200 / 387
2章 覚悟の高3編
絡まれちゃった
しおりを挟むりっくんの甘いお強請りに負けてしまった僕。お強請りを遂行する為に、りっくんと啓吾を打ち上げ会場へ連れて行った。
クラス、違うんだけどなぁ····。
「あーっ! 武居くん達遅··い····あれ? なんで鬼頭くんと大畠くんも来たの? クラス違うでしょ」
少し遅れて会場入りした僕たちは、クラス委員の谷川さんに角を立てられた。谷川さんは、普段から思った事をハッキリ言うタイプで、怒ったらズバッと切り込んでくるのが少し怖い。
「って、野暮な事は言わないけどさ。鬼頭くん、外で肩抱いて歩くのはどうなの? あと、クラスにちゃんと連絡した? そっちのクラスの友達から鬼電来てたんだけど」
「あ、してねぇわ。ごめんね、谷川さん。ははっ、俺んとこにも冬真から鬼電きてる。うぜぇ~」
去年はクラスの打ち上げなんてなかったから、実は結構楽しみにしていたのだ。僕が参加してみたいと言うと、八千代と朔も参加すると言い出した。
そこへ、りっくんと啓吾まで来たものだから、クラスの女子からはとても感謝されている。けれど、僕としては色めき立った女子を見ると複雑な気分だ。
クラスメイトたちは、今年も大活躍だった八千代と朔、それに猪瀬くんをそれぞれに讃える。そして、クラス委員長の谷川さんが音頭をとり、乾杯して打ち上げが始まった。
僕はこういうのに参加した事がないので、ガヤガヤした雰囲気に慣れない。りっくんの事もあるし、なんだか落ち着かずソワソワしてしまう。
なんて、緊張していたのは束の間。りっくんたちがどんどん食べ物を取り分けてくれるから、周囲に驚かれつつもお腹いっぱい食べてしまった。そして、少し気が緩んでウトウトしていた時、それは起きたのだ。
クラスの派手目な女子が3人、りっくんと啓吾の隣に座った。あまり話したことのない人達だ。どうやら、僕の存在を知ってなおアプローチをかけに来たらしい。僕が隣に居るにも関わらず。凄い度胸だ。
初めは、普通に話す程度だった。りっくんも啓吾も、軽く躱す。それよりも、僕が寝ないように構い続けてくれているが、そろそろ限界だ。
僕が眠りに落ちていくのに比例し、次第に女子の圧力が増してゆく。1人が啓吾の肩に触れた時、ムッとして少し目が覚めた。
続けて、他の子がりっくんの腕に擦り寄る。と言うより、腕を抱き締めているようだ。僕は重い瞼を擦り、りっくんの反対側の腕をグイッと抱き寄せて言った。
「あのね、僕のだから触らないでね」
言葉を放った直後、ハッとして目が開いた。僕、今なんて言った? りっくんが涙目で僕を見ている。
りっくんにお強請りされたアレを、殆ど無意識で遂行してしまったようだ。素で言ってしまったなんて恥ずかしすぎる。
僕の心臓が激しく脈打つ中、りっくんの反応を待たずして女子から歓声が上がる。てっきり、怒らせてしまったかと思ったのだが。
「武居くん、ごめんね。ワンチャンあるかな~って思ってたんだけど、マジで諦めるから! ていうか武居くん可愛い~」
どういう事だろう。今度は、僕を挟んで座っていたりっくんと八千代を押し退けて、僕が女子に囲まれてしまった。
物凄い勢いで喋ってくるし、オススメのデザートをどんどん分けてくれる。圧倒されて何も話せない。
「あれぇ? 武居くん眠いの?」
「ん····ちょっとだけ。でも大丈夫だよ。ね、八千代が怒っちゃうから席戻してほしいな~··なんて····」
「え~? 場野くんいっつも武居くんにベタベタしてんじゃん。たまにはウチらと絡もうよ」
「ざけんな。絡ませっかよ。テメェらさっさと席戻れや。つぅか結人返せ」
女子達は、くすくすと笑い『はーい』と良い返事をして戻っていった。何だったのかよく分からないけど、こんなのは初めてで凄く新鮮な気分だった。
