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3章 希う大学生編
少し寄り道
しおりを挟む上影組は、僕たちが帰り支度をしてる時に挨拶に来て、一足先にバスで帰っていった。僕たちはまた、ドライブしながら帰るんだ。
りっくんの運転、正直ちょっと怖いんだけど大丈夫かな。
「りっくん、今日はよそ見しないでね」
「雪積もってるからな。油断したらマジで事故るぞ。今日は真面目に運転しろよ」
「ちょ、朔まで何? いつも真面目にしてるよ! ゆいぴが可愛いから、つい見ちゃうだけでしょ。流石に今日はチラ見もしないから大丈夫だよ」
信用して大丈夫だろうか。僕、後部座席に乗ったほうがいいんじゃないかな。
なんて言うと、りっくんが泣きそうな顔でそれだけは嫌だとゴネた。
絶対にチラ見もしないという約束で、僕は助手席に乗せられる。僕の命がかかっているのだから、きっと大丈夫。うん、大丈夫····だよね。
不安だったのも束の間、りっくんは約束通り真面目に運転している。チラ見しない代わりに、僕が喋るという条件で。
僕の存在を感じると落ち着くらしい。それで安全運転してもらえるのなら、お易い御用だ。
僕は、旅の思い出を振り返る。と言っても、大半がえっちな思い出だ。恥ずかしくて語れやしない。
僕が口篭ると、後ろから啓吾があーだこーだとえっちな事ばかり言う。照れて何も言えなくなった僕に、りっくんが『それで、その時ゆいぴは気持ち良かったの?』と聞いて『うん』と言わせる。意地悪だ。
早く、朔と交代するパーキングエリアに着かないかな。まだ高速に乗ったばかりなのに、僕はそんな事ばかり考えていた。
なんだか悔しくなってきて、チラッとりっくんを見る。運転してる横顔や仕草、全部がカッコイイ。やっぱり、りっくんの助手席にもう少し乗っていたいな。そう思う僕は単純だ。
皆、一様にカッコイイんだけどね。普段とは雰囲気が違うと言うか、いつも以上に大人っぽく見える。僕も、大人になったら皆みたいになれるかな。せめて、運転させてもらえるくらいには、なれたらいいな····。
ふと気づくと、パーキングエリアに着いていた。いつの間にか眠っていたようだ。
「ゆいぴ、おはよ」
りっくんのキスで目が覚めた。柔らかい唇が、ふにっと何度も重なる。
「ふ··ぅ····ハッ··ごめっ、寝て····あ! りっくんが運転してるところ、あんまり見てない····どうしよ····」
「あっはは、ゆいぴ寝ぼけてるの? かーわい~♡ またいつでも見せてあげるから大丈夫だよ」
そう言って、りっくんはもう一度キスをしながらシートベルトを外してくれた。
美味しそうな鰻屋さんがあったので、そこで少し早めのお昼ご飯を食べる。このパーキングエリアの名物らしい。
寝ていただけなのにお腹がペコペコな僕。とは裏腹に、朝食で満腹になっていた皆は少食ぎみだ。
気にせず食べろと言われ、絶品御膳をペロリと平らげた。朔なんてコーヒーしか飲んでないのに。
「朔、ホントに食べないの? これ、鰻美味しいよ? あ、一口だけなら食べれる?」
「ん゙··ふふ····じゃぁ一口だけ」
そう言って口を開けて待つ朔に、僕は満面の笑みであーんをする。僕の勧めで食べる気になってくれたのだ。それはもう、嬉しいじゃないか。
「お、美味いな」
予想以上の美味しさだったらしく、朔は驚いたように言った。その顔が、カッコイイのに可愛くて、心臓がキュッと締めつけられる。
「でしょ? 注文する?」
「いや、本当に腹は減ってねぇんだ。腹苦しいと運転中に眠くなっても困るしな」
そうか、皆は僕と違ってあれこれ考えながら行動してくれているんだよね。そう考えると、僕ってバカみたいに本能のまま生きていているんだ。なんだか、申し訳ないや。
「ごめんね。僕が上手に運転できたら、朔もお腹いっぱい食べれたのに····」
己の不甲斐なさに涙が滲む。けれど、八千代がその涙を引っ込めてくれた。
