです」
リコは喋るうちに、だんだんと元気を取り戻していた。
「お部屋が冷凍庫になっちゃった。どうしよう」
「大丈夫。明日には溶けますから。今日はこのまま、ここで眠ってください」
そう言われてリコは照れるが、レオの温度が恋しくて、そのまま胸の中で目を瞑った。
夢の中でエリーナに会ってこの力のコントロールの術を聞きたかったが、リコは抱擁の中で深い眠りに落ちて、エリーナと会うことは叶わなかった。
* * * *
翌朝、リコは深々と頭を下げた。
「アレキさん。お部屋をあんなにしてしまって、ごめんなさい」
アレキはテンパっていた。
「いや、いいのいいの! リコちゃんは悪く無いよ、全部あいつが悪いんだから!」
ミーシャも頷いて、自身の失敗談を告白した。
「私だって、子供の頃に家中の物を全部割っちゃって、めちゃめちゃにしたことあるよ」
「お、俺だって、洗脳に失敗して、おっさんにしこたまぶん殴られたことあるって!」
二人の暴露にリコは思わず笑いそうになるが、部屋の惨状に心から凹んでいた。
「あんなに可愛いかったお部屋が……」
昨晩の氷は溶けたが、すべてが水浸しになっていた。
「平気だよ。午後からお掃除と工事の人が来るから、すぐ元通りになるからね」
アレキはリコと一緒に部屋を見回した。
「いやあ、それにしても大したもんだ。リコちゃんの力はスイーツを冷やすだけだと思ったが、案外、強い力を秘めてるんだな」
「私、自分もレオ君も凍ってしまいそうになって、怖くなりました」
「この力がコントロールできたら、悪党を氷漬けにできるぞ」
怖い力の使い方に、リコは苦笑いする。
アレキはリコの左手を手に取った。
「しかもリコちゃんの手は、まだ右手しか解放されてないんだよ」
リコは左手にまだ石の枷が付いていることを、すっかり忘れていた。
「左手が解放されたら、何かが変わるんですか?」
アレキはそれには答えず、ミーシャを振り返った。
「ミーシャは片手だけだと、どうなる?」
「半分の風しか出ませんね。基本、両手を使います」
「俺も。片目じゃ洗脳の威力が半分だよ」
リコは驚く。自分が力の半分しか使っていないとは、考えてもみなかった。
「そんな……それじゃあ、私の左手はずっとこのままでいいです」
制御できない自分の能力に尻込みしていた。
「少しずつ慣れればいい。枷はいつかきっと外せるから、その時に自由に力を使えるようにね」
アレキが優しく諭して、リコは頷いた。
プリンも冷蔵庫も作って救世主になるだなんて、大きな希望を抱いた途端に、リコは自身の力の不安定さに押しつぶされていた。
(しかもその理由が、嫉妬だなんて……)
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