ちっこい僕は不良の場野くんのどストライクらしい

よつば 綴

文字の大きさ
上 下
177 / 401
2章 覚悟の高3編

スーパー銭湯『忍之湯』

しおりを挟む

「なんか、忍者みたいな名前の銭湯だなぁ。つぅか女の子多くね?」

「あ~····ゆいぴみたいにコラボ目当てなんじゃない?」

「すげぇな。人気のあるアニメなのか?」

「凄い人気だよ。ゲームがアニメ化されたの。ゲームはよくわかんなくてできなかったけど、アニメはずっと観てたんだ。えっと····なんかごめんね? 入りにくいよね····」

「ンなこたどうでもいいけどよぉ、これアレか? 映画観に行ったやつか」

「そうだよ。え、こないだ説明した時わかんなかったの?」

「映画ん時はあんま観てなかったからな」

「何しに行ったのさ····」

「百面相してるお前ばっか見てた。ま、何でもいいわ。さっさと入ろうぜ」

「そだね。結人が欲しいの、湯上りジュンくんタオルだっけ? 数量限定なんだろ?」

「うん!」


 僕たちは今日、スーパー銭湯『忍之湯おしのゆ』に来ている。数量限定の“湯上りジュンくんタオル”を手に入れる為、そして、限定コラボグッズを集める為に。
 入館の際に貰えるタオルはランダムで、どのキャラが当たるか分からない。キャラのラインナップは4人。引きの強い啓吾と八千代が居るから、きっと大丈夫。
 1枚くらいはゲットできるだろう。2枚当たれば儲けもの。僕はそう踏んでいた。


 入館を済ませると、啓吾が無造作にバリバリと袋を開封した。ロッカールームに行ってからで良かったんだけどな。女子からすごい見られてるよ····。
 けど、そんなの一瞬で気にならなくなってしまった。

「お、これジュンくんじゃねぇ? やったなぁ結人」

「はわぁぁ!! ありがとぉ啓吾!」

「これも同じやつじゃないか?」

 銀の袋から2枚目のジュンくんを取り出す朔。まさかの2枚目だ。

「結人は誰が出たんだ?」

「僕はチサくん」

 皆“誰だよ”って顔をしている。ジュンくんの恋人だよ。さっき説明したのに、全然聞いてなかったんだね。

「ごめん、ゆいぴ····。俺もジュンくん出なかった。えっと、カイト··だって」

 ジュンくんのお兄さんだ。チサくんの元カレでもある。今は、もう1人のコラボキャラであるレイジくんの恋人。

「りっくんが謝る事じゃないよ。僕だって出なかったんだしさ。こればっかりは仕方ないよ」

 僕がりっくんを慰めていると、八千代が勝ち誇った顔で3枚目のジュンくんを見せびらかしてきた。

「莉久、お前マジでクジ運ねぇのな。ほら結人、3枚あったら保存用とかってのになんだろ? 満足したか?」

 まさか、3枚もゲットできるなんて、誰が予想できようものか。

「さ、3枚目····。みんな凄すぎだよぉ! ありがと~!! あっ! りっくん待って。お風呂、一緒に行こうよ!」

 拗ねたりっくんが、そそくさとロッカールームに向かう。僕は、しょぼくれたりっくんを追いかける。
 ロッカーの前でいじけているりっくん。どうにかして元気を出してほしいのだが、どうすればいいのだろう。
 皆と来た時点で、推しよりデートが目的になっているなんて、朝から『絶対にゆいぴの推し引くからね』と意気込んでいたりっくんには言い辛い。

「俺、サウナ行ってくるわ」

「俺も~」

 僕の気も知らないで、八千代と啓吾はサウナへ行ってしまった。朔は、学校行事以外で初めて来た大衆浴場に目を輝かせている。
 一通りのマナーを教え、いざ入浴····と思ったのだが、りっくんがまだだ。

「りっくん、薬湯でヘコんでるの治らない?」

「んふっ····ちょっと無理かも」

 今笑ったじゃないか。ならどうしろと言うのだ。そろそろ面倒臭くなってきた。

「ゆいぴ、後で背中流して?」

「流したら元気になる?」

「なる」

「お前、めんどくせぇな」

 朔は呆れた顔をして、先に身体を洗いに行った。嘘みたいに機嫌の良くなったりっくんは、僕の手を引いて歩く。
 うきうきした様子で、椅子に座り僕に背を向けるりっくん。いつもは洗ってもらう側だから、なんだか新鮮だ。
 さて、いざ洗う側になると、いつもされている事をしてみたくなるものだ。皆、乳首や腰なんかを無駄にえっちに洗うんだもの。
 啓吾の身体を洗った時は、怪我を庇いながらだったもんね。凄く緊張して、純粋にイチャつけなかったのが心残りだったのだ。
 けれど、ここで本当にイチャつくわけにはいかない。だって、隣には普通に知らないおじさんが居て、僕たちは友達に見えていて、おかしな触れ合い方はできないんだ。
 だけど今更、友達の範疇なんて分からない。

 僕は距離を保ちながら、過度に触れ合わないよう慎重にりっくんの背中を洗う。普段抱きつく時よりも、心做しか背中が大きく見える。
 筋肉質なわけではないけれど、程よく締まった綺麗な背中だ。ダメだ、なんだかドキドキしてきた。
 胸の高鳴りを悟られないうちに、手早くりっくんの背中を流し終える。すると、勝手に順番待ちをしていた朔が『俺も頼む』と言って僕を呼ぶ。
 予想通りだったらしく、りっくんは『洗ってあげなよ』と僕を明け渡す。機嫌は完全になおったみたいだ。
 朔の背中は広い。身長も然る事乍ら、鍛えているだけあって筋肉量がりっくんの比ではない。筋トレは趣味だとか言っていたが、改めて見ると趣味のそれではないように思う。
 安心感のある背中だなぁなんて思っていたら、足が滑って朔に抱きついてしまった。

