259 / 386
3章 希う大学生編
お邪魔します
しおりを挟むぐしょぐしょになっていた全身を綺麗にしてもらい、朔とゆっくり湯船に浸かる。最中の激しさが嘘のように、穏やかでゆるっとしている朔。
「大畠は思い込みで突っ走るの、いい加減直さねぇとな。結人も災難だったな」
「ううん。僕の伝え方も中途半端だったから····。尾行に付き合わされた朔と八千代も大変だったよね。巻き込んでごめんね」
「結構面白かったから気にしなくていいぞ。まぁ、今回一番被害被ってたのは莉久だな」
「あはは、そうだね」
朔にもたれ掛かり、心まで溶けそうなほどリラックスする。朔と2人きりだと凄く和む。これは朔だけの空気感だ。
「あっ!」
「おっ··、どうした?」
朔をビクッとさせてしまった。そして、思い出した内容がアレなので、口ごもってしまう。
「や、えっと、驚かせてごめんね。たいした事じゃないんだけど····。なんか泡立った··その····えっと、せ、精液を、ね、後で見せてくれるって····。けど、見てないなぁって······」
「あぁ、忘れてたな。あんなの、いつでも見せてやれるから気にしなくていいぞ」
「え、そうなの?」
なんだ、そういうものなのか。それなら焦る必要はないや。そろそろ帰らなくちゃいけないからと、少し慌ててしまった。
けど、啓吾の話だと、それを見るには皆に沢山出してもらって、いっぱい掻き混ぜてもらわなくちゃいけないんじゃないのかな。
····あれ? それってつまり······。まぁ、いいや。沢山気持ち良くシてもらえるのなら、あまり心配しなくてもいいかな。
考えるのを諦めた僕は、この空気に絆され本心を漏らしてしまった。あんまり言わないほうがいいと思ってたんだけど、さっき我儘を言った勢いで、もう少しだけ本音が溢れてしまったんだ。
「朔と八千代とね、学校で一緒に居れないの寂しいんだぁ」
僕は、朔の腕に頭を預けて言った。責めるつもりではなく、ただ素直な気持ちを聞いてほしかったんだと思う。けれど、言った相手が朔だから、凄く気にしちゃうんだよね。
「そうなのか? 大畠と莉久だけじゃ寂しいのか?」
「高校の時はずーっと皆一緒だったからかなぁ。揃ってないと変な感じなんだよね」
「そうか····」
「あ、違うよ! だからって四六時中離れないでとか、これ以上我儘言いたいんじゃないんだ」
困らせたいわけではない。ただ、朔と八千代と居ない時間が平気だとは思われたくなかった。
それを伝えると、朔は『そんな可愛い我儘で困るわけないだろ』と嬉しそうに笑った。
りっくんに髪を乾かしてもらい、朔と3人で帰路につく。2人は穏やかに見えるが、内心、今回の騒動を全面的に許したわけではなさそうだ。
りっくんが、僕の手を握ってブンブン振り回す。まるで、ご機嫌な啓吾のように。けれど、唇は尖っていて、とてもじゃないがご機嫌には見えない。
「ゆいぴは啓吾に甘いんだよ。あんなアホなのに」
「アホだからじゃないのか?」
「あぁ、諦めてる的な?」
「違うよぅ。勘違いだったんだし、ちゃんと謝ってくれるし、それに····」
「「それに?」」
「あんなに可愛く謝られたら怒れないよ····」
2人はゲンナリした顔で、特大の溜め息を吐いた。やはり僕は甘いのだと、朔にまで言われてしまった。
だけど、皆だって僕に甘いじゃないか。『おあいこでしょ』と言うと、2人は僕の頬にキスをした。
「お前は可愛いからいいんだ」
「愛されてるなぁって感じはするけどね」
で、なんで今キスをされたのだろう。まったく、外なのにな····。
かくして、初日から“僕離れ”は失敗に終わった······かのように思われた。
翌日、お昼ご飯を食べながら例の話をぶり返す。
「なぁ、昨日の話なんだったわけ? もうそれ辞めるんじゃなかった?」
「辞めるとは言ってないし、負けたとも言ってないでしょ。男の子とだったら遊んでおいでよって言ったじゃない。それにね······ほら!」
僕は、冬真から来たメッセージを、印籠の様に見せつけた。そこには、啓吾が遊ぶのを120%断ってくるという内容のメッセージが、長々と愚痴を添えて送られてきていたのだ。
「これね、結構前に来てたんだけど····え、なんで笑ってるの?」
文末までスクロールしたら、皆が笑い始めた。面白い事なんか書いてあったかな。
「ゆいぴ、返事····」
「返事?」
「お前、ンなダラダラ長文送りつけられて『だよね』だけって、神谷怒ってんじゃねぇか」
そうなのだ。文字を打つのが苦手だから、端的に共感したつもりだったのだが、“だけ!? ”から始まりクレーム同様のさらに長い文が送られてきたのだ。勿論、標的を僕に変えて。
「んでお前これ、返事してねぇのな」
「めんどくさくなっちゃって····。読んでる途中で寝ちゃったの。それから返事するの忘れてた····」
このメッセージが来たのは約半月前。そろそろ、猪瀬くんと共に突撃してくるんじゃないかな。
という予感は見事に的中した。
