4 / 6
4 独眼の貴公子
しおりを挟む
宮廷から出ていくルイザは涙で視界が霞んで、
ドン!と、思い切り人にぶつかった。
「ふがっ!」
令嬢らしからぬ声を上げてしまって、慌てて相手を見上げた。
それは見かけた事の無い、背が高く端正な体付きの男性だった。高貴な装いをしているが、まるで軍人のような身体だ。
逞しい胸に抱きついた状態から焦って離れようと腰を反らすと、目前には赤く燃えるような切れ長の瞳が、こちらを見下ろしていた。だが、片目は黒髪の下に黒い眼帯をしていて、独眼だ。
「し、失礼しました!」
ルイザは今まで出会った事の無い、ワイルドな風貌の貴公子に、照れと恥ずかしさで真っ赤になって駆け出そうとしたが、すぐにガッシリと、両肩を掴まれていた。
「いた……ルイザ!君はルイザだろう!?」
「え!?」
「俺は君を探しに来たんだ!俺だよ、俺!」
いや、俺と言われても、ルイザには初対面としか思えなかった。
逞しい貴公子は切れ長の瞳を嬉しそうに緩ませて、笑顔になった。
「ほら、子供の頃に、宮廷で飯にがっついてた俺を、後ろからぶっ飛ばしただろ!?」
ルイザは頭が真っ白になった。あのトラウマが蘇る。
あの時に何メートルもぶっ飛ばして、気絶をさせた少年……。
ルイザは即座に土下座をしたい衝動に駆られたが、肩をガッシリと掴まれていて、動けない。
「も、も、申し訳ございません!わ、私がやりましたぁ!」
まるで懺悔するように泣き叫んで、さらに彼の独眼にハッとする。
「そ、その眼はまさか、私のせいで!?」
逞しい貴公子はキョトンとした後、豪快に大笑いした。
「わはは!違うよ!これは魔獣退治で不覚にもやられた傷だ!」
ひとしきり笑った後、キリッと顔を引き締めて、ルイザを見下ろした。
「失礼。俺はクライド・バリントン。辺境で魔獣退治をしている」
ルイザは蒼白な顔を真っ青にした。
バリントン家といえば、我が国の境界を魔獣の地から守護する、ブラックフォレスト辺境伯の一家だ。代々強大な魔法力を持つ武闘派である。そんな位の高い辺境伯のご子息をぶっ飛ばしたのだとは、当時5歳のルイザは知らなかった。
地面に額を擦り付けて土下座したかったが、依然、肩は掴まれたままの上に、さらに力強く、ハグされていた。
「ルイザ!会いたかった……!俺は君にぶっ飛ばされてから、ずっと君を想っていた。だけど厳格な父に、ぶっ飛ばされて情けないままの自分で、想い人に会いに行ってはいけないと言われた。だから父との約束通り、魔獣を100匹倒したんだ。俺はルイザに会っても恥ずかしくないくらいに、鍛えてきたよ」
自分をぶっ飛ばした女の子を想うのは変だし、お父様の理屈と約束も変だし、抱きしめられて上せているしで、ルイザは沈黙のまま固まってしまった。
ドン!と、思い切り人にぶつかった。
「ふがっ!」
令嬢らしからぬ声を上げてしまって、慌てて相手を見上げた。
それは見かけた事の無い、背が高く端正な体付きの男性だった。高貴な装いをしているが、まるで軍人のような身体だ。
逞しい胸に抱きついた状態から焦って離れようと腰を反らすと、目前には赤く燃えるような切れ長の瞳が、こちらを見下ろしていた。だが、片目は黒髪の下に黒い眼帯をしていて、独眼だ。
「し、失礼しました!」
ルイザは今まで出会った事の無い、ワイルドな風貌の貴公子に、照れと恥ずかしさで真っ赤になって駆け出そうとしたが、すぐにガッシリと、両肩を掴まれていた。
「いた……ルイザ!君はルイザだろう!?」
「え!?」
「俺は君を探しに来たんだ!俺だよ、俺!」
いや、俺と言われても、ルイザには初対面としか思えなかった。
逞しい貴公子は切れ長の瞳を嬉しそうに緩ませて、笑顔になった。
「ほら、子供の頃に、宮廷で飯にがっついてた俺を、後ろからぶっ飛ばしただろ!?」
ルイザは頭が真っ白になった。あのトラウマが蘇る。
あの時に何メートルもぶっ飛ばして、気絶をさせた少年……。
ルイザは即座に土下座をしたい衝動に駆られたが、肩をガッシリと掴まれていて、動けない。
「も、も、申し訳ございません!わ、私がやりましたぁ!」
まるで懺悔するように泣き叫んで、さらに彼の独眼にハッとする。
「そ、その眼はまさか、私のせいで!?」
逞しい貴公子はキョトンとした後、豪快に大笑いした。
「わはは!違うよ!これは魔獣退治で不覚にもやられた傷だ!」
ひとしきり笑った後、キリッと顔を引き締めて、ルイザを見下ろした。
「失礼。俺はクライド・バリントン。辺境で魔獣退治をしている」
ルイザは蒼白な顔を真っ青にした。
バリントン家といえば、我が国の境界を魔獣の地から守護する、ブラックフォレスト辺境伯の一家だ。代々強大な魔法力を持つ武闘派である。そんな位の高い辺境伯のご子息をぶっ飛ばしたのだとは、当時5歳のルイザは知らなかった。
地面に額を擦り付けて土下座したかったが、依然、肩は掴まれたままの上に、さらに力強く、ハグされていた。
「ルイザ!会いたかった……!俺は君にぶっ飛ばされてから、ずっと君を想っていた。だけど厳格な父に、ぶっ飛ばされて情けないままの自分で、想い人に会いに行ってはいけないと言われた。だから父との約束通り、魔獣を100匹倒したんだ。俺はルイザに会っても恥ずかしくないくらいに、鍛えてきたよ」
自分をぶっ飛ばした女の子を想うのは変だし、お父様の理屈と約束も変だし、抱きしめられて上せているしで、ルイザは沈黙のまま固まってしまった。
5
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。


神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト
待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。
不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった!
けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。
前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。
……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?!
♡コミカライズされることになりました。詳細は追って発表いたします。

メイクした顔なんて本当の顔じゃないと婚約破棄してきた王子に、本当の顔を見せてあげることにしました。
朱之ユク
恋愛
スカーレットは学園の卒業式を兼ねている舞踏会の日に、この国の第一王子であるパックスに婚約破棄をされてしまう。
今まで散々メイクで美しくなるのは本物の美しさではないと言われてきたスカーレットは思い切って、彼と婚約破棄することにした。
最後の最後に自分の素顔を見せた後に。
私の本当の顔を知ったからって今更よりを戻せと言われてももう遅い。
私はあなたなんかとは付き合いませんから。

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。
実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。
それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。
ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。
目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。
すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。
抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……?
傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに
たっぷり愛され甘やかされるお話。
このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。
修正をしながら順次更新していきます。
また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。
もし御覧頂けた際にはご注意ください。
※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

【完結】19私の周りの人たちが魔法にかかり、私の運命が変わってしまった
華蓮
恋愛
今まで仲良くやってきたのに、突然婚約破棄された。
落ち込んで家に帰ると、家族は、私を慰めてくれず、罵られ、家を出されてしまった。
シリーナは、1人、平民として、仕事を探そうと、、、

お義兄様に一目惚れした!
よーこ
恋愛
クリステルはギレンセン侯爵家の一人娘。
なのに公爵家嫡男との婚約が決まってしまった。
仕方なくギレンセン家では跡継ぎとして養子をとることに。
そうしてクリステルの前に義兄として現れたのがセドリックだった。
クリステルはセドリックに一目惚れ。
けれども婚約者がいるから義兄のことは諦めるしかない。
クリステルは想いを秘めて、次期侯爵となる兄の役に立てるならと、未来の立派な公爵夫人となるべく夫人教育に励むことに。
ところがある日、公爵邸の庭園を侍女と二人で散策していたクリステルは、茂みの奥から男女の声がすることに気付いた。
その茂みにこっそりと近寄り、侍女が止めるのも聞かずに覗いてみたら……
全38話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる