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3章 希う大学生編
対峙
しおりを挟む僕が話しているのに、啓吾は容赦なく挿れてきた。本当におバカだ。凄い勢いでピストンして、奥を抜きぐぽぐぽするんだもの。こんなの、声を抑えられるわけがない。
いや、ワザと声を出させているのだろう。本当に性格が悪いんだから。おかげで、電話の向こうの真尋が騒いでいる。これは、来る時間が早まりそうだ。
僕は激しさに耐えきれず、シーツを握り締めスマホを放置する。それを啓吾が拾い上げ、あの時の仕返しを放つ。
「聞こえる? 結人のエロ可愛い声」
そう言って、ぬちゅっと音を立てながら腰を引く。先端だけ残してまた亀頭まで挿れて、抜ききらないくぽくぽをしながらスマホを僕に向ける。緩く執拗い快感に、堪らず甘い声が漏れる。
「早く来ねぇと結人が話せなくなんぞ。急げ~」
早く切ればいいのに、真尋も切らないから通話しながらのセックスを強いられる。不思議と、見られるよりも恥ずかしい。
結局、真尋がマンションのロビーに着くまで繋ぎっぱなしだった。啓吾と僕も、繋がりっぱなしだったけどね。
ロビーから部屋に辿り着くまでに、啓吾は好き放題に突いてイッた。僕はベッドに横たわったまま動けない。そこへ、真尋がやって来た。
頭を少し持ち上げ、口をぱくぱくさせている真尋を見る。そして、『ごめんね』と言うとお腹に力が入り、奥に出された精液が溢れた。
「ちょ、お前ら結にぃに何シてんだよ!?」
僕の痴態を見て、真尋が声を荒らげる。
「別に? いつも通り抱き潰しただけ。まぁ、俺らへの愛情の再確認ってとこかな」
「ふんっ····。ゆいぴの気持ち聞いて泣いて帰れ、今すぐ」
待て待て。話を始める前から戦闘態勢じゃないか。真尋は、まだ座ってもいないのに。
「お前ら落ち着け。真尋、とりあえず荷物置いて座れ。何か飲むか?」
「コーヒー。砂糖とミルク1個ずつで」
「ん。お前らも、静かに待ってろよ」
朔が場を取り成してくれた。啓吾もりっくんも、真尋の顔を見て抑え込んでいた怒りが溢れ出したのだろう。それにしたってまぁ、2人して子供じみた事を言ってくれたものだ。
朔は、りっくんと啓吾を諌めキッチンへ向かう。2人は、深呼吸をしてテーブルに向かった。僕はと言うと、奇妙なくらい静かな八千代に処理をしてもらい、当然の如くベッドで胡座に収められる。真尋の視線が刺さるが、柔らかく包み込まれるのが心地良くて、そんなの気にならない。
真尋は、いつもよりも大人しく、さっきまでとは別人の様にしゃんと背筋を伸ばして座った。緊張している様子が窺える。
そして、朔が出してくれたコーヒーに口をつけず、まずは詫びを入れた。
「昨日は、結にぃに手出してごめん。もう1回、ダメ元で身体から堕としてみようと思って····」
珍しくしおらしい真尋に調子が狂う。けれど、皆はそれでも容赦なくぶった斬る。
「お前、結人の同情煽ろうったって無駄だぞ。腹割って話に来たんじゃなかったのか」
「同情とか····そんなセコいマネしないよ。昨日のはマジで悪かったと思ってるから、とりあえず謝っとこうと思ってさ」
なんだか誠意が感じられない物言いだけど、真尋なりに謙虚になっているつもりなのだろう。もじもじしている真尋は可愛い。
「二度とすんなよ。次やったらマジで殺すからな。ヤんなら遺書用意しとけや」
静かに言う八千代。痛いくらいに抱き締めながら言う。まるで、僕を渡さないと示すかのように。
「アンタが言うとシャレになんないから怖いんだけど。つぅかイチャついてんじゃねぇよ。んだよ····、嫁が襲われても余裕なの?」
「ハァ··、理解できてねぇみてぇだから言っといてやるけどな。お前が結人の部屋に出入りすんの容認してっけど、余裕こいてるわけじゃねぇぞ」
「え、じゃ··何?」
八千代の言葉に、真尋が目をまん丸にする。僕も、それは初耳だ。
