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3章 希う大学生編

相変わらずだね

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 旅行から帰った翌々日。お土産を渡したいから都合を聞こうと、猪瀬くんに電話をした。
 冬真も一緒だったらしく、電話を取り上げ話を進める自由さ。相変わらずだなぁ。
 結局、家の見学も兼ねて取りに来てくれる事になった。さぁ、なんだか騒々しくなりそうだ。



 午前10時。約束時間丁度にインターホンが鳴る。猪瀬くんの礼儀正しい挨拶を遮って、冬真が『やっほー』と手を振った。
 僕は、慣れない操作でもたつきながらも、どうにか門扉を開け招き入れる。

 玄関を開けて待っていると、手土産を片手に猪瀬くんが入ってきた。その後ろには、あちこちをキョロキョロと見回している冬真がついて来ている。

「お邪魔します。武居、ごめんな? また冬真が強引に····」

「大丈夫だよ、猪瀬くん。自由なのには慣れてるから」

 うちには啓吾が居るのだ。この程度の自由さは屁でもない。

「なーんか人聞き悪いんですけど~。前誘ってくれた時来れなかったから来たんじゃん? まぁとりあえず、玄関で立ち話もナンだからおっじゃましまーす」

「んへへ、どうぞ。2人が来てくれて嬉しいよ。今日はゆっくりしてってね」

「任せて。めっちゃゆっくりするつもりで来たから」

 冬真が言うと、帰るか怪しいレベルでゆっくりしそうだな。もしお泊まり会になっても、ワクワクするだけなんだけどね。
 だって、折角久しぶりに会えたのだから、ゆっくり話せるのは嬉しいんだもの。僕はソワソワしながら、2人をリビングへ案内する。

「なぁ、皆は? 武居1人なの?」

「ううん。八千代は2階で走ってる」

「「走ってる?」」

「うん、2階のジムでね、ルームランナーで激走してるよ」

 2人が来ると決まってから、なんだかイラついた様子だった八千代。冬真が関わると苛々するらしい。
 今朝は、9時頃から物凄いスピードで汗だくになって走っている。ストレスを発散しているのだろう。

「家にジムあんのかよ、すっげぇな。やっべぇ~」

「俺もビックリした。まぁ、こんだけ広かったらあっても不思議じゃないよね。で、他の皆は?」

「あはは、だよねぇ。えっとね、りっくんは洗濯物干してて、朔はちょっとだけ仕事に行くってさっき出て行っちゃったの。啓吾は──」

「「パンケーキ」」

 仲良く声が揃う2人。息ピッタリだ。それにしても、どうして分かったのだろう。

「え?」

「啓吾が今作ってんじゃねぇの? すっげイイ匂いすんだもん」

「あはは、正解。2人が来たらおやつにしようって言ってたんだ」

「おやつって····今10時だよ? 朝ご飯食べてないの?」

 猪瀬くんが、腕時計を確認して言う。あれ? 普通は朝におやつを食べないものなのかな。

「駿、結人だぜ?」

「ん? あぁ、そっかそっか。一食が多いだけじゃないんだよな」

「そ。おやつは10時と3時だよな? 高校ん時からずっと」

「うん、それが普通なんだと思ってたんだけど··。あ、ここがリビングだよ」

 僕が扉を開くと、2人は一歩踏み入れる前に固まってしまった。

「これ、マジで場野と瀬古で買ったん? 玄関から思ってたけど、えっぐいな」

「俺は外の門見た時からヤバいと思ってたよ。金持ちとは聞いてたけど、これは凄すぎるね····」

 僕も、啓吾とりっくんだって、初めてこの家を見た時は同じ様な反応をしたっけ。けれど、2人よりは朔と八千代のヤバさに慣れていた所為か、ここまでポカンとはしなかった。

「うん、そうだよね··。僕たちも慣れるまでは、ホテルに泊まりに来てるみたいで落ち着かなかったよ。流石にもう慣れたけどね」

 なんて、ほんの少し前の事なのに随分懐かしく感じる。
 とまぁ、それは落ち着いてから話すとして、立ち尽くしている2人をリビングへ通す。すると、キッチンから啓吾が出てきた。

