ちっこい僕は不良の場野くんのどストライクらしい

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3章 希う大学生編

順風満帆····だよね?

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 桜は散り始め、温かい風が吹く4月。女子と並んで号泣してしまい、皆に慰めてもらった卒業式を懐かしく感じる。

 この春から僕たちは、全員揃って同じ大学に通う。そう、啓吾も無事に合格したのだ。
 追い込みでの勉強量は、啓吾史上、最重量だったらしい。ギリギリ合格圏内に入り挑んだ入試。僕も含め皆、自分よりも啓吾の結果が気になっていた。
 受かった日の夜は皆で焼き肉を食べに行き、お祝いと称して朝まで抱かれた。浮かれた啓吾は僕を玩具の様に使い、激しすぎると八千代にまで怒られていた。

 春休みには合宿へ行き、無事に車の免許を取得した。僕一人、ものすっごくギリギリだったけど。
 皆が言っていたような狩りっていうのもなかった。結局、何を狩るのかは教えてもらえず終いだ。
 とても平和で楽しい合宿だったのに、帰りのバスで皆に“どうしてもって時以外は運転するな”と固く言われた。そりゃ少し鈍臭いかもしれないけど、そこまで信用されてないのかな····。

 卒業旅行では大阪へ飛んだ。修学旅行ではUSJに行けなかったので、我儘を聞いてもらったのだ。
 繁華街でガラの悪い人に絡まれたりもしたけれど、八千代と朔が静かに対応してくれた。他に大きな事件もなく、旅行は最高の思い出になった。

 さて、楽しかった思い出はここまでだ。
 ハードなスケジュールをこなし、バタバタと迎えた今日の入学式。新生活だと意気込む余裕もなく、ドキドキしながら慌ただしく終えた。

 そして、残っている問題のひとつ。
 年始から着工しているけれども、僕たちはまだ、母さんから同棲の許可を貰っていない。ここまで来て断られたら、あの家はどうするつもりなのだろう。
 家が完成するのは夏頃だと言っていた。もし許可を貰えたとしても、引っ越すのは早くて今年の秋くらいだと思う。だからという訳ではないが、多少の不安も相まって先延ばしにしていた感はある。
 もしも、本当に許可を貰えなければ、僕たちの未来を大きな影が覆ってしまう。それだけは、何としても避けたいところだ。

 挨拶の日から今日まで、母さんには皆の事を沢山知ってもらったはず。卒業してから今日まで触れてこなかったこの問題に、そろそろ答えを貰ってもいい頃だろう。
 ということで今日、僕たちは入学式を終えたそのままの足で、同棲の許可を貰うべく僕の家に集まった。

 皆、揃いも揃ってスーツを着て、2度目のプロポーズのつもりで挑んだらしい。カッコよすぎる上に恥ずかしさで、朝からまともに皆を見られなかった。
 だけど実は、スーツ姿なんて凄く貴重だから、入学式に来ていた凜人さんに写真をお願いした。だから、直視できなくても問題はない。
 正直、一眼レフを3つも持っていて、本気だなぁなんて若干引いていた。僕のお願いを快諾してくれたのに、失礼すぎて謝りたいくらいだ。

 それはさて置き。あの挨拶の日から皆は、母さんに認めてもらう為、そして安心してもらう為の努力を惜しまなかった。そんな皆の誠意は、母さんにしっかり伝わっていた。
 なので、思っていたよりもすんなり許可を貰えた。皆になら、僕を任せられると言ってくれた母さん。きっと、様々な思いを噛み殺して言ってくれた言葉なのだろう。
 僕は、必ず幸せになると宣言した。皆は、何があっても僕を守り愛し抜くと誓った。思い返せば、物凄くこっ恥ずかしい時間だったな。


 新居の話や、今後の生活について、朔と八千代が説明してくれる。父さんはふむふむと聞いているが、母さんはポカンとしながら新居の間取りを見ている。

「なんだか凄いお家ねぇ····。な··7LDK?」

 見慣れない間取りに、母さんは首を傾げる。そこへ朔が、また詰め込み方式の説明をする。

「はい、1階が7LDKです。中央に中庭があって、陽光を沢山取り込めます。1階はそれぞれの個室と客間を置く予定です。2階には大きめの部屋が2つと、ゆったりと寛げるテラスがあります。3階は屋上になっていて、結人と遊ぶスペースを沢山作りました」

