ちっこい僕は不良の場野くんのどストライクらしい

よつば 綴

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3章 希う大学生編

皆の本心

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 爆弾発言をかました事に気づいていない様子の窪くん。呆れた様子の上影組とは裏腹に、警戒心MAXで敵視している旦那様方。
 海老名くんが、慌てて場を取り繕ってくれる。

「や~ホントごめんね。窪ってマジでバカでさぁ、頭空っぽで発言しちゃうんだよ」

「誰がバカだよ。俺バカじゃねぇもん。海人だって結人くん可愛いと思うだろ!? それに超エロいし! 抱いてみたいと思うのは男のサガじゃん!」

「もうお前黙ってろ。本当に自分の言ってる事が分かってないのか。そんなだからバカだって言われるんだ。もっと考えて発言しろ。自分の嫁を抱いてみたいとか言われて気分の良い旦那が居るわけないだろ、バカ。あと場所を考えて発言しろ、バカ」

 永峰くんが、ほとんど息継ぎなしで静かに吐ききった。

「バカバカ言うな! おうちんのバーカバーッカ! ····ん? ····あぁっ! そういう事か! うわ、ごめん! マジでそんなつもりじゃなくて、結人くんのコト褒めたかっただけで····抱きたいとか、本気で思ってないです····」

 しょぼんと耳を垂らした仔犬のようにヘコむ窪くん。どこかでよく見る光景だ。

「あっはは! ねぇ、窪くんってやっぱり啓吾に似てるよね」

「ホントそっくり。思った事ポンポン考え無しで言っちゃう辺りとか特にね」

「俺ここまで酷くねぇと思うんだけど。もうちょい空気読めるよ?」

「いや、回転の悪さで言うと似たり寄ったりだぞ」

「ねぇ、これって俺も啓吾くんと一緒にディスられてんの?」

「自業自得だな。日頃から散々注意してるのにこのザマだ。もっと罵られて反省しろ」

「旺ちんドS過ぎんだろ~」

 場の空気は一瞬にして和んだ。本気で怒れない所にも、啓吾と似た性質を感じる。
 けれど、八千代だけは油断できないといった表情かおで、言葉を発することなくコーヒーを啜っていた。

 窪くんは、店を出てからも旅館に着くまで謝り続けていた。気にしなくていいと言っても、気が済まないらしい。
 それならばと、お風呂上がりにコーヒー牛乳を奢ってもらう事でケリをつけた。


 しんしんと降り続く雪の中、また皆で揃って温泉に入る。僕たち以外にお客さんが居ないのか、誰ともすれ違うことはなかった。
 貸切みたいで、のびのびと入浴できていいや。

 もう知れた仲だからと、遠慮なしにイチャつく八千代。警戒心が解ききれないのか、僕を胡座に収めて浸かる。
 ワイワイ楽しく喋っていると、八千代が僕の耳元でコソッと話す。

「お前、浮気すんじゃねぇぞ」

「え? す、するわけないでしょ」

「どーだか。啓吾に似てるとか言って、襲われたら抵抗できねぇんじゃねぇの? それとも期待してんのか? また俺らの目盗んで、他の男に抱かれんのかよ」

 カッとなった僕は、ザバッと立ち上がった。皆の視線が一斉に僕へ向く。そんな事には構わず、僕は八千代の頬をぶった。

「うぇぇっ!? なっ、結人どした!?」

「八千代のバカッ! なんてこと言うの!? そんなこと言う八千代なんて大っ嫌い!!」

 僕はその場から逃げ出した。りっくんが追いかけてきたけど、1人にしてほしいと言って手を振りほどいた。


「なんでついて来るの!? 1人にしてって言ったでしょ!」

 部屋までついて来たりっくんに当たり散らす。
 だって、部屋に入るなり壁ドンで追い込まれて、強引に顎クイしてくるんだもん。そんな気分じゃないのに!