「結人がお前を可愛がってるからだ」
「····は? 何それ」
八千代と朔の言葉が理解できない真尋は、少し苛立ちを見せる。
「俺たちはできる限り結人の気持ちを尊重してやりたいから、お前への気持ちも整理がつくまで待ってたんだ。けど、コイツの流されやすさは知ってんだろ。なのに、余裕なんてあると思うか?」
「一応俺らねぇ、結人が“俺らへの想いとお前への想いの違い“に気づくって信じてたのよ。したらお前が仕掛けてきたから、しゃーなし色々早めたってワケ。不意打ち狙ったつもりなんだろうけど、逆効果だったんだよ」
真尋は言葉を返せずに黙ってしまった。追い討ちかけるように、りっくんが僕の言った真尋への思いを伝えてしまう。
ショックを受けた真尋は、涙を堪え僕に真偽を問う。僕が『本当だよ』と言うと、俯いて静かに涙を落とした。
「真尋····」
僕は少しだけ身体が動いた。けれど、八千代が押さえつけてそれを阻む。僕は『離して』と言えず、また八千代に収まった。
「結にぃ··の口から、ちゃんと聞きたい。ねぇ結にぃ、俺は結にぃに愛してもらえない?」
なんて狡い聞き方をするんだ。涙を流し、上目遣いで弱々しい声を絞り出す。なんてこった、僕が1番弱い真尋で攻めてきた。
だけど、僕が真尋を可愛いと思うのも、泣かせたくないと思うのも、きっと幼い頃の名残なのだ。僕が守ってあげなきゃと思っていた、小さい頃の思い。
それと恋愛を混同していたんだ。改めて、それを僕の口からきちんと説明した。流石の真尋も、諦めてくれたのだろうか。俯いたまま何も言葉を発しない。
僕は堪らず、八千代の腕をすり抜け真尋の隣に移動する。背中に手を添え、出方を窺うように声を掛ける。
「真尋····大丈夫?」
「······大丈夫じゃないよ。8年だよ? ずっと片想いしててさ、横取りされるなんて思わないじゃん。俺の宝物だったのに····俺の··俺の結にぃなのに····」
真尋がぐじゅぐじゅになってしまった。僕は真尋を抱き締め、小さい子を宥めるようにそっと頭を撫でる。
真尋は僕の腰に抱きつく。まだまだ子供だなぁなんて、小さな溜め息を漏らしてしまった。
「結にぃ····俺、それでもやっぱ諦めらんない」
「····嘘でしょ······」
僕はゲンナリした顔で言ってしまった。どこまでメンタルが強いんだ。皆も絶句している。予想していた最悪の事態だ。
という事は、本当にアレを実行するのだろうか。面倒臭い事この上ないので、できれば避けたいのだが。
「真尋··。僕ね、真尋がどれだけ頑張ってくれても、家族以上に思えないよ。僕にとって、恋人だと思えるのは皆だけなの」
「うん。さっきも聞いたよ。ちゃんと理解したし覚えてるよ」
「だったら──」
「俺、間男でもいい」
皆が大きな溜め息を吐く。まったく、どこでそんな言葉を仕入れてくるのだろう。意味を分かって言っているのだろうか。
「お前なぁ、自分が何言ってっか分かってんの?」
「分かってるよ。もう何でもいい。結にぃを諦めるのだけは無理」
「お前、ヤケになってないか?」
呆れ顔の朔が、一応心配して聞いた。真尋はムキになり『なってない』と言うが、そうは見えない。
その後も説得を続けた、口の立つりっくんと啓吾。だが、何を言っても聞く耳を持たない真尋。こうなればと、ついに八千代があの提案を持ち掛ける。
最後に“僕が嫌じゃなければ”と、何度も聞いた無駄な確認作業を入れて説明を終えた。嫌だと言っても、大概の事は強行するくせに。
至極当然の答えを返す真尋は、はち切れんばかりの笑顔を見せた。正直、真尋を目の前にすると揺らぐ自分も居る。これは、僕にとっても試練だ。
僕だって、真尋への耐性をつけないとこの先が思いやられる。それも、目的に含まれているのではないかと思う。
こうして、皆の真意など知らずに、真尋は僕の恋人体験をする事になった。
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