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2章 覚悟の高3編
クリスマスだから
しおりを挟むりっくんと八千代が好戦的に仕掛け、ついに彼氏さん達が殴りかかってきた。2人はひょいと避けて、八千代が彼氏さん達の足を引っ掛けて転ばせる。
彼氏さんの1人が転んだ先のセットにぶつかり、積んであった掃除用具や模型が崩れてしまった。そこそこの騒ぎになってしまい、スタッフさんが駆けつける。
そして、僕たちは揃って事務所に連行された。
僕と女子3人で事情を説明する。煽った八千代たちも悪いが、暴力で訴えてきたのは向こうだ、と。
すると、彼氏さん達が予想外な行動に出た。おそらく、1番感じの悪かった八千代をハメようと企んだのだろう。
スタッフさんの前で膝をつき『チンピラみたいな奴が容赦なかったんスよ』などと、口々に被害者面をした。りっくん以上の大根っぷりだ。
そして、八千代を見て『なぁ、もうこれ以上俺らに酷ぇ事しないでくれよ』と頼む。そのまま土下座でもしそうな勢いだ。
と思ったら、啓吾が彼氏さんの肩を足で止め、それを阻止した。手はポッケへ突っ込んだまま、ヤンキーみたいでカッコイイ。
啓吾は蔑むような目で彼氏さん達を見下ろし、僕には聞かせないようなドスの効いた声で言う。
「待てよ。その土下座に意味あんの? 白々しく泣き言言ってさぁ。これじゃ場野がお前ら虐めたみたいじゃん」
「いや、コイツが俺らをボコボコに····なぁ」
啓吾の圧にたじろぎながらも、他の2人に同意を求める。当然、口を揃えて八千代が悪いように言う。
僕だってもう、黙って聞いていられない。僕は、八千代を庇うつもりで前に立つ。彼氏さん達は、僕を睨むように見上げた。
さぁ、さっきの不甲斐なさを払拭するぞ。なんて、そこまでは頭が回っていなかった。ただ、八千代を悪者にされるのが悔しくて、身体と口が衝動的に動いただけだ。
「八千代はそんな事しないよ。自分より弱い人をボコボコにするなんて、卑劣な事しないもん」
「あ!? ビッチが口出してんじゃねぇよ」
「つぅかおい、誰が雑魚だよ」
「ったくよぉ、ロクな女居ねぇな!」
「むぅっ····僕女じゃ──」
彼氏さん達の言葉にキレた八千代が、反論しようとした僕の肩を掴んで下がらせた。そして、彼氏さん達の前に出る。
足をダンッと踏み込んで、ビッチと言った人の胸倉を掴んだ。
「コラ君! 暴力はやめなさい」
年配のスタッフさんが制止する。けれど、八千代は構わずに彼氏さんの耳元で何かを囁いた。
血の気が引いた様子の彼氏さん達は、自分たちの非を認め謝り倒して出ていった。疑いの晴れた僕たちも開放される。
女子3人は元カレ達の非礼を詫びて、ハンバーガーを奢ってくれた。食べている最中にふと思ったのだが、この状況だとグループデートに見えるのだろうか。それはちょっとモヤモヤするなぁ。
「場野くんさぁ、さっきアイツらになんて言ったの?」
「それ気になった! つぅかマジでチンピラっぽかったんだけど。私めっちゃビビったよ」
「アタシもビビった~」
そりゃあんな八千代、学校では見ないもんね。僕も、あの殺気立った威圧感には少しビビった。
「あ? テメェら失礼過ぎんだろ。ハァ······別になんも言ってねぇよ」
どういう訳か、八千代の頬が少し赤らんで見える。何かを察したのか、女子達は『あぁ~』と声を揃えた。分かってなお、八千代を問い詰める三津井さんは意地悪だ。
「チッ··ぅるっせぇな! 今度オレの嫁にビッチつったら口にパイプ突っ込んで殺すつったんだよ。ぁんだよ、たいした事言ってねぇだろ」
女子は元カレ達を『だせぇ』と笑っていたが、口にパイプだなんて充分怖いよ。何より、八千代が言うとただの脅しには聞こえないんだもの。
ハンバーガーを食べ終えると、3人はさっさと帰ってしまった。クリスマスに別れさせてしまって申し訳ない気持ちと、あんな人達と無駄な時間を過ごさなくて良かったと言う気持ちがせめぎ合う。
3人とも、気にしなくていいよと言ってくれたが、帰ってゆく背中はどこか寂しそうだった。