「ゆいぴを1人にはできないから。大丈夫とか言われても、俺がしたくない。て言うか、そんな浴衣羽織っただけのゆいぴを1人でウロつかせれるわけないでしょ! ····ねぇ、場野に何言われたの?」

 格好つけたかと思えば怒り出して、急に静かになるんだ。そうして、目まぐるしくコロコロと表情を変えるりっくんを見ていると、情緒が不安定過ぎて心配になる。
 それはさて置き、気持ちの整理ができない僕は、八千代に言われたまんまを伝えた。すると、りっくんは大きな溜め息を吐いて、側頭部を掻き乱して言う。

「アイツ、ホンットにバカだよね。どんだけ嫉妬深いんだよ····。ゆいぴ煽っても伝わるわけないじゃん」

「あお··、へ? 八千代が僕を煽ったの? いつ?」

「だーっ、ほら、微塵も伝わってない。あのねゆいぴ、ヤキモチを妬きまくった場野はゆいぴに八つ当たりをしました。いつもみたいに、可愛くほっぺ膨らませて『そんなわけないでしょ!』とか言うゆいぴに、『ならここで窪を誘わないように耐えろよ』とか言ってえっちぃ意地悪をしようと企んでいました」

「なんで昔話みたいなの?」

「ゆいぴに分かり易いようにね。しかし、存外嫉妬に狂って頭に血が昇っていた場野は言葉のチョイスを完全に間違え、ゆいぴを怒らせてしまいましたとさ。で、今ここね」

 なるほど、僕を試したかったのか。それにしたって、到底許せる発言じゃない。嫉妬深いにも程があるよ。

 僕は、りっくんに浴衣を整えてもらい、旅館の中庭に出て少し頭を冷やす事にした。

「ゆいぴ、寒くない?」

「うん、大丈夫。····僕、八千代に大っ嫌いって言っちゃった。どうしよう、カッとなっただけなのに··、嫌いになんてなってないのに····」

 少し気持ちが鎮まると、八千代が離れていってしまうのではいかと怖くなり、涙がボロボロと零れ落ちる。だけど、まだそれを素直に謝れるほど気持ちの整理がついていない。
 それ程、八千代の言葉が辛かった。特に、最後の一言が。が言わせてしまった言葉なのだろう。

「100%場野が悪いんだし、それくらい言われたってしょうがないんじゃない? それに、焦ってんのは場野のほうだと思うよ。ゆいぴは至極真っ当に怒っただけ。だから気にしなくていいよ」

「でも····」

「そんくらいで離れるんなら離れればいいよ」

 そう言いながら、りっくんは大きな木に僕を追い込む。そして、さっきよりも至近距離で顎クイをして、そっと唇を重ねた。

「ゆいぴには俺が居るでしょ。場野の事なんて、俺が忘れさせてあげる」

 そう言って、もう一度唇を合わせる。僕の頬を包み持って、舌を絡め僕を堕そうと熱を分け合う。甘く激しく、昂ったりっくんの熱い舌が、僕の口内を深く犯してゆく。
 耳を塞いで、くちゅくちゅと唾液が混じり合う音を響かせるりっくん。吐息の音に、腰がビクビクと反応してしまう。
 僕がこんなにもチョロいから、八千代が過剰に妬いてしまうのだろう。それは分かっている。けれど、そう仕込んだのは八千代を含め皆なのだ。
 僕は悪くない。そう、悪くないもん····。

「ん、はぁ····ゆいぴ、もっと俺に集中して。その可愛い涙目で、俺のことだけ見ててよ」

 何度も何度もキスをして、息継ぎの度に見つめ合っては、また吸い込まれるようにキスをして舌を求め合う。
 りっくんも妬いていたのだろうか。いつもより、熱を帯びた瞳が潤んで見える。激しいキスで、その心を隠しているみたいだ。

 どのくらい、そうしていたのだろう。僕たちを探しに来た啓吾が、キスをやめるまで待って声を掛けてきた。

「落ち着いた? 場野が待ってるよ。謝りたいって」

 ツンとした表情の啓吾。なんだか、啓吾も様子がおかしい。

 僕がりっくんに手を引かれ、木から背中を離した瞬間だった。啓吾が僕の肩をガッと持ち、反対の手でりっくんを押し退けながら僕を木へドンッと押しつける。

「ひゃぁっ····」

 そして、後頭部の髪を掴んで顔を上げさせると、とても激しいキスで口を塞がれた。唇も舌も貪り食べるような、キスと呼べるのか怪しい行為。
 あまりの激しさに、僕は腰が抜けてしまった。

「妬いてんの場野だけじゃねぇかんな。アイツの言った事はひでぇけど、気持ちは分かるわ」

 そう言葉を吐き捨てて、また僕を貪る啓吾。一頻ひとしきり僕を食べ尽くすと、『流石にここで犯すんは我慢してあげんね』と言って、僕を手放した。
 腰が抜けたままの僕は、ずるずると木に背を預けながらへたり込んだ。

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