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第7話 魔法拳士《マキドナス》
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Side ルフラン
先輩と別れてすぐ、私はギルドに向かいました。
途中、アイテムを扱う店や武器屋などに目移りしちゃうのはゲーマーの性ですね。
今更わかったことですが、この世界のプレイヤーとウィードの見分け方は簡単です。
ウィードの頭の上にはカーソルが付いているんですね。
黄色のアイコンが一般的なウィード。
赤色が敵対しているウィード。
黒色がHPを消費したウィード。
まだまだありそうですが私が知っているのはこの三種類です。
「おや、ルフランではないか。先ほどぶりだな」
目移りしながら石畳を歩いていた私にかかる声。
横に並び立ったのは先ほど別れたばかりのアリシアさんでした。
「こんにちは、いつの間にか着替えたんですね」
「先の戦いで鎧の耐久値が減ってしまってな、いまは修理中だ」
アリシアさんは長い桜色の髪を後ろで纏めた、いわゆるポニーテールでした。
フリル付きの柔らかそうなワンピースは彼女の清廉さをより際立たせるファッション。
帯剣していることに目を瞑れば花とか売ってそうな町娘の印象を受けますね。
騎士服とはまた違ったアリシアさんの魅力に私の信仰度もぐんぐん上がっています。
今日から私はアリシア教信者です。
「貴公はどこへ行くのだ?」
「ギルドです。ジョブに就こうと思いまして」
「なるほど、ジョブか」
そこでアリシアさんは思うことがあるのか顎に手を当てて何かを考え始めました。
額に入れてタイトルをつけるなら『女神の黙考』ですね。
きっとオークションで万億ドルとかするやつになりますよ。
「どうしたんですか、アリシアさん?」
「いやなに、貴公の戦い方は先ほどのような近接物理ファイターなのかと思ってな」
「大まかにはその通りですよ。魔法に憧れがあるので付与魔法でも覚えようとは思ってますけど」
「それはちょうどいい。話してみる価値はありそうだな」
そこでアリシアさんのカーソルが黄色から青色に変わりました。
おや、これはどういった意味があるのでしょうか。
「貴公は【魔法拳士】というジョブに興味はないか?」
「まき……? えっと、なんですか、それは?」
「ああ、すまない。説明不足だったな」
アリシアさんは辺りを見渡して、お洒落な感じの喫茶店に視線を向けました。
「貴公、少しだけ時間を貰えるか?」
「なくても作ります。命に代えても」
こうして私はアリシアさんとの天使のお茶会に突入しました。
***
「やはりこの時期は栗が美味しい。いくらでも食べてしまうな」
マロンパフェに舌鼓を打つアリシアさん。
目を細めながら「ん~」なんて言ってる姿は、ほっぺの横あたりにハートのアイコンを幻視してしまいそうですね。
ちなみに私の手元には栗羊羹。
プレイヤーが経営しているお店らしく甘味ならなんでもござれの雑食系の品揃えでした。
「貴公の羊羹も美味しそうだな。どれ、私のパフェと少しシェアしないか?」
「私、明日死ぬかもしれませんね」
「なんだ、毒でも喰らっているのか?」
「幸せという名の甘毒です」
きょとんとしているアリシアさんに切り分けた羊羹を差し出しました。
「ありがとう。ならば私も」
アリシアさんは差し出した羊羹と同量くらいのパフェをスプーンですくい、私に向かって差し出して…………え?