3人を見送る僕を、八千代が後ろから抱き締めて『好きだ。愛してる』と繰り返す。さっき庇ったのが、余程嬉しかったのだろう。ペナルティなんて、コロッと忘れていた。けど、もうどうでもいいや。
誤解されやすい八千代だけど、僕を裏切るようなことは絶対にしない。もう、容易に人を傷つけないと約束したのだ。その約束を違える事は決してない。そもそも、自分より弱い人間に必要以上の制裁は加えたりしない。
僕は、そう信じているから、純粋にそれを伝えたかっただけなんだ。僕こそ、大した事は何もしていない。
気を取り直して、ツリーがライトアップされるまで沢山遊ぶ。途中、啓吾と八千代がバスケ対決をして、2人とも大きなぬいぐるみを取ってくれた。
皆がゲットしてくれたぬいぐるみで、僕のベッドが占領されつつある。けれど、嬉しい狭さだ。おかげで寂しさも紛れる。
結果は、啓吾が1球多くゴールして勝った。珍しい勝敗に盛り上がったが、八千代はとても悔しそうだった。
そうこうしていると、いつの間にか外が暗くなっていた。ツリーもライトアップされている。とても綺麗だ。
多くのカップルに紛れ、僕たちもキラキラ輝くツリーに目を奪われる。八千代の家で一緒に飾った小さなツリーも良いけれど、大きなツリーは迫力があっていい。
僕は、りっくんと啓吾に挟まれ手を繋ぐ。後ろに立った八千代が、上から覗き込むようにキスをした。それに続いて、八千代を押し退けて朔も同じようにキスをしてくる。りっくんと啓吾も、人目なんか気にする事なくキスをした。
普段なら注意するところだが、クリスマスだけの特別。僕の我儘を聞いてデートしてくれたのだ。そのお礼に、今日はそっと目を瞑った。
帰りにクリスマスケーキを買って、また僕がそれを抱き抱えている。どうしてこう、責任重大な事を僕に任せるのだろう。転んだり落とす確率が、誰よりもズバ抜けて高いのに。
まぁ、理由は単純だった。僕が緊張しながらケーキ抱き締めるのを見たかっただけなんだ。昨日、りっくんが『可愛い』と自慢げに語ったものだから、皆のヤキモチが発動したのだろう。まったく、たまったものじゃない。
なんとか無事にケーキを持ち帰り、そっと冷蔵庫にしまう。無事に大仕事を終え、僕の緊張は解かれた。
恒例のピザを受け取る時間。洗浄を済ませ、りっくんに甘く抱かれていた。今日の受け取りは、ジャンケンで負けた啓吾。
りっくんは玄関が開くのを待ち、よく解ぐした扉をぶち破って結腸を貫いた。体重を掛けて奥深くを抉り、キツめの絶頂を与えられる。耐えきれずに大声をあげてしまった。
もう何度目だろうか、慣れた様子で啓吾が戻ってきて言う。
「今日の兄ちゃん、結人の声聞こえた途端ビクゥッて跳ねてめっちゃ動揺してたわ。あんま顔には出てなかったんだけどさぁ、多分勃ってたっぽい。ははっ、可哀想になぁ」
「まぁ、結人の喘ぎ声じゃ女だと思うだろうしな。つぅか、この遊び毎回やんのか? 俺、当たんの嫌だぞ」
「そっか。朔まだ受け取ったことなかったっけ。んじゃ、次朔な」
「はぁ····。嫌だつってんだろ」
被害者は、配達員さんと僕なんだけど。どうして受取り係が被害者みたいになっているのだろう。本当に迷惑だけど、言ったところでやめないだろうから、とっくに諦めてるけどね。
それよりも、腰の止まらないりっくんをどうにかしてほしい。帰ってからずっと、僕のお腹が鳴りっぱなしなのだ。えっちの最中にもお腹が鳴るなんて、あまりにも恥ずかしすぎる。
「んはっ♡ ゆいぴ可愛い····。お腹空いたよね。とりあえず、俺のでお腹いっぱいにしてあげるから」
なんて、変態らしい事を言って結腸に射精した。確かに、お腹も心も満たされる。けれど、やはりピザも食べたい。
綺麗にしてもらい、クリスマスパーティを始める。去年と何ら変わらないけれど、色々あったこの1年半を思えば感慨深い。いくつか忘れたい事件もあったが、楽しい思い出のほうが断然多い。僕たち関係も絆も深まった。
僕は、今年も啓吾が入れてくれたホットカルピスで乾杯する。そして、飲み始めて数秒後。ふと不安が過ぎった····。
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