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第二章 魔獣退治編
7 猫と鱗竜
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村長の屋敷の中庭で、レオはお茶を飲んでいる。
近くで黒猫は寝転がってくつろぎ、村長はその腹を撫でている。
「なるほど……ノエル王子推薦の勇者か」
「はい。王子の我儘にはほとほと困っています」
じゃじゃ馬王子についての愚痴を、村長に漏らしていた。
「君はノエル王子のお気に入りだから、仕方あるまい。君のおかげで王子の癇癪が緩和されて、王宮の使用人達も助かっているよ」
村長に腹を撫でられている黒猫は、レオのもとに届くほど喉を鳴らしている。
「で……キーランをその戦場に連れて行きたくないんだね」
「はい。いかに巨大動物が頑丈だと言っても、キーランはあくまで配達の為に働く猫ですから……戦には向いていないと思います」
「相棒を傷つけたくないという気持ちは、よくわかるよ」
オリヴィエ村長は立ち上がった。
「戦いの場で騎乗するなら、鱗竜が相場だ。鋼のような体と機敏さ、冷血な精神を持ち合わせているから、魔獣相手でも怯まない」
「派遣をお願いできますか」
「ああ。とっておきの個体を用意しよう。だが、コントロールは難しいよ。鱗竜は能力が高いほど、気位も高いからね」
この世界の巨大動物には、二種類がある。
一つ目は、自然に生まれる巨大動物。
家畜は人間と共存し、仕事や生活を手伝ってくれる。
野生動物は遭遇した人間を襲う事もあるが、人間に狩られて捕食される場合もある。
二つ目は、大昔に能力者の手によって生まれた、魔獣。
魔獣は人造的に作られた生物で、巨大動物の力を超える頑強さと攻撃力、凶暴性を持ち、人間を食らう。人類が大陸や海を容易に横断できなくなったのは、この魔獣が主な原因とされている。
「オリヴィエ村長。魔獣はいったい、誰が何の目的で作ったのでしょうか」
今まで何度も聞かれた質問に、オリヴィエ村長は静かに首を振った。
「私が生まれるずっと前から存在した魔獣だ。いったい誰が、どんな理由でとはわからない。生み出した能力者は狂人だった、とも言われているがね」
オリヴィエ村長は大木を見上げながら続けた。
「もっとも……この世界の巨大動物や植物も、巨大化の能力を持つ能力者によって作られたのでは、と憶測されている。いつの時代も、己の思想によって世界を変えたり、人類を滅ぼす願望を持つ人間は一定数いるよ。能力者はとくに、人生を拗らせやすい」
レオは自分自身も、アレキと出会わなければ拗れた人生になっていただろうと想像し、言葉が詰まった。能力者の狂気というのも、他人事では無いのかもしれない。
村長は椅子に座ると、手元の地図を広げた。
そこには広大な森と、洞窟の場所が描かれている。
「今回、魔獣が急激に増えた原因は、あらゆる魔獣を集める巨大魔獣が、洞窟に住み着いたからだと推測されているが……。その魔獣も鳴き声や地響きの噂があるだけで、洞窟から出た姿をハッキリ見た者はいない。すべては仮定だ」
村長はレオを真っ直ぐに見つめた。
「レオ。君は類稀なる能力の持ち主だが、魔獣の巣の掃討は危険な任務になるだろう」
レオは頷いて、真剣に忠告を聞いた。
「死ぬなよ。アレキサンダーが悲しむ」
オリヴィエ村長は顔色を変えずにレオを脅して、優雅にお茶を飲んだ。
* * * *
レオが仕事を終えたリコを拾って金ピカ城に帰ると、ミーシャが心配そうに駆け寄って来た。リコの顔を見上げて、元気が戻っている様子に安心して、レオを見上げた。
「レオ君、ありがとう」
「え?」
「リコを元気にしてくれて」
ミーシャはそれだけ伝えると、走ってキッチンに戻ってしまった。
リコとレオは顔を見合わせる。
「私、夜中に泣いてたのがミーシャちゃんにバレてたのかな。恥ずかしい」
「ミーシャは繊細で優しい子ですから、人の機微に気付きやすいんですよ」
「いつかミーシャちゃんとマニちゃんにも、異世界のお話ができるといいな」
「きっと信じてくれますよ」
夜の便に出かけるために再び出かけるレオに、リコは改めてお願いをした。
「あの……魔獣退治で忙しいレオ君に、こんなことをお願いして申し訳ないんだけど……」
「週末のプリンの屋台ですよね? 勿論、手伝いますよ」
「本当?」
「冷えたプリンをそのまま、完璧に広場まで運びますから、ご安心ください」
リコはパア、と明るい笑顔になった。
レオは見たかったリコの笑顔を存分に眺めて、満足すると黒猫に乗って、宮廷に戻って行った。
