ボーイズがラブする短編集~BL of short stories~

よつば 綴

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10年後の君は

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「シィー····。もう少し黙ってて」

 そう言って、僕の唇に人差し指を当てる。もう少しとはどのくらいだろう。
 廊下に居る人が、帰るまでだろうか。

 扉の磨りガラス越しに外の様子を伺う。
 静かになるのを待ち、シャツの中に手を忍ばせてきた。脇腹に触れる手が、ヒヤッとして身体を跳ねさせる。

「ひぁっ」
「ごめん、冷たかった?」
「うん。でも大丈夫。だから····」

 引っ込められた手を捕まえ、自ら腹部を触らせた。
 冷たい手で撫でられるのは気持ちいいんだ。

「ねぇ、学校ではシないって言ってなかった?」
「言ったけど、守る気ないんでしょ」
「まぁね」

 やめる気などさらさらないらしい。
 シャツの中を遠慮がちに撫で、僕の感度を確認するとシャツのボタンを外し始めた。
 プチプチと、ゆっくり外されるのは何だか恥ずかしい。

「ね、自分で外そうか?」 
「ダメ。俺が外す」

 僕が照れるのを見ながら、嬉々としてシャツを剥ぎ取る。暖房が弱いのか、少し肌寒い。
 僕を机に座らせると、腰をそぅっと撫でる。触れるか触れないか、絶妙な距離。

「ひゃっ····擽ったいよ····」
「だって、あんまり触ると痛いでしょ?」
「そうだけど····」
「ほら、腕上げて」

 甘い声で僕を従わせる。素直に腕を上げると、青くなった脇腹を指でつつかれた。

「いぁっ····」
「あーあ。綺麗な肌が傷んでる」

 体育の時間、よそ見をしていたらバスケットボールが直撃したのだ。その拍子に転んで、壁で頭を打った。

「頭のほうは? ちゃんと冷やしてた?」
「冷やしてたよ。タンコブもマシになったもん」
「でも、まだ小さく残ってんじゃん」

 何故か不機嫌になる。昔からそうだ。僕が怪我をすると機嫌を損ねる。
 僕の鈍臭さに苛立つのだろうか。なら、構わなければいいのに。

「大丈夫だから、もう放っといてよ」
「は?」
「僕のドジ、苛つくんでしょ?」

 そう言うと、さらに機嫌を悪くした。

「苛つく。なんで怪我する前に助けらんなかったんだろうって、毎回自分に苛つくんだよ」

 世話好きの心配性は厄介だ。打ち身を心配そうに見つめ、すっと指で撫でた。
 いくらなんでも、世話焼きが過ぎる。

「怪我、させないように俺が守りたい」
「いくら僕がドジだからって、守ってもらわなくても····」
「初めて会った10年前から、ずっと思ってた。怪我する度に、守ってやりたいって」

 随分前からだな。10年前だなんて、小学生じゃないか。衝撃の告白だ。
 僕の手を握って、告白は続く。

「そのうち、取り返しのつかない怪我するんじゃないかって、毎日不安なんだよ。だからさ、これからは俺に守らせて。彼氏として、さ」
「彼··氏?」
「うん。好きなんだ。ずっと、好きだった」

 予想外の展開だ。

「僕、男だよ?」
「その辺の女の子より可愛いし守り甲斐あるよ」
「失礼すぎるでしょ」

 答えを保留にし、僕達は帰路につく。途中、さり気なく手を繋がれた。
 突然の事に驚き、振りほどくタイミングを失う。そのまま家の近所まで、夕闇に隠れて手を繋いで帰った。
 この胸の高鳴りは、ただ戸惑っているだけ。そう、自分を納得させた。

 そして、家の前でもう一度、想いを告げられる。

「返事は急がないからさ。ゆっくり考えてよ」
「ゆっくりって言ったって····」
「10年あっためてたんだよ? あと10年くらい余裕で待てるよ」

 なんて軽口を叩くが、その表情で僕の答えを待ちわびているのが分かる。
 これは、早々に返事をしなければ。そう思わせるほどに、泣きそうな顔をしていた。

「今度、僕が怪我しそうになった時····」
「なった時?」
「守ってくれたら付き合ってあげる」

 僕は、そう言葉を投げて家に駆け込んだ。

 鳴り止まない電話。出れずにいると、ポコンとひとつ、メッセージが届く。

『次は絶対に守る』

 だって。10年間、一度も守れなかったのに。
 僕は、返事をせずにスマホを抱いて眠った。


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

唐突に書いたツイノベと言うやつ。を、まとめました。
また #よつばのツイノベ をつけて衝動的にやるかもしれません。その時は暖かく見守ってやってください。

お題
「声を出しちゃいけない」
「10年目の初めて」
「ずっと先の話をしよう」

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