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3章 希う大学生編

下手くそなキスで

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 僕の思う気持ち良いキスをしてみる。下手くそだけど心は満たされる、唇を啄むような、まるでお子ちゃまなキス。
 八千代がこんなキスで満たされるわけなど、ないと思うのだけど。

 不安で胸が押しつぶされそうだ。それでも負けずに、八千代の唇をペロッと舐める。舌を差し込むのではなく、ただただ八千代の柔らかい唇を食む。
 僕は、これだけでも充分気持ちが良い。だけど、それはきっと僕だけだ。ずっとそう思っていた。

 八千代の反応が気になって、薄らと瞼を持ち上げる。いつもは目が合うのに、今回は八千代も目を閉じていた。僕に合わせてくれているのだろうか。
 僕は訝しげに、八千代の唇を前歯で甘噛みしてみる。ピクッとして目を開ける八千代。
 目が合うと、1度だけ八千代が僕の唇をはむっと食べた。昂りをそっとしまうように。

 驚いた僕は、唇を重ねたまま固まってしまう。目もぱっちり開けたまま。
 八千代はふっと目を細め、『続けろ』と言うように小さく唇を動かした。

 ハッとして、を続ける。長くしていると、段々舌を絡めてみたくなってくる。僕がここに到達するまで、かなりの時間を要してしまう。
 皆はきっと、唇を重ねた瞬間か、もしくはする前から思う事なのだろう。だから、僕とペースが合わないんだ。

「なー、まだ? 俺も早く結人とちゅーしたーい♡」

 啓吾は、僕の後頭部や項、背中にキスをしながら待ちくたびれている。

「俺もー♡」

 りっくんも痺れを切らし始めている。漸く、僕から求めるキスをしたくなったのだけど。
 そう思っていると、八千代が唇を離して僕を胸に抱いた。

「もうちょい待て。こっからやっとコイツが積極的にシたくなってくんだよ」

 どうして分かったのだろう。それとも、僕のタイミングを知っていたのだろうか。

「外野気にすんな。お前のペースでいいから来い」

「····っ、うん」

 僕はもう一度、唇を食むキスから始める。察しのいい皆は、焦れったそうにしながらも待ってくれるようだ。

 再びゆっくりと気分が乗ってきて、勇気と舌を差し出した。八千代が少し口を開けてくれる。僕が拾いやすい位置に舌を待たせて、僕はそれを懸命に拾う。
 八千代の舌を、美味しいと思うのは変だろうか。ご飯とは違う美味しさなんだけど、とにかく美味しいんだ。

 それにしても、キスだけで何十分費やしているだろう。僕はやっとで舌を絡め、八千代の漏らす甘い声を聴けた。良かった、本当に気持ちよくなってくれていたんだ。
 安心したのも束の間。名残惜しく唇を離すと、余韻を待たずに啓吾が僕を抱き上げて向き直させた。

 啓吾に跨り、おちんちんとおちんちんが少し擦れ合うなか、頑張ってキスに集中する。すぐに勃った啓吾のおちんちんが気になって仕方ないけれど、今は啓吾の唇に集中するんだ。
 八千代のおかげで、さっきよりも早く進められる気がする。だけど、僕よりキスを楽しむ啓吾は、念入りに、念入りに唇を愛でてくれるのだった。

「ん··啓吾へぇほ····ふぉ··ふひ開けてはへへ?」

 さっきから何度かお願いしているが、『んーん』と返すだけでなかなか口を開けてくれない。舌を差し込めず、仕方がないから唇を食んだり舐めたり吸ったり、色々と試してみる。

 あれこれと試していると、少し噛んだ時の反応がいい事に気づいた。啓吾も痛いのが気持ちイイのかな。
 僕は、さっきより少し強めに噛んでみる。肩がピクッと振れ、啓吾から艶めかしい声が漏れた。堪らず、僕は意地悪く聞いてみる。

「啓吾、痛いの気持ちぃの?」

「へ? 違うよ。結人が俺に痛い事シてんのが気持ちぃの」

「····はぇ?」

 啓吾の言葉の意味を、欠片も理解できない僕はフリーズしてしまった。それを見て笑う啓吾。
 真意は教えてくれないが、気持ちいい事には変わりがないのだと、もっと好きなようにしてみろと言われた。

 そう言われても、だ。他にどうすればいいのか分からず、同じ事をひたすら繰り返す。それでも口を開けてくれない啓吾。何がしたいのだろう。
 困った僕は、唇へのキスを諦めて耳に移る。啓吾も耳が弱い事を思い出したのだ。
 そして、耳元でこんなお願いをしてみた。

