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2章 覚悟の高3編

失言地帯

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 啓吾と猪瀬くんの軽さに喫驚しつつも、僕も少し面倒に思っていたところなので、それ以上ツッコむのはやめた。
 とにかく、今は目の前の仕事に専念しなくては。なによりも僕は、八千代が子供の相手をしている所を早く見たい。


 ぐだぐだと駄弁っているうちに清掃活動が始まった。僕は子供達に道具を配ったり誘導したりと、それなりにてんやわんやしていた。
 一方、八千代は低学年くらいの子達を相手に、グループごとの清掃範囲を指示している。案外、子供を怯えさせることもなく普通に接しているじゃないか。
 僕たちは、興味津々に八千代が子供たちに接しているところを観察する。気がつくと、朔以外が全員並んで八千代を見ていた。

「アイツ、普通に子供と喋れんのな。むしろ懐かれてねぇ? 扱いは雑だけど」

 啓吾が素直に感嘆している。

「なんかさ、結人扱ってるみたいじゃね? 全然雑だけど」

 続けて冬真が言う。失礼な。誰が子供だ。

「それな。よく考えたら慣れてんだよな」

「ねぇ、啓吾も冬真も失礼すぎない? 僕、子供じゃないんだけど」

 猪瀬くんが声を殺して笑っている。よく見ると、りっくんも肩を震わせているじゃないか。

「場野ってさ、ゆいぴに対して子供扱いか恋人扱いか紙一重なトコあるもんね」

「あ~····それね。前にね、介護されてるみたいって言ったら、恋人扱いだって言われたよ」

「「「「介護~」」」」

 啓吾と冬真、猪瀬くんとりっくんまで腹を抱えて笑い始めた。

「おい、お前ら仕事しろよ。神谷、この子手ぇ切ったらしいから手当てしてやってくれ」

 サボっている僕たちに注意をしながら、朔は連れてきた女の子を冬真に引き渡す。どうやら、指先を怪我してしまったらしい。

「へいへーい。えーっと、何ちゃん?」

「····ナナ」

「ナナちゃん、可愛いね。おいで。お兄さんが向こうで手当てしてあげるからね」

「うん!」

 まるでスムーズな誘拐だ。一瞬で名前を聞き出し懐に入ってしまう。冬真がニコッと笑いかけると、女の子はキラキラした笑顔をみせ、嬉しそうに冬真について行ってしまった。あれは凄い技術だ。

「冬真凄いね。子供の扱いに慣れてるんだね」

「いや、あれは女の子の扱いに慣れてんだろ。ナンパする時もあんな感じだったもん」

「へぇ~······。啓吾も一緒にしてたの? ナンパ」

「し、してないよ~」

「「バカだ····」」

 りっくんと猪瀬くんが声を揃えた。朔は無視して持ち場に戻る。バツの悪そうな啓吾は、僕の機嫌をとろうと必死だ。

「ホント、そんなにした事ないんだって。マジで。その場のノリっつぅかさ? なぁ結人、こっち向いて?」

「知らなーい。僕も八千代手伝ってこよ~っと」

「ちょ、結人! 俺も一緒に行くからぁ!」


 僕は八千代を手伝い、子供達を割り振っていく。と言っても僕は地図がよくわからないから、八千代と啓吾の指示通りに子供達を誘導するだけなのだが。
 そして、それが一段落したところで、八千代にちょっとしたお小言を言われた。

「お前、地図読めねぇのかよ····」

「全くわかんないわけじゃないんだけどね、凄く時間かかっちゃって····その····よく迷子にはなってた」

 機械音痴で鈍臭い、さらに方向音痴ときた。僕にいい所なんてない。

「マジで1人にできねぇな····。んで、大畠となんかあったんか。お前の機嫌とんのに必死じゃねぇかよ」

 事のあらましを説明すると、啓吾は八千代にもバカだと笑われていた。それからも啓吾は、やたらと僕について回っては言い訳を並べていた。別にそこまで気にしていないのだけど、面白いから暫く放っておくことにした。


 ボランティア活動は何事もなく終わり、僕たちはバスで学校へと戻る。校長先生の長い話を聞き終え、クタクタになりながらもそれぞれの帰路につく。皆は、僕を送り届けてからだけど。


