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3章 希う大学生編

とある提案

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 6月に入り、僕の保育実習が始まって皆をヤキモキさせていた。皆それぞれ忙しそうなのだけど、朔と八千代は特に。
 りっくんと啓吾はバイトを頑張っている。夏に沢山遊ぶ為、今のうちに貯めるんだと言っていた。

 朔は本格的に仕事を初め、多忙を極めながらも学業と両立している。最近は生活のリズムが安定してきたようだけど、かなりお疲れみたいで心配だ。
 八千代は、杉村さんと何かをコソコソ始めているようで、平日の夜に時々出掛けている。危なくない事だと言っていたから、あまり気にせず任せておこうと思う。

 僕の実習は、思っていたよりも楽しめている。小さい子は可愛いし、先生方も優しくて丁寧に教えてくれる。僕がドジを踏まない限りトラブルも起きそうにない。
 保護者に目をつけられないかと心配されていたが、そこも問題はなさそうだ。僕がニコニコして実習の話をすると、皆もニコニコして聞いてくれる。そんなに子供が好きだったのかな。

 僕たちはこうして、忙しくも充実した日々を過ごしている。ひとつ、ある問題を除いては。


 問題、それは、ここ1ヶ月ほど週末くらいしか一緒に過ごす時間がとれていない事だ。それぞれが忙しいのだから仕方ない。
 けれど、おかげで平日は学校でスリルを味わっている。

「待って八千代、服····まだ脱げてないから、んぁっ····お願い、帰れなくなっちゃう」

「うるせぇ。もう待てねぇ。····汚さねぇように気ぃつけっから、もう挿れんぞ。····ハッ、朝ぶりだもんな。やぁらけぇ」

 昨夜、遅くに帰ってきた八千代を、寝惚け眼で出迎えた。と言っても、部屋が隣だから物音が聞こえて、たまたま目が覚めたので部屋から顔を覗かせたのだ。
 深刻な僕不足に陥っていた八千代は、僕を部屋へ連れ込み朝まで致した。にも関わらず、今こうして待ったナシで襲われている。


 遡ること30分前 。りっくんと廊下を歩いていると、八千代とすれ違った。何やら急いでいたようで、ポンと頭を撫でただけで行ってしまった。
 けれど、すれ違う時にはいつも、僕を見て八千代の表情が柔らかくなる。その表情の変化が好きだ。僕にだけ見せる特別。
 僕がいない所ではムスッとしてるからだろうか、怖いだなんて声も聞く。こんな甘い顔を僕以外に見られたくはないが、僕だけの特権だと思うと見せびらかしたくなってしまう。
 
 そう言えば、八千代からコーヒーの匂いが香った。きっと、すれ違う前に飲んだんだろうな。なんて、一緒に居なくてもわかる事がある。
 寂しさは勿論あるけど、暫くの辛抱だ。夏には落ち着くと言っていた。僕も実習が一区切りするので、沢山一緒に過ごそうと約束している。
 それはさて置き、りっくんに腰を抱かれて歩く僕を見て、一瞬眉間に皺を寄せていた。ヤキモチ妬きの八千代の事だ、次の休日には朝まで抱き潰されるのだろう。

 なんて思っていたら、それは一瞬にして起きた。
 講義が終わってりっくんがトイレに行き、啓吾と入れ替わった瞬間、僕は啓吾ごと空き部屋へ連れ込まれてしまったのだ。

「啓吾、莉久に軽く抱いてから行くつっとけ。朔が食堂で待ってるってよ」

「んなら抱いてねぇでさっさと行こうぜ? 腹減った~」

「ヤんねぇんならお前も先行っとけ。今は我慢できねぇ」

「あんま激しくすんなよ。先食ってるかんな~」

 そう言って、啓吾は部屋を出て行った。
 どう見ても八千代の様子がおかしい。何かあったのだろうか。心配になるほど、八千代が僕を求めて急いている。

「八千代、何かあったの?」

「····拗ねんなよ?」

「んぇ? ····僕が拗ねちゃうような事なの?」

「おんなじ学科の女が執拗しつけぇんだよ。さっき、朔とコーヒー飲んでたら腕組もうとしてきやがったから手ぇ出そうんなって朔に止められた」

 八千代は、思い出して苛つきながら話す。そして、僕のズボンを下ろし、脱がせてくれないまま指を挿れる。ローションが垂れてしまいそうだ。
 せめて、服を脱ぐ間が欲しい。まぁ、待てといって待つタイプじゃないんだけどね。
 こうして、今に至るわけだ。


 八千代に待つ余裕はないようで、柔らかいのを確認するとおちんちんを押し当てた。相当苛立っているらしい。
 ぐちゅっと音を立てて押し挿れる。後ろから僕を抱き締め、首筋に吸い付きながら僕のにおいを嗅いで、気持ちを落ち着けているみたいだ。