「お前なぁ、いい加減にしろよ」
「··はぇ?」
「お前を助手席に乗せてぇって我儘言ってんのは俺らだろうが」
「そ、それは、僕の運転が下手だから、そう言ってくれたんでしょ?」
行きに聞いたあれが、嘘だとは思っていない。けれど、正直まだ、僕への気遣いだったんだとも思っている。
「は? 違ぇわ。まだンな事思ってたんか。····はぁ。あんな、俺らマジで道中もデートだと思ってんだよ。ただの移動時間だとか思ってねぇかんな」
「デート····」
「嫁を助手席に乗せたいんだって言っただろ? カッコよく運転してるとこ見せたいんだよね~。それは結人でも邪魔させねぇよ? 俺ら、超ワガママだから♡」
啓吾がおどけて言う。これは、僕を気遣ってとかじゃなく、きっと本心なのだろう。啓吾が言うと、本当にそう思えてしまう。
僕はまた、それに甘えるしかないんだ。
皆に勧められるままたらふく食べ、また睡魔に襲われる。学習しないなぁ。なんて思いながら、美味しそうなお菓子が沢山あったのでお土産に追加し、景色を堪能してから車へ戻る。
帰りに、ちょっとした観光スポットがあるので立ち寄る事にした。ルートを確認し、いざ出発。
なんだけど、なんで皆、僕のシートベルトを締めてくれるのだろう。自分でできるんだけどな。それに、近いからドキドキしちゃうんだよね。
走り始めて数分。良いお天気だから、お日様が当たるとポカポカして心地良い。
けれど、太陽に向かって走っているから少し眩しい。
「結人、眩しくねぇ··か──ぶはっ」
僕を見たのだろう、朔が吹き出した。僕が、眩しくて目をギュッと瞑っているからかな。
「え、なに? さっくん笑ってないで運転集中して怖い!」
「ふ、ははっ、だって結人が··しわくちゃで····」
「え~なにそれ~」
おそらく啓吾だろう。わざわざ身を乗り出してきて僕を見る。これまた吹き出し、『可愛い~』と騒いで頬をつつかれた。
直後に、シャッター音が聞こえる。
「えっ、やだ! 変な顔撮らないでよぉ!」
「ぶっはは! めっちゃ可愛い。ギューッてなってる」
「んわ♡ ゆいぴ可愛すぎだよぉ。ヤッバい、今すぐ抱き締めたい」
「ふはっ··確かにクソ可愛いな。啓吾、それちゃんと送っとけよ」
「もち。つか旅行中の写真とかさ、凜人さんに送ったら編集してくれんだろ? マジで助かるよな」
「あー、なんか旅行行く前に言ってたね。いつものあれでしょ? 朔吸い上げるついで」
「あぁ、それ許さねぇと旅行について来るつってたからな。今回も渋々許した。何言っても無駄だろうしな」
「朔も大変だねぇ。て言うかねぇ、変な顔の写真残さないでね? やだよ、後で皆で笑う気でしょ」
「笑わねぇよ、たぶん。俺らはどんな結人でも残しときたいの! だから消さなーい」
「えぇ~····」
隠し持たれるよりいい··のだろうか。まぁ、今更変顔くらいで嫌われるとは思ってないけど、やっぱり恥ずかしいよね。
僕が小さく唸っていると、朔が何かを思い出したらしい。
「お、忘れてた。わりぃ。······結人、目開けてみろ。もう眩しくねぇぞ」
朔にそう言われ、恐る恐る目を開ける。サンバイザーを下ろしてくれたらしい。本当に眩しくないや。
「朔はあれだねぇ、運転席に座っても王子様みたいだねぇ」
「そうか? ふっ··寝てていいぞ」
「もう、なんで笑うの? 眠くないもん····。僕ね、朔が運転してるの見てたいんだぁ。りっくんの時は寝ちゃって··あんまり見れなかったから····」
「暖かいもんな。腹いっぱいだし騒いだし、今すげぇ気持ちいいんだろ。着く前に起こしてやるから、少しだけ寝てろ」
そんなに甘やかされちゃ、どんどんダメになっていくじゃないか。そんなの嫌なのに、朔の声は耳触りが良くて心地好くて、意思に反して瞼が落ちていった。
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