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2章 覚悟の高3編
重い想い
しおりを挟む朔の腕の中。キュッと抱き合って、互いに熱の篭った身体を落ち着ける。抱き締められて抱き返すのが心地良い。
けれど、冷めきらない昂りで眠れなくなっていた。僕たちは、暫く他愛のない話をして穏やかな時間を過ごす。
「お前、なんであんなに煽るんだ?」
「え··っと、煽ってないよ?」
「またか····。まぁ、加減できなかった俺も悪いけど、よく声我慢できたな」
朔が、ご褒美と言わんばかりのキスを額にくれる。なんて優しい口付けなのだろう。心が溶けてしまいそうだ。
「我慢は頑張ってしたけどね、ホントは朔が塞いでくれてたから出せなかったんだよ」
「そうなのか? キツくなかったか?」
「えへへ。キツかったぁ。でも、我慢しないと最後までえっちできないでしょ?」
「ふっ····そうか。結人は頑張り屋さんだな」
そう言って、朔は何度も僕の額にキスをする。瞼や頬、耳へもキスの嵐が止まない。
よく、啓吾にキスが長いとか言うけれど、朔だって長いし沢山するんだから。皆キスが好きだし、し始めたら執拗いんだ。
かくいう僕だって、皆とキスをするのが好きだ。唇の触れる所から熱くなる。皆からのキスを受けている時間は、いつだって甘くてこそばゆい。
恥ずかしかったけれど、今日は僕からも啄むようなキスを沢山返せた。そして僕は、朔がさり気なく真尋を気遣ってくれている事にお礼を言った。
僕よりも“お兄さん”といった感じで諭す朔に、真尋も少しだけ一目置いているように思う。そう伝えると『そんな事はないと思うぞ』と、小さく笑って即答した。
「結人は今、辛くないか?」
「ん? 何が?」
「おばあさんが亡くなってから、真尋の事があってちゃんと悲しめてないんじゃないかと思ってたんだ。お前、葬儀の時も納骨の時も泣かなかっただろ。絶対泣くと思ってたのに」
「あぁ、それね。それどころじゃなかったのもあるんだけど····、病院でわんわん泣いちゃったでしょ。あそこで泣ききっちゃった感じかな。あとね、あんな小さい子みたいに泣いちゃったの、実は凄く恥ずかしかったんだ····」
「大切な人が亡くなったんだから当然だろ。泣くのを恥じる事はねぇと思うぞ。俺たちこそ、気の利いた言葉も掛けてやれなかったし、何もできなかっただろ。頼りにならなくて悪かったな」
「え、何言ってるの? 皆が傍に居てくれたからなんだよ。あの時いっぱい泣けたから、その後泣かなくても平気だったの」
「そうか。ならいいんだ。結人はどんどん心が強くなっていくな····。ふあぁ····眠てぇ····」
僕の心が逞しくなってきたのは、間違いなく皆のおかげだよ。そう言いたかったのだけれど、突然襲ってきた眠気で上手く言葉が出ない。
「うん。僕も眠くなってきた····」
明日も休みだから、起きたら八千代の家に行くんだ。それまでもう少し、朔と2人の時間を満喫しよう──。
外が少し白んで来た頃、ようやく睡魔が襲ってきた。僕たちは少しでも近くにと抱きしめ合って、いつの間にか吸い込まれるように眠りへ落ちていた。
僕も朔も、1度眠ったらそうそう起きない。八千代からの着信で目が覚める。5回目の着信だったようだ。時計を見ると、既にお昼前だった。
母さんが起こしに来てくれたらしいが、どちらも起きなかった。朔は、ひたすら母さん達に謝っている。
けど、僕たちがなかなか起きない事は事前に伝えてあったので、さほど気にしている様子はない。父さんも母さんも、僕が起きないのは今に始まった事ではないと笑っていた。
一応、なかなか寝付けなかったから沢山お話していたんだと言っておいた。嘘ではない····よね。
朝食と昼食を兼ねた食事を済ませ、僕たちは八千代の家に向かう。
お泊まりを経て満足そうな朔。皆は案の定、不満そうな顔をしている。そんな皆には、えっちシちゃったのなんて内緒だ。
今日は、僕の希望でお出掛けする事になった。最近、皆で出掛けるのが楽しいのだ。それならばと、皆の希望で目的地も即決した。
それが、なぜ今日なのかは分からないが、話は啓吾の誕生日に遡る。
***
「啓吾、ピアスの穴いっぱいだよね。僕も空けてみたいなぁ」
「いいじゃん。結人は可愛いピアス似合いそうだね」
「ダッ····ダメ! ゆいぴの可愛い耳朶に穴なんて空けちゃヤダ!」
「えぇ····。りっくんも何個か空けてるでしょ。なんで僕はダメなの?」
「無駄に空ける必要ねぇだろ。お前の耳朶小せぇし」
「そう言う八千代も空けてるよね。みんな不良だぁ~」
「結人、俺と一緒に空けるか? 俺はまだ1個も空けてねぇから」
「そうだね。それなら、朔と一緒に空けようかな」
「じゃぁ俺が空ける! ゆいぴに一生消えない傷残すの、俺じゃダメ?」
「やっ、ダメじゃないよぉ····。待っ、耳弄んないでぇ」
「ふざけんなよ。さっきまで反対してたクセに。空けンなら俺がやるわ」
「待って待って。俺もやりたいんだけど」
「お前らもう空いてんだからでしゃばんな。俺と結人がお互いに空ければいいだろ」