「ごめんな。止めたんだけど、久しぶりにお前らと遊びたいって聞かなくてさぁ····」
お昼過ぎ、ファミレスに呼び出され、席に着くなり猪瀬くんが疲れきった顔で言った。
きっと、一生懸命止めてくれたのだろう。冬真相手に、大変だっただろうな。
「いいよ。けど久しぶりって、先月会ったよね? 冬真、バイト始めたって言ってたし、忙しいんじゃないの?」
「結人が返事くれないからだろ。無視されたのショックだったんだけど~」
冬真が面倒くさい絡み方をしてくる。啓吾はバイトに行って居ないし、八千代と朔はまだ学校だ。今日は、りっくんと2人で会いに来ている。
という事はだ。りっくんは、啓吾の様には助けてくれないから、冬真の相手は自分でしなくちゃならない。猪瀬くんも半ば諦めモードだし、仕方がないから黙って一通りの文句を聞く。
聞き終えたら、今度は僕が昨日の出来事を愚痴った。冬真は凄く笑っていたけど、猪瀬くんは同情してくれた。けど、無駄だからもうやめとけと2人にまで言われてしまった。
昨日の一件で心が折れかけているから、意地を張るのはやめようかと思っていたところではある。こうして、僕を交えてでも外と交流があるならいいのだ。夜にでも、“僕離れ”は一旦保留だと言ってみよう。
それはそうと、2人は関係を公にしていないから、よく女の子に声を掛けられるらしい。先輩風を吹かせるワケではないが、秘密にしている大変さはよく分かる。
その度に、冬真が妬かせてくるんだとか。呆れるくらい冬真らしい。なのに、猪瀬くんが仕返しをしたら、めちゃくちゃ妬いて抱き潰されたらしい。
(猪瀬くんも苦労してるんだなぁ····)
「なぁ、場野と瀬古は? まだ終わんねぇの?」
「今日はあと2コマあるって言ってたよ」
「ふーん。じゃーさ、いいトコ連れてってやろっか」
悪い顔で笑う冬真に連れてこられたのは、啓吾のバイト先だった。大通りから外れ、路地に入った所にある怪しげなお店。これって、変なお店じゃないよね?
「ね、ねぇ、急に来て大丈夫なの? 僕、来るの初めてなんだけど····」
と言うか、なんのお店なのかも知らない。入り口にカントリー風の置き物があって、地下に降りる階段には幾何学的な絵やお面なんかが飾ってある。暗めの照明で少し不気味な感じだ。ずっと、服屋さんで働いてるんだと思っていたんだけど、ここは一体何屋さんなのだろう。
「いーよいーよ。俺何回か来てるけど、この時間人少ねぇし。まぁ、人多いの見た事ないけど」
そう言って、冬真は軽やかに階段を降りてゆく。僕たちは冬真に続いて降りるが、正直怖い。雰囲気が闇の組織って感じだ。もしも危ない所だったら、啓吾を助けなきゃ。
僕は1人、息を巻いて薄暗い店内に足を踏み入れた。カランと玄関ベルが鳴る。すると、店の奥から聞き慣れた声が聞こえた。
「らっしゃいませー」
啓吾の声だ。気の抜けるような軽さ。大好きなその声に不安も和らぐ。
僕たちは、気づかれないように店の奥へと進む。入口付近には、カッコイイ雑貨が沢山並んでいて、売り物か分からないようなのもあった。奥には啓吾が着ているような派手めの服が沢山ある。いつも、ここで買っているのかな。
棚の隙間から覗くと、啓吾は服を畳んでいた。なんだか、啓吾の雰囲気がいつもと違う。いつもはぱっちり大きな目で笑顔を絶やさない啓吾が、伏し目がちで落ち着いていて、凄く大人っぽく見える。
「なぁ結人、なんでそんな赤くなってんの?」
冬真が小声で聞いてきた。僕も小声で答える。
「だって、なんか啓吾の雰囲気がね、いつもと違うんだもん。すっごくカッコイイ····」
僕は頬を持って、熱くなる顔を伏せた。
「あー、はいはい。惚気けてんねぇ」
「写真、撮ってもいいかな?」
「好きにすりゃいいんじゃね? お前の彼氏なんだし」
言葉にされると恥ずかしいや。とにかく、気づかれる前に写真を撮らなくちゃ。
もたもたカメラのアイコンを探していると、りっくんが起動するのを手伝ってくれる。横のボタンで起動できるのを、すっかり忘れていた。
僕はコソッと啓吾にレンズを向ける。バレないように····、よし────
13
お気に入りに追加
635
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。
ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。
だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。
赤ちゃんプレイの趣味が後輩にバレました
海野
BL
赤ちゃんプレイが性癖であるという秋月祐樹は周りには一切明かさないまま店でその欲求を晴らしていた。しかしある日、後輩に店から出る所を見られてしまう。泊まらせてくれたら誰にも言わないと言われ、渋々部屋に案内したがそこで赤ちゃんのように話しかけられ…?
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる