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4 妖精王は突然に
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摘んだ苺を手にして眺めているのは、人間と同じサイズの男性だった。
羽は無いけど、身体がキラキラと輝いていて、銀色の長い髪には、金細工の冠が飾られている。青色を帯びた銀の瞳は神秘的で、アリスがこれまで見たことの無いほど、美しい人だった。
アリスの肩に乗っている、先程ネズミと間違えた妖精の男の子が、説明してくれる。
「彼は妖精王だよ。僕たちの国の偉い人」
確かに、豪華なマントと高貴な服を身につけて、王族らしき優雅な佇まいだ。
妖精王はこちらに目を向けた。冷たいほどの無表情な顔は美麗さを際立てて、アリスは緊張で動けなくなる。
「この苺を育てたのは、君?」
「え……あぅ……はい」
情けないほど返答がぎこちないアリスに、妖精王は近づいて来た。
近くで見ると、輝かしくて目が眩む。
「私は妖精国を統治する妖精王ジェラルド・オルブライト・フェアリーだ。私の可愛い民たちに、素晴らしい実を与えてくれてありがとう」
「えっと、私はアリス・ベリーです。苺って、美味しいですよねぇ……」
「この苺はただの果物ではない。食した者の魔力を高める魔法食だ」
「は、はぁ……」
言われて周囲を見回すと、妖精たちは生き生きと、妖精の粉と言われる魔法の光を発して、飛び回っている。
目線を妖精王に戻すと、うやうやしく、跪いていた。
「貴方は豊穣の女神だ。アリス。私と一緒に、妖精の国に来てもらえないか」
妖精王が手を指す方向には、夜のジャングルの中、切り取られたようなドアの形の光が現れていた。妖精国の入口だ。
「い、いやいやいや!無理ですよ!私は人間ですから!」
テンパるアリスの手をそっと支えているジェラルドの手は温かく、これはもう幻ではないと、思い知らされていた。
「ただで来てほしいとは言わない。王妃として、貴方をお迎えしたい。貴方の力は妖精国に相応しい」
手の甲にキスをしてこちらを見上げるジェラルドの眼差しは美しく、アリスは胸がキューンとときめくが、言われている内容がぶっ飛びすぎていて、汗が止まらない。
「いや、ちょ、ごめんなさい!妖精の国に行くとか、怖すぎて無理ですぅ~」
半泣きのアリスを労るように、ジェラルドは手を握ったまま立ち上がった。
「そうか。確かに、突然異国へ嫁げなどと、恐ろしく感じるに違い無い。それでは私がこちらの世界に、婿入りしよう」
「えっ?」
「妖精の国にはいつでも出入りできる。問題は無いよ、アリス」
アリスの頭上に「?」が飛び交ううちに、ジェラルドは颯爽とマントを翻して、屋敷の玄関に向かった。
「そうと決まったら、君のご両親にご挨拶をしないと」
「ちょ、ちょっと待ったぁー!」
アリス自身も訳がわからないのに、いきなり自称妖精王が現れたら、父は卒倒するに違い無い。浮世離れしすぎている。
「さあ、君も一緒に」
ジェラルドはダンスをするようにアリスの手と肩を支えてエスコートした。身軽で、優雅で、楽しげだ。この御方は見かけはクールだが、案外無邪気な性格なのかもしれない。アリスは内心で分析しつつ、「待った待った」とわめきながら、あっという間に父の部屋に辿り着いていた。
羽は無いけど、身体がキラキラと輝いていて、銀色の長い髪には、金細工の冠が飾られている。青色を帯びた銀の瞳は神秘的で、アリスがこれまで見たことの無いほど、美しい人だった。
アリスの肩に乗っている、先程ネズミと間違えた妖精の男の子が、説明してくれる。
「彼は妖精王だよ。僕たちの国の偉い人」
確かに、豪華なマントと高貴な服を身につけて、王族らしき優雅な佇まいだ。
妖精王はこちらに目を向けた。冷たいほどの無表情な顔は美麗さを際立てて、アリスは緊張で動けなくなる。
「この苺を育てたのは、君?」
「え……あぅ……はい」
情けないほど返答がぎこちないアリスに、妖精王は近づいて来た。
近くで見ると、輝かしくて目が眩む。
「私は妖精国を統治する妖精王ジェラルド・オルブライト・フェアリーだ。私の可愛い民たちに、素晴らしい実を与えてくれてありがとう」
「えっと、私はアリス・ベリーです。苺って、美味しいですよねぇ……」
「この苺はただの果物ではない。食した者の魔力を高める魔法食だ」
「は、はぁ……」
言われて周囲を見回すと、妖精たちは生き生きと、妖精の粉と言われる魔法の光を発して、飛び回っている。
目線を妖精王に戻すと、うやうやしく、跪いていた。
「貴方は豊穣の女神だ。アリス。私と一緒に、妖精の国に来てもらえないか」
妖精王が手を指す方向には、夜のジャングルの中、切り取られたようなドアの形の光が現れていた。妖精国の入口だ。
「い、いやいやいや!無理ですよ!私は人間ですから!」
テンパるアリスの手をそっと支えているジェラルドの手は温かく、これはもう幻ではないと、思い知らされていた。
「ただで来てほしいとは言わない。王妃として、貴方をお迎えしたい。貴方の力は妖精国に相応しい」
手の甲にキスをしてこちらを見上げるジェラルドの眼差しは美しく、アリスは胸がキューンとときめくが、言われている内容がぶっ飛びすぎていて、汗が止まらない。
「いや、ちょ、ごめんなさい!妖精の国に行くとか、怖すぎて無理ですぅ~」
半泣きのアリスを労るように、ジェラルドは手を握ったまま立ち上がった。
「そうか。確かに、突然異国へ嫁げなどと、恐ろしく感じるに違い無い。それでは私がこちらの世界に、婿入りしよう」
「えっ?」
「妖精の国にはいつでも出入りできる。問題は無いよ、アリス」
アリスの頭上に「?」が飛び交ううちに、ジェラルドは颯爽とマントを翻して、屋敷の玄関に向かった。
「そうと決まったら、君のご両親にご挨拶をしないと」
「ちょ、ちょっと待ったぁー!」
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「さあ、君も一緒に」
ジェラルドはダンスをするようにアリスの手と肩を支えてエスコートした。身軽で、優雅で、楽しげだ。この御方は見かけはクールだが、案外無邪気な性格なのかもしれない。アリスは内心で分析しつつ、「待った待った」とわめきながら、あっという間に父の部屋に辿り着いていた。
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