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3章 希う大学生編
仲良く····ね
しおりを挟む痴態を見られた挙句、部屋にまでついて来た上影大の人達。僕たちの関係や行為に興味津々で話を聞きたいらしい。勘弁してよぉ····。
何よりも止めたかったのは、寝ていると言っていた永峰くんを態々呼びに行った倉重くん。止める間もなく走って行ってしまった。
ぽっちゃりした体型の割に、動きが凄く機敏だ。
海老名くんと窪くんが、僕をジロジロと見てくる。恥ずかしくてモジモジしていると、朔が僕を抱き寄せて胡座に収めた。
「結人くん? が可愛いのは認めるけどさ。男同士でその距離感すげぇね。まぁヤッてたくらいだから今更か。んでアンタらさ、付き合ってんの?」
窪くんがニヤニヤしながら聞いてくる。怠そうに溜め息を吐く朔。照れて何も言えない僕は、俯いて朔の手をにぎにぎする。
そんな僕に代わり、朔が答えてくれた。
「付き合ってるっつぅか同棲してる」
「「同棲····」」
2人は声を揃えて驚きを隠さない。そりゃそうだ。驚かせる要素しか持ち合わせていない自覚はある。
興味が尽きない窪くんは、何故か僕に質問を投げ続ける。
「全員一緒に住んでんの?」
まっすぐ僕を見つめて質問してくるものだから、答えないのは申し訳ない気がしてきた。ので、何とか声を絞り出して答える。
「····うん」
「4対1? すげぇね。え、全員マジでちゃんと好きなの?」
「うん」
「誰が特に好きとかあんの?」
「····皆、同じくらい好き」
「へぇ~。元々男が好きとかだったの?」
「ううん」
「マジでか。それで4人相手とかすげぇね。初めてん時とか怖くなかった?」
「こ、怖かったよ。でも、気づいたら終わってて····」
「ねぇ、毎日ヤッてんの? ケツ大丈夫なん?」
「··ふぇ····お尻は、その····」
「おい、いい加減にしろ。そんな根掘り葉掘り聞いてどうすんだ」
朔が、僕を隠すように抱き締め、圧をかけて怒涛の質問責めを終わらせてくれた。勢いに圧倒され答えていたが、恥ずかしさで泣き出してしまいそうだったのだ。本当に助かった。
流石に、初対面の人達の前で泣いてしまうのは情けないもんね。僕だって男だ。それくらいの自尊心は捨てきれない。
まぁ、お風呂でぐずぐずに泣いてるところを見られたけど、あれは数に入れないでおこう。
「あー、ごめん。コイツ、好奇心すげぇんだよ。んでエロい話好きすぎてさ。女子にも引かれまくりなの。加減できねぇんだよ、バカだから」
海老名くんが、しゅんとする窪くんを親指で指差して言う。なんだか既視感があると思ったら、窪くんの人懐っこさと言うか軽さが啓吾っぽいんだ。
けど、容姿は全然似ていなくて、窪くんはピンク頭でぱっちり垂れ目の可愛い系。距離感がバグっているみたいで、初対面でも遠慮なしにグイグイくるタイプだ。
注意されるまで暴走するが、ちゃんと反省はするらしい。反省しているようでしていない啓吾より偉いじゃないか。
なんて思い、啓吾をチラッと見たらニコッとイイ笑顔をくれた。罪悪感で胸がキュッとする。
「誰がバカだよ! けど、ごめんな。俺よく距離感間違えてドン引かれんだよね」
「だ、大丈夫だよ。ちょっとビックリしただけだから」
僕は精一杯怯えていないフリをして、困り顔の窪くんに視線を送る。すると、今度は海老名くんが攻めてきた。
「結人くんて可愛いよね。彼氏が夢中になんの分かるわ」
それはどういう意味だろう。“可愛い”と言われ、僕が複雑な顔をすると、海老名くんは取り繕うように訂正した。
「あぁ、ごめん。可愛いとか言われてもだよな。ほら、窪もそうなんだけどさ、構いたくなるタイプって言うか、放っとけねぇって感じ?」
警戒心を顕にしている皆に気付いたのか、海老名くんは慌てて弁明を続ける。朔の、僕を抱える手に力がこもって肩が痛い。
「だからさ、あんま警戒しないでよ。俺ら別に、結人くんをとって食おうとか思ってないしさ」
「えー、でも俺、結人くんならイけるかも~」
全く空気を読まない窪くん。海老名くんは『バカかよ····』と漏らし、目を覆って項垂れてしまった。
「コイツに手ぇ出したら殺すからな」
すかさず、八千代が牽制する。そこへ、タイミング悪く倉重くんが永峰くんを連れて戻ってきた。
空気の重さにたじろぐ倉重くん。何事かと、倉重くんが海老名くんに状況説明を求める。そして、聞くなり窪くんの失態を詫びてくれた。
皆、悪い人ではないのだろうという事は分かった。だから、来て早々で悪いんだけど、もう部屋に帰ってくれないかなぁ····。
起こされて不機嫌なのか、永峰くんがムスッとした表情で僕を見る。眉間に皺を寄せ、目が切れ長で鋭いから少し怖い。
「なんで俺起こされたの? なに? 今からこのヤリマン犯すの? 夕方も風呂でヤッてた奴らだろ? ビッチのゆるマンとかイケなさそうなんだけど。····ふあぁぁ······部屋戻っていい?」
この爆弾発言に、場の空気は凍りついた。キレる寸前の旦那様方と、やらかした感満載の上影組。
永峰くんに悪気はないのかもしれないが、僕はもう色々と限界だった。
涙目で永峰くんから視線を逸らすと、舌打ちをかました後に冷たい言葉を突き刺された。
「女ってさぁ、泣けば守ってもらえると思ってんのが嫌い。俺さぁ、後ろのデカいのに脅されたのすげぇムカついてんだよね。お前らもなに仲良くなってんの? 有り得ないんだけど」
「ちょ、永峰待てって。コイツらそういうんじゃないんだって。それに、女じゃ──」
永峰くんの肩に置いた倉重くんの手を、バシッと払った永峰くん。聞く耳持たずで、部屋を出て行ってしまった。
その場を取り繕うように、窪くんがパンッと手を叩き合わせて謝ってくれる。
「マジでごめん! アイツ寝起き最悪なんだよ」
「なんでそんな人わざわざ呼んできたの····。ゆいぴのこと好き放題言いやがって。不機嫌じゃ許されないでしょアレ」
「「「ゆいぴ····?」」」
3人がキョトンとしている。無理もない。よもや当たり前になっている呼び名だが、初対面の人には衝撃のあだ名だろう。
りっくんと僕の関係を含め説明すると、納得と同時に若干引いていた。男子大学生に似つかわしくない可愛らしさなのだから、そう、無理もない。
「まぁ、結人くんなら違和感ないよね」
と、窪くんからとんでも発言が飛び出した。
「でしょ!? 可愛いゆいぴにピッタリなんだよ。ゆいぴは幼稚園の頃からさぁ──」
りっくんの僕語りが始まり、暫く黙って聞かされる3人。見かねた啓吾が、りっくんの語りを遮る。
「莉久、長ぇしキモい。つぅか永峰だっけ? 放っておいていいの?」
「いーよ。アイツ、機嫌悪い時どんだけ構っても悪化するだけだから」
窪くんが頭の後ろで手を組んで言う。なんだか慣れているみたいだ。聞くところによると、窪くんと永峰くんは中学からの付き合いらしい。
他はサークルで出会ったんだとか。それぞれタイプは違うけれど、窪くんを中心にあれよあれよと仲良くなったそうだ。
「俺、初めて寝起きのアイツに絡まれた時、ムカついて突っかかっていったらめっちゃボコられたんだよね」
海老名くんが永峰くんのヤバさを話し始めた。
女の子が嫌いで、とにかく冷たいらしい。こと、女の子が大好きな窪くんには、しょっちゅう苛ついているのだとか。
普段、仲間内では悪態をつくこともなく、至って普通のクールな好青年らしいのだが、全くイメージが湧かない。けど、あんなに態度が悪いのは、本当に寝起きだけなんだろうだ。
永峰くんは、小学生の頃にボクシングをやっていたらしく、その名残で手が出ると容易に抑えられないとも言っていた。豹変とはまさにって感じらしい。
聞けば聞くほど、永峰くんのイメージが悪くなる。窪くんと倉重くんが必死にフォローするが、怖いイメージは全くと言っていいほど払拭できていない。
けれど、それでも皆が仲良しなのは分かった。海老名くんも、怖い所はあるけど良い奴だと言っていたし、寝起きじゃない時にお話してみたいな。僕が女だって誤解も解いておきたい。
と思っていたら、明日の日中、一緒に温泉街で遊ぼうと窪くんから誘われた。が、八千代が即答で断った。
「永峰くんが嫌がると思うよ。僕のこと、あんまり好きじゃないみたいだし····」
「誤解してるだけだってぇ。結人くん超良い子じゃん? 旺ちんも知ったら絶対仲良くなれるって!」
旺ちんとは永峰くんの事だ。旺介だから“旺ちん”なんだって。
僕は、窪くんの押しに負けて一緒に遊ぶ約束を取りつけてしまった。上影組が部屋に戻ってから、皆には白い目で見られたが、押しに弱い僕に慣れているのか諦めも早かった。
気がつけば夜中の3時。明日も沢山遊べるようにと、僕はりっくんに寝かしつけられた。朝までえっちでも良かったんだけどな····。
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