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3章 希う大学生編
めげそうな心
しおりを挟むふと悪意が湧いた僕は、朔に意地悪な事を聞く。
「朔、イキたい?」
これは、自分がイかせてもらえない腹いせだ。このまま扱き続ければ、朔はイッてしまうだろう。イキたくないはずもない。
「ね、朔、一緒にイこ? 八千代ぉ、僕も八千代の手でイかせて?」
僕は、八千代の手を握って、強引に扱かせる。
「チッくそっ··、お前ドコでンな煽り方覚えてくんだよ」
文句を垂れながらも、八千代は僕の手を無視してシゴいてくれる。イきそうでイけないもどかしさに、腰がカクカクと小さく振れてきた。
朔は、もうイきそうだ。朔のを扱く僕の手に添えられた手には、ほんの少しも押し返す力が入っていない。
僕はお尻を弄ってもらわないと、おちんちんだけじゃなかなかイけないんだけどな。と思っていたら、僕の振れる腰でそれを察した八千代が、アナルの周りを指で撫でた。
その程度の刺激でイッてしまいそうなほど、僕の身体はおかしくなっている。
そして、出る···そう思った瞬間、八千代が手を止め、朔は僕の手首を握って止めた。
「へぁ!? ··はぁっ、ふ··んーーーっ····なんれぇ?」
僕はポロポロと涙を落として問うた。
「フゥーッ··フゥーッ··ダメだ、つってんだろ····」
歯を食いしばり、荒ぶる息を懸命に抑える朔。僕を睨む目が、獲物を前にした狩人のそれにしか見えない。
言葉とは裏腹に、ピクリとでも動けば食い殺される。そう肌が感じて、腰の辺りからゾクゾクしてしまった。
「っぶねぇ··。俺まで流されそうンなったわ」
ここで寸止めだなんて、あまりにも辛すぎる。僕は、涙に浮かぶ瞳で朔を睨み返し、尖った唇を強引に重ねた。
少し歯が当たって痛かった。けれど、僕は無我夢中で朔を押し倒し、困惑する朔に舌を差し込む。
この後どうすればいいのかなんて分からないけれど、朔がそれを拾って絡めてくれるからいいんだ。
「待··結──んっ」
朔へ馬乗りになって夢中で舌を絡める僕の、突き上げられたお尻を八千代がキスで愛でている。タマとアナルの間の、触られるとゾワゾワして感じちゃう、ちょっとふっくらした所。そこへ、執拗く吸うようなキスをしてまた寸止めをする。
僕のイライラは収まるどころか激しさを増し、朔に八つ当たりをしてしまう。泣きじゃくりながらのキスなんて、迷惑でしかないよね。
心の中では『ごめんね』と思うのだが、身体の疼きをどうにもできず悶々とした苛立ちが湧き続ける。そんな僕を見かねた朔は、大きな舌打ちを聞かせて強引に起き上がった。
押し退けられた八千代は、興奮した朔を見て『面白ぇ』とでも言うように鼻で笑う。チラッと見えたんだけど、凄くワクワクした顔をしていた。何に胸を躍らせているのかは分からないけれど、八千代のそういう表情は凄くえっちだ。
対照的に、朔は少し怖い。
僕の下手くそなキスでは、朔を誘う事なんてできっこなかったんだ。それどころか、機嫌を損ねてしまった。八つ当たりなのがバレて、腹を立てているのかもしれない。
そう思ったのだけれど、どうやらそうではないらしい。
「いい加減にしろ。我慢の限界だ」
そう言って、今度は朔が僕に跨り激しいキスを見舞う。喉の奥を犯す、本気のキスだ。
僕は何度も嘔吐きながら、それでも朔の首を抱き寄せて“もっと”と強請る。朔は、容赦なく喉の奥を舐めようと舌を捩じ込む。
届くわけがないのだけれど、僕の小さい口を朔の大きな舌で塞がれると、おちんちんを突っ込まれているような感覚に陥る。それで奥をじゅぽじゅぽ突かれるのを想像して、僕は喉を震わせてイッてしまった。
「おい朔、結人イッてんじゃねぇかよ」
「····コイツが悪い」
朔は口元を腕で拭って言った。そりゃそうだ。あれだけ煽ったのだから、非は僕にある。朔は乗せられてくれただけだ。
「ごめ··なさ····れも、もぉポリエチレンせっくしゅやだぁぁ····」
