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3章 希う大学生編
真尋への甘さ
しおりを挟む八千代に、何をしているのか、1人なのかと聞かれた。返答に困っていると、真尋がスマホを取り上げ『俺だよ。今、結にぃに挿れてる』と言う。
焦った僕は、スマホを取り返そうと手を伸ばす。すると、奥の扉までズンッと捩じ込まれた。
「んぁっ──」
僕は慌てて口を塞ぐ。
「結にぃイかせたらやめるから······ごめん。ねぇ、明日話しに行っていい?」
『今すぐ抜け。ぶっ殺すぞ』
微かに聞こえた八千代の声。ビリビリと耳が痺れるような、重くドスの効いたその声で分かる。本気で殺しに来ちゃうよ····。
「わ、わかったよ。すぐやめるから来ないでよ? 明日、ちゃんと行くから」
『······』
「何か言ってよ。怖いんだけど」
『殺──』
『お前それしか言えねぇの? あー、真尋? 俺だけど』
暴言しか吐けない八千代。見かねた啓吾に電話を奪われたらしい。
「詐欺かよ」
『うるせぇわ。お前さ、色々覚悟して来いよ』
遠く聴こえる啓吾の声も、僕には聞かせないような怒ったトーンだ。
「······わかってる」
『逃げんなよ』
「逃げねぇよ。あ、そうだ。ちゃんと抜くから聞いとけよ」
『は?』
「んっ··ぁ····、やっ、らめっ····グリグリしちゃ····ふ、ぅぅぅぅんっ」
真尋は、一度奥までどちゅっと押し込み、そこを抉ってから勢い良く抜いた。僕は口を塞ぐのに必死で、イクのを我慢できなかった。
「はい、抜いたよ」
『テメェ、マジで明日ぶっ殺すかんな』
啓吾がキレているのを無視して、真尋は満足そうな顔で電話を切った。僕を綺麗に拭きながら、真尋は静かに言葉を並べ始める。
「俺さ、結にぃのコト好きだって自覚してからずっと、大人になったら結にぃをお嫁さんにするんだって本気で思ってたんだよ」
「なんで皆、僕をお嫁さんにする前提なの?」
「あはは。可愛いからに決まってるでしょ。でね、結にぃがアイツらとデキてるって知った時は、マジでアイツら全員殺してやろうかと思ってさ、色々計画まではしたんだよ」
サラッと怖い事を言っている。けれどきっと、子供の戯言じゃない。真尋の目から、その本気度が伺えて怖い。
「でもさ、そしたら結にぃが悲しむでしょ? 俺、やっぱ結にぃが悲しむ顔は見たくないからさ、やめとこ··って」
本当に、思い留まってくれて良かった。実際、皆を相手に成功するとは到底思えないけれど。真尋は、それでも挑んでいきそうなところが油断ならない。
真尋はりっくんと同類だから、キレたら何でもやらかしそうな危うさを秘めている。こと、僕に関わると尚更に。
「でね、結にぃが1番喜ぶ結果って何かなぁって考えたんだけど、やっぱ俺が折れるしかないのかなって。結にぃ、俺のこと好きでしょ?」
僕は目が点になり、拭き終えてタオルを畳む真尋を凝視した。どこからその自信が湧くのだろう。
前に、ナカに欲しくて言ったアレの所為だろうか。僕の本心じゃなかったと、皆から何度も言われていたと思うのだけど。
「好き····じゃないよ」
「嘘だね。結にぃ、俺に抱かれてからずっと意識してるんでしょ? 俺のこと見る目が前とは違うんだよ。気づいてる?」
「そんなの····知らない」
僕が目を逸らすと、真尋は僕の頬を挟んで自分に向けさせた。そのままキスをして、ゆっくりと熱い舌を絡める。気持ちイイからもっと欲しくなるけれど、それじゃダメだ。そう思うのに拒めない。
そうか、こういうところが真尋に勘違いをさせる原因なんだ。なんだかんだ言いながら、受け入れる僕が悪いのは重々承知している。僕がちゃんと拒まないといけないんだ。
けれど、真尋に甘えられるとどうにも断れない。甘えてくる真尋と、僕を見る雄の目とのギャップが凄くて、戸惑っているうちに流されてしまうんだもん。
「それも明日、アイツらがいる時に話そうね」
キスを終えると、真尋はニコッと笑って言った。
「さ、そろそろ寝るよ。結にぃ、こっちにおいで」
そそくさとベッドに横たわり、腕を広げて僕を呼ぶ。その胸に埋もれるわけがないじゃないか。
(そこ、僕のベッドなんだけどな。どうしよ····、狭いからくっつかないと寝れないんだよね。真尋の方に向かなかったら大丈夫··かな?)
