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「フェリシア!話を聞いてくれ!」

 このバカチン!いや、ダリスが!
 何を言い訳するつもりか、フェリシアを追いかけて、客室に飛び込んで来たのだ。

「フェリシア!酷いわ、何も言わずに帰ってしまうなんて!」

 立て続けにどの口が……エルザまで!
 なんと、2人合わせて押し掛けて来るとは。
 人を欺く遊びがバレて、逆ギレか。

 ここで啖呵をかますんだ、フェリシア!
 と言いたいところだが、フェリシアは案の定、涙に濡れたまま、喉を詰まらせて、黙ってしまった。

 頭を掻いて目を逸らすダリスと、それを見上げて、物言いたげなエルザ。張り詰めた空気の中で、今、ここで言いなさいよというエルザの無言の圧力が、増幅していた。

「その……フェリシア。僕は……すまない」

 歯切れの悪いダリスの横腹に、エルザは左肘をグイと差し込んだ。ダリスはどちらにもいい顔をする立場に限界を感じて、とうとう開き直った。

「フェリシア。君との婚約は破棄させてもらう」

 思い切った言葉と同時に、エルザの腰を強く引き寄せた。

「僕は初めて君にエルザを紹介された時から、強く惹かれて……君と違って、エルザは明るくて、女の子らしくて。とても……魅力的だったんだ」

 弁解というより惚気のろけを披露しながら、ダリスとエルザは背徳をスパイスに盛り上がって、熱心に見つめ合っている。
 ショックのあまり声を押し殺して固まるフェリシアの横で、魔石は声にならない叫び声を上げていた。

 私は見てたわよ!
 あんたは、エルザのしつこいボディタッチや媚びた目つきを、女の子らしさと勘違いしてるのよ。エルザの中身は猛獣だってば!

 俯いて唇に指を当てるエルザは、困ったような、申し訳なさそうな雰囲気を出しつつ、口元が独占欲のよろこびに満ちて歪んでいるのが、魔石からは見えていた。

 どれだけの強欲を。
 どれだけの邪悪な人間達を。
 私は見てきたというのだ。
 魔石の目は誤魔化せないぞ。

 深淵の魔石は奥底から赤黒く光を灯し、内なる怒りを外の世界に放っていた。赤い光線が魔石から一瞬、ダリスとエルザの瞳孔どうこうを横切り、その直後に、猛獣のような叫び声が響いた。
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