「え? 僕、子供じゃないんだけど····」

 藤さんと話した時には、そんなの一言も言ってなかったじゃないか。

「バーベキューとかプールとかさ、色々家でできんのいいじゃん。セキュリティも万全だから安全だしさ」

「安全····」

 僕はポカンとしたまま、言いくるめられた気がして眉を寄せた。

「安全····、そうね、安全··ね。えっと、2階も広いのね。何があるの?」

 同じく言いくるめられたように、母さんは2階へと話を逸らす。僕の安全について、皆とはかなり差異があるのだろうけど、ひっくるめれば全て“安全”で通せてしまう。

「完全防音の部屋があるのでピアノを置いたり、結人の健康維持も兼ねてジムにする予定です。他はおいおい用途に合わせて増改築も考えています」

 完全防音だって。家全体が防音になっていると言っていたじゃないか。まぁ、それは母さん達には言えない理由だもんね。

「へ、へぇ······。これ··このお家っていくらなの?」

 考える事を諦めた母さんが、驚嘆しつつ聞いた。実は、僕も聞かされていない。りっくんと啓吾は聞き出したらしく、2人とも聞かなかった事にしていた。

「値段は結人にも言っていないので、聞かないでもらえると助かります。まぁ、要望が増えた所為で思っていたよりかかりましたが、想定の範囲内なので問題ありません。家に関しては俺と場野が勝手にした事なので、結人に気負いしてほしくないんです。····勝手な事ばかり言ってすみません」

「瀬古くん、どうか謝らないで。僕達からは、本当に感謝しかないんだよ。ねぇ母さん、ここは彼らの意を汲んであげようじゃないか」

 朔と八千代が頭を下げる。父さんは、2人の頭を上げさせると、こう続けた。

「けど、君たちはまだ子供だ。まぁ、私達に何ができるかはわからないが、困った時は迷わず相談しなさい」

「「ありがとうございます」」

 八千代と朔は、再び深々と頭を下げた。今更だけど、とても同い年には見えないや。

 話を終え、夕飯まで僕の部屋で過ごす。皆、無事に許可が降りて胸を撫で下ろしている。
 きっと大丈夫だろうとは思っていた。しかし、実際に許可を貰えると、飛び上がるほど嬉しい。僕は、八千代の胡座あぐらに嵌められ、にっこにこの笑顔で今日を振り返る。

「んふふ。許可、貰えて良かったねぇ」

「そうだな。ダメだったらどうしようかと思ってた」
 
「おばさんが『頑張りなさい』って言ってくれた時さ、俺ちょっと泣きそうになった」

「俺も~。なんもしてない俺らでこれだよ? 場野と朔はもっとじゃね?」

「まぁ····だな。やっと、結人が完全に俺らのもんになったって気はしたな」

 八千代は、溜め息混じりにそう言うと、僕の頭にキスを降らせる。きっと、柄にもなく緊張していたのだろう。脱力感が伝わる。

「あぁ、そうだな。けど、結人の誕生日とか正月の挨拶とか、時々この家に帰ってくるだろ。それに、結人が両親と過ごしたい時は、俺らに気を遣わないで遊びに来たらいいんだ。だから、そんな泣きそうな顔しなくていいんだぞ」

 僕の頭を撫でながら、朔が優しく言葉を置いてくれる。飛び跳ねたいほど嬉しいはずなのに、どうしてだか寂しさが込み上げるのだ。
 僕の気持ちを察して、八千代は後ろからキュッと抱き締めてくれた。その腕を抱き返し、素直な気持ちを打ち明ける。

