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3章 希う大学生編
お洒落なカフェで
しおりを挟むキャンプの一件から少し落ち着きを取り戻した僕たちは、何事もなく平和な日々を過ごしていた。こういうの、嵐の前の静けさって言うんだよね。
そして、秋の気配を感じ始めたある日のこと。
啓吾に、新しいバイト先が気になり過ぎると話したら『来れば?』と言ってくれた。やましい事なんてない事は分かっているけれど、お洒落なカフェで働いてたらきっと声を掛けられまくっているはずだ。
なんていう、僕の不安は完全に見透かされているらしい。翌日、コマがない啓吾はお昼から夕方までバイトらしく、大学が終わったらおいでと言ってくれた。
好きなチェーン店だし僕を1人で行かせるわけにはいかないから、自分も一緒に行くと言うりっくん。そしたら、啓吾が割引券をくれた。こそっと行こうなんて考えていたけれど、正直に言ってみて良かったなと思う。
そんなこんなで大学の帰り、りっくんと2人で啓吾の新しいバイト先へ向かっていた時だった。遅れて合流した八千代と朔が、お昼を食べていないというので何か食べようかという話になった。もうすぐ夕方なんだけど、おやつって事でいいのかな。
パスタかラーメンかで揉め始めたりっくんと八千代。譲らない2人が朔に決定を委ねる。すると、間をとってうどんがいいんじゃないかと言い出した朔。パスタとラーメンの間って、うどんなんだ····。
話がまとまらず10分くらい経った頃には、ヒートアップして僕の声が届かなくなっていた。駅前で恥ずかしいったらないや。
(なんだっけ、す··す····スクショだ! 迷子になった時の為ににって、りっくんがお店までの地図をスクショしてくれてたんだよね。あれが見れたら1人でも行けるはずなんだけどな····あれ? んー····)
「ねぇ、スクショってどうやって見るの?」
「なぁ結人、パスタとラーメンの間って言ったらうどんだよな?」
まだ言ってたんだ。なんなんだよまったく。僕の話は全く耳に入ってないし、もういいや。
「お蕎麦じゃない? 何でもいいけどさ····」
テキトーに応えたら、皆の視線が僕に集中した。この発言の所為で事態は悪化してしまった。けれど、もう知ったこっちゃない。
(あっ! 見れたぁ! よし、行ってみよ)
僕はスクショを頼りに、啓吾のバイト先を目指す事にした。聞いてくれるかは分からないけれど、一応言っておかないとだよね。
「あのね、ご飯行かないなら僕、啓吾のお店行ってくるね。すぐそこだからいいよね?」
地図を見る限り、お店は駅から目と鼻の先なのだ。なんなら曲がり角を曲がった所に、アンティークな看板の端っこが見えている。
「何食べるか決まったら来てね?」
返事はない。パスタをごり押しして喚くりっくんの声にかき消されていた気はするけれど、一応言ったもんね。
さぁ、100mもないけど冒険に出発だ。
意気揚々と出発したはいいけれど、小走りで向かったら1分足らずで着いてしまった。お店の前に立ち、入るタイミングを窺う。そんな事をしていたから、見たくないものを見てしまったんだ。
僕はお店に入る決心をして、ウィンと開いた自動ドアをくぐる。
「いらっしゃいま····へ? 結人、なんで? えぇ~、どうやって1人で来たんだよ。莉久は?」
レジをしていた啓吾は、カウンターに身を乗り出して驚く。
「りっくんと八千代が駅前でくだらないケンカ始めて、巻き込まれた朔が仲裁してる隙に来たの」
「恥ずかし~····けど、ンなコトしたら皆ビックリすんじゃん。スマホ貸しな? 連絡入れとくからさ」
「ん。一応声は掛けたんだけどね、聞こえてなかったかも。」
僕は尖った唇を戻せないまま、ムスッとスマホを手渡す。
「で、なーんでンな不機嫌なの?」
「····別に」
「も~、可愛い唇ツンしてないでぇ、言ってみ?」
僕は、客席のほうをチラリと見る。
「さっき、女の子に手紙貰ってたでしょ」
「さっき? あぁ~、アレ。手紙じゃなくて連絡先書いた紙な」
「····たいして変わんないよ」
女の子たちが僕たちを見ている。彼女たちに、僕はどう映ってるのかな。りっくんに言われるがまま可愛い系の格好をしてきたけど、僕は啓吾の嫁に見えるのだろうか。
「んもぉ、俺が結人以外に興味無いの分かってんだろ?」
「分かってても、嫌なものは嫌なの」
「でも俺受け取ってねぇよ?」
「へ? でもさっき、受け取って····」
僕は、女の子たちの席と啓吾をキョドキョド交互に見る。
「あれねぇ、あの子のカップに乗せて返した」
「そ、そうだったんだ····。えっと…ごめんね?」
「ん~いいよっ♡ 俺、カフェのバイト始めて良かった~。結人が会いに来てくれたし、妬いてくれんの可愛いし♡」
身を乗り出して、僕の頬にキスするご機嫌な啓吾。さっきの女の子たちがざわついている。後ろで作業をしていたスタッフさんたちも、手を止めて驚いていた。