「女子に囲まれて楽しそうだったな」
向かいで見ていた朔に嫌味を投げられる。ムスッとしていて可愛い。
「えへへ。初めて話す人達だったからビックリしたよ。凄い勢いだったね」
「俺もアイツらにやってやろうか? キスして『俺のだから触るな』って」
「僕、キスはしてないんだけど····。あのね、そんな事されたら心臓爆発しちゃうよ。さっき、八千代が『返せ』って言っただけでも危なかったんだから」
実は、結構照れくさかったのだ。朔は不服そうな顔をしているが、僕は皆が妬いてくれているのが少し嬉しかったりする。いつもとは逆だもんね。
帰り際、お店の前で僕は再び女子に囲まれた。今度遊びに行こうだか、学校でもっと絡もうだとか言っている。なぜか、女子会にまで誘われた。
(皆、僕のこと女子だと思ってるのかな····)
なんてバカな事を考えていると、痺れを切らせた八千代がツカツカ歩み寄って来るではないか。そして、後頭部を持って胸に抱き寄せられてしまった。
僕が誰のモノか、知らしめているんだ。それはいいとして、八千代の胸に顔が埋もれて息もできない。
「お前らいい加減にしろよ。俺らのだつってんだろ。いちいち構うな」
女子から歓声が上がる。そして、口々に反論し始めた。
「場野くんてさぁ、独占欲強すぎだよね」
「なんかぁ、オラついてる割にちっさいね」
「武居くん大変そー」
「他の彼氏に煙たがられてそうじゃない?」
「「あははっ、ぽい~」」
「つぅかさ、場野くんらだけの武居くんじゃないっしょ」
「そーそー。他の人と喋ったりすんじゃん? アタシらも武居くんと仲良くしたいしぃ。余裕なさすぎ~」
皆、言いたい放題だ。僕は埋もれたまま、八千代がキレないかヒヤヒヤしていた。
けれど、予想外に八千代は落ち着いて切り返す。
「余裕なんかねぇわ。コイツがどんだけやべぇか知らねぇくせに勝手言ってんじゃねぇ。こんな危なっかしいヤツ、目ぇ離せっかよ」
僕の髪をクシャッと、力強くも優しい手つきで撫で上げる。ちょっとえっちな撫で方に焦った。
それよりも、クラスメイト相手に何を言っているんだか。僕は、文句を言ってやるつもりで顔を出す。が、とても言える雰囲気ではなかった。
女子達は顔を赤くしている。これは、八千代のほうがやべぇんじゃないのかな。皆が八千代に惚れちゃったらどうする気なのだろう。
「や、八千代のばかぁ····」
言葉とは裏腹に、堂々とした彼氏面にキュンとしてしまった。
「ひゃ~····武居くん愛されてんね~」
「羨まだわ。マジでこんな彼氏欲しい」
「でも場野くんみたいなのヤダわ。束縛ヤバそう」
「「それな~」」
「テメェら····」
「はーい、ストップな。場野は女の子にテメェって言わないの」
お会計を済ませた啓吾が止めに入る。御手洗に行っていた朔とりっくんも一緒に戻った。
「出たよモテ男。私さぁ、啓吾が付き合ってるってのが1番ビックリなんだけど」
「それ思った。どんだけ遊んでも絶対彼女作んなかったのにね~」
「アタシ何回スルーされたと思ってんの? けどまぁ、武居くんじゃ敵わないわ。可愛すぎんもんね」
どうやら皆、啓吾と随分仲が良かったらしい。けど、女子に認められる可愛さって何だ。例え褒められていたって不本意だ。
「ちょ~とさぁ····結人の前でやめて?」
「あっ!! ごめんね、武居くん。マジでデリカシーなかったわ。もう全然何とも思ってないから! アタシ今彼氏居るし」
僕にだけか。啓吾には謝らないんだ。余程、眼中にないのだと分かる。
「えっ····うん、大丈夫だよ。えっと····啓吾はもう僕のだもん」
圧倒されて焦ったとはいえ、僕は何を言っているのだ。恥ずかしい事を口走ってしまったと後悔しながら、僕は八千代の腕で顔を隠す。
女子達は、目をキュッと瞑って空を仰いだ。
「「「「っか~~~····」」」」
