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3章 希う大学生編
本番前の静けさ
しおりを挟む目が覚めると、僕は八千代の腕の中だった。2人で薄手の毛布を纏い、それはそれは大事そうに抱えられている。毛布の中で、肌と肌の触れ合う感覚が気持ち良い。
僕は、八千代の胸元に擦り寄り、少し汗ばんだ匂いを堪能する。
「ん····起きたんか。は··すげぇ吸うな、汗くせぇだろ。風呂行くか」
「おはよ、八千代。んー··やだぁ····この匂い好きぃ」
まだ薄ら眠気の残る僕は、八千代に抱きついてさらに深く吸い込む。お風呂はまだいい。
だって、せっかく八千代の匂いが濃いのに、流しちゃうなんて勿体ないじゃないか。
2人きりかのように八千代とイチャイチャしていたら、朔が僕の後ろから毛布に入ってきた。強引に、しれっと、八千代から毛布を剥いで僕と2人きりの空間を作る。
「結人、おはよう」
「おはよ。ねぇ朔、八千代がまたぷんすこしちゃうよ?」
「おいコラ朔、てめぇあとから来て邪魔してんじゃねぇぞ」
「ほらぁ。あっ、やん····朔、どこ触ってるの」
朔は僕と八千代を無視して、気ままに僕の鼠径部に手を滑らせながら、何度も項や耳へキスを落とす。夕べの熱がおさまらないのか、朝勃ちがいつもより立派だ。
お尻にそれを挟んで、軽く腰を動かす朔。今夜はいよいよ解禁なんだ。それまで我慢しなくちゃいけないのに、僕はまんまと誘われる。
「朔ぅ····おちんちん、欲しいよぉ」
「先っちょだけ挿れるか?」
「「挿れねぇよ」」
八千代の声に、啓吾の声が乗る。2人が、呆れた顔で僕たちを見ていた。
「啓吾、おはよ」
「はい、おはよ。で、なに朝っぱらから甘えた声で強請ってんだよ。俺も挿れちゃうよ?」
「んぇ? ····くれるの?」
「あ··げ、たいけど、夜まで我慢な」
啓吾は、キュッと口を閉じた。一生懸命、我慢している顔だ。可愛いな。啓吾も懸命に我慢しているんだ、僕も夜まで我慢しなくちゃ。
「朔、夜になったらいーっぱいシようね♡」
「お、あ··あぁ。お前、朝から可愛すぎるぞ····」
朔は、僕の項に顔を埋めて言った。何がそんなに可愛かったのか分からないが、なんだか勝った気分だ。
僕たちが八千代を放ったらかしでイチャついていたからだろう。八千代が、八つ当たりでりっくんを蹴り起こした。
なので、今日は皆揃って朝食を作る。
「りっくん、バナナ僕が切るよ」
「お願··あ、バナナは俺が切るから、ゆいぴは皮剥いといてくれる?」
「ん? いいけど····僕、バナナくらい切れるよ」
りっくん曰く、僕がバナナを切ると痛い気がするんだそうだ。意味が分からないけど、僕が『じゃぁ皮剥くね』と言うと『んふ♡』と気持ち悪く笑っていた。
こういう事が時々あるのだけど、一体なんなのだろう。気にはなるけれど、聞かない方がいいと直感が叫ぶので聞かないことにしている。
食卓に朝食が並び、僕たちは席に着いていただきますをする。とても幸せだと、朝から浮かれてしまう瞬間だ。
「ゆいぴ、ニコニコし過ぎて色々零してる。可愛すぎだよ」
「わっ··ホントだ、ごめんね」
サラダ豆がポロポロとお皿に戻っていた。お行儀が悪かった事を恥じ、わたわたとフォークで豆を寄せ集める。
「可愛いだけだから全然いーけどさ、なにそんなニッコニコしてんの? なん嬉しい事あった?」
「んー··へへ♡ あのね、起きた瞬間から皆と居られて、こうして一緒に朝ご飯から食べれて、この後もずっと一緒に居られるんだって思うとね、すっごく幸せだなぁって」
皆は口々に、僕を天使だとか可愛いだとか言って悶えている。揃いも揃っておバカだなぁ。
「俺もさ、こうして過ごせてる今がすっげぇ幸せ。愛情溢れる家庭ってこんな感じ? みたいなさ。なんかあったかいのな」
啓吾は笑って軽く言うけれど、それは啓吾がどれほど欲していたものなのか、僕たちはよく知っている。
そんな啓吾が、“現状”を幸せに思ってくれているのなら、あの時攫った甲斐があったと思っていいのかな。
「愛情、なぁ····。一方的に与えられてる間、心っつぅんは動かねぇんだよな。与えてぇって思うようになって、初めて心も動くんじゃねぇの。だからよぅ、双方の愛情があってこそ成り立つあったかさなんだよな。改めて考えっと、大事にしてぇと思うな」
珍しく、八千代が語った。静かにコーヒーを啜って締め括り、静かな時間が流れる。
「ほぇー····なんか場野が言うと重みあんね」
八千代は、与えられっぱなしの側だったからだろう。それがいかに恵まれていたのか、啓吾を通して知ったらしい。
そして、八千代も与える側になった今、与えてもらっていた事に感謝できるようになった、というところだろうか。出会った頃とは、段違いに穏やかになったものね。
「初めて与えたいと思ったのが結人なんだろうな」