「どうした? 遠慮なく食べてくれ」
「間接キスなんですよねぇ」
「何か言ったか?」
「気のせいですよ。では遠慮なく」
世界がラブコメフラグを建設してくれたので有難く頂戴することにしました。
やっべぇ、ちょーやべぇです。
味なんてわかるわけねぇだろ、こんちくしょう。
「随分と頬が緩んでいるがそんなに美味しかったのか?」
「アリシアさんは鈍感系主人公になれますね」
首を捻りながら「鈍感?」なんて言ってる騎士様にそろそろ萌え死にそうなので本題に入ってもらいましょうか。
「それで【魔法拳士】とはいったいなんですか?」
「ああ、そうだな。これを食べたら説明させてもらおう」
アリシアさんは羊羹を一口で頬張ってから紅茶を一啜り。
紙ナプキンで上品に口元を拭ってから説明を始めました。
「まず察しがついていると思うが【魔法拳士】はジョブだ。ステータス補正は主に筋力と敏捷、それに補助魔力。強化魔法を施した拳士といった戦い方になる。貴公の望むファイトスタイルに近いものを感じるのだが就いてみる気はないか?」
話だけ聞くと願ってもない条件のような気がしますね。
なんだか話が上手すぎるような気がしますけど。
「何か条件があったりするんですか?」
何となくの予想ですけど、【魔法拳士】は隠しジョブ。
先輩の言っていた特定の誰かとの親密度を上げないと就くことのできないものだと推察しています。
アリシアさんのカーソルが青くなったのは一定の親密度に達した証か、ウィードとのイベントが発生したことを示すサインだったのかもしれません。
「条件はある。だが貴公ならば大丈夫だと私は信じたい。マップを出してもらえるか?」
言われた通り、私はメニューを操作してマップを出しました。
アリシアさんはある場所をスプーンで指しながら続けます。
「王都の騎士団詰め所、その南東の森の奥に一軒の小屋がある。そこに【魔法拳士】の師範代であるアルメディア氏が住んでいる。日頃から才能のある弟子を育てたいと言っているのだがなかなか良い出会いがないらしくてな。彼女に認められれば【魔法拳士】のジョブに就けるだろう。貴公に興味があれば私が推薦書を書くがどうだろうか?」
少しだけ私は考えを走らせます。
先ほどのクエストの報酬は飴玉でなく、おそらくアリシアさんとの親密度上昇が主報酬だったのでしょう。
もしあの時私の介入がなければアリシアさんは帰らぬ人に、それは私のHPが半分を切った時でも同じ結末になっていたのかもしれません。
因果には必ず応報がある。
私があの時、黒頭巾を倒す選択を取ったこと、アリシアさんが生きる未来を作ったこと。
そうして生まれた結果がこの巡り合わせなのだとしたら、この流れに任せてみるのも面白いかもしれませんね。
私はこの時【魔法拳士】を目指す決心をしました。
「よろしくお願いします、アリシアさん」
アリシアさんは柔らかく微笑みながら頷きました。
先輩と別れてすぐ、私はギルドに向かいました。
途中、アイテムを扱う店や武器屋などに目移りしちゃうのはゲーマーの性ですね。
今更わかったことですが、この世界のプレイヤーとウィードの見分け方は簡単です。
ウィードの頭の上にはカーソルが付いているんですね。
黄色のアイコンが一般的なウィード。
赤色が敵対しているウィード。
黒色がHPを消費したウィード。
まだまだありそうですが私が知っているのはこの三種類です。
「おや、ルフランではないか。先ほどぶりだな」
目移りしながら石畳を歩いていた私にかかる声。
横に並び立ったのは先ほど別れたばかりのアリシアさんでした。
「こんにちは、いつの間にか着替えたんですね」
「先の戦いで鎧の耐久値が減ってしまってな、いまは修理中だ」
アリシアさんは長い桜色の髪を後ろで纏めた、いわゆるポニーテールでした。
フリル付きの柔らかそうなワンピースは彼女の清廉さをより際立たせるファッション。
帯剣していることに目を瞑れば花とか売ってそうな町娘の印象を受けますね。
騎士服とはまた違ったアリシアさんの魅力に私の信仰度もぐんぐん上がっています。
今日から私はアリシア教信者です。
「貴公はどこへ行くのだ?」
「ギルドです。ジョブに就こうと思いまして」
「なるほど、ジョブか」
そこでアリシアさんは思うことがあるのか顎に手を当てて何かを考え始めました。
額に入れてタイトルをつけるなら『女神の黙考』ですね。
きっとオークションで万億ドルとかするやつになりますよ。
「どうしたんですか、アリシアさん?」
「いやなに、貴公の戦い方は先ほどのような近接物理ファイターなのかと思ってな」
「大まかにはその通りですよ。魔法に憧れがあるので付与魔法でも覚えようとは思ってますけど」
「それはちょうどいい。話してみる価値はありそうだな」
そこでアリシアさんのカーソルが黄色から青色に変わりました。
おや、これはどういった意味があるのでしょうか。
「貴公は【魔法拳士】というジョブに興味はないか?」
「まき……? えっと、なんですか、それは?」
「ああ、すまない。説明不足だったな」
アリシアさんは辺りを見渡して、お洒落な感じの喫茶店に視線を向けました。
「貴公、少しだけ時間を貰えるか?」
「なくても作ります。命に代えても」
こうして私はアリシアさんとの天使のお茶会に突入しました。
***
「やはりこの時期は栗が美味しい。いくらでも食べてしまうな」
マロンパフェに舌鼓を打つアリシアさん。
目を細めながら「ん~」なんて言ってる姿は、ほっぺの横あたりにハートのアイコンを幻視してしまいそうですね。
ちなみに私の手元には栗羊羹。
プレイヤーが経営しているお店らしく甘味ならなんでもござれの雑食系の品揃えでした。
「貴公の羊羹も美味しそうだな。どれ、私のパフェと少しシェアしないか?」
「私、明日死ぬかもしれませんね」
「なんだ、毒でも喰らっているのか?」
「幸せという名の甘毒です」
きょとんとしているアリシアさんに切り分けた羊羹を差し出しました。
「ありがとう。ならば私も」
アリシアさんは差し出した羊羹と同量くらいのパフェをスプーンですくい、私に向かって差し出して…………え?
