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2章 覚悟の高3編

莉久の家族

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 りっくんの家族は、ご両親と姉の希乃ちゃん、それから猫のミカン。皆、とてつもなく軽い性格をしている。いい加減なわけじゃないのだけど、いかんせん軽い。


「結人くん、いらっしゃ~い。久しぶりねぇ」

「ご無沙汰してます。えっと、今日は大勢でお邪魔してすみません」

「いいからいいから。堅苦しいわよ~。さ、お菓子どうぞ」

「わぁ····今日もいっぱいだね。おばさん、ありがとう」

「で、話って?」

「えっと····」

「ねぇ、父さんと希乃は? 時間伝えたよね?」

 りっくんは家族の前だと、いつにも増してツンツンしている。反抗期と言うやつではなく、昔からこうだ。皆が軽すぎて、苛々するのだと言っていた。

「結人くんのおやつと夕飯の材料買いに行ったきり。帰って来ないんだもん。もう3時間よ? おっそいわね~」

 今は13時ちょっと過ぎ。きっと、どこかでお昼でも食べているのだろうと、おばさんは言った。
 りっくんは、僕の為なら仕方ないと言う。軽さで言うと、一番マシではあるがりっくんも充分軽い。

 仕方がないので、揃うまで待つ事にした。その間にも、どんどんおやつが出てくる。何故か、りっくんの家には僕専用のお菓子箱がある。それも、引越しの箱くらい大きいヤツ。りっくんは毎日そこからおやつを持ってくるのだ。

「なんか····家族揃って結人のこと好きなのな」

「えっと、啓吾くんだっけ? 当たり前でしょ。結人くんはうちの嫁なんだから」

「あぁ~····そういう、ね。お前、家で何言ってんの?」

 啓吾がりっくんを見て言う。八千代と朔も、同じ事を思っているようだ。

「幼稚園から小学校くらいまでは、ゆいぴをお嫁さんにするって毎日言ってたかな。中学に上がってからは、幼馴染として一生大事にするって宣言してたよ。付き合い初めてからは──」

 付き合ってるって言ってるんだ。皆、一瞬ピクッと反応してしまった。そう言えば、どこまで話しているのかを確認していなかった。

「りっくん、どこまで言ってるの?」

「えーっと····全部?」

 なんて話が早いのだろう。卒業後は一緒に暮らそうって話をした数日後に、ポロッと言ってしまったらしい。

「んで、言って反対とかされなかったの?」

 啓吾が呆れた顔で言う。なんだか、馬鹿らしくなってきたようだ。

「『おめでとう』って。それからはもう、ゆいぴはうちの嫁だって言っててさ。あ、でも父さんにはまだ何も言ってないよ」

「そうなの。誕生日のサプライズにしよって☆」

 とか言っているけれど、多分言うのを忘れていただけなのだろう。昔からそうだ。おじさんだけ、何もかも伝達が遅れる。まぁ、家に居ないから仕方がないと言えばそうなのだが。

 そうこう話していると、おじさんと希乃ちゃんが帰ってきた。僕は慌てて立ち上がり、おじさんに挨拶をする。

「こんにちは。お邪魔してます。あの、今日はおじさんの誕生日なのに、押しかけてごめんなさい」

「なーに言ってるの~。誕生日に結人くんに会えるなんて嬉しいよ~」

 誕生日の人に買い出しに行かせるなんて····。なんて、そんな事を気にするような人達じゃないんだった。

「これ、大したものじゃないんですけど····」

 折角なので、手土産とは別にプレゼントを持ってきていたのだ。手渡したら、ぱぁぁっと表情が明るくなった。それはもう、一段と。

「これ僕に!? いや~ありがとねぇ。結人くんからのプレゼントだなんて嬉しいなぁ~。家宝にするね」

 どこかで聞いたセリフだ。

「「「ぶはっ····」」」

 八千代たちが吹き出した。りっくんは羨ましそうな顔でおじさんを見て····いや、睨んでいる。

「何貰ったの? 提出」

「えっとねぇ····うわ~♡ 見て見て! アロマのアイマスク~」

 ドラ●もんだ。しかも、啓吾と違って似ている。

「おじさん、論文とか書くのにパソコンに向かいっぱなしでしょ? 目が疲れるって昔から言ってたもんね」
 
「結人くん····。ううっ··相変わらず良い子だねぇ」

 おじさんは、目頭を押さえて泣き始めてしまった。

「ねぇ、いい加減恥ずかしいんだけど。そういうのやめてって言ってるでしょ。つぅかそろそろ話していい?」

 皆が席に着き、ようやく話を始める。いつの間にか、希乃ちゃんも席に着いているではないか。本当に気づかなくてビックリした。

「で、改まって話って何かな? なんでお友達も一緒なの?」

「それを説明しに来たんだよ。父さんはめどくさいから黙ってて」

 りっくんが、経緯をざっと説明した。本当にざっくり、僕たちの関係と今後の予定をツラツラと並べた。

「ゆいぴ、やったわね」

 希乃ちゃんの一言に、皆が固まる。僕は慣れているので、いつも通りだけど。

「えへへ。あの時はバレてるのかと思って焦ったよ」

「え、待って。なんで希乃がゆいぴって呼んでるの?」

「あぁ、昔からだよ。りっくんが居ない時はそう呼んでたの。ねー?」

「ねー」

 僕と希乃ちゃんは、息を合わせて首を傾げ合う。実は、とても仲良しなのだ。
 りっくんは希乃ちゃんと揉め始めたが、どうせりっくんが喚くだけの事なので放っておくとしよう。
 それよりも、おじさんが大変そうだ。瞳をキラキラ輝かせ、嬉々とした表情で言う。