ワケが分からなくなった僕は、小さい子供みたいにゴネる。みっともないと分かっていても、溢れ出した感情はどうにも止まらない。
「ポリネシアンな。はぁ····やっぱ結人にはきちぃか」
朔と八千代が僕の対応に困っていると、扉の方から啓吾のツッコミが入った。
「いやいや、結人だけじゃないかんね? 場野もさっくんも何ヤッてんのよ」
どら焼きみたいなパンケーキが乗ったお皿を持って、啓吾が扉の枠に寄りかかっていた。パッと見ると、ウェイターさんみたいでカッコいい。
「まぁ、イッたのゆいぴだけみたいだし良くない?」
ひょこっと顔を覗かせたりっくんが、エプロンの腰紐を解きながら言った。どうやら、僕の朝ご飯ができあがったらしい。
けれど、身体は悶々とし気持ちがぐちゃぐちゃな僕は、正直朝食どころではない。
それなのに、八千代がまた僕を追い詰めるような発言を落とす。
「だよな。こっからイかさねぇようにシたらいいだろ。あと、マジで刺激し過ぎんな。可愛すぎだわ」
「あぁ。俺、襲われちまったな」
僕をイかせて少し満足そうな朔が、ふっと不敵な笑みを浮かべて言った。
「襲ってないもん! 朔のばかぁ!!」
「どう見ても襲ってただろうが」
「俺もゆいぴに襲われたーい♡」
りっくんは僕を押し倒し、そのまま僕に跨って煽り始めた。
「だぁら煽んなって」
八千代がりっくんを蹴り倒す。脇腹、折れてないかな。
「んぐぅ····くそゴリラ··、加減しろよ! ったぁ····マジでムリ、アバラ折れてそう····」
「るせぇ。ンなまともに入ってねぇだろ。いーからさっさと朝飯の準備してこいや」
「はぁ!? 俺らゆいぴにご飯持ってきたんですけど!? 啓吾が持ってんの見えねぇのかよ!」
りっくんは、脇腹を抱えるように押さえたまま喚く。2人の一連のひと揉めが終わるのを傍観して、静かになると啓吾は僕の隣に座った。
そして、僕の腰を抱きながら、手に持ったどら焼き風のパンケーキを食べさせてくれる。
「ど? 1回イけてちょっとだけスッキリした?」
「ん····してない」
僕はパンケーキを頬張り、もぐもぐしながらムスッとして答えた。本当は、少しだけ発散できたような気がしている。
けれど、このフラストレーション製造機みたいな試みを、やめてしまいたいと思っているのも本当だ。
「なぁ、ポリセやめたい? しんどい?」
「······ちょっと」
「そっか。ならやめる? 別にさ、結人泣かしてまでやりたいわけじゃねぇし」
僕を見つめる皆の視線で分かる。皆も同じように思っているらしい。寸止め地獄を見舞ったとは思えないほど、穏やかな雰囲気を見せている。
皆のこういう所、優しいのか意地悪なのか分かんないや。
僕は、どら焼きと一緒に、ぐちゃぐちゃだった感情を飲み込んだ。
「正直ね、やめたいなって思う。けど、皆が言ってる最終日の良さっていうのが凄く気になるんだ。せっかくここまで頑張ったんだし、もうちょっと頑張ってみてもいいかなって······でもツラいね」
僕がにへらと笑うと、啓吾もつられて笑った。そして、僕の背中に手の温もりを置いて言う。
「言うてまだ2日目終わったとこだけどね。まぁ、んじゃ、こっからは本気で真面目に取り組みましょうか?」
今までは、本気で真面目にやっていなかったのだろうか。だとしたら、まったく困ったものだ。
「そうだね。俺らももっとちゃんと落ち着いて、本来の趣旨に沿ってやってかなきゃだよ。特にゴリラ2人さ、挑む前のランニングやめたら? 余計昂ってんじゃん」
八千代と朔は顔を見合わせ、声には出さず『確かに』と視線で共感し合っていた。それを可愛いと思える余裕は出てきたようだ。
僕は、1人だけイッてしまったことを詫びて許しを得た。それから、リビングに移動して食卓につく。
テーブルには、美しく角を立てた生クリームに蜂蜜がかかった5枚重ねのふわふわパンケーキが。隣に鎮座している苺は、艶々と輝いて見える。
僕は、それまで抱えていた不満を全て手放し、ナイフとフォークを持って『いただきます♡』をした。
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