「うん、ありがと。皆と暮らすの、すっごく楽しみなのにね····、ちょっとだけ寂しいなって思っちゃうんだ。なんか変だね」

「変じゃないよ。それだけ、ゆいぴがこの家を、おじさんとおばさんを大切に思ってるって事でしょ。おばさんの事、まだ心配?」

「····ううん。もう父さんが居るからね。それに、皆も僕の家族のこと大切に思ってくれてるのが分かるから大丈夫だよ」

「そりゃ良かった。つってもまぁ、まだ結構先じゃんね。引っ越すとしても秋くらいなんだろ?」

「そうだな。完成すんのが9月の予定だから、早くて秋くらいだな」

「それよか、俺ら大学生じゃん? 引っ越しも楽しみだけどさぁ、キャンパスライフも楽しもうぜ」

 高校生活だって、充分満喫していたように思うのだけれど。大学生になったからと言って、何か変わるのだろうか。

「まずは旅行だね。俺らの運転で遠出! ゆいぴ助手席固定ね。疲れてなくてもちゃんと交代するって約束、それぞれ絶対守れよな」

「わーってっけどよ、浮かれて事故りそうな大畠と莉久は距離短めな」

「「ふざっけんなよ!!」」

「結人乗せて浮かれるわけねぇだろ!」

「むしろ緊張しまくりだよ!」

「「場野のばーーーーーっか!!」」

「ふはっ。お前ら、息ピッタリだな」

 朔が吹き出してしまった。楽しそうに笑う朔は、安定の可愛さだ。怒っている2人には悪いが、ほっこりしてしまう。

「あっはは。ホント、仲良しだねぇ」

 2人は八千代に文句ばかり垂れていたが、八千代は気にすることもなく話を逸らす。

「つぅかよ、今日··見知った顔ちらほら居たな」

「そうだね。試験の時、居るの全然気づかなかったよ」

「結人と大畠は、特に緊張してたからな。絶対に香上は落ちると思ってたけどな」

「俺も。アイツ、啓吾よりバカじゃなかった?」

「んな事ねぇよ。だって俺、クラスで最下位とったことあるもん」

 何を自慢げに言っているのだろうか。けれど、そこから巻き返したのだから本当に凄いと思う。努力の賜物以外の何物でもない。
 話にも上がったが、香上くんの他にも知っている人が数人居た。三津伊さんと嵩原さんだ。高校は同じだけど、顔しか知らないって人も何人か居たらしい。
 難関ってほどではないけど、レベルは低くない学校だ。僕たちの高校からも、進学率は毎年高い。なので、知り合いが多くてもそれほど不思議ではない。
 しかし、香上くんと嵩原さんは、要注意だと皆が警戒している。それはまぁ、致し方ないだろう。前科持ちだからね。

 冬真と猪瀬くんは揃って同じ大学に進学した。僕たちの大学からも近い。きっと、沢山会えるだろう。
 引っ越しをしたら、2人を真っ先に呼んでお披露目をしたい。なんて、皆は嫌がるかもしれないけれど。

  
「それにしても、入学式凄かったねぇ」

 皆に囲まれてしまうと、小さい僕は視界に入らないらしい。特に、女子の目には。
 ビシッとスーツを着こなす朔とりっくん、オシャレに着崩す啓吾、それから、ヤクザにしか見えない八千代。女子がどれだけ色めきだっていた事か。
 僕たちの関係を隠すつもりはないと言っているが、どうやら心配は尽きそうにない。今日だけで、何人に連絡先を聞かれていたことか。

「またゆいぴが妬いちゃうね」

「暫くそれ見てんのも面白おもしれぇだろ」

「むぅ····八千代のばぁか」

「結人、妬いたら積極的に甘えに来てくれるもんなぁ。ちょっとバラすの待とうぜ」

 公にするとしても、反感の目で見られないように基盤を作ってから····とか言っていたけれど、それはきっと建前だ。啓吾のこれが本音に違いない。

「そうだな。けど、安心しろ結人。俺らは絶対に浮気はしねぇから」

「あ、当たり前でしょ!! 浮気なんてしたら····したら······、えーっと··んっと····」

 ワクワクした顔で僕の言葉を待つ皆。凄く悔しい。ギャフンと言わせるような何かを言いたい。

「浮気したら····、僕が許すまでえっちしないからね!」

「許す前提なんだ。ゆいぴ優しい」

 だって、別れるなんて選択肢は僕の中に無いんだもの。許すしかないじゃないか。

「なら許されなくても、襲えばいいな」

 朔とりっくんはしれっと躱してしまう。むしろ、軽くカウンターをくらった気分だ。
 八千代と啓吾は笑い転げている。八千代が笑うと、僕までバインバインして大変なんだけど。

「ぼ、僕本気だからね!? ねぇ····浮気なんてしないでよ?」

 お腹を抱えて笑っていた啓吾が、スッと僕の前へ来ると顎を掴んで持ち上げた。

「するわけねぇって言ってんだろ? また身体に教えてほしいの?」

 怒られているのか揶揄われているのか、啓吾の目を見ても分からない。もしかして、両方なのだろうか。
 便乗して、後ろから八千代が耳元で囁く。

「お前も、浮気させられんなよ。俺らからの“お仕置き”··耐えれねぇんだろ?」

 浮気を“させられるな”なんて、一風変わった警告だ。けど、それに関しては、全力で守るつもりでいる。

「ひぁっ····わ、わかってるよぉ」

 その後も、母さんが夕飯に呼ぶまでの間、ずっと耳責めで弄ばれた。顔を引き締めて食卓に着くのは、もう懲り懲りだ。

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