「おー、お前ら来たん? 久しぶり~。丁度パンケーキ焼けたわ」

「おー、ナイスタイミン····わー、何そのエプロン」

「ぶはっ! なんそれダッサ~」

 青のギンガムチェックに大きなひよこの、僕たちは見慣れたエプロンだ。

「えー、可愛いだろ? 結人がくれたんだよ」

 2人はバッと僕を見る。大丈夫、拗ねたりしないよ。

「アレね、お祭りの時に僕がくじで引いたやつなんだ。啓吾にしか着こなせないと思ってあげたの」

「「あ~」」

 2人は納得した様子で、改めてもう一度啓吾を見て笑った。

「もう莉久と朔に散々笑われたから今更だわ。ほら、テキトーに座れよ。結人の腹の虫が絶叫しだす頃だからな、早く食おうぜ」

 気にしていないような口振りだけど、少しツンとした態度でキッチンへ戻る啓吾。僕は運ぶのを手伝おうと、その後ろをついて行く。

「こっちはいーよ。冬真に手伝わせるから。結人は莉久と場野呼んできて」

「えぇ··冬真もお客さんだよ?」

「いーのいーの。アイツを客とは認めない」

 相変わらず、啓吾は冬真にだけ態度が厳しい。似た者同士だからだろうか。

「酷い言われようだな。いいよ結人、俺手伝うから呼んどいで」

「俺も手伝うから大丈夫だよ」

 猪瀬くんまで。2人とも、なんだかんだ優しいんだから。と言うか、2人まで僕に甘い気がするんだよね。僕の思い過ごしならいいんだけど。


 僕は、八千代とりっくんを呼びに行く。八千代はシャワーを浴びてから行くといい、りっくんは丁度干し終わったところだったので、一緒にリビングへ向かう。
 リビングへ戻ると、おやつの支度がすっかり完了していて、あとは席に着くだけだった。僕は、八千代が戻るのを待つ間に、2人へお土産を渡す。

「おわぁ····。なぁ、お土産ってこんなに貰っていいもんなの?」

 冬真は、猪瀬くんを見て確かめるように聞く。

「えー····まぁ、くれるって言うならいいんじゃないの? にしてもすごい量だね」

 美味しそうだったお菓子が数種類と、その地域限定の調味料、現地のゆるキャラのキーホルダー、それに、凄く着心地が良かった旅館の浴衣も。良いなと思ったものを買っていたら、気がつくと大きな紙袋が必要な量になっていた。
 母さん達や皆の家族にもお届けしたんだけど、どこでも同じ事を言われたんだよね。お土産選びって難しいや。

 そう説明すると、2人は僕らしいと笑ってくれた。そして、遠慮なく受け取ってくれる。
 お土産を見て嬉しそうな顔を見せてもらえれば、僕はそれで満足だ。

 そうこうしていると、ほこほこの八千代が戻ってきた。走ったからなのかシャワーで温まったからなのか、上半身裸で湯気立っている。
 首からタオルを掛け、黒のジャージを緩く腰パンしていて目に毒だ。色気と熱っぽさに身体が反応してしまう。

「八千代、ちゃんと服着てよ」

あちぃんだよ。ぁんだ? 抱いてほしくなったんか?」 

「ちっ、違うもん、八千代のばぁぁか! ハレンチ! 服着るまで座っちゃダメだよ。早くしないと先にパンケーキ食べちゃうからね!」

「ははっ、相変わらずだねぇ。結人はまだ照れたりすんの? かーわい~」

「猪瀬くんは照れないの?」

 僕は少しだけ素っ気なく、お土産を物色しながら笑う冬真に聞いてみた。

「うちの駿哉くんも照れまくるよ。それはもう結人に負けないくらい」

「ちょ、やめろよ冬真。俺、流石に武居ほどは照れないだろ」

 おっと、これは聞き捨てならない。

「冬真、なんかして猪瀬くん照れさせて」

 冬真に無茶振りをして猪瀬くんを巻き込む。だって、なんだか悔しかったんだもん。

 冬真は、仕方ないなぁと溜め息を吐き、向かい合って猪瀬くんの腰を抱き寄せた。そして、顎クイをして『えっちなちゅー見せてやろっか』と言う。
 猪瀬くんは、真っ赤になって反応に困っている。ほら、僕と同じじゃないか。

 冬真は容赦なくキスをして舌を絡めてしまう。本当にシなくてもいいんだけどな····。と思いながらも、照れて胸をパシパシ叩く猪瀬くんを、可愛いなぁと見て和む。

「んーっ··、んっ、は··」

 満足した冬真が唇を離すと、トロッと脱力した猪瀬くんを支えた。前よりも随分、蕩けやすくなったようだ。

「どう? まだ結人ほどじゃねぇけど、俺の駿もイイ感じに仕上がってきてんの♡」

「はいはい、ラブラブなん分かったからいい加減食おうぜ? 場野も服着たんなら座れよ」

「ホント、他人ひとん家来て何してくれてんだよってね。ゆいぴもけしかけないの。お腹減ってるんでしょ? お土産も後にして食べようよ」

 僕と冬真は満足気に席に着き、猪瀬くんはまだ顔を赤らめたまま冬真の隣に座った。さて、お待ちかねのパンケーキを頬張る。
 ふわふわのパンケーキに、たっぷりかけられたメープルシロップが唇に乗った。バターの塩味と合わさって、絶妙な甘さが口いっぱいに広がる。
 冬真と猪瀬くんも、お店で出せるレベルだと絶賛していた。啓吾が作ってくれたものなのに、何故だか僕のほうが鼻高々になってしまう。


 お互いの近況報告や旅行の土産話に花を咲かせていると、朔が帰ってきた。丁度お昼だったので、八千代が食べたいと言い出したピザをデリバリーする事に。

 これはマズイな。流れでピザを頼んでしまったが、もしかしてあのパターンじゃないのかな。
 僕と猪瀬くんは顔を見合わせ、そっと席を立とうとした。

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