 僕のいない所で言い寄られているなんて、やっぱり嫌だ。けど、靡かないのを知っているから焦りはしない。
 それでも、嫌なものは嫌だ。

「八千代、僕ね、良い考えがあるんだけど··──」

 僕の提案を聞いて、成程と納得した八千代。帰りに買い物をして帰ろうと言って、手早くえっちを終わらせた。

 ヘロヘロになった僕は、八千代に服を整えてもらい、膨らませた頬をつつかれる。

「ぁんだよ」

「余裕なの悔しい····」

「ハッ、今更だろうが」

 そう言って、扉の方へ向かう八千代。
 そのまま、八千代がどこかに行ってしまいそうな気がした。僕は慌てて、後ろから八千代をギュッと抱き締める。

「うおっ。どした?」

「なんかね、八千代が寂しそうで····、えっと、それで、今はね、八千代が離れて行っちゃいそうな気がしたの。だから、捕まえちゃった····えへっ♡」

「おま····もっかい犯されてぇんか。つか帰るか?」

「帰んないよ、ばぁか」

 僕は、八千代の背中に顔をうずめて言った。

 皆が食べ終わる頃、漸く食堂へ着き文句の強襲に遭った。まぁ、その殆どが八千代目掛けてだけど。
 皆を宥め、さっき八千代に言った提案をここでも披露する。なかなか反応が良く、えらく乗り気だ。


 約束通り、学校が終わるなり買い物へ出掛ける。けれど、朔はお父さんからの呼び出しで、啓吾はバイトだ。
 犬猿の2人を従え、僕はショッピングモールへと歩みを進める。

 久しぶりに来たショッピングモールは、いくつか店舗が入れ替わっていて、目当てのお店もなくなっていた。しかし、りっくんが見つけてくれたお店に、それらしく良い物があった。

「ねぇ、これなんてどうかな」

「うーん····ゆいぴには合わないかな」

「そう? 良い匂いなんだけどな」

「ゆいぴっぽくないってだけだよ。ゆいぴはねぇ······あ、これこれ。話聞いた時からこれかなって思ってたんだ」

 りっくんは、甘いフルーツの香りの香水を手に取った。テスターを僕に嗅がせて、満足そうな笑みを浮かべて反応を待っている。

「····ふーん。これ、僕っぽいの?」

 このモヤモヤはあれだ。ヤキモチだ。りっくんは、この香りをどこで知ったのだろう。なんて、態度を悪くしてしまう。

「中学の頃だったかな····。すれ違った人からふわっと香った時にね、ゆいぴだって思ったんだ。で、クラスの女の子とかに聞いて調べまくってこれに辿り着いたの。んふふ~♡ 元カノとかじゃないよ」

 どうやら、全て見透かされていたらしい。悔しいけど、少し気持ちは軽くなった。
 もしも、元カノと同じだなんて分かったら、なんとなくだけど使いたくないんだもの。

(はぁ····。僕って面倒臭いなぁ····)

 それにしても、正確に言うと少し違うけど、まさにしたかった事をりっくんが経験していたなんて。僕が香水をつけて、それが皆に残れば····そう思ったんだ。

(なんか、虫除けスプレーみたいだなぁ····ん? 虫除け····どっかでこんな話してたような····。ま、いいや。それより、凄く嫉妬深い彼女みたいなのはなんかヤだな。それこそ今更な気もするけど····)

 自己嫌悪しながら香水を眺めていると、八千代が別のを持ってきた。

「これもお前っぽいぞ」

 りっくんと2人で嗅いでみる。爽やかなフローラル系だが、それに混じって甘ったるい匂いがする。僕って、こんなに甘いのかな。

「これも良い匂いだけどさ、僕らしいって言えば、パンケーキとか焼肉のにおいじゃない?」

 思わず飛び出した率直な意見に、りっくんと八千代は声を殺して笑う。

「パ、パンケーキはいいけど····やき、ひふっ··焼肉のにおいの香水って····」

「流石に嫌だわ。ま、お前らしいっちゃらしいけどよ····ぶふっ··においだけじゃ足んねぇだろ。毎日焼肉連れてってやろうか?」

「あっはは! そしたら香水要らないね」

「お腹もいっぱいになるし、一石二鳥だね。朝ご飯、焼肉になるけどいいの?」

 朝食に焼肉だなんて、きっと誰も一緒に食べてくれないだろう。
 そんな冗談はさて置き、まだうっすら笑みを残したまま香水選びに戻る。
 やはり、りっくんのオススメが1番しっくりくるらしい。普段意見の合わない2人だが、こういう所はバッチリ合うんだよね。

 香水それを買い、買い物ついでに着せ替え人形にされ、ご褒美にとおやつをたらふく食べて家に帰った。
 帰ると、珍しく朔がリビングのソファで眠っていた。

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