上 下
316 / 386
3章 希う大学生編

友達の幸せ

しおりを挟む

 啓吾と僕が引き止めると、荷物をドンとテーブルに置いた冬真。一体、何が始まるのだろう。


「来る時から思ってたんだけど、何それ」

 中身は、猪瀬くんも知らないらしい。冬真はジィィィッと滑らかにファスナーを開け、意気揚々と中身を披露する。
 そこには、着替えセットや歯ブラシ、どう見てもな物が詰め込まれていた。
  
「ゆっくりするつもりって言っただろ? ほら、お泊まりセット♡ 駿の分も持ってきてるから安心して」

「俺の分····え、図々しいにも程があるでしょ」

「だーってぇ! 久しぶりだしぃ、念の為って思ってさ~」

 準備がいいなぁ、なんて感心してワクワクしたのは僕だけだったらしい。

「マジで泊まんの?」

 啓吾がゲンナリした表情かおで聞く。続けてりっくんも。

「せめて泊まっていいかの確認からしろよ。猪瀬も困ってんじゃん」

「ね、ねぇ、泊まっちゃダメなの? 客室は? あそこ使ってもらっちゃダメなの?」

「そんな泊まらせたいんかよ。聞かれて恥ずかしいっつぅんお前だろうが」

 当たり前のように、友達が泊まっていてもする気なんだ。普通はシないと思うんだけど、それこそ今更だしお互い様か。

「そ、それは····。あ、それじゃ朝までゲームとかお喋りしようよ! 1日くらいえっちしなくても死なないでしょ?」

「死なねぇけど抱きてぇ」

 即答する朔。その雄々しさに、まだ余韻の残るお尻が疼く。

「お前はさっき抱いただろうが」

 的確なツッコミを受ける朔。苛立つ八千代に、うっすら笑って『あんなので足りるか』と言った。
 本気なのか冗談なのか、確かめるのが怖いからスルーしておくけれど、兎に角お泊まりは確定だろう。あとは、えっちじゃなくて喋ったり遊んだりする方向にもっていきたい。

 とりあえず家から出よう。そう思い至って、僕と猪瀬くんでコソッと協議した結果、ダブルデートを提案してみる事にした。
 とは言っても、どこに行こうか····。

「はいはーい! 俺、遊園地いきたーい」

 冬真が元気に提案してくれた。けれど、この寒いのに遊園地だなんて、正直乗り気ではない。特に、八千代とりっくんの事を考えると室内が妥当だ。

「バカじゃないの? このクソ寒いのに遊園地なんか行きたくないよ」

 やはり。りっくんが即答する。

「俺さ、実は昨日誕生日だったんだよね。んで、俺が我儘言って駿と1日ホテルでヤッててさ、どこも行ってねぇの。けどさ、ちゃんとしたデートもしたいんだよね」

 冬真がちゃんとしたデートをしたいだなんて、とんでもない進歩じゃないか。いや、それよりもだ。とんでもない情報が飛び込んできたのだが。

「昨日誕生日だったの!? もっと早く言ってよ! お祝いしなきゃだね!」

 僕は、寒がりのりっくんと八千代を説得し、祝えなかった冬真の誕生日を祝う事にした。


 という事でやって来た遊園地。
 思ってた以上に寒い。けど、冬真は猪瀬くんを巻き込んでハイテンションのままジェットコースターへ向かう。

 僕と朔は、下からそれを見守る。つもりだったのだが、今回は怖いもの知らずな冬真が居るのだ。断るとかそれ以前の問題で、僕たちの話を全く聞かない。
 いや、聞こえないフリをして強引に引っ張られ、朔まで乗るハメになった。とても不機嫌な朔。と言うより、ビビってるのかな。
 僕が朔の隣という条件で乗り込んだのだが、朔に手を握られ僕の拳が潰れそうだ。

 先頭に座った冬真と猪瀬くん。冬真は振り向き、僕たちを見て笑う。

「あっはは! ビビりすぎじゃね? 大丈夫だってぇ。落ちる時叫ぼうな!」

「落ちるとか言ってんじゃねぇ! 死ぬだろ」

 ダメだ。朔がいつもの朔じゃない。しかし、乗り込んでしまったからには動き出す。
 発進してすぐに、カッゴッガッガッと、高い音が耳を劈く。有り得ない傾斜で最高到達点を目指している。もう降りたい。僕の拳が握り潰されないうちに。

 カタンッと一瞬の水平を取り戻した次の瞬間、朔が手を恋人繋ぎに握り直した。
 そして、轟音を響かせ急降下してゆく。僕と朔は声も出ない。前列では、冬真が楽しそうに両手を上げ『うぇ~~~い』と叫んでいた。


「朔、大丈夫?」

「本気で神谷に殺意が芽生えた」

 ジェットコースターを降り、ベンチに座って項垂れる朔。

「え、殺さないで? 超楽しかったじゃん。よし、じゃぁ次フリーホールな!」

 朔が俯いたまま眉をひそめた。これ以上は流石にマズい。そう直感した僕は、慌てて冬真を止める。

「待って冬真、僕もちょっと気分悪いから朔と一緒に待ってるよ」

「マジで? 大丈夫?」

 真に受けて心配してくれる冬真。察した猪瀬くんが、無邪気な冬真を諌めてくれる。

「嫌がってんのに無理矢理ジェットコースターに乗せるからだろ。次は俺らだけで行こ。啓吾連れてけばいいじゃん」

「俺で手ぇ打っとけみたいな言われ方、気に食わないんですけど~」

 啓吾が唇を尖らせて言う。それも含め、3人の仲の良さが伝わる。見ているとほっこりするんだよね。
 なんだかんだ言いながら、フリーホールへ向かう3人。残る僕たちは、それが見えるベンチで暖かい飲み物を飲んで待つ。