リコは改めて、フンス、と気合を入れる。
「絶対、成功させるんだ。異世界プリン……!」
近くで黒猫は寝転がってくつろぎ、村長はその腹を撫でている。
「なるほど……ノエル王子推薦の勇者か」
「はい。王子の我儘にはほとほと困っています」
じゃじゃ馬王子についての愚痴を、村長に漏らしていた。
「君はノエル王子のお気に入りだから、仕方あるまい。君のおかげで王子の癇癪が緩和されて、王宮の使用人達も助かっているよ」
村長に腹を撫でられている黒猫は、レオのもとに届くほど喉を鳴らしている。
「で……キーランをその戦場に連れて行きたくないんだね」
「はい。いかに巨大動物が頑丈だと言っても、キーランはあくまで配達の為に働く猫ですから……戦には向いていないと思います」
「相棒を傷つけたくないという気持ちは、よくわかるよ」
オリヴィエ村長は立ち上がった。
「戦いの場で騎乗するなら、鱗竜が相場だ。鋼のような体と機敏さ、冷血な精神を持ち合わせているから、魔獣相手でも怯まない」
「派遣をお願いできますか」
「ああ。とっておきの個体を用意しよう。だが、コントロールは難しいよ。鱗竜は能力が高いほど、気位も高いからね」
この世界の巨大動物には、二種類がある。
一つ目は、自然に生まれる巨大動物。
家畜は人間と共存し、仕事や生活を手伝ってくれる。
野生動物は遭遇した人間を襲う事もあるが、人間に狩られて捕食される場合もある。
二つ目は、大昔に能力者の手によって生まれた、魔獣。
魔獣は人造的に作られた生物で、巨大動物の力を超える頑強さと攻撃力、凶暴性を持ち、人間を食らう。人類が大陸や海を容易に横断できなくなったのは、この魔獣が主な原因とされている。
「オリヴィエ村長。魔獣はいったい、誰が何の目的で作ったのでしょうか」
今まで何度も聞かれた質問に、オリヴィエ村長は静かに首を振った。
「私が生まれるずっと前から存在した魔獣だ。いったい誰が、どんな理由でとはわからない。生み出した能力者は狂人だった、とも言われているがね」
オリヴィエ村長は大木を見上げながら続けた。
「もっとも……この世界の巨大動物や植物も、巨大化の能力を持つ能力者によって作られたのでは、と憶測されている。いつの時代も、己の思想によって世界を変えたり、人類を滅ぼす願望を持つ人間は一定数いるよ。能力者はとくに、人生を拗らせやすい」
レオは自分自身も、アレキと出会わなければ拗れた人生になっていただろうと想像し、言葉が詰まった。能力者の狂気というのも、他人事では無いのかもしれない。
村長は椅子に座ると、手元の地図を広げた。
そこには広大な森と、洞窟の場所が描かれている。
「今回、魔獣が急激に増えた原因は、あらゆる魔獣を集める巨大魔獣が、洞窟に住み着いたからだと推測されているが……。その魔獣も鳴き声や地響きの噂があるだけで、洞窟から出た姿をハッキリ見た者はいない。すべては仮定だ」
村長はレオを真っ直ぐに見つめた。
「レオ。君は類稀なる能力の持ち主だが、魔獣の巣の掃討は危険な任務になるだろう」
レオは頷いて、真剣に忠告を聞いた。
「死ぬなよ。アレキサンダーが悲しむ」
オリヴィエ村長は顔色を変えずにレオを脅して、優雅にお茶を飲んだ。
* * * *
レオが仕事を終えたリコを拾って金ピカ城に帰ると、ミーシャが心配そうに駆け寄って来た。リコの顔を見上げて、元気が戻っている様子に安心して、レオを見上げた。
「レオ君、ありがとう」
「え?」
「リコを元気にしてくれて」
ミーシャはそれだけ伝えると、走ってキッチンに戻ってしまった。
リコとレオは顔を見合わせる。
「私、夜中に泣いてたのがミーシャちゃんにバレてたのかな。恥ずかしい」
「ミーシャは繊細で優しい子ですから、人の機微に気付きやすいんですよ」
「いつかミーシャちゃんとマニちゃんにも、異世界のお話ができるといいな」
「きっと信じてくれますよ」
夜の便に出かけるために再び出かけるレオに、リコは改めてお願いをした。
「あの……魔獣退治で忙しいレオ君に、こんなことをお願いして申し訳ないんだけど……」
「週末のプリンの屋台ですよね? 勿論、手伝いますよ」
「本当?」
「冷えたプリンをそのまま、完璧に広場まで運びますから、ご安心ください」
リコはパア、と明るい笑顔になった。
レオは見たかったリコの笑顔を存分に眺めて、満足すると黒猫に乗って、宮廷に戻って行った。
リコは改めて、フンス、と気合を入れる。
「絶対、成功させるんだ。異世界プリン……!」
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