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2章 覚悟の高3編

真尋の覚悟

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 おばあちゃんの納骨の日。再び、皆と真尋が顔を合わせる。親の前では大人しくしているようだが、一度ひとたび死角に入れば不穏な空気に早変わりだ。

「真尋。今日はおばあちゃんの納骨がメインなんだからね。喧嘩とかしたら怒るよ」

「し、しないよ。ちゃんと帰ってからにするから。ね?」

 なんて、茶化すような態度で喧嘩をする宣言を投下した。けど、今日は朔が泊まってくれるから心強いのだ。

 そんな事とは露知らず、真尋は今日も泊まるつもりでいるらしい。納骨を終え僕の家で食事をしていた時に、真尋がつむちゃんと母さんに宿泊の許可を乞う。

「あら、真尋くん聞いてないの? 泊まるのは構わないけど、今日は瀬古くんがお泊まりするから結人の部屋には泊まれないわよ」

「······え?」

 奈落の底に叩き落とされたような表情で僕を見る真尋。それを見た、皆のしたり顔は見なかったことにしよう。
 そして、絶望感に打ちひしがれる真尋は、僕の部屋に駆け込み篭城した。なんでだよ····。


「結人くん、いつも真尋が我儘言ってごめんね?」

「いいよ、つむちゃん。慣れてるから。ちょっと呼んでくるね」

 真尋は思い通りにいかないと、すぐに僕の部屋を占拠する。昔から、帰る時間になると部屋に閉じこもっていたっけ。けど、今は懐かしんでいる場合ではない。

 僕は、奪われた自室を取り戻しに向かう。勿論、1人ではない。食事を終えていた啓吾が付き添ってくれている。
 何度もノックをするが返事はない。毎度の事だが、面倒臭い事この上ない。

「真尋? ねぇ、出ておいで」

 いつもなら僕が呼ぶと素直に出てくるのだが、今日に限っては出てこない。

「真尋の顔見たいんだけど。開けてくれる?」

 数秒の沈黙を破り、真尋が返事をした。
 
「俺も今日泊まる。床でいいから。結にぃが他の男と2人きりで一晩過ごすなんて耐えらんない」

「えっと······、あのね真尋。僕、何回も八千代の家に泊まってるし、学校行事とかそれ以外でもお泊まりしてるよ」

 中からドダンッと重い物が落ちた音がした。

「真尋!? 大丈夫?」

「だ、大丈夫なわけないでしょ····。え、俺それ聞いてないんだけど····」

「真尋さぁ、結人だって高校生だぜ? 普通に考えて友達ん家とか泊まりに行くだろ」

「結にぃは行かないの! 桃ちゃんを放っておいてそんな事しないんだよ!」

「····結人、桃ちゃんって誰?」

「母さんだよ。名前、桃花だから“桃ちゃん”なの。ねぇ啓吾、今ちょっと妬いたでしょ」

「妬いた。つぅか可愛いな。俺も呼びてぇ」

「嫁の親を名前呼びかよ。これだからチャラ男は····」

「お、結人のこと俺の嫁って認めてんじゃ~ん」

「はぁっ!? 違うから!! 言葉のアヤだから!!」

「ねぇ、もういいから出ておいでよ。····え?」

 啓吾が耳打ちをしてくる。これはロクでもない事を言わされる予感だ。

「それ言うの? はぁ······。真尋、僕のこと困らせて楽しい? 僕、悲しい──わぁっ!!」

 僕が棒読みで言い切る前に、扉が勢いよく開いた。

「結にぃごめん! 俺、結にぃのこと困らせたいわけじゃないんだ。お願い····嫌いにならないで」

「な? 出てきただろ?」

「なんか可哀想だよ····。真尋もね、僕の部屋に立て篭もる癖やめてよ。もう小さい子じゃないんだから」

「······やだ。今日この部屋に結にぃと俺以外の男が寝るんだって思ったら····マジで無理。て言うかお泊まりした事あるって何? 結にぃはそんな事する子じゃないのに····」

「皆のおかげなんだよ」

 少しだけ、僕の部屋で話をする事にした。
 朔を中心に、父さんの転職に尽力してくれた事。そのおかげで母さんが精神的に落ち着いた事。母さん達を心配させないように、皆が誠意を持って行動してくれている事を説明した。