僕は真尋に背を向けてベッドに入り、素っ気なく『おやすみ』と言った。やれやれと言わんばかりの溜め息を吐いて、真尋は僕の背中に抱きつく。
温かくて優しくて、けれど、僕が抱き締めて眠ったあの頃とは違うんだと実感する。僕は、その温もりに懐かしさを感じながら、色々と考えているうちに眠ってしまった。
翌日、真尋は僕よりも先に家を出ていた。母さん曰く、朝練があるのだとか。何部なのかも聞いてないや。
テーブルに書き置きがあって、部活が終わったら八千代の家に行くと書いてあった。待ってろって事なんだね。
僕は支度をして迎えを待つ。今日は朔が来てくれるはずだが、もう昨夜の事は聞いたのだろうか。
また皆に嫌な思いをさせているんだと思うと、早く会いたいのになんだか落ち着かない。
朔が迎えに来て、何も言わずに僕の手を引いて歩く。少しイラついているようだ。やはり、もう耳に入っているのだろう。特に言葉を交わせないまま、八千代の家に着いてしまった。
道中、大学ではなく八千代の家に向かうから、どうしたのかと聞いた。八千代と朔が休講になったのだそうだ。なので、今日は皆お昼からなのだと教えてくれた。これが、唯一できた会話だった。
「真尋は?」
部屋に入るなり、僕の腕を引っ張って強引に胡座に収めた啓吾が聞く。
「学校だよ。部活が終わったら来るって」
「俺らは今日サボりね。落としたらマズイのもないし」
りっくんが悪い事を言い出した。お昼から行くんじゃないのだろうか。僕は慌てて止める。
「え、サボりなんてダメだよ····。学校はちゃんと行かなきゃ」
「行ってる場合か。ふざけんじゃねぇぞ。お前、昨日自分が何されてたか分かってんのか?」
「ぅ··わ、分かってるよ。····その、ごめんなさい」
皆の、僕に向ける目が怖い。当然だけど、相当怒っているんだ。僕をガッチリ抱き締めて離さない、啓吾の腕にも力が入る。
僕は、昨日の経緯を話した。勿論、真尋が言っていた事も。
「今まで誰に襲われた時もさ、浮気だなんて言わなかったよね。なんで真尋とは浮気になるって思ったの?」
「え? そう言えば····なんでだろ」
「やっぱさ、多少なり結人も真尋に気があるからなんじゃねぇの? 無意識でそういう風に認識してんだろ」
そうなのだろうか。真尋に迫られると鼓動は疾るけれど、それが恋なのかと問われると断言できない。
そう確信できるほど、真尋を想っている自覚はないのだけれど。それに、皆を想う気持ちとは種類が違う。
いくら問答を繰り返しても、僕の心は定まらない。きっと、それは相手が真尋だから。
何にしても、本人を交えない事には話が進まないだろう。それに、何よりの問題は僕自身が分かっていない事で、皆は呆れて話を中断してしまった。
「ゆいぴ、おいで」
そう、これだ。皆に呼ばれると、胸がワッと弾けるように嬉しくて、しっぽを振って擦り寄りたくなる。真尋にはこれを感じない。
それを伝えると、りっくんは僕を抱き締めて言った。
「ゆいぴも困ってるんだよね。素直な気持ちが聞けて嬉しいんだけどさ、それを真尋にも感じたらどうするの?」
「えっと····、どう··しよ····」
「俺らはゆいぴの気持ちを大切にしたいんだよ。もし、ゆいぴが本気で真尋を好きになっちゃったんなら、それに対処しなくちゃなんないの。分かる?」
「うん、分かる」
「ゆいぴは、真尋も一緒に暮らしたい?」
「ううん。そこまでは思わない」
「じゃ、抱かれたい?」
「ん··んー····」
「正直に言っていいよ」
僕が話せるように、優しく言葉をくれるりっくん。僕を包み込んで、頭を撫でて心を落ち着かせてくれる。
「えっとね、強引に迫られるとね、抱かれたいって思っちゃう。真尋に甘えられるとね、昔から断れないの」
彼氏に対して何を言っているのだろう。けれど、これが正直な現状なのだ。隠すわけにもいかない。
「そりゃお前、真尋じゃなくても迫られたら抱かれたがんだろうが。そうじゃなくてよ、真尋になら抱かれてもいいと思うかどうかが問題だろ」
「待ってよ。真尋じゃなかったら、迫られても抱かれたいと思わないよ? 気持ちくされてワケわかんなくなっちゃったら····まぁ、あれだけど······ん?」
「真尋ならいいんだ」
啓吾が僕の腕を引いて、りっくんから回収しながら言う。どうやら、僕はそういう旨をポロッと言ってしまったらしい。
「俺ら意外じゃダメなように躾てきたハズなんだけどな~」
「真尋はイレギュラーだったからな。まさか、身内に敵が居るとは思わなかったから油断しちまった」
2人が何を悔いているのかよく分からない。けれど、さっきまでの怒っていた目とは明らかに違う。雄の目に切り替わっている。どこでそんなスイッチが入ったのだろう。
「よいしょっと····。今からでも調教しなおさなきゃ、ホントに真尋が参戦しかねないね」
りっくんは起き上がりながら、不穏な事を言い出した。
「結人が真尋を欲しがったら終わりだな。んじゃ、手っ取り早く躾なおすか。覚悟しろよ。夕方、アイツが来るまでに仕上げっからな」
どういう事だろう。意図は分からないが、どうやら僕はマズイ状況らしい。
皆がTシャツを脱ぎ捨てベルトを外しながら迫ってくるのを、胸を高鳴らせて見ている場合じゃない事はわかる。
そしてまずは、りっくんが僕を蕩けさせに来た····。
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