「結人くんがいよいよ本当にうちのお嫁さんに····。莉久、夢が叶って良かったなぁ。式はいつ? 死んでも帰ってくるから」

 りっくんは間違いなくおじさん似だ。言動がそのものなんだもの。

「アホなの? 式には呼ばないよ」

「「なんで!?」」

 おじさんとおばさんが、立ち上がって抗議し始めた。りっくんはウザそうな表情を隠しもせず、堂々とこう言い放った。

「アンタら煩いしすぐ泣くから恥ずかしいの! それに、式は俺らだけでやるかもだから」

 きっと、啓吾に気を遣っての事だろう。恥ずかしいというのも本音だろうけど。

「そう··なの? まぁ、それは置いといて。今日はお祝いね。多分そういう事だろうと思ったから、ケーキ買ってきてもらったのよ」

「え、アレって僕の誕生日ケーキじゃないの?」

「違うわよ、父さん。プレートに“おめでとう”って書いてもらったのは、ゆいぴ達の事よ。万が一そういう話じゃなかったら、仕方がないから父さんに回そうって母さんと言っていたの」

「いくらなんでも、それは酷くねぇか?」

 朔が、たまりかねて言葉を漏らした。八千代と啓吾も、哀れむような目でおじさんを見ている。僕は見慣れた光景だが、そりゃそうなるだろう。

「いつもの事だからいいんだよ。父さんの扱いなんて、うちじゃこんなもんだから。それじゃ、夕飯まで俺の部屋行こっか。······覗きに来んなよ」

 りっくんが予防線を張る。空返事しか聞こえなかったのだけれど、大丈夫なのだろうか。
 僕たちは、りっくんに続いて部屋へ向かう。


「んで、なんで希乃ちゃんが居んの? しれっとついて来たね」

「あら、お邪魔だったかしら」

「お邪魔です。すみません、出て行ってもらえますか」

 朔はどストレートに言うんだから。しかし、希乃ちゃんは動じず笑って断った。

 恐ろしい事にりっくんの部屋には、100冊近いアルバムがある。全て、僕が写っている物らしい。それ以外は、小学生の時に来た時と特に変わっていない。
 希乃ちゃんはおもむろにアルバムを取り出し、僕とりっくんの幼少期の写真を晒し始めた。なんだ、この羞恥プレイは。
 僕の家でも、母さんに少しだけやられた事がある。これは恥ずかしいったらない。勘弁してほしいのだけど、僕とりっくん以外は食い入るように見ている。

「希乃ちゃん、これいつの? 結人すげぇ可愛い」

「それは小3の時、ゆいぴがアイスを落として泣いている時ね」

「即答かよ。つぅか、莉久だけじゃねぇんだな。家族ぐるみで結人溺愛してんのかよ」

「あら、当然だわ。こんなに可愛い生き物、他には存在しないでしょう。ゆいぴは我が家の愛玩動物アイドルよ」

「結人はどこに行っても愛されるんだな」

 朔は真面目な顔をして言っているが、感覚が狂っている事に誰一人として気づいていないのが怖い。りっくんの家に来ると、毎回こんな感じだからいたたまれなくなる。
 大量のアルバムをじっくり見ていると、あっという間に日が暮れていた。夕飯ができたからと、おじさんが呼びに来てくれる。けれど、何か様子がおかしい。

「····おじさんの誕生日パーティーじゃないの?」

 僕は、違和感の正体に気づいた。ど真ん中に置かれたケーキのプレートがおかしい。“おめでとう”の上に、小さく“婚約”と書かれている。書いたのは誰だ。

「私よ、ゆいぴ」

 きた。希乃ちゃんの読心術だ。怖いなぁ····。

「たまには気の利いた事するじゃん。ゆいぴ、ロウソク一緒に吹く?」

「えぇー····吹かないかなぁ。えっと、おじさんの誕生日ケーキは? まさか、ホントに無いの?」

「「ないわよ」」

 おばさんと希乃ちゃんが声を揃えた。今にも泣き出しそうなおじさん。気の毒すぎる。

「おじさん、なんかごめんね。一緒にロウソク消そう?」

「結人くんは優しいなぁ。莉久と交換しちゃいたいよ····」

「そ、そんな事言わないで。りっくんも優しいよ」

「俺はゆいぴにしか優しくしないよ」

「りっくんは黙ってて。これ以上おじさんイジメたら、ホントに僕がおじさんの子になるよ!」

 僕の子供じみた発言に、りっくん一家は歓喜し、八千代と啓吾は溜め息を漏らした。

「お前ら、いつもこんななの? アホすぎねぇ?」

「啓吾にアホとか言われたくないんだけど。まぁ、父さんが居るとこんな感じかな。マジでめんどくさいんだよ。煩いし」

「楽しそうでいいじゃねぇか。仲良さそうだな」

「まぁ、仲は悪くないと思うけど、人に見られるのは恥ずかしいから嫌なんだよ····」

 朔の言葉に照れたりっくんは、お腹を抱え耳を赤くした。

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