「なぁ結人、まだ怒ってる?」

「え、何が? 怒ってないよ」

「啓吾、ゆいぴに遊ばれてたんだよ」

「マジで!? ひっど~····。俺マジでちょっと嫌われたかと思って焦ったんだけど」

「大畠はバカって言うよりマヌケだな。今日のは特に」

「朔、あんまり言うと啓吾泣いちゃうよ? 朔の一言って重いからさ」

「そうなのか?」

「朔はねぇ、冗談でダメ出しとかしないでしょ? だからね、言われる時は的確にダメなとこエグられるんだよ」

「なるほどな。まぁ、事実だから仕方ねぇよな」

 朔がトドメの一言を放つ。啓吾は、胸を撃ち抜かれたかのように押さえた。

「朔、マジでキツいってぇ~。今日ずっとヘコんでたからもうやめてぇ」

「お前、マジで必死だったもんな。結人が途中で笑ってんの気ぃついてなかっただろ。アホすぎな」

「マジかよ····。全然気づかなかった。結人、ナンパとか嫌いそうだからめっちゃ焦ったんだって~」

「嫌いだよ。するのもされるのも。でもね、そりゃ妬いちゃったけどね、それでももう啓吾が好きなんだから怒ったって仕方ないでしょ。嫌いになんてなれないよ····」

「結人ぉ······帰したくないんだけど。つぅかこのまま帰さねぇ」

「······今日はダメ。帰るよ」

「えぇ~!」

 危なかった。啓吾が手首を捕んで真剣な眼差しを向けてくるものだから、正直に『帰りたくない』と言ってしまうところだった。

「なんでぇ?」

「明日、猪瀬くんと遊ぶんでしょ。啓吾が夕方には帰りたいって言うから、早くから遊ぶんだよ? もう帰って寝ないと起きれないよ」

 現時刻は18時。猪瀬くんとの約束時間は9時。今から抱かれに行ってしまうと、帰るのはきっと22時頃になるだろう。啓吾1人で済むわけがないものね。
 それでは流石に起きられないだろうから、今日は夜更かしするわけにはいかないのだ。

「昨日だって夜更かししちゃったから、今日1日中眠かったんだよ」

「ゆいぴ、帰りのバスでめっちゃ寝てたもんね」

 僕は、りっくんの隣で涎を垂らして寝コケていたのだ。学校に着いて起こされた時、涎を指で拭って舐めたりっくんにゾワッとした。

「お前ら、そんなに遅くまでトランプしてたのか?」

「まぁ······」

 啓吾が曖昧な返事をする。僕と八千代は揃って口を噤んだ。
 本当にトランプもしたが、その後にえっちもしましたなんて言えない。絶対、朔にキレられてしまう。

「まさかとは思うけどさ、ヤッてないよね?」

「······どうなんだ。ヤッたのか? 結人、怒らねぇから正直に言ってみろ」

 誰も答えないから、朔が僕の顔を覗き込んで詰問してくる。どうして僕なんだ。
 朔は怒らないなんて言ってるけれど、もう既に怒ってるじゃないか。

「··········や、やりました」

「あぁ~····言っちゃった」

「まぁ、結人が隠し通せるわけねぇよな」

「チッ、お前ら······神谷と猪瀬にはバレてねぇだろうな」

「··········バ、バレました」

 朔とりっくんは、体中の酸素が尽きてしまいそうなほど大きな溜め息を吐いた。

(怒られる··よね····。またお仕置のえっちなのかな。怒られながらするの嫌だなぁ。ホンットに怖いんだよね····)

「また神谷ともシたのか?」

「シてないよ! 今回はね──」

 僕は、一生懸命対抗したのだと説明した。すると、朔は意外にも怒らなかった。

「そうか。俺を止めれんのは結人だけだもんな。ふはっ····お前、すげぇ脅し方すんだな」

 何がそんなに嬉しかったのか、朔は機嫌を直して僕の手を握って歩いた。そして、りっくんが反対の手を握って歩く。

「啓吾と場野はホンッッット理性ぶっ壊れてるよね。ゆいぴが頑張んなきゃ大変な事になってたかもしれないんだよ? マジで心の底から反省しろよな」

 りっくんは、啓吾と八千代をビシッと指差して言った。僕たちは何も反論できず、ただただお説教を聞きながら歩いた。
 家に着く頃にはりっくんと朔の機嫌も良くなっていて、なんなら薄らと笑みを浮かべていたくらいだ。そして、皆は父さんと母さんに挨拶をして、ようやくそれぞれの帰路についた。

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