 ゆっくりと上昇していく3人を見守る。啓吾が、ずっと手を振ってくれているから目が離せない。
 てっぺんで少しの間止まる。僕なら気絶してるだろう。啓吾がスマホを持っているように見える。もし見間違いじゃないのなら、落とさなければいいのだけど。

 と思った瞬間、落下が始まる。啓吾と冬真の嬉々とした絶叫が近づいてくる。けど、それはほんの一瞬の事で、瞬きしているに啓吾たちは出発地点まで降りていた。まるで瞬間移動だ。
 朔と僕は、呆然とそれを見ていた。見ている僕たちのほうがヒュンとしたよ。

「あんなの乗って何が楽しいんだ? イカれてるだろ」

「ね。アレはどう頑張っても無理だよ」

「そうか? お前が乗んねぇから残ったけどよ、アレも気持ちイイぞ」

 あの落下を気持ちが良いと言う八千代。どう頑張っても理解できないや。聞けば、りっくんも平気らしい。
 朔なんて、八千代の発言に結構本気でイラついている。隣に座って肩を寄せると落ち着いたけれど、機嫌の悪い朔はちょっと怖いや。

「ねぇ朔、僕と一緒にあれ乗る?」

「結人と一緒だったら何でもいい··けど、俺は馬車に乗るからな」

 僕の指差す先を視線でなぞり、言葉の勢いを弱めた。そして、先手を打たれる。けれど、僕はめげない。

「えー····王子様見たいな」

「··っ、しょうがねぇな····」

「やったぁ~♡ 白馬に乗った朔、本当に王子様みたいだもんね」

 僕が喜ぶと、八千代がコーヒーの缶を少し離れたゴミ箱に投げ捨てた。バスケの選手にでもなるつもりだろうか。
 もしかして、ヤキモチを妬いているのかな。

「八千代も乗る?」

「アホか、乗らねぇわ」

「そっか。八千代の王子様も見たかったなぁ。カッコイイんだろうな····。写真、撮りたかったなぁ····」

「····はぁ、お前ンっとずりィわ··」

 八千代は僕の前に立ち、顎を人差し指に乗せて持ち上げる。顔に“しょうがねぇな”って書いてあるんだよね。

「んへへ♡ どうせなら、皆に乗ってもらおうかな。揃って王子様なところ撮りたい」

 僕が我儘を言うと、八千代の後ろから底抜けに明るい声が聞こえた。

「俺も王子やる~」

 冬真だ。手をピンと挙げながら立候補してきた。本当におバカなんだから。

「冬真は猪瀬くんの王子でしょ」

「じゃ、俺も王子様撮ろっかな」

 少しツンとした猪瀬くんが、冬真の腕をガシッと組んだ。冬真は、当たり前だろと言わんばかりに猪瀬くんを引き寄せる。

「姫は馬車へどうぞ」

 そう言って、冬真はスタスタとメリーゴーランドへ向かう。僕は、朔に腰を抱かれ馬車までエスコートされた。本当に王子様みたいで、僕たちは注目の的となった。

 僕と猪瀬くんは、同じカボチャの馬車乗せられた。その後ろへ続く白馬に皆が跨る。やっぱり、凄く絵になるなぁ。
 周囲の歓声は気にしないようにして、僕と猪瀬くんはカメラを向ける。そして、重大なミスに気づいた。

「待って、ここじゃ上手く撮れない····」

 僕が絶望感満載で言うと、猪瀬くんが名案を出してくれた。

「今は前から撮ってさ、次俺らだけ降りてもっかい乗せればいいんじゃない? そしたら色んな角度から撮れるし」

「そっか、猪瀬くん天才だね!」

 僕と猪瀬くんは、メリーゴーランドが動き出すと皆を撮りまくった。本物の王子様みたいな皆に、終始惚れ惚れしながら。
 そして、撮りながらしみじみと本音を漏らす。

「僕さ、猪瀬くんが冬真と上手くいって本当に嬉しいんだ」

「急にどうしたの?」

「今日、猪瀬くんたち見てて思ったの。会う度にどんどん仲良くなってるでしょ? 友達が幸せそうにしてるのって、嬉しいよね」

「····武居はホントに良い子だね。俺なんか、未だに武居に妬いたりするのに。まぁ、冬真がバカだからなんだけど。まんまと乗せられる俺もバカなんだよなぁ」

「それだけさ、冬真の事が好きなんだよね」

「······まぁね」

 猪瀬くんは照れて顔を赤くする。言葉にされると恥ずかしいのはよく分かる。僕も、それでよく意地悪されるもの。
 僕は、心の中で『意地悪言ってごめんね』と呟きながら、馬車の小窓から王子たちを撮り続けた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

赤ちゃんプレイの趣味が後輩にバレました

海野
BL
 赤ちゃんプレイが性癖であるという秋月祐樹は周りには一切明かさないまま店でその欲求を晴らしていた。しかしある日、後輩に店から出る所を見られてしまう。泊まらせてくれたら誰にも言わないと言われ、渋々部屋に案内したがそこで赤ちゃんのように話しかけられ…?

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

処理中です...