「うおっ····大丈夫か!?」

「ご、ごめんね。僕は大丈夫だよ。朔は? どこか打ってない?」

「俺は大丈夫だ。わりぃ、俺が背中なんか洗わせたから····」

 皆のこういう所は少し嫌だ。ドジをしたのは僕なのに、皆は自分を責める。りっくんと朔は特に多い。
 僕はこれを2人に伝え、僕のドジに謝るのをやめてほしいと頼んだ。渋々了承した2人を連れて、水風呂の隣にある月替わりの湯に浸かる。
 毎月香りが変わるらしく、今月はコラボに合わせてオレンジシトラスの香りだ。ジュンくんのイメージフレグランスの香りに似ている。さっぱりしていて、夏の暑さを忘れさせてくれるのが良い。
 香りを堪能していると、サウナから出てきた啓吾が隣の水風呂に浸かった。

「あっつかった~。場野と勝負してたんだけどさぁ、無理だわ~。アイツ感覚おかしいって····」

 八千代の忍耐力を考えれば、さほど不思議ではない。僕の何かを賭ければ、何時間でも入っていそうだ。

「朔と莉久はサウナ入んねぇの?」

「俺はゆいぴと居るからいいよ」

「俺は後で入る」

「ねぇ、なんで僕は入らないの前提なの?」

 皆は揃って、サウナの扉に貼られた“小学生は子供だけでの入室禁止”の注意書きを見る。そういう事か。

「僕、小学生じゃない······」

 冗談なのはわかっているが、どうにも腹立たしい。そんなタイミングで出てきた八千代が、僕に向かって言った。

「んだよ結人。お前もサウナ入りてぇの?」

 髪を掻き上げながら、汗だくで僕を見下ろして言う。鼻血が出そうなくらい、色気がとんでもない事になっている。
 けど、躍起になっている僕は、それを一旦置いて言う。

「入る」

「「えぇ~····」」

 りっくんと啓吾が静かに声を上げた。いつもみたいに騒がなかったのを褒めてあげたい。けれど、何がそんなに不安だと言うのだろうか。

「僕だってサウナくらい入れるもん」

「んじゃ、俺と行こうか」

 朔が僕の手を引く。1人で歩けるのだけれど。見知らぬおじさん達が凄く見ている。

「なら俺も行くよ!」

 続いて、りっくんが反対の手を握る。これじゃぁ、どこからどう見ても子供だ。

「もう! 僕1人でいけるもん。ついて来ないで!」

「それはダメだ。色んな意味で危ねぇ」

 なんて、凄い圧をかけて言う朔に押し負けた。仕方がないので3人でサウナに入る。
 入って数秒で、息をするのも熱くて困難だと知る。数分でボーッとしてきて、早々に朔に『出ろ』と言われてしまった。けど、ここで引き下がっては、また子供扱いされてしまう。
 もう少しだけ、あとちょっと····と思ったのだが、朔は僕を担ぎ上げ、強制的にサウナを出た。勿論、注目の的だ。
 丁度、水風呂から出た啓吾が心配そうに聞く。

「早っ。どったの? しんどくなった?」

「しんどくなる前に出てきた。子供扱いされたくないからって、無理しようとしたからな」

 どうして全てお見通しなんだ。キョトンとして火照ったままの僕は、外の空気を吸いに露天風呂へと連れられる。


「ねぇ、みんな前隠さないの?」

「隠すもんなのか? 結人しか隠してないから、ただ恥ずかしがってるんだと思ってた」

「んなもんどっちでもいいだろ。いちいち隠すんめんどくせぇわ」

「別に隠さなくてもいいんじゃない? なんか隠してたらさ、見られんの恥ずかしいみたいじゃん」

「啓吾はアホなだけね。まぁ、隠す人多いよね。俺はタオル邪魔だなぁって思って持ち歩かないだけだよ。けど、ゆいぴにはバスタオル巻いて入ってほしい」

「それは同感な。さっきからケツ見えてんのやべぇわ。後で──」

「今日は絶対シないからね」

「ぁんでだよ」

 イラつきを顕にする八千代に、至極当然の答えを返す。

「家じゃないからだよ! ホント八千代、そういう事になるとバカなんだから」

「あっはは。場野のバー··ぶあぁっ」

「おい、風呂の湯をかけんのはマナー違反じゃねぇのか?」

「違反だわ。けど大畠にはいいんだよ。特例だ」

「特例なんてあんのか。銭湯のルールは難しいな」

「んなもんねぇよ!!」

 啓吾が騒ぎ始めたので、とっとと出ることにした。

しおりを挟む
𑁍𓏸𓈒褒めて箱https://www.mottohomete.net/428tuduriこちらで匿名のメッセージを受け付けています!感想や誤字脱字など、なんでもどうぞです(๑•̀ㅁ•́ฅ✨褒めてもらえるとめっちゃ喜びます。𑁍𓏸𓈒Twitterにて作品の事、キャラクターの事、#僕スト をつけて呟いてます。呟いて貰えると嬉しいです*.(๓´͈ ˘ `͈๓).*https://twitter.com/428tuduri
感想 162

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

嫁さんのいる俺はハイスペ男とヤレるジムに通うけど恋愛対象は女です

ルシーアンナ
BL
会員制ハッテンバ スポーツジムでハイスペ攻め漁りする既婚受けの話。 DD×リーマン リーマン×リーマン

処理中です...