「どうした? 遠慮なく食べてくれ」
「間接キスなんですよねぇ」
「何か言ったか?」
「気のせいですよ。では遠慮なく」
世界がラブコメフラグを建設してくれたので有難く頂戴することにしました。
やっべぇ、ちょーやべぇです。
味なんてわかるわけねぇだろ、こんちくしょう。
「随分と頬が緩んでいるがそんなに美味しかったのか?」
「アリシアさんは鈍感系主人公になれますね」
首を捻りながら「鈍感?」なんて言ってる騎士様にそろそろ萌え死にそうなので本題に入ってもらいましょうか。
「それで【魔法拳士】とはいったいなんですか?」
「ああ、そうだな。これを食べたら説明させてもらおう」
アリシアさんは羊羹を一口で頬張ってから紅茶を一啜り。
紙ナプキンで上品に口元を拭ってから説明を始めました。
「まず察しがついていると思うが【魔法拳士】はジョブだ。ステータス補正は主に筋力と敏捷、それに補助魔力。強化魔法を施した拳士といった戦い方になる。貴公の望むファイトスタイルに近いものを感じるのだが就いてみる気はないか?」
話だけ聞くと願ってもない条件のような気がしますね。
なんだか話が上手すぎるような気がしますけど。
「何か条件があったりするんですか?」
何となくの予想ですけど、【魔法拳士】は隠しジョブ。
先輩の言っていた特定の誰かとの親密度を上げないと就くことのできないものだと推察しています。
アリシアさんのカーソルが青くなったのは一定の親密度に達した証か、ウィードとのイベントが発生したことを示すサインだったのかもしれません。
「条件はある。だが貴公ならば大丈夫だと私は信じたい。マップを出してもらえるか?」
言われた通り、私はメニューを操作してマップを出しました。
アリシアさんはある場所をスプーンで指しながら続けます。
「王都の騎士団詰め所、その南東の森の奥に一軒の小屋がある。そこに【魔法拳士】の師範代であるアルメディア氏が住んでいる。日頃から才能のある弟子を育てたいと言っているのだがなかなか良い出会いがないらしくてな。彼女に認められれば【魔法拳士】のジョブに就けるだろう。貴公に興味があれば私が推薦書を書くがどうだろうか?」
少しだけ私は考えを走らせます。
先ほどのクエストの報酬は飴玉でなく、おそらくアリシアさんとの親密度上昇が主報酬だったのでしょう。
もしあの時私の介入がなければアリシアさんは帰らぬ人に、それは私のHPが半分を切った時でも同じ結末になっていたのかもしれません。
因果には必ず応報がある。
私があの時、黒頭巾を倒す選択を取ったこと、アリシアさんが生きる未来を作ったこと。
そうして生まれた結果がこの巡り合わせなのだとしたら、この流れに任せてみるのも面白いかもしれませんね。
私はこの時【魔法拳士】を目指す決心をしました。
「よろしくお願いします、アリシアさん」
アリシアさんは柔らかく微笑みながら頷きました。
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