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第一章 リコプリン編
45 魔女のおやつ
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その時、玄関のベルが鳴った。
ドアを開けると、子羊のムゥムゥを連れたマニが立っていた。
カートに大きな卵を入れている。
「やっほー! プリン作り隊、到着~」
「マニちゃん! 卵を持ってきたの!?」
「うん。ケイト所長が是非、プリン作り隊に協力したいって。リコプリンちゃんのファン一号になるんだって、はしゃいでたよ。あの人、変だよね~」
ゲラゲラ笑って、後ろを指した。
「それだけじゃないよ。ほら」
さらにその後ろには、ビリー牧場のお兄さんが手を振っていた。
「や~、リコちゃん! ケイト所長に聞いて、お見舞いに来たよ! 牛乳飲んだら怪我もすぐに治るからね!」
リッキーが大きな牛乳瓶を掲げている。
「ウィッキー!」
リコは自分ひとりで孤独に抱えていた夢を、みんなが一緒に支えてくれていると知って、眩しさで涙が溢れていた。
「あっ、またベソかいてる。鼻水も出てるし」
マニに指されてリコは泣き笑いしながら、みんなに深々と頭を下げた。
金ピカ城のキッチンでは、リコのプリン作りの指導が始まった。
細かい指示にマニとミーシャは懸命に従い、リコプリンの再現を試みた。
魔女小屋からマニが持ち出してきたハーブを調合し、卵を濾して、釜戸の火を細かく調整する。
マニは途中、汗だくで根を上げた。
「ひえ~、こんなに細かい決まりで作ってたの!? リコってば変人!」
「マニちゃん火! 弱める!」
リコの目の色が変わっているので、マニとミーシャは軍隊のように従った。
「できた~!」
美しいグラスで蒸されたプリンは、上品に仕上がっていた。
リコは生地の「す」の状態や、ハーブの香り、味見でチェックして、やっともとの笑顔に戻っていた。
「凄い、ちゃんと再現されてるよ!」
マニとミーシャは汗だくでハイタッチをした。
合間にお茶の時間を挟んで、粗熱を取ったプリンに最後の仕上げが施された。
プリンの上にリコの手が翳されて、下に向かって結晶を作っていく。
パキッ、ピキキ、ピキン。
2枚、3枚と重ねていくと、プリンたちは氷の幕で覆われていった。さらに4枚、5枚。先に作られた結晶に重なっていき、氷は分厚くなっていく。
丁寧に右、左と円を描くように重ねていくと、プリンの上には氷のドームが出来上がっていた。
リコは愉悦の表情になって、呟いた。
「氷の冷蔵庫のできあがり!」
マニはテーブルにしがみついて、冷気を宿すドームを凝視している。
「すっごい、何これ……! 魔女のおやつみたい!」
マニもミーシャも滅多に雪が降らない町で生まれ育った分、驚きは大きかった。
「プリンはね、冷やすとさらに、美味しさが増すんだよ」
リコの禁断症状のような表情に、マニとミーシャは息を飲んだ。
* * * *
やがて夕方になると、アレキが商談から帰ってきた。
玄関の向こうにはリコ、マニ、ミーシャが揃ってお迎えしていて、アレキは上機嫌になった。
「ハーレムみたいで気分がいいな!」
ミーシャが待ちきれないように、テーブルの上に冷えたプリンを出した。アレキはキョトンとした顔で皿を見下ろしている。
「これは……?」
「プリンです!」
リコは毅然と答え、アレキは気軽にスプーンを取った。
「へ~、何だこれ、プルプルじゃん。あれ、冷たい……冷えてる?」
スプーンですくって口に入れると、アレキはみるみるうちに真顔になって、瞳が青くなっていた。
「な……何ぃ? 何これ!??」
口を押さえて、乙女のようなポーズで固まっていた。
* * * *
リコの部屋で。
リコは思い出し笑いをしている。
「それでね、アレキさんの目がずっと青かったんだよ。もっと頂戴! って」
リコの部屋のソファに座っているレオも笑っている。
「それは幼児返りですね。プリン中毒者になっちゃったかも」
リコは笑いながら、テーブルにプリンを置いた。
「あのね、一緒に食べたくて、レオ君を待ってたんだ」
「完全版のリコプリンですね」
レオはスプーンを手に取ってプリンをすくうと、リコに向けた。
「リコさん、あーん」
「レオ君から先に食べなよ!」
「リコさんが昇天している姿を見ながら食べたいので」
リコは赤面して、口を開けた。
冷たいプリンが口の中に入って、甘く香りながら自分の体温と調和され、やがて緩やかに溶けていった。
リコは快感で身体が震えて、昇天していた。
「ああ、この味……」
レオは満足そうにそれを眺めて、自分もプリンを口に入れた。
目を瞑って味わうと、口をそっと押さえている。
リコは前のめりになった。
「どお? どおだった!?」
レオは紅潮した顔をリコに向けた。
「幸せの味がします。甘くて、冷たくて……優しい」
とろけて寄り添う互いの影が月明かりに照らされて、プリンの甘い香りに優しく包まれていた。