八千代が頬を紅潮させて顔を背けた。朔の言葉を認めたようなものだ。
僕をきっかけに、他にも心を向ける事ができたのだとしたら、それはとても嬉しい事だ。
「んへへ♡ なんか照れるね」
「··るせぇ。ぉら、とっとと飯食っちまえ。冷めんだろ」
照れた八千代は素直じゃない。でも、凄く可愛いと思えるのは、八千代の心に触れた気がしたからだろうか。
朝食を終え、2階のウッドデッキで日向ぼっこをする。夏を目前に、早くも強い陽射しで僕は肌を赤くしていた。
「ゆいぴ、日焼け止め塗りなおそっか」
日焼け止めクリームを握り締め、既にたっぷりと手に出しているりっくん。僕の面積じゃ、余りそうなほどてんこ盛りだ。
それに、ふんすふんすと鼻息が荒い。りっくんは、僕にクリームの類を塗るのが本当に好きらしいや。
「ん、ありがと。····痒い。そう言えば、ちょっと痛いかも」
「ごめんね。もう結構赤くなっちゃったね。中入る?」
どうしてりっくんが謝るのだろう。悪いのは、ろくな対策もせずに日向ぼっこをしていた僕なのに。
「まだ大丈夫、もうちょっとお日様浴びてたい。暖かくて気持ちぃの····」
「結人、寝るなら影に入らねぇとな」
朔が、啓吾と雑魚寝していた僕を床から掬い上げ、デッキチェアへと運んでくれた。パラソルの影に収まるよう調節してくれて、そこでりっくんが日焼け止めを塗り直してくれる。至れり尽くせりだ。
僕はそれに甘えきって、ウッドデッキで眠ってしまった。
ハッと目を覚ますと、おやつの時間だった。凜人さんに教えてもらい、完璧にマスターした啓吾がマカロンを作ってくれていた。
それにしたって、起こし方がおかしい。眠っている僕の唇にマカロンを乗せるだなんて。秒で起きて、皆に笑われてしまったじゃないか。
「啓吾のばぁか。僕が食い意地張ってるみたいじゃない!」
「張ってねぇみてぇに言うなよ。お前見てて唯一安心するとこなんだから誇っていいぞ」
八千代の言葉にムッとしつつも、後半の意味がわからなくて変な顔をしてしまった。
「ぶはっ····結人の分かってねぇ顔、マジでめっちゃ可愛いよな」
「可愛いよね~♡ 眉間に皺寄せて口ポカッて開いちゃってさ、ホント指突っ込みたくなる」
「「「なんねぇよ」」」
僕はキュッと口を閉じ、マカロンを大事に持ったまま反論する。
「あ、開いてないもん」
見え透いた嘘に皆が笑う。恥ずかしさを隠そうと、手に持ったマカロンに齧りつく。
こうしてバカをやってる日常が愛おしい。最近は、それぞれ忙しくてすれ違う事も多かったから余計に思うのだろう。
「あ、そーだ。結人、今日は洗浄すっかんね。誰にシてほしい?」
「自分で──」
なんて言うと、また皆が拗ねてしまうんだ。面倒だなぁ。
「だ、誰でもいいよ····」
そう言うと始まるのがジャンケン大会だ。手っ取り早く決めるのには、ジャンケン大会がもってこいだものね。
激戦の結果、今日の洗浄は八千代に決まった。八千代のガッツポーズを見られる、数少ない瞬間だ。
夕飯を軽く食べて、僕は大人しく洗浄される。
「お前、昨日自分で洗浄してたんな」
「んぇっ!? ····し、してないもん」
凄く期待してたみたいで恥ずかしい。
「ぁんで嘘つくんだよ。俺らが気づかねぇわけねぇだろ」
それはそうだ。なんなら、自分で洗浄しに行っている間、あえて気付かないふりをしてくれていたのだろう。
皆は、僕が期待して自ら進んで洗浄した事が嬉しくかったらしく、昨日は挿れてしまわないよう滅茶苦茶頑張って我慢してくれていたらしい。何度か危ない場面もあった気がするけど。
「お前が俺らのこと欲しがんの、嬉しいだけだつっただろ」
壁に手をつかせ、背面に沢山のキスを落としてくれる。甘い時間の中で、僕は八千代の手によって綺麗にされてゆく。
もうふわふわしていて、されるがまま蕩けてしまう。
「八千代、ねぇ、もうイッていいの?」
ルールと順序が違うと思うのだけれど、ゆっくり始めなくていいのかな。まぁ、洗浄はいつもよりスローペースでじっくりシているような気がするけど。
だけど、どれだけ優しく甘くされたって、皆にされてしまえばイクのは必然だ。
それを察して、先手を打たれると本当にもどかしい。
「安心しろ。イかさねぇよ」
企みを含んだ意地の悪い顔をして、何が『安心しろ』だ。僕は、また寸止めを食らう。
ふわふわトロトロになっているのに、イかせてもらえないから凄く辛い。膝が震え始め、八千代の支えなしでは立っていられなくなった。
フラフラの状態で洗浄を終え、僕一人、気持ちよりも身体が先に昂っている。そんな僕を迎えに来たりっくんが、優しく抱いてベッドへ運んでくれた。
いよいよ、思う存分イかせてもらえるんだ。高まる期待に、皆は早々と応えてくれる。
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