「ちょ、大畠くん····その子、彼女さん?」
「ん? 俺の嫁」
「「「嫁ぇ!?」」」
周囲に居たスタッフさんたちが声を揃えて驚愕した。皆女の人なんだけど、たぶん啓吾の事を狙っているだろう。その後、肩を落としているのが見えた。
「ちょ、啓吾··」
「なに? ホントのコトなんだからいーじゃん」
「そうだけど····」
「チッ····彼女でも嫁でもいいけど、仕事の邪魔しないでもらえます?」
スタッフの1人、とても気が強そうな女の人に怒られてしまった。舌打ちが聞こえた気がするんだけど、気のせいだよね。
「あ、ごめんなさい」
「結人が謝んなくていいよ。絡んでたの俺だしぃ」
彼女へジトッと嫌な視線を送る啓吾。僕にだけ聞こえるよう、小さな声で『客も並んでねぇしちょっとくらい良いじゃんね?』と囁いた。
さっきの注意に嫉妬が含まれているのだとしたら、これまたマズい光景なはず。どう見たって、イチャついているようにしか見えないだろう。
「そういう問題じゃないでしょ。お仕事中なんだからちゃんとしなくちゃだよ。ね? てことで、注文いい?」
「おっけおっけ。良い子な結人には、俺のオススメ奢ったげる」
「えっ♡ いいの? わーい」
満面の笑みで、啓吾が指差した期間限定のパンプキンパフェラテに喜ぶ僕。割引券はりっくんが持ったままだから、くそぅと思ってたんだ。
それにしたって、今の反応はめちゃくちゃ子供っぽかったかもしれない。こんな僕で、啓吾は恥ずかしいとか思わないのかな。なんて、また無駄な事を考えしまう。
「かーわい♡ これ飲んで待ってて。俺、もうちょいであがるから」
「ふぁぁっ··、み、耳元で言わなくていいでしょ。さっきの人、睨んでるじゃない····」
「さっきの人? あぁ、あの子俺狙いだから妬いてんじゃない?」
「やっぱり····」
僕の唇がまた尖る。
「大丈夫だよ。俺、結人しか視界に入んないから♡」
「うぅー····啓吾のバカぁ」
「へへっ。そのバカの愛一身に受けてんじゃん」
「もっ、もう! あっちの席で待ってるからね!」
デカデカと“愛してる♡”なんて書かれたカップを渡され、僕は窓際の席に着く。同時に、りっくんたちが血相を変えて店に入ってきた。イケメン3人の入店に店内がざわつく。
啓吾とは他人のフリを決め込んで注文し、しれっと僕が居るテーブル席に着く3人。
「俺たちが悪いよ? しょうもない事にあんなムキになっちゃってさ」
「お前の声も届かないくらいムキになるような事じゃなかったよな。けど、勝手に行くのは感心しねぇぞ」
「お前、俺らから離れんなって言っただろうが」
反省はしているようでしていないらしい。焦りと怒りが勝っているのだろう。自分たちへの怒りと僕への怒りで8:2ってとこかな。
僕は、クリームをパクパク食べながら謝った。
「お待たせしゃっした~」
啓吾が、3人分のコーヒーを運んできて、蓋が無かったら零れているだろうってくらいの勢いでテーブルに置いていく。
「おい、客に対してその態度はなんだ」
「俺の嫁を危険にさらしたバカ3人は客じゃないんですぅ」
クレームを入れた朔を、啓吾が見下ろして言う。ぐうの音も返せない朔は『悪かった』と素直に詫びる。けれど、問題児2人は本領を発揮しだした。
「おい、店長呼べェ店長ォ」
「コーヒーちょっと漏れてるんですけどぉ。カップ握るとかありえなくなぁい?」
「お前らなぁ····」
歯を食いしばる啓吾。りっくんと八千代のクレーマーっぷりがあまりにも様になっていて、本当は止めなくちゃいけないんだろうけど、僕は思わず笑ってしまった。
「ゆいぴが笑ったから許す」
「「だな」」
「は? 俺は許してないかんね?」
啓吾は、ぷんすこしながら仕事へ戻っていった。
啓吾を待つ間、僕たちは来週に控えている法事の話をする。
おばあちゃんが亡くなって1年が経つんだ。しんみりと言ったら、隣に座っていた朔が肩を抱いてくれた。
勿論、皆も参加してくれるんだけど、僕だけが実家にお泊りの予定。となると、やっぱり気掛かりなのは····
「真尋····な」
八千代がゲンナリした顔で名前を挙げる。りっくんと朔も項垂れてしまった。
真尋がどう出てくるのか予想できない今、具体的な対策の練りようがなくて困っているのだ。
悩む僕たちが唸っていると、バイトを終えた啓吾が合流した。今話していたことを伝えると、啓吾は腕を組んで考え込む。
「俺らも泊まる?」
「迷惑過ぎるだろ」
「そっかぁ、そうだよなぁ····」
啓吾が混じってもこの調子なのだ。僕たちは、あらゆる可能性を想定しつつ、できる限りの対策を練っていく。だけどきっと、このまま当日まで頭を抱える事になるのだろう。
真尋が落ち着いてくれていたら、凄く助かるんだけどな····。
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