ちっこい僕は不良の場野くんのどストライクらしい

よつば 綴

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3章 希う大学生編

波乱の幕開け

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 歩けると言ったのに、八千代が僕をお姫様抱っこしてテントへ運ぶ。そりゃ眠くてフラフラしてるけどさ、八千代がえっちなキスをしたのが1番の原因なんだぞ。なんて文句は今更言わない。
 気持ち良いとフワフワしてぼーっとしちゃうの、どうにかならないかなとは思っている。そういえば、お酒を飲んだ時もこんなだったかもしれない。気持ちイイけど、なんだか変な感じなんだよね。


「星、凄かったな~。あんないっぱい流れ星見たん初めてだわ」

 啓吾が、缶ジュースを開けながら言う。冬真は『俺も~』と言いながらポテチの袋を開けた。どうやら、寝るつもりはないらしい。
 かく言う僕だって、身体が疼いて眠れそうにない。言うまでもなく、八千代の所為だ。そして、猪瀬くんも僕と同じらしい。
 星を眺めながら、冬真に肩を抱き寄せられた猪瀬くん。恐らく、死角になる所で何処かを弄られていたのだろう。もじもじして冬真に擦り寄っているのを見たんだ。

 そんな僕と猪瀬くんの事情など知らん顔で、皆はトランプに興じている。それはともかく、なんだか雲行きが怪しい。
 ババ抜きで珍しく僕が勝ち、バカみたいに喜んでいた時だった。啓吾と冬真が、罰ゲーム付きのポーカーをしようと言い出したのだ。

(僕、弱いからどうせ勝てっこないんだけどな····)

 僕はあまり乗り気になれず、とりあえず罰ゲームについて尋ねてみる。

「罰ゲームって何するの? い、痛い事とかじゃないよね?」

「結人にいてぇ事しても罰ゲームにならないだろ。結人には羞恥攻めですらご褒美だもんな」

 なんて、朔が王子スマイルを見せて言うんだ。失礼極まりないな。

「え··えっちの時に痛い事されるのは気持ちぃけど、そうじゃない時は普通に痛いよ? デコピンとかさ、そういうのは気持ちくないもん」

 僕は、ドヤ顔で変態じゃないんだと訴えた。それなのに、りっくんが僕を抱き締めて耳元で意地悪を言う。

「痛い事されて気持ちくなっちゃうド変態で淫乱な結人が好きだよ。ね、お尻ペンペンしてあげようか?」

「ひぁぁっ··シ、シてくらしゃい····」

「んっふふ♡ ゆいぴにはこういう罰ゲームが待ってるんだよ。今の、予行演習ね」

 唇に人差し指を当て、僕を黙らせるかのようにウィンクを飛ばした。いたずらっ子なりっくんだ。

「····っ!!? りっくんのバカァっ!」

 意地悪されたうえに、えっちな事はシてもらえないんだ。なんて残酷なんだろう。
 唇を尖らせた僕の機嫌をとろうと、りっくんが僕の頬に唇を這わせて甘える。こんな事したって、暫くツンとしてやるんだから。
 けど、これだって罰ゲームになるのか怪しいんだけどな。あわあわしてる僕を見て楽しむのだろうか。そうだとしたら皆、なんて意地が悪いんだ。

 かくして開催されることになった、ポーカー大会の罰ゲーム内容はこうだ。
 僕か猪瀬くんが最下位だった場合、甘い言葉責めを受ける。僕と猪瀬くん以外は、普通の罰ゲームをランダムで選出するアプリで決めて実行するらしい。

 抗う間もなく始まるポーカー。そもそも、あんまりルール知らないんだよね。

「ねぇ、ポーカーって何が1番強いの?」

「マジか。結人はそっからかぁ····」

 冬真が、カードと睨めっこしながら言う。

「武居は皆と一緒にトランプしないの? 皆しょっちゅうやってるくない?」

「僕はあんまり参加しないよ。どうせ負けちゃうし、ルールもよく知らないのが多くて····」

「俺らのトランプって基本、次ヤる順番とか決めんのにやってるかんな。まぁ、順番待ちの暇つぶしってのもあるけど」

「あー、ね。お前らさ、結人ともそういう遊びしてやれよ? どーせヤッてばっかなんだろ」 

 冬真に言われ、図星すぎた皆は黙ってしまう。
 僕が進んで参加したがらないのが1番の原因なんだと言うと、なぜだか冬真は不満そうに納得した。

 りっくんからポーカーの強い順番を教えてもらった僕は、要らない手札を捨て山札から必要な枚数をとる。こ、これは····

「ねぇ八千代、これって何?」

 手札に残ったのが教えられた役ではなかったので、隣の八千代にコソッと聞いてみた。すると、八千代はフッと笑って『それブタっつぅんだよ』と教えてくれた。
 どうやら、役なしという事らしい。こんなもんだよねと思いつつ、皆が手札を明かしていくのを見て愕然とする。
 僕の次に弱い猪瀬くんですら、ストレートなんだもん。もう、僕に勝つ余地なんてないんだ。

「俺の勝ちだな」

 と、ストレートフラッシュで勝ちを決めた朔が、最下位の僕に言った。

「結人、来い」

 朔に呼びつけられ、僕は両手を広げて待っていた朔の膝に乗る。自ら耳を朔の口元に寄せ、これから甘い甘い罰を受けるんだ。
 僕を抱き締め、項から耳へスルッと指を這わせる朔。これだけで、どうにかなっちゃいそうだよ。

「お前、なんでそんなに弱いんだ? 耳も、乳首も、ケツも、全部弱すぎて心配だな。はぁ··、俺らがちゃんと守ってやんねぇとな、奥さん」

「ひっ、ひゃぁぁっ♡♡ しゃくっ、しゃくのばかぁ! おおおっ、奥しゃんって言わないれぇ····」

 意図して静かな低い声で、ドロッドロに蕩けそうな甘くねっちょりした話し方で、僕のお尻を柔らかく掴み軽く揉んで、脳を溶かしてしまうように囁いた朔。
 こんなの、1回でキャパオーバーだよ!!


 こんな事が5回も続いた。身体はどんどん熱くなるし、負け続けた悔しさで泣きそう。
 癇癪を起こしそうになった僕は、風に当たりたいと言って八千代と一緒にテントを出た。

 八千代に手を繋がれて、ゆっくり湖へ向かって歩く。

「罰ゲーム、キチィか?」

「キチィなんてもんじゃないよ! 1回目の朔ので限界だったよ」

「ふはっ、早くねぇ? んじゃ俺ん時は?」

「ずっと泣いちゃいそうなの我慢してた····」

「もっかい言ってやろっか?」

「もういいよぉ····」

 八千代の時は特に酷かった。僕を後ろから抱き締め、耳を軽く食みながら首を絞めるように手を添えて囁かれたんだ。
 いつもより低くゆっくり『俺のガキ、孕みてぇか』って、硬くなったモノをお尻に押しつけながら。
 涙を堪えるのに集中しすぎて、口は素直に『はりゃみたいれすぅ』なんて言っちゃった。正直、あれが1番逃げ出したい瞬間だったんだよね。

「孕めるんなら孕みたいよ。····ばぁか」

 僕がボソッと漏らした本音を、八千代は拾えずに聞き返してきた。絶対に教えてあげないけどね。

 しつこく聞いてくる八千代から逃げようと、僕は走り出した。サンダルに荒い砂が入ってきてめちゃくちゃ痛い。
 痛みでバランスを崩し転びそうになった僕を、八千代が拾い上げるように抱きめてくれた。

「アホ、危ねぇだろ。ンなくれぇのに走ってんじゃねぇぞ」

「んへへっ、ごめんね。受け止めてくれてありがと」

 そう言って振り向いた時、八千代の背後に影が見えた。なんだろう、目の錯覚かな。
 って思ったんだけど、八千代が僕を抱えたまま回し蹴りしちゃうから、僕の身体がふわっと浮いて、気づいたら八千代に抱えられていた。ズシャッと、何かが砂場に叩きつけられたような音だけが耳に残る。何が起こったのだろう。

 状況を把握する間もなく、また八千代の背後から、今度は棒の様な物を振り下ろしてきた。
 八千代はそれを腕で受け止めて、容赦なく蹴り飛ばしてしまう。凄い飛んでったんだけど、大丈夫かな。

 確認する為、八千代が体勢を整えようとした時、八千代は僕の背後に何かを見たらしく、僕に覆いかぶさって庇ってくれた。ドガッと鈍い音が聞こえ、一瞬にして血の気が引くのを感じた。
 そして、僕に『逃げろ』と言って、八千代が力無く倒れてしまった。

「八千代ぉっ!!」

 僕は、倒れてしまった八千代を背に、震えながら暴漢に立ち向かう。両手を広げて『やめろ!』って叫んだんだ。その瞬間、頭にゴッと衝撃が走り、身体から力が抜けて倒れたらしい。
 薄れてゆく視界に、テントから飛び出してきた朔が見えた。何か叫んでいるみたいだけど、よく聞こえないや。
 けれど、朔を見て安心した僕は、ふわっと意識を手放してしまった。


 頭に走った痛みと、ギャハハという下品な笑い声で、僕は静かに目を覚ました。薄らと瞼を持ち上げてみる。
 知らない部屋に居る。ここは何処だろう。見知らぬ男の人が4人、お酒を飲んでるみたいだ。部屋にお酒の臭いが充満していて、気分が悪くなるくらい臭い。
 その所為なのだろうか、身体が凄く熱いのは。何故だかお尻がきゅんきゅんしている。なんだか身体が変だ。

 僕が目を覚ましたことに気づいた1人が寄ってくる。お酒に負けないくらいタバコ臭い。
 でも、何処かで嗅いだことのある臭いだ。ちょっと懐かしさを感じる。僕の周りに、タバコを吸う人なんて居ないんだけどな。

「起きた? お前男なんね。予定外だけど、可愛いからオッケーっつゥことになっちゃった。ごめんねぇ~」

 そう言って、男は僕にキスをしてお酒を流し込んできた。あぁ、僕のファーストキスなのに····。

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