「可愛すぎか。啓吾テレんな、キモい」
「アンタら武居くん寄越せよ。アタシらが面倒見るわ」
「もうクラスで可愛がろ。つか武居くんは全人類で愛でるべきじゃね?」
「これもう天使じゃん。こんなん存在したんだ。マジで泣かせんなよ」
女子の口が悪い。そして、何を言っているのかよく分からない。
「僕の面倒って何? クラスで僕のお世話するの? 僕、そんなに心配されてるの? 頼りないから?」
こそっとりっくんに聞くと、よく分からない言葉が返ってきた。
「ゆいぴは気にしなくていいよ。全人類が認めるくらい可愛いって事だから」
「お前らなぁ、結人が理解できないような事言うなよな。困ってんじゃん」
「武居くんバカ可愛いんだけど。やばー」
「僕、バカじゃない····」
成績は悪くないはずなのに、どうにも皆の会話についていけない。コミュニケーション能力の問題だろうか。
女子の話すスピードが早いんだけど、啓吾たちはちゃんと対応できている。僕だけが取り残されているようで、なんだか胸がキュッとしてしまう。
「結人はバカじゃねぇぞ。コイツらの会話がイカレてるんだろ。俺もついていけねぇ」
「あ~! そういや瀬古くんと喋んのも初めてだ」
「アタシも~」
「話す事ねぇだろ。なぁ、もういいだろ。早く場野ん家行くぞ」
「「「や~らしぃ~」」」
「うるっせぇ。朔はテメェ何時だと思ってんだ。もう送ってくわ」
「まだ8時じゃん。場野くんマジメかよ」
「どんだけ過保護なの?」
「朝まで連れ回してそうなのに」
「「「ね~」」」
女子達は、八千代の意外な一面に笑っていた。終始失礼な態度のまま、僕たちは一足先に帰路につく。
道中ずっと、皆は女子への不満を溢れさせていた。そして、啓吾は自ら放った一言で、可哀想な方向へ落とされてゆく。
「つぅか結人さ、予想外な方向で可愛がられてんな。なーんか複雑なんだけど~」
「複雑ってお前····。アイツら、大畠と遊んでたんだろ。んな奴らに結人は貸せねぇ」
「さっくん、その話もういいから」
「お前、めちゃくちゃ焦ってたな。ウケたわ。アレ全部か?」
「場野もマジでやめろって。なんで結人の前でンな話すんの?」
「え、3人ともなの?」
「なーんで結人まで聞いてくんのぉ?」
「全員だよ」
「なんっで莉久が答えんだよ!! つぅか言うなよ!」
「あははっ。大丈夫だよ、啓吾。啓吾はもう僕のだもんね」
僕は啓吾の腕に抱きつき、ニッと笑って言った。怒っていた啓吾だが、気を鎮めてくれたようだ。むしろ、嬉しそうにニヤけている。
あの子達が気さくだったからか、それほどモヤモヤした気持ちは残っていない。それに、僕のだってちゃんと言えたから大丈夫だ。
新しい交流もあって、皆が居なければ得られなかった経験ができた。僕的には、とても楽しい打ち上げだった。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
お知らせです。
待っていてくれた読者様!!…いるかな?💦
お待たせしました!
皆様のおかげで!!それぞれキリ番達成しました㊗️✨
予告通り、ブクマ・お気に入りキリ番記念の番外編を公開します🍀*̣̩⋆
もう減っても知らなーい(*˘^˘*,,)
超えた証拠は抑えたからこっちのものだꉂ(`˘´ )
感謝は作品に込めて🍀(ㅅ´꒳` )ෆ˚*
👇公開時刻表とリンク👇
八千代×結人→6/8 18時
りっくん×結人→6/8 21時
啓吾×結人→6/9 18時
朔×結人→6/9 21時
https://www.alphapolis.co.jp/novel/178160282/348703776
23
お気に入りに追加
642
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる