ちっこい僕は不良の場野くんのどストライクらしい

よつば 綴

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3章 希う大学生編

ルールって大事なんだよ

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 夕べと今朝の事を踏まえて、きちんと話し合いをしようとりっくんが言い出した。僕は、パンケーキを頬張りながらそれを聞く。

 何よりの問題は、2日目の段階で誰ひとりとしてルールに従えていない事。それに関しては、むしろ1日目で折れなかった事を褒めてほしい。
 でも、これが最大の問題だ。誰だ、お仕置きだなんて言って僕を寸止め地獄に叩き落としたのは。
 地獄から救い出してくれた朔でさえ、結局ルールに従いきれなかった。まぁ、あれは僕が悪いんだけど。

 次に、そもそもこのポリネシアンセックス自体が、僕たちに全く向いていない事だ。分かりきっていた事とはいえ、ここまで荒れるとは思っていなかった。
 これ以上はシちゃいけないと思えば思うほど、誰も理性なんて保っていられない。どれだけお互いを求めているのか、それぞれが自覚している以上であることは思い知ることができた。

「もうやめたいな····。普通にえっちしたほうが、絶対気持ちいいし仲良くできると思うんだよね」

 僕はフォークを唇に置いたまま、ポソッと本音を零してしまった。すると、啓吾が悩みつつも返してくる。

「まぁな~。最終日までがキツいのはやる前から分かってんだけどさ、コレここでやめたら俺ら絶対二度とやんねぇだろ? だったら1回くらいやりきってみたいんだよね」

 啓吾は、兎にも角にも“ポリネシアンセックス”を完遂したいらしい。最終日に迎えると聞く、弾けるような感情と快感を味わいたくて仕方がないのだと主張した。
 実際にそうなるとは限らないのに。そう思いつつ、皆は口を噤んで、自分たちもその興味を捨てきれない事を胸に秘めた。

「まぁ、折角3日目まで頑張ったんだし限界までやってみればいいんじゃない? とりあえずさ、ルールだけは守ろうよ。じゃないと結局お互い苦しんでるでしょ? マジでバカみたいだよ····」

 りっくんは、おかわりのパンケーキをお皿に乗せながら言った。これには皆、誰も反論する余地がなかった。


 そうして迎えた3日目の夜。今朝みたいな事にならないよう、事前にやっていいラインを決める。
 軽めにだとか、激しくシないだなんて曖昧な表現じゃ、ただの言い訳の材料にしかならないのだと学習した。

「それじゃ確認ね。べろちゅーはゆいぴが感じないように俺らからはしない。キスでの愛部だけど、舐めたり吸うようなのは禁止。ゆいぴが擽ったがる程度にすること。要は、ゆいぴを蕩けさせないこと! あくまで目的は、ゆいぴに“触られることに慣れてもらう”だからね」

 3日目にして、ようやく当初の目的のひとつを思い出したらしい。既に手遅れな気がするけど、ダメ元で身を任せてみようと思う。
 僕はひとり、気合いを入れて『頑張ろうね!』と握り拳を両脇で作った。けれど、それを見た皆は、それぞれに不安を含んだ返事をする。
 八千代が『つっててこの可愛さだろ。ふざけんなよ』と言った。なんだろう、僕の握り拳がそんなに気に食わなかったのだろうか。

「可愛くないもん」

 僕がボソッと反抗すると、八千代が僕をベッドへ押し倒し『俺がこうやって理性ブッ壊れる程度にはかぁいんだよ』と言って、キレ気味でキスをしてきた。そして、舌を絡めて僕をトロトロにする。

「いきなりこれだもんなぁ····」

 啓吾がおでこを抱えて項垂れてしまった。りっくんは胸の前で腕を組み、苛立った様子で大きな溜め息を放つ。

「はぁぁぁ····、ホンット先が思いやられるんだけど。マジで場野どっかに縛りつけとこ? ゆいぴが秒で蕩けてる」

「どこに縛りつけたらいいんだ?」

 そそくさと僕を縛る縄を手に、りっくんと啓吾へ問い掛ける朔。その表情は、少し怒っているようだがカッコいい。

「アホか、縛んな。結人も、蕩けんな」

「む、むりらよぉ····」

 僕は八千代の首に腕を絡め、自分でも分かるほどトロンとした目で続きを求める。でも、またシてもらえないんだ。苦しい時間が始まってしまう。

「無理じゃねぇ。俺がやったみたいに舌絡めてみろ」

 八千代はいつも無茶苦茶を言う。教え方は荒いし、お手本なんて真似できないレベルのものしか見せてくれない。
 不器用なのか、それとも僕は谷に落とされる獅子の子なのか。どちらにせよ、八千代がシてくれるような絡め方なんて難しすぎる。