これから始まる異世界でのプリンの快進撃は、また、いつかのお話で……。
第一章 おわり
ドアを開けると、子羊のムゥムゥを連れたマニが立っていた。
カートに大きな卵を入れている。
「やっほー! プリン作り隊、到着~」
「マニちゃん! 卵を持ってきたの!?」
「うん。ケイト所長が是非、プリン作り隊に協力したいって。リコプリンちゃんのファン一号になるんだって、はしゃいでたよ。あの人、変だよね~」
ゲラゲラ笑って、後ろを指した。
「それだけじゃないよ。ほら」
さらにその後ろには、ビリー牧場のお兄さんが手を振っていた。
「や~、リコちゃん! ケイト所長に聞いて、お見舞いに来たよ! 牛乳飲んだら怪我もすぐに治るからね!」
リッキーが大きな牛乳瓶を掲げている。
「ウィッキー!」
リコは自分ひとりで孤独に抱えていた夢を、みんなが一緒に支えてくれていると知って、眩しさで涙が溢れていた。
「あっ、またベソかいてる。鼻水も出てるし」
マニに指されてリコは泣き笑いしながら、みんなに深々と頭を下げた。
金ピカ城のキッチンでは、リコのプリン作りの指導が始まった。
細かい指示にマニとミーシャは懸命に従い、リコプリンの再現を試みた。
魔女小屋からマニが持ち出してきたハーブを調合し、卵を濾して、釜戸の火を細かく調整する。
マニは途中、汗だくで根を上げた。
「ひえ~、こんなに細かい決まりで作ってたの!? リコってば変人!」
「マニちゃん火! 弱める!」
リコの目の色が変わっているので、マニとミーシャは軍隊のように従った。
「できた~!」
美しいグラスで蒸されたプリンは、上品に仕上がっていた。
リコは生地の「す」の状態や、ハーブの香り、味見でチェックして、やっともとの笑顔に戻っていた。
「凄い、ちゃんと再現されてるよ!」
マニとミーシャは汗だくでハイタッチをした。
合間にお茶の時間を挟んで、粗熱を取ったプリンに最後の仕上げが施された。
プリンの上にリコの手が翳されて、下に向かって結晶を作っていく。
パキッ、ピキキ、ピキン。
2枚、3枚と重ねていくと、プリンたちは氷の幕で覆われていった。さらに4枚、5枚。先に作られた結晶に重なっていき、氷は分厚くなっていく。
丁寧に右、左と円を描くように重ねていくと、プリンの上には氷のドームが出来上がっていた。
リコは愉悦の表情になって、呟いた。
「氷の冷蔵庫のできあがり!」
マニはテーブルにしがみついて、冷気を宿すドームを凝視している。
「すっごい、何これ……! 魔女のおやつみたい!」
マニもミーシャも滅多に雪が降らない町で生まれ育った分、驚きは大きかった。
「プリンはね、冷やすとさらに、美味しさが増すんだよ」
リコの禁断症状のような表情に、マニとミーシャは息を飲んだ。
* * * *
やがて夕方になると、アレキが商談から帰ってきた。
玄関の向こうにはリコ、マニ、ミーシャが揃ってお迎えしていて、アレキは上機嫌になった。
「ハーレムみたいで気分がいいな!」
ミーシャが待ちきれないように、テーブルの上に冷えたプリンを出した。アレキはキョトンとした顔で皿を見下ろしている。
「これは……?」
「プリンです!」
リコは毅然と答え、アレキは気軽にスプーンを取った。
「へ~、何だこれ、プルプルじゃん。あれ、冷たい……冷えてる?」
スプーンですくって口に入れると、アレキはみるみるうちに真顔になって、瞳が青くなっていた。
「な……何ぃ? 何これ!??」
口を押さえて、乙女のようなポーズで固まっていた。
* * * *
リコの部屋で。
リコは思い出し笑いをしている。
「それでね、アレキさんの目がずっと青かったんだよ。もっと頂戴! って」
リコの部屋のソファに座っているレオも笑っている。
「それは幼児返りですね。プリン中毒者になっちゃったかも」
リコは笑いながら、テーブルにプリンを置いた。
「あのね、一緒に食べたくて、レオ君を待ってたんだ」
「完全版のリコプリンですね」
レオはスプーンを手に取ってプリンをすくうと、リコに向けた。
「リコさん、あーん」
「レオ君から先に食べなよ!」
「リコさんが昇天している姿を見ながら食べたいので」
リコは赤面して、口を開けた。
冷たいプリンが口の中に入って、甘く香りながら自分の体温と調和され、やがて緩やかに溶けていった。
リコは快感で身体が震えて、昇天していた。
「ああ、この味……」
レオは満足そうにそれを眺めて、自分もプリンを口に入れた。
目を瞑って味わうと、口をそっと押さえている。
リコは前のめりになった。
「どお? どおだった!?」
レオは紅潮した顔をリコに向けた。
「幸せの味がします。甘くて、冷たくて……優しい」
とろけて寄り添う互いの影が月明かりに照らされて、プリンの甘い香りに優しく包まれていた。
これから始まる異世界でのプリンの快進撃は、また、いつかのお話で……。
第一章 おわり
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