「なぁ~····こんなん決まんねぇじゃん。つぅか結人がピアス空けんのは決定でいいんだ?」
「ゆいぴが空けたいって言うんなら······どうしてもって言うんなら······しょうがないでしょ」
「言い出したら聞かねぇしな。どうせ開けんなら····だろ」
「だな。けど、一生残るものだから慎重に話し合わねぇとな」
***
なんて事があったのが、啓吾にピアスを贈った直後の話。ポロッと零した願望が引き金だった。
その後、すぐに啓吾とえっちしちゃって有耶無耶になっていた。なのに先日、啓吾がそれを掘り返したのだ。イヤーカフを指で撫でている時、不意に思い出したらしい。その場で会議が始まった。
結局、僕が4つ空けることで話は纏まった。何故4つかって? 1人1箇所空けるからだ。一気に不良っぽくなりそうだな。
順番は、付き合うことになった順で。これは、数日間話し合った結果だ。揉めに揉めたらしい。
まず、右に八千代が。左はりっくん。暫く期間を空けて、穴が安定したら右を啓吾。そして、左が朔。計4つだ。
因みに、朔の耳は啓吾が空けるらしい。僕に空けてほしかったらしいが、不器用な僕にできようものか。人様の身体に穴を空けるなんて怖すぎるよ。
何にしても、空けるのは卒業してかららしい。僕は、逸る気持ちを抑えて渋々了承した。急いで開ける必要もないからいいけど。
そして、気が早すぎる皆は、僕に贈るピアスを買うと言い出した。なので、僕たちはショッピングモールに来ている。天気が良いから、屋外でデートしたかったんだけどな。
「ねぇ。まだ穴も空けてないのに気が早くない?」
「いーんだよ。予約みたいなもんだからな。買ったらお前の部屋に置いとけよ。これみよがしに目立つトコにな」
「つぅかさ、俺らが結人の身体に傷つける意味分かってる? 一生離さないって意味だかんね?」
「それが真尋に伝わるかは分かんねぇけどな。それでも、俺らは見せつけてぇんだ。そういう事をできるのも、していいのも俺たちだけだって」
「待って。ゆいぴにも伝わってないよ」
ポカンとした間抜け面で首を傾げてしまった。途中から話についてゆけず、思考がフリーズしている。
「え、マジで? あのさ、結果的に真尋への牽制みたいになるけど、俺らそんな簡単に結人の身体に残るような傷つけたくないかんね?」
「えー····っと、りっくん以外は案外あっさりオッケーしてくれたなぁとは思ったんだ。けど、単に抵抗がないだけだと思ってた····」
「タトゥーとか言い出したら流石に止めてたぞ」
「俺ァ別にどっちも気にしねぇけどな。なんなら下腹にやらしーの彫ってもらうか?」
お腹に····? やらしいタトゥーって何だろう。えっちな言葉とかだったら嫌だな。
「んっとね、タトゥーは今のところ考えてないよ。······あのさ、皆がホントは嫌なんだったら、僕空けないよ?」
「「「「嫌だ」」」」
綺麗にハモって即答されてしまった。そんなに嫌だったのか。
「お前の身体に傷がつくんは嫌だつってんだろ。まだ分かんねぇのかよ」
「けど、ゆいぴが折角興味持ったのをダメって言うのも嫌だし····」
「俺ら超複雑なのよ」
「お前には綺麗な身体のままでいてほしいからな。けど、結人の意思は尊重してぇんだ」
待ってほしい。本当に待ってほしい。傷がつくのは嫌だなんて、どの口が言っているのだろう。日頃の行動を憶えていないのだろうか。
「待って。ねぇ、いつも皆が僕にシてるのは大丈夫なの? 噛んだりするのはセーフなの?」
「食い千切って一生消えねぇ痕つけてやろうか?」
「場野、それじゃ結人わかんねぇって」
「結人、噛み跡は何日かしたら消えるだろ? けど、ピアスは一生消えねぇ。そこだな」
どこだろう。よく分かんないや。残らない傷ならいいのだろうか。
「わかってなさそうだね~。ま、結人の身体なんだし、俺らが止めなきゃって思うような事じゃなかったらやってみればいいんじゃね?」
「だな。結人は何気に好奇心旺盛だもんな」
「小さい子みたいに言わないでよぉ」
「いいんじゃない? 俺らと付き合うようになってさ、ゆいぴの興味が広がったっぽいのは俺らも嬉しいし」
「俺らは結人のサポートができりゃそんでいいからな。やりてぇようにやってみろよ。ダメなもんはダメっつぅけどな」
八千代が、僕の頭をグリグリ撫で回しながら微笑む。やはり子供扱いされているようで悔しい。けど、もっと悔しいのは安心してしまう事だ。
僕の誕生日にイヤーカフを買ったお店で、皆は僕へ贈る初めてのピアス選ぶ。きっと、それぞれが開けた場所に嵌めるのだろう。実際に着けた時のバランスを相談している。
因みに、僕はどんな物を選んだのか見せてもらえなかった。家に帰って、どれが誰の選んだ物か当ててみろと言われた。勿論、外せば罰ゲームが待っている。
皆は面白がっているけれど、僕は意地でも外したくない。帰ったら睨めっこだ。それと、飾る場所を考えないと。
僕は帰宅してすぐ、皆の重い愛情が詰まったピアスの箱を開く。
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