「今日はもう拾ってやんねぇからな。さっきの思い出しながらやってみろ」

「ふぇ··むりだよぉ····」

 八千代は小さく溜め息を吐いた。呆れられてしまったのだろうか。泣き言しか言ってないもの、当然だ。
 僕が不安に駆られていると、八千代は僕の二の腕と背中を持って、ふわっと引き起こし座らせた。

 八千代はコツッとおでこをくっつけて、さっきとは別人みたいに優しい口調でアドバイスをくれる。

「無理じゃねぇつってんだろ。ヘタクソでもなんでもいーんだよ。お前が必死こいて求めてきたらそんだけで気持ちぃから。俺の舌食いてぇって思ってやってみろ」

 この緩急に絆されて、僕は八千代の言葉に従ってしまう。
 恐る恐る、八千代の舌を掬ってみる。舌が震えているようで、それが伝わっていないか心配だ。
 シたくないわけじゃない。むしろ、キスは大好きだ。けど、僕からするんじゃ気持ち良くなれない。下手くそだから。それでいいと言われても、だ。
 何度シても上手くなれないのはどうしてだろう。いつまでも下手なままで、シてくれなくなったらどうしよう。
 そんな、ネガティブな思考がグルグルと巡る。今も苦しいだけで、気持ちイイとか思う余裕なんてない。

こうほぉ··?」

「ん」

 僕は目を開けていられず、ギュッと強く瞑って八千代の舌をたどたどしく舌で撫でる。八千代はきっと、しっかり目を開けて僕を見つめているのだろう。そう思うだけで、顔がどんどん熱くなる。
 僕が一生懸命すれば、皆はそれだけでいいと言ってくれる。けど、僕だって皆がシてくれるみたいに気持ちよくしてあげたい。

 そして、必死になり過ぎて上手くできずに涙が込み上げる。いつものパターンだ。

「ん··ふ····」

「ばーか、泣くなよ。無理言って悪かったな。お前が気持ちぃようにやってみろ」

 僕が気持ち良いように····。もう一度、八千代とのキスを思い出しながら口付ける。

 けれど、僕はハッとして怖々と舌を引っ込めた。それから、八千代の唇を食むようなキスをして、ゆっくりと、そっと舌を差し込む。
 少しだけ舌を差し出してくれる八千代。それを懸命に拾う。

 上手く拾えずにもぐもぐしていると、啓吾が後ろへ来て、僕を優しく抱き締めてくれた。そして、耳元で優しく囁く。

「結人、慌てなくていいかんね。あとさ、無理に舌絡めなくていーよ」

(そうなの? まぁ、舌··難しいもんね。でも····そうだ!)

 上がる息を抑え、唇を離して八千代にお願いする。

八千代やちぉ、べろ、べってして?」

「ん? あぁ····お前アレ好きな」

「べ、別に····。他にできる事ないんだもん」

「あっそ。別にいいけど」

 ふっと笑い、八千代はべっと舌を出してくれた。僕は、それに舌を当ててザラッと擦り合わせる。
 すると、八千代は僕の後頭部を持って唇を離せないように押さえ込んだ。慌てた僕は、八千代の胸をグッと押し返す。
 けれど、力で勝てるわけがない。

「場野、かぁいいの分かっけど落ち着けって」

「フゥ····おぉ、クソかぁいいな。結人、お前のキスちゃんと気持ちいいぞ」

 八千代は、唇の周りを指で拭い、あろう事かそれを舐めた。やっぱり、八千代も充分変態だ。
 それよりも、僕からのキスが気持ちイイだなんてお世辞が過ぎる。そう思ったのだが、続いて啓吾が励ましてくれる。

「そだよ~。結人はもっと自信持ってさ、自分が気持ちイイと思うようにしたらいいんだよ? 俺らに合わせなくていーの」

「そうそ。ゆいぴが気持ちイイと、俺らも比例して気持ちイイからね♡」

「そ、そうなの?」

「そうだぞ。結人からキスしてくれるだけですげぇ気持ちイイんだ。それに、お前が思ってるより俺らも余裕なんかないんだぞ」

「え··、そんなふうに見えないよ····。だって、いつも余裕たっぷりで僕のことイジメてるじゃない」

「んなこたぁねぇんだよ。怖がらせてねぇか壊しちまわねぇか、好き放題やって嫌われねぇかとか、んな事ばっか考えてお前の反応にビビりながら毎度必死だわ」

 そんな事を思っていただなんて。いつもの皆を思い返しても、そうは見えなかったんだけどな。
 けどそれならばと、八千代の頬を包み持って僕の思う気持ち良いキスをしてみる。何度も啄むような、軽いお子ちゃまなキス。でも、イチャついている感じが凄くして好きなんだ。

 僕には、快感よりも心が気持ちいいキスしかできない。果たして、それで皆も気持ち良くなってくれるのだろうか····。

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