「ね··啓吾、勝負しよ? 耳にいっぱいちゅーするから、啓吾がえっちな声出したら僕の勝ちだよ。僕のべろ、ちゃんと受け取って♡」

 この時点で、啓吾の身体が少し跳ねた。これはいけそうだと、そう直感した。

 ちなみに、啓吾は両耳とも沢山のピアスでジャラついている。僕が今愛でている左耳の耳たぶには、小さくて丸っこいピアスが3つで、ここは日替わりみたいだ。耳輪と耳たぶの間くらいに細い金の輪っかがぶら下がっていて、これはコンクって言うらしい。滅多に変えることはない。
 耳輪の上の方には小さな蝶が乗っていて、それから、耳輪と軟骨を繋ぐのは僕があげたもの。それを見ると、僕のものなんだって気がして優越感に浸ってしまう。

 僕は良い気分になりながら、イヤーカフの方をはぷっと食べ、コンクとイヤーカフの間を舐めて言う。

「ここだけはずっと僕の着けてくれてるね」

「ったり前だろ、結人がくれたんだから。これ着けってっとさ、ずっと結人と一緒に居るみたいなんだよね。離れてても寂しいのちょい和らぐっつぅか、あ、でも早く会いたくなるかも♡」

 乙女な事を思うのは、僕だけじゃないらしい。皆、意外とそういう所がある。僕も、皆がくれたピアスを着けていると、ずっと一緒に居るみたいで落ち着くんだ。

「んへ♡ 一緒だね、僕もだよ」

 耳にとまっている蝶にキスをする。この蝶は、僕が似合うんじゃないかと言ったら次の日に買ってきて、それからよく着けているのだ。
 可愛いな、なんて思いながら耳珠に吸いつくようなキスをした。すると、啓吾が小さく『ンッ』と声を漏らした。僕の勝ちだ。
 僕は体勢を直し、したり顔で啓吾を見つめる。

「はいはい、わーったよ」

 啓吾は、不満そうに僕のキスを受け入れる。僕は、上から食べるように啓吾の舌を掬いにいった。

「ン····は··んっ····」

 なんだろう。啓吾がよく声を漏らす。僕のキスがそんなに上手いわけじゃない。どうかしたのだろうか。

 僕は、啓吾の甘い声を聴きながら、満足いくまで舌を絡めた。と言っても、下手くそなままのたどたどしいものだが。
 それでも啓吾は、なんだか息が上がっている。また、下手くそだけど一生懸命な僕に興奮したとかで昂っているのだろうか。

 僕が不安そうに啓吾を見つめていると、まだ何も聞いていないのに啓吾は勝手に赤くなって言葉を投げつけてきた。

「なんだよ····、結人に一生懸命ちゅーされてっとすげぇ恥ずかしくなんの! んでなんかすげぇ背徳感とか湧いてきて変に興奮すんだよ。なに? キモイ?」

「「「キモイ」」」

 皆が口を揃えて言う。キモくなんてないのに。

「キモくないよ! 背徳感? は、よく分かんないけど、りっくんなんかもっとワケ分かんない事言うし。それより、僕のキスで気持ち良くなってくれてるの嬉しいよ」

 嬉しい気持ちが半分、面白さが半分で、僕はもう一度啓吾と唇を重ねる。皆がどう思おうと、僕は僕で感じてくれる啓吾が愛おしい。
 僕の不慣れなキスに、反応しないよう殆ど舌を動かさずにされるがままの啓吾。僕の腰をギュッと抱き締め、下半身を小刻みに動かしておちんちんを当てている。

「なぁ、アレはありなのか? ちんことちんこ触れ合うのって····って言うか擦り合わせてるぞ」

「あー··アレはどうなんだろうね。んー······性器への刺激はダメってあるからダメなんじゃない?」

「おいコラ啓吾、ちんこアウトだとよ」

 八千代に言われ、腰を振るのをやめた啓吾。落ち着かないのか、僕のお尻を揉んでいる。手持ち無沙汰なようだ。さっきは乳首を弄りかけてハッとしていた。
 そんな啓吾が可愛くて仕方ない僕は、啓吾の両耳を持って、親指でピアスや耳の穴を弄って遊ぶ。ほんの少しだけど、皆が僕を弄りたくなる気持ちがわかった気がする。

 そうして、啓吾が反撃に出ないうちに、僕は啓吾とのキスを終えた。
 次は朔だ。凄くワクワクして待っているように見えるんだけど、あまり期待されても困るんだよね····。

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