「まぁ、中学生のガキとは違うって事ね。俺らは将来を見据えて行動してんの。わかった? ぎゃーぎゃー喚くばっかでさ、お前は結人の為に何ができんだよ」

「何でもする。俺だって結にぃと一緒にいる為だったら何でもできるよ!」

「何でもって何ができるんだ? あのな、俺らだって何でもできるわけじゃないんだぞ」

「朔····」

おせぇから様子見に来たんだ。そしたら話し込んでたから外で聞いてた。わりぃ」

 朔が部屋に入るなり言った。そして、僕の隣に座り、静かに語り始めた。

「俺はたまたまできる環境にいたからフル活用したけど、普通ならそうはいかねぇだろ。場野なんて、表で動けねぇから裏で手を回したりしてな。それぞれにできる事をやってるだけだ。真尋には真尋にしかできないことがあるんじゃないのか?」

「なんで朔は敵に塩送ってんの?」

「そういうつもりじゃねぇけど、真尋はまだ中学生だろ。俺らも大人げないとこばっか見せらんねぇしな」

 朔は、真尋からも安心して僕を任されたいんだ。そんな朔の真意が見え、啓吾も冷静に諭すような口調で話す。

「俺ら別にさ、真尋と敵対したいわけじゃねぇのよ。そりゃ真尋からしたら敵なんだろうけどさ。正直、俺らはお前なんか眼中にないの。そんだけ、結人は俺らを選ぶって自信もあるし、簡単に割って入られるような脆い関係じゃないと思ってんだよ」

「俺もその中に入る」

「「「はぁ······」」」

「簡単に言うけどさ、まず僕の気持ちは考えないの?」

「結にぃに好きになってもらえるように、俺の全部賭けて頑張る。だって、コイツらだってそうやって結にぃに好きになってもらったんだろ?」

 まさか、身体の関係からだなんて言えない。純粋に僕の心を掴もうとしている真尋に、そんな酷な真実を伝えられるはずがない。
 朔と啓吾も視線を逸らし、返答に困っているようだ。もしも、ここに八千代が居たら──

「俺らは身体から堕としたけどな」

 そう。こう言っていただろう······。ん?

「八千代!? もう····ばかぁ······」

「ここで誤魔化してもしゃーねぇだろ。後でバレる方がコイツ喚くぞ」

「そ、そうかもしれないけど····」

「それにしたってだろ。伝え方ってもんがあるでしょ」

 八千代の後ろから、りっくんがひょこっと顔を出した。2人とも、朔まで戻らないから様子を見に来てくれたらしい。
 そして、登場するなりさっきの一言だ 。

「ねぇ、どういう事? 身体からって何?」

 全てを諦めた僕は、これまでの事を洗いざらい話した。いっそ、ついてこれなくなって諦めてくれればいいと、一縷いちるの願いを込めて語った。
 黙って聞く真尋は、見るからに険しい表情を見せ始める。肩肘をつきムスッとした顔を支え、反対の手はテーブルを指でコツコツとこつく。もはや苛立ちを隠そうともしない。
 そして、一通り聞き終えた真尋は、第一声とは思えない言葉を放った。

「やっぱ俺も可能性あんじゃん。真っ向勝負しようとしてたのバカみたいじゃん。身体で堕とせば気持ちもついてくんだ。簡単じゃん」

「なっ、そっ····真尋のばかぁ! そんな事ないもん!!」

 昂平くんには堕ちなかった。冬真にも靡かなかったんだ。
 きっかけはそういう事だったけれど、僕の中に芽生えた恋心は誰でもいいわけじゃなかった。決して、快楽だけで構築されたものじゃないんだ。
 しかし、それを何度説明しても分かってはもらえなかった。いや、頭ではわかっているのだろう。納得したくないという所だろうか。

「分かった。今日は帰るよ」

 やけにあっさりと引き下がった。これは、絶対に何かしらの魂胆があるに違いない。
 僕が気づけた事に、気づかない旦那様方ではない。

「テメェ、何企んでんだ」

「別に。可能性がゼロじゃないって分かっただけで今日は満足だよ。魂胆って程のものもないし。ただ、言っとくけどもう遠慮なんてしないから」

 僕の方をビシッと指差して言い放つ。真尋の圧に、僕はおののいてしまった。また、僕の知らない真尋だ。

「結人が泣くような事だけはすんなよ」

 朔が、僕の肩を抱いて言う。真尋は『わかってるよ』と言って部屋を出て行ってしまった。
 僕たちは安堵こそできないものの、一息ついてリビングに戻る。既に、真尋達は帰る支度を始めていた。

 真尋が泊まらないのなら朔も帰ろうかと言ったが、僕は折角なので泊まってほしいと頼んだ。
 真尋を拒絶する度、心が疲弊しているのを感じる。それを癒してくれるのは、皆しかいないのだ。

 真尋達が帰り、皆は夕飯を食べてから朔を残して帰った。いよいよ、朔との2人